点字によるレポート紹介

上に戻る


 点字の授業では、見えない人たちと点字で簡単なやりとりができる程度の点字の読み書き能力を目指しています。また、実際に見えない人たちと接したりサポートしたりするさいに少しでも役立てばと、最寄りの駅から学校までの道を利用して、わずかの時間ですが、手引とアイマスクの体験をしています。その他、時間があれば、視覚障害に関連する最近の話題や、私もふくめ見えない人たちの実際の生活、困ることやちょっとした工夫などについても話しています。
 点字の授業の最後には、点字で短いレポートを書く課題を出しています。ここでは、学生の書いたレポートをいくつか紹介します。生徒たちが10回余の点字の授業でこの程度の点字文を書けるようになったことを実証しているとともに、私の授業からそれぞれにどんなことを学んだかがよく分かります。(※付きの文章は私のコメント)

◆2003年度
 レポートのテーマとして、「点字の特徴」「手引のポイント」「授業から学んだこと」の3つを挙げ、その中から1つを選んでもらいました。半数以上の生徒は「授業から学んだこと」を選んでいました。

●授業から学んだこと (MSさん)
 初めてテキストを開いた時は絶対に私には無理だと思い、教えていただく前からあきらめていましたが、1〜6の点の組み合せで文字ができることが分かると、私にもできるかな?という気持ちに変りました。そして点字器を使って書く時のあのプツッという感覚がとても心地よくて、家に帰ってからも書いたりしていました。
 それを見た5年生の息子が「ぼくも学校で習ったよ」と言って教科書を見せてくれ、「お母さんは駅の点字が読めるよ」と自慢すると、「それはすごい!」と賞めてくれました。親子で読み合って楽しんでいます。
 指先で読むことは無理なようですが、点字が読めるなんて本当にうれしいです。
 そしてなにより先生のお話をいろいろと聞かせていただいて、視覚障害者の人たちについて理解でき、身近に感じることができたということが、一番大きな収穫でした。

※点字の拡がりを感じました。点字にはパズル的なところもあって、楽しいものです。


●授業から学んだこと (YKさん)
 この授業から、点字がとても奥が深いこと、意外と慣れるまでたいへんで、実際にふれてみて、いろいろなことがわかりました。
 なかでも、今の私にとって一番勉強になったことは、先生の授業を受けたことでした。先生は、授業の中で「私の障害は、たいしたことないから」と、よくおっしゃっていました。
 私は、数年前からステロイドの薬の副作用と闘ってきました。以前の私は、とても後ろ向きな考え方で、「どうして私が……」と、被害者意識が強くて、この副作用と、しっかり向き合っていなかったように思います。しかし、先生は、しっかりと向き合って前向きに生きてみえるのが、私には、よく伝わってきました。
 今では、健康な人には経験できないことが経験できて得したと思っています。
 こういった考え方になれたのは先生の授業と出会えたからだと思っています。

※このような影響があり得るということ、私自身、心しなければなりません。


●授業から学んだこと (HYさん)
 生まれて初めて点字を学んでみて、点字は視覚障害者と晴眼者をつなぐとても素晴らしいものだと思いました。以前はなにも感じなかったエレベーターや切符売場での点字を、今は実際に手で触ってみたりと、とても興味があります。
 授業で一番驚いたのは、たった 6個の点から、日本語はもちろん、英語や楽譜、数字など、さまざまな言語を表すことができることです。けれど、マス空けや数符、長音符など、覚えることが多くて思った以上に難しかったです。
 先生の手引をしてみたり、アイマスクを着けて道を歩く体験は、視覚障害者の立場に立つことができ、とても貴重な体験だったと思います。
 点字を学び読み書きできるようになったり、実際アイマスクで体験してみたりして、今まで私は視覚障害者にたいしての理解が薄かったことに気がつきました。このさき、もっと理解を深め、私たち晴眼者ができることも考えていきたいです。

※点字の奥の深さ、難しさも分かっていただけたようです。また、視覚障害者のことについて考えるきっかけになって良かったです。


●授業から学んだこと (MiSさん)
 私は、小原先生の授業で初めて点字を勉強しました。
 点字への興味は以前からありました。それは、 2年前まで働いていた保育師時代に、点字の絵本や手触りで楽しむ絵本が出るようになったころ、子どもたちに「先生、この本読んで!なんでブツブツあるん?」と聞かれ、その説明をしたことからです。
 今回、実際に点字を打ったり読んだりして、たった6つの点で日本語も英語も記号も音符もすべて表せる合理的な仕組みだということを学びました。覚えるのはたいへんですが、打ち終えて先生に間違ったりした所や「ここはちゃんと合ってますよ。」と添削していただいた時は、とてもうれしいです。達成感を味合えました。点字をこつこつと打ち、いろいろなことを表言したり点訳したり読んだりすることの喜びも学びました。
 小原先生が授業の冒頭でいつもお話ししてくださることが楽しみでした。鉱物のこと、博物館のこと、バーディングのことなど、ご自分の趣味についての話や、ニュースの感想などを聞き、見えない人の楽しみ方を学ぶことができました。
 先生のお話にあったガイドヘルパーの養成についてもっと知りたいと思います。

