第5回 触図作製の実際 1: 立体コピー、エーデル (1) (2003年12月16日)

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◆触図作製上の一般的注意

●図を省略しても良い場合
@原本の(文章による)説明だけで図の内容が十分表されていると判断できる場合
A原本の説明とともに、点訳者が簡単な文章による説明を付け加えることで、図の内容が十分理解できる場合
B円グラフ、棒グラフ、帯グラフなどで、原図に詳しい数値が記入されている場合は、表形式に置き換えても良い。

※これらの場合でも、触図を描くことにより、本文の複雑な説明が分かりやすくなったり、変化の様子が把えやすくなったり、比較が容易になったりすることもある。実際に図を描くかどうかは、原本での図の役割や目的、利用者の目的などを勘案して判断するしかない。

●図の注について
 注はできるだけ実際の図の前にまとめる。
 順序は、原本の注、点訳者の注(必要に応じて、図の位置や見方、図の概略、図で省略した部分や大幅に手を加えた所など)、略記や凡例等。
 原本の注と点訳者の注を分けずにうまく組み合せたほうが分かりやすくなることもある。

※とくに図の見方や概略をうまく説明できれば、読み手はそれに従って図を見ることができるので、安心して効率よく図を理解できる。
【例示】 3つの円の大部分が重なった図
 半径8cmの3つの円を、各円の中心が1辺3cmの正3角形の頂点に位置するように描く。
 この図は、視覚では3つの円から成っていることは容易に分かるだろうが、触覚では、交差が多くその度ごとにどの方向にたどって行くか迷うため、3つの円の組み合せという図全体の構成を理解するのはなかなか難しい。3つの円の線種を相異なるものにすれば、触覚による理解はかなり改善はされる。しかしそれに加えて、図の初めに注として「図は大きな3つの円から成っていて、大部分が重なっている」というような説明文を入れ、あらかじめ図の概略を示し図の見方を方向付けるほうが、触覚による理解をはるかに容易にする。

●略記・凡例
 一般の略記は点字2マス以上が良い。
 図記号による凡例はできるだけ少なく(5、6種程度まで)。
 略記の説明の仕方について:
@数が少ない時(10個以内)は、図で触るであろう順番(上から下、左から右)に
A数が多い時は、五十音順やアルファベット順に
B略記の種類をいくつかに分類し、その小分類ごとに説明する (そのほうが、理解しやすいし、記憶にも残りやすい)

●図中の省略や補足
 とくに理科・数学的な図では、その図が何をもっとも伝えたいのかをよく吟味し、その伝えたい意味に即して、図の一部を省略したり、加工したり、強調したり、補助線を引いたり、さらに図中に補足的な言葉を入れたりすることも必要。

※視覚的な図では、1つの図的表現から同時にいくつかの解釈が可能な場合(多義的だとも曖昧だとも言える)も多いようだ。触図を読み取る場合は、触って行く順序などの影響が強いためだと思うが、どれか1つの解釈に固定され、他の解釈にはなかなかたどり着きにくい。

●点、線、面などの種類は少なく
 技術的には可能であっても、点、線(実線と点線)、面、その他の図記号の種類をできるだけ減らす。
 ・点は3種類くらいまで
 ・線は、実線・点線それぞれにつき、 2、3種類(その他、エンボス製版では破線や点破線も使える)
 ・面記号としては 5、6種類くらい使い分けることはできるが、狭い範囲の場合は識別が困難になるので注意
 ・電話やトイレや色々な建物などを示す図記号はできるだけ種類を限定し、円、三角、菱形、×印などごく単純な形のものを使う。

※いずれの場合でも、同種の記号を使ってもそれに具体的な言葉を付けることで違いを表すことができる。言葉による表示のほうが確実な場合が多い。

●引出線について
 図の内側にある物を指し示すための引出線はできるだけ使わない。(外側にある物については使ってもよい。)
 範囲を示す引出線は有効

※図中の特定の部分を示す方法としては、引出線以外に次の方法がある。
 ・点訳者注の中で、他の特定された部分を基準にして、具体的に右上とか左下とか(地図中なら北東とか南西とか)、そこからの方向で示す
 ・示したい特定の部分の上に直接それを示す文字(略記でも良い)を書く

●裏に出した点や線の利用
 点図では、裏に出した点を使用できる。裏に出した点や線は、表からは触って微かに分かる程度。裏に出した点はある程度広い範囲の面(地図では海など)を示すのに使える。裏に出した線は、グラフの方眼、地図の緯線・経線、その他補助的な線などに使っても良い(物の輪郭などには不適切)。
 図の凡例で裏に出した点・線について示したい時は、「裏に出した点でうめた部分は○○を示す」というように、図記号ではなく、言葉による説明にしたほうが望ましい。

