第6回 触図作製の実際 2: エーデル (2)、エンボス製版 (2004年1月13日)

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◆エーデル (2) (西野)

●例3 ホウセンカなどの茎の断面
 エーデルのデータは、表側が 茎断面.EDL 裏側が茎断面裏.EDL
 原図は、茎の扇形断片の見取り図(上から見ると扇形の横断面、横から見ると長方形の縦断面)。維管束と師管・導管が示されている。
 点図では、上に半円形の横断面、その下に接するように長方形の縦断面を示している。また、維管束のうち、師管部分は表に出した点で、導管部分は裏に出した点で埋めている。
・横断面の図と縦断面の図の関連付け
 この図では横断面と縦断面を上下に接するように配し、その間に長い横線を入れている。私はこの横線部分で紙を直角に折り、横断面は水平に、縦断面は垂直になるようにして触知してみた。横断面・縦断面で互いに対応するように描かれている師管・導管部分も、折り線の所で直角に方向を変えることで、かなり立体的にイメージできる。(ただし、同じ姿勢で水平の図と垂直の図を同時に触知するのは少し難しいようにも思う。)
 一般に立体的に描かれた見取り図などは、点図では上から見た図(横断面)と横・正面から見た図(縦断面)に分けて示している。そしてこれら2つの図を、上下に離して示したり、さらには2つの図の対応する点を小さな点線でつなぐことで2つの図の関連をより明瞭にしている。
 簡単な図についてはこのようなやり方で立体的なイメージを自分の頭の中で合成することはできる。

・裏に出した点の使い方
 この図では、維管束を図中の形のまま凡例に出し、師管・導管も表に出した点・裏に出した点で示している。しかし、裏に出した点は(とくに範囲が狭い場合)注意しないとそれと気付かずたんなる空白だと思いがちである。だから、図中の裏に出した点については言葉による説明も必要である。
 この図では、維管束の図記号の凡例の横に、「維管束(表に出した点で埋めた部分が師管、裏に出した点で埋めた部分が導管)」の分を入れるのがよい。


●例4 大陸の移動 (西野)
 @約2億年前、A約6500万年前、B現在、C約5000万年後の4枚の図
 エーデルのデータは、
@ 表側 大陸1.EDL 裏側 大陸1裏.EDL
A 表側 大陸2.EDL 裏側 大陸2裏.EDL
B 表側 大陸3.EDL 裏側 大陸3裏.EDL
C 表側 大陸4.EDL 裏側 大陸4裏.EDL

・4枚の図を比較することで、大陸の移動・位置関係の変化をどの程度把握できるか
 原図は、中央から左にかけてBの現在の図が置かれ、その周りに@(上)、A(右上)、C(右下)が配されている。視覚では、現在の図を基準に、大陸の移動の様子、各大陸の位置関係の変化を、過去に遡ってあるいは未来に向っていわば一覧的に見ることができると思う。
 点図では、各図がそれぞれ横書きで1ページずつの図となり、@ABCの順になっている。それぞれの図で各大陸の位置関係などをなんとか触知できたとしても、それらを時間軸にそった変化のイメージにまでまとめ上げるのは至難だと言える。(仮にこれらの図を別ページではなく1ページの中に配せたとしても、触知には一覧性がないので、たいして状況は変わらないと思う。)
 私は、自分がよく知っているBの現在の図のイメージをまず頭に入れ、それと比較するようにしながら、各図での各大陸の位置を読み取り、各図の全体的な特徴も把握し、さらにそれを時間軸にそった変化のイメージにまで何とか進むことができた。
 この際、裏に出した線で表されている経線・緯線(経線は60度ごと、緯線は45度ごと)が、各図での大陸の位置を比較するのにとても役立った。

・塗りつぶしの問題
 この図では、各大陸の違いを塗りつぶしで示している。
北アメリカ:縦線、南アメリカ:粗い点、アフリカ:空白、アジア・ヨーロッパ:横線、インド:密な点、オーストラリア:右下がりの線、南極:左下がりの線
 この図では、各部分の面積が塗りつぶしの違いを触知で識別できるほど広く、各大陸(に相当する部分)の違いをこのように表現するのは適切だと言える。しかし一般には、7つもの面を塗りつぶしの違いで示すのは適当でない場合が多い。塗りつぶしではなく、各面を指し示す文字(略称)を用いたほうが有効な場合もある。


●例5 花と果実 (高橋)
 エーデルのデータは、
図1「花のつくり」が 花.EDL 
図2「果実のつくり」が 果実.EDL
 中学理科の問題中の図。図1のア〜カ、図2の(a) (b)の部分は、いずれも引出線で示されている。問題文は次の通り。

 図1は花の、図2は果実のつくりを示したものである。
@図1のア〜エの各部の名称を書け。
A果実が出来るためには、まず、ウで作られた何がエの先端に付く必要があるか。
B図2の(a)の部分を何と言うか。また、それは図1のア〜カののどの部分が変化したものか。
C図2の(b)の部分を何と言うか。また、それは図1のア〜カのどの部分が変化したものか。

・各図の関連性をしっかり確認して点図を作成する
 問題のBCの後半部分については、視覚ではその形の類似性から、その意味内容を知らなくても、簡単に正解できるだろう。(最近は、このように図や表を正しく見ることさえできれば答えられる問題が増えているように思う。)
 点図では、図1のイ(子房)と図2の(a)(果実)は、大きさが違うだけで、その同形性からイが(a)に変化することがすぐに推測できるだろう。しかし、オ(胚珠)と(b)(種子)については、円という形は共通しているものの、胚珠の円は中が空白になっているのに種子の円では中が点で埋められているため、判断に迷ってしまうのではないか。円の中も共通に空白にするか点で埋めるかどちらかに統一したほうが良い。
 このような問題中の点図作成では、各図を別個に作成するのではなく、問題文に照らして各図が十分整合的になるよう心がけてほしい。

・引出線の使い方
 生物の図などでは一般に引出線が多用され、さらに残念なことには、点字の中学理科の教科書でもほぼ原図と同様に引出線が使われている。
 しかし触図の場合、図の輪郭線などを切って図の中に入り込んでいる引出線は図の触知をかなり困難にし、また混乱させることもある。中に入り込む引出線により、輪郭線などは1cmくらい切断されて、輪郭線をたどるのが妨害されたり、また引出線と図本来の線が紛らわしくなったりすることもある。
 図の内部に入り込まず、図の外側部分の範囲を示す引出線は問題ない。また、図の外側部分のごく小さな部分を指す時は、とくに引出線を使わず、その小部分の横に文字(略称)を添えれば良い。
 図1では、アとカは引出線のままで良い。イは子房の左横に、ウは左右の葯の両横に、エは柱頭の右横に入れれば良い。オの胚珠は、図記号のまま凡例に出すのが良い。
 図2では、(a)は引出線のまま、 (b)は図記号として凡例に出すのが良い。
 (しかし、このような原図からの手直しには、触知ではどのように理解されるかもふくめ、十分時間をかけた検討が必要である。)


● タブレットを利用したエーデルの使い方 (太田)
1.エーデル画