※ユニバーサルな絵本が役立っていることを実感します。また、見えない人の生活の〈質〉、文化的な面の大切さにも気付いていただき、うれしいです。


●手引のポイント (TNさん)
 アイマスク体験をして、目が見えないで、人に頼って歩く怖さ、不安を初めて感じることができました。そのさい、私がポイントとして思ったことをいくつか挙げたいと思います。
 ひとつは、曲り角を曲がる時は直角に曲がるということです。角度がゆるすぎると、すごく不安で、また、曲がれているのか、感覚がおかしくなりました。
 そして、階段では、「上り、下り、始まり、終わり」の声をかけること。また、段差が少なければ数を教えることが必要だと感じました。「階段です。」では、不安になり、もし、思っていたほうと違う時は、けがにもつながることもあります。また、数を知らせることで、安心できると思いました。
 そして、指示を出すさいは、おおきめの声を出すようにしてもらえたらと思いました。外は、トラックなどが走る音で、声が消されることがありました。
 ほかには、身体をなるべく近付けることで安心したり、急に誘導者が止まると驚いたり、怖くなったり不安に思うことがありました。
 ほんとうの視覚障害者の方の気持ちまで理解することはできなかったと思いますが、少しは、力になれる体験ができたような気がしました。

※わずか 5〜10分のアイマスク体験から、これだけのことを感じ、考えたことに感心しています。

(2003年7月28日


◆2004年度
 レポートのテーマとしては、前年と同じ「点字の特徴」「手引のポイント」「授業から学んだこと」の3つのほか、テーマは何でも自由に選んで良いことにしました。また、点字文に限らず、絵本や模型など、触って分かる手作りの作品でも良いことにしました。
 授業とは直接関係のないような、自分のこれまでの経緯を長々と書いたり、クラスの問題、さらにはだれかへの愛をかたる詩を書いている人までいました。
 作品としては、2人が、盛り上がる絵の具や糊などを使って、絵本を提出しました。とくに「みにくいあひるの子」を作ったUYさんの作品は、絵の部分も点字部分もとてもよく出来ていました。

 以下2人の文章を紹介します。

●点字――小さな6つの点 (NKさん)
 小さな箱の中のとても小さな6つの点。この6つの点の組み合わせでいろいろな文字が生まれている。指でそっとなぞってみる。なにかとてもふしぎな感覚で、しだいに懐かしさを覚えてくる。
 遠いむかし、ランドセルを背負っていたころ、はじめて手にしたオルゴール。四角い銀色の箱のふたを開けると、表面に飛び出した小さな点のような物が不規則に並んだ金属の筒の上を、くしのような形をした金属の羽根が弾けてメロディーを奏でる。その飛び出した小さな点が点字と似ている。
 同じように、なぞることで言葉が出てくる点字はないのだろうかと考え始めた。街の中にある点字を触れるだけで、いろいろな案内がながれる。また、ETCシステムと同じように、カードのようなものを携帯して、センサーがそれを感知して、危険の多い駅のホームや道路の交差点、エスカレーター・エレベーターなどで、注意をうながすアナウンスがながれれば、安心とまではいかないにしても、行動範囲が拡がるのではないだろうか?安易な考えだとは思うが、小さな六つの点から考えたことです。

※詩的なセンスとともに、発想の豊かさを感じます。このようなユニバーサルな考えを大切にし、介護などの活動に生かしてほしいです。


●授業から学んだこと (FJ)
 これまで点字を習ったことはありませんでした。町中や駅などで見かけたことはあっても、書いたり読んだりするのは初めてのことでした。
 点字をいざ読んでみると、「仮名」だけで表記していますので、例題の文章を読んでいる途中、あれ?何のことかな、とふだんより意味が取りにくい場合がありました。ふだん私たちは漢字から意味を想像したりすることを必然的にしているのだと、実感いたしました。[点字の]本などお読むさいには、カンをはたらかせて、文脈から想像も必要になってくるのだなとも思えました。このことからも、ふだん、ふつうに文章を読めている自分が、どれだけ恵まれた環境であるかと考えさせられました。
 また、町中や家電機器の点字を見ると、見えている人にはそれぞれ点字の場所を探せますが、見えないとまず、情報として点字案内を探すことが先になってしまいます。私には、音声案内がないかぎり、ただそこに点字が使用されているようにしか思えません。本来は視覚障害者の方々に、点字案内がある場所をまず知らせることができている環境にしなければ意味がないのでは?と、点字を学ぶようになり実感いたしました。
 自分もふくめ、もっとまったく違う視点から考えていかなければならないと痛感しております。

※表意的な漢字仮名混じり文と表音式の点字の違いや特徴によく気付いています。また、点字案内の限界を指摘するだけでなく、しっかりその解決策も考えています。

(2004年9月11日)