●1枚の図で描き切れない場合
 原図では1枚の図を、触図では、
@全体図と、その中の一部の拡大図
A上から見た図と断面図など、異なった方向から見た図、
Bエネルギーの流れと物質の循環といったように、視点別に分けた図
C各部分ごとに分割した図
のように、数枚の図に分けたほうが良い場合も多い。
 その場合は、図をどのように分割し配置してあるのかを点訳者注ではっきり説明しなければならない。また、図を見る順番や見方についても説明したほうが良い場合もある。

●地図の場合
 使用者の利用目的(たとえば、学習用、住んでいる街の建物の配置を知る、目的地までの歩行用など)をまず第1に考え、それに合った地図を作る。 → その目的に合せて、情報を厳選する。
 歩行用触地図で道を表すには、凸の線状で表す方法と、両側を凸の線または面で表し道の部分を凹で表現する方法がある。凹で表す場合は、 5mm以上の幅が必要。
 1枚の地図を、触地図では、自然、行政、産業、交通などいくつかのテーマ別に数枚に分けて作ることも良い方法ではある。しかし、それらの数枚の地図をいわば重ね合わせ合成して理解するためには、高度の触知能力が必要。
 地図が大きい場合(例えばB4以上) 広い範囲の中でのおおよその位置を特定するために、例えば横方向をa,b,c,・・・・、縦方向を1,2,3,・・・・に等分し、その組合せで示すことも有効。

●グラフ
 2本以上の線が交差している時:
@線の種類を変える
A交差する所で、どちらかの線を空白にする
B線の両端にその線を示す言葉を入れる

 グラフの線が多い時は、2枚以上の図に分けても良い(ただし、本文の理解を妨げないように、その分け方には十分注意する)。
 2本以上の線が部分的にほとんど重なり合っているときは、
@縦または横に拡大(1.5倍くらいまで)して、各線を触覚で区別できるようにする
Aどれか1つの線を優先し、点訳者注でどの線がどの範囲で重なっているかを説明する

●立体図
 上から見た図、横から見た図、断面図、展開図、またはそれらの組み合わせで示す。

※一般には、触図では斜めから見た透視図のままではほとんど分からないとされている。ただし、透視図法の意味をよく理解し、また触経験を積むことにより、簡単な図では透視図のままでも分かるようになる。

◆立体コピー (笹川)
 笹川さんは、点訳を始めて5、6年、立体コピーは 2度目、触地図は今回が初めてです。触図作成では初心者と言える笹川さんですが、出き上がりは、ほとんど初めて触地図を触る方にも分かりやすいものになったと思います。初心者と言えるような方でも、その触地図が実際にどのように使われるのか、また触知の特性を少し考えることで、かなり分かりやすい物を作ることができると思います。
 以下は、触地図の制作でとくに注意した点を中心に笹川さんにまとめていただいた文章です。(※付きの文章などは小原の加筆です。)

〈池田市の地図の制作過程〉
 池田市の一般の小学校に通っている視覚障害児のためのもの。小学3、4年の社会科の副読本中の地図。(地図の学習ではごく初歩の段階だと思われるので、訓練や工夫などなしにとにかく触って簡単に分かる物になるよう心がけました。)

1 大きさをどうするか
 原本は、横にしたB5版を縦に3枚つなげた大きさです。大きい方がわかりやすいと思ったので、最初は原寸通りか、それより大きなものをつくろうと考えました。
 でも小原さんから、学校の机の上に広げることを考慮するようにとの指摘を受け、A3程度におさまるよう(出き上がりは横にしたA4を2枚縦につなげた形)、やや縮小することにしました。

※触地図の大きさについて: 原図を拡大して大きくするほど、複雑な部分もより詳しく表現でき分かりやすくなるとは言える。しかし逆に、図が大きくなるほど全体の形や配置を理解するのに時間がかかり、また、身体から手指が遠くなるほど手指の運動をうまくコントロールし形などを正確に再現しにくくなるとも言える。さらに、触図は机上などしっかりした平面上に広げて触るのが望ましいが、図版が大きくなるほどそういう場所は取りにくくなる。

2 地図の内容
 1枚にすべてを入れるのは無理なので、次の2パターンに分けようと思いました。
@地形(標高・山・川など)の入ったもの。
A線路・道路・建物(公共施設・学校・工場など)の入ったもの。
 このうち、Aについては、道路や建物すべてを入れると、煩雑でわけのわからないものになりそうです。
 主なものだけにしぼって、あとは省略しようと考えましたが、地図の大きさからして、それも無理がありそうです。
 特に重要であれば、局部的に拡大したものをつくっても良いでしょうが、今回は@の地図に、線路と駅・中国縦貫道・本人の通っている小学校のみを入れ、あとの道路・建物は省略することにしました。

