その6 画集も読みたい!

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 今回は、一読者としての立場から、「こんな点字書があったらいいのになあ」という視点で書いてみます。
 私は若いころ(もう40数年も前のことですが)物理や宇宙の話に興味をもつようになり、なんとかして、その関係の本を読もうとしました。日本ライトハウスや日本点字図書館など全国の有名な点字図書館数箇所の目録を見て、関係のありそうな本を片っ端から読みましたが、 1年くらいでもう読む本はなくなってしまいました。読んだ本もほとんどが入門的なものばかりで、数式を使って詳しく説明したような本は皆無でした。なんとも物足りなく、空虚感におそわれたことを覚えています。
 現在は数式の点訳方法がほぼ定められ、また図についてもそれなりに点訳できるようになって、だいぶ状況は改善されました。(とは言っても、視覚障害者のための情報ネットワークサピエで少し調べてみると、入門的な本がほとんどで、点訳希望が少ないからかも知れませんが、専門的なものはとても少ないようです。)
 
 私がもうひとつ、若いころからなんとなく憧れていたのは、絵です。何度か、知り合いの描いた油絵を触りながら説明してもらったりもしました(もちろん油絵を直接触ってもたいして分からないのですが)。だいぶ後になってからですが、美術館に行って絵を言葉で説明してもらうこともありました。しかし、言葉による説明だけでは私にとっては実感としては何の手掛りもないような感じですし、いつも相手の言うことだけを聞いているだけで、自分で絵を楽しむという風にはなりませんでした。
 10年ほど前からは、所蔵作品のうち数点の絵について、触っても分かる浮出しの図録を製作する美術館も現われはじめました。ただ、そのような試みをしているのは、岐阜県美術館(『視覚障害者のための所蔵品ガイドブック』)、三重県立美術館(美術教育支援教材「触ってセット」)、山梨県立美術館(『手で見るミレー』)、宇都宮美術館(『手で見る作品ガイド』)くらいで、まだまだ少ないです。
 日本ライトハウス情報文化センターでは、数年前『すぐわかる画家別西洋絵画の見かた』(岡部昌幸著、東京美術)をボランティア有志で点訳しました。50人の画家について各 1点ずつ紹介されているのですが、それぞれの絵について点訳者がだいたい点字 1ページ分をめどに説明文を作り、また、輪郭もはっきりしていて構図も単純な絵について、10点ほど点図にしてみました。私はこの本の校正をさせてもらいましたが、私としては初めて西洋絵画史の一端にふれる思いでした。
 絵を触って理解するためには、線中心の点図だけではやはり不十分で、面的に浮出した“さわる絵”」が望ましいです。半立体的に翻案された「さわる絵」はイタリアで数十点製作されており、日本でも数点作られています。また、現在、彫刻家の柳澤飛鳥さんの製作した名画の原版を基に、紙にその絵の輪郭を浮出させ、それに点字の解説も付けて画集を作るという企画が、日本点字図書館の協力を得て進行中です。
 
 写真集、画集、図鑑、図録といったものは、これまでは点訳書として選ばれることはほとんどありませんでした。しかし、それらの中にも、ごくたまにですが、本文だけでも十分に内容が判り、写真などの説明をほとんど加えなくても良いものもあります。また、点訳者が説明文を加えたり、あるいは説明文とともに簡単な点図を添えるなど、それなりに工夫すれば、かなりよく内容を理解できると思われる本もあります。
 
 9月から10月にかけて、第24回専門点訳講習会「写真・図表コース」を開催しました。この講習会をきっかけにして、これまで敬遠されがちだったこれら写真集・画集・図鑑・図録などについても、積極的に点訳に取り組んでもらえればと願っています。
 
(2011年10月25日)