※1枚の地図をテーマ別に2枚以上の触地図に分けて示すことは、一般的には有効な方法だと言える。しかし、そのように分けられた2枚以上の地図を十分関連付けて理解できるようになるのにはかなりの訓練と技術が必要。今回はごく初歩の段階ということで1枚にした。

3 注意点
 線と線が近すぎたり交差したりするところは、なるべく煩雑にならないよう気を使いました。
 また、標高をあらわすのに、どのような線や点を使うか迷いました。
 200〜400mは初めは横線にしていましたが、小原さんの助言で5mm置きくらいの斜線にしました(そのほうが、触った印象が少しやわらぐ――小原)。

※標高を示す面記号: 100m以下: 空白、 100〜200m: 粗い点、 200〜400m: 斜線、400m以上: 黒く塗りつぶす(ざらざらした触感の面)
 今回は、各面が広く、複雑に入り組んだりしている所もなかったので、各面の境界線を入れる必要はまったくなかった。


◆エーデル (1) (西野)

●エーデルの画面説明と主な機能

@エーデル画面の大まかな説明
 画面の最上段に各種のメニューバー、その下にツールバー。画面の左端に上から下に点種ボタン、点間隔ボタン、各種の作画コマンドなど。画面の最下段にステータスバー。その他の画面の大部分が、作業領域。

A詳しい説明
メニューバー: ファイル 編集 作画 点字 文章連携 変形 部品 表示 オプション ヘルプ
 ・ファイル: 新規作成、EDELファイルを開く、履歴から開く、閉じる、上書き保存、名前をつけて保存、ファイルの合成、点字印刷、墨字印刷、上書き保存して終了、終了
 ・編集: クリップボードへのコピー、切り取ってクリップボードへ、クリップボードからの貼り付け、領域を指定して削除、全域の削除
 ・作画: 各種の作画コマンド
 ・点字: 任意の位置、定位置(片面タイプ、両面タイプ)
 ・文章連携: BASEで作成した点字データと連携
 ・変形: 各種の移動・複写の操作
 ・部品: 部品データの保存、呼び出し(描いた図の取り出したい部分を別のファイルに保存できる)
 ・表示: 全体イメージの表示・非表示、グリッドの機能の表示・ OFF、中心線の表示・非表示、「補」点の表示・非表示、異常接近箇所の表示・非表示、片面タイプ点字位置ガイドの表示・非表示、両面タイプの点字位置ガイドの表示・非表示、点字枠の表示・非表示、定位置点字の前面墨訳、書き込み点字の墨訳、指定領域の墨訳

ツールバー: 作業領域切り替えボタン グリッド選択欄 ファイル名欄
 ・作業領域切り替えボタン: 縦位置、横位置、縦位置1.5倍、横位置1.5倍
 ・グリッド選択欄: グリッドの表示・非表示、機能の有効・無効、グリッド間隔をプルダウンメニュー(3〜45)で選択
 ※グリッドは、グラフなどの背景の正確な基準点として利用できる。画面上に縦横均等な点間隔(3〜45)で点が現れる。グリッド機能オン・表示だけ・オフの3通りが選べる。機能をオンにすると、描こうとする点の始点と終点がその点上しか選べなくなる。始点を揃えたり、等間隔で線を描く時などに便利。
 ・ファイル名欄: 編集中のファイル名を表示

点種ボタン: 小 中 大 補
 ※中の点は、点字の点と同じ点種
 ※補の点は、画面上では他の点種(小・中・大)とまったく同じように操作でき、図を描けるが、点図には現れない点。下書きにしたり、目安の点にしたりする。他の点種へ変換すれば、実際の図になる。

点間隔ボタン: 18段階から選べる(小の点3〜20、中の点 4〜21、大の点 5〜22、補の点 6〜23)

作画コマンドなど: 自由曲線 斜線 縦・横線 折れ線 弓線 連続弓線 長方形 正方格子 円 楕円 円弧 枠線 放物線 双曲線 無理関数 sin cos tan ペイント 点字 領域を指定して消去 全域の消去 平行(複写・移動) 左右対称(複写・移動) 上下対称(複写・移動) 点対称(複写・移動) その場で回転(複写・移動) 中心を決めて回転(複写・移動) 拡大縮小(すべて補点に変換・そのままの点種で変換) 点種変更(変更範囲は、対象領域を指定、小領域(1点ずつ)を連続的に変更のいずれかを選べる)
 ※正方格子では、完全に等間隔の格子が表せるとは限らない(正確な格子点を得るには、グリッドが良い)。範囲の広い面を特定の粗さの点で埋めるのに便利。
 ※枠線は、表や方眼などを描く時に便利。描きたい大きさの外枠の中に、縦 1〜20、横 1〜20の範囲で中を当分に分割できる。縦横の線の交差点がずれることなく完全に一致するので、きれいに描ける。枠線とグリッドを組み合わせると、正方形のきれいな方眼が描け、グラフなどに使える。
 ※ペイントのパターンとしては 9種類用意されているが、触察上も記憶のためにも、1つの図で使うのは5、6種以下に限るべき。輪郭線・境界線と塗りつぶしパターンとの間はわずかに空白を置いたほうが良い。
 ※回転によって得られる図は、回転による点の位置の誤差のためだと思うが、元の図のようにきれいになっていない事が多い。回転の利用は慎重にしたほうがよい。

ステータスバー: コマンドモード カーソル位置の座標(左上が 0,0 右下が 479,683) 操作中の状態・ガイド

Bその他の便利な機能
 Back+ Spaceキー: 取り消し。 (例 斜線を描いた後に このキーを押すと斜線が消える)
 Ctrlキー: 前の操作の始点を始点に指定できる。 (例 斜線を描いた後に このキーを押すと斜線の始点から続けて斜線が引ける)
 Shiftキー: 前の操作の終点を始点に指定できる。 (例 斜線を描いた後に このキーを押すと斜線の終点から続けて斜線が引ける)


●例1 溶解度のグラフ
 (以下、点図中の点字表記は[ ]内にカタカナで示す)
 縦軸に100gの水に溶ける物質の質量[g]、横軸に水溶液の温度[℃]を取り、硝酸カリウム、塩化ナトリウム、みょうばん、こはく酸の溶解度曲線を示した図。
 エーデルのデータは、表側が 溶解度.EDL、裏側が溶解度裏.EDL
〈特徴〉
 グラフの方眼を裏に出した線を使って表している。
 4種の物質の溶解度曲線の線種をすべて異なる物にし、それぞれの線種を凡例に出している(硝酸カリウムが大点の実線、塩化ナトリウムが小点の実線、みょうばんが中点の実線、こはく酸が中点の点線)
 塩化ナトリウムの線は硝酸カリウムおよびみょうばんの線と交わっているが、交差部分では硝酸カリウムとみょうばんの線に空白部を作っている。

〈改善点〉
@凡例では、できるだけ線種などの図記号ではなく、文字の略記を使ったほうが良い。とくにエーデルの図では、大・中・小点の実線はしばしば識別するのが難しかったり、間違ってしまうことさえある。文字のほうが確実。
 この図では、硝酸カリウムとこはく酸は図中にそのまま書き込みでき(線からは5mm前後離す)、また塩化ナトリウムは[エンカ]、みょうばんは[ミョー]と略記して図中に入れてある。したがって、線種の違いによる凡例は必要なく、凡例は
[エンカ ーー エンカ ナトリウム(ショクエン)
 ミョー ーー ミョーバン]
とすればよい。

A線が交差せずある程度以上離れている場合には、線種を変える必要はない。
 この図では、硝酸カリウムとみょうばんは同じ線種(中点の実線)で良い。

※点字を示す各点の位置が上下にずれることがある。この図では、凡例中の[エンカ ナトリウム]の所で、2、5の点が下にずれている。これについては、点字の位置を変えてやり直してみる以外、これといった対策はないようだ。

【参考】 裏線の入れ方(裏面用のデータの作り方)
 エーデルで裏に出した線や点を使うには、表面用のデータと裏面用のデータを作らなければならない。打ち出す時は、裏面用のデータから始めたほうが良い。
@裏に出す線を補線にしてグラフにいれておく。(表のグラフや文字と重なる部分は、消しておく)
A補線以外を消して、補線を左右対称移動させる。
B補線の点種を変える(中点など)。

※裏面用のデータをうまく打ち出すには、プリンターまたはファイルの調節が必要
 @プリンターであわせる時: 用紙のとめ位置をかえる。
 Aファイルであわせる時: 左右対称移動させる時に中心位置をプリンターに合わせて変える。


●例2 凸レンズで遠くの景色を見たとき
 エーデルのデータは 凸レンズ.EDL
 原図は写真。中央に城、両下端に木が、どちらもぼやけて写っている。真中に凸レンズがあり、逆様になった城の像がはっきり見えている。
 点図では2つの図に分け、上に「見えている景色」(両下端の木は省略し中央の城の部分のみ)、下に「凸レンズで見える景色(逆様になる)の図を配した。
 点図化に当たってもっとも注意したことは、上の図の景色が、下の図で上下左右とも逆になっていることができるだけ分かりやすくなるようにすること。そのため、左右の違いが分かりやすくなるように少し城の形を変形した。また、原図では凸レンズの像は元の景色の5分の2くらいの大きさだが、触って分かりやすいように3分の2くらいまで大きくした。
 下の図の作成では、上の城の図を点対称で逆様にして複写紙、それを縮小した。しかし縮小したままでは点間隔がかなり狭くなって上の図とは異なった触感を与えるので、点間隔を上の図とほぼ同じにして描き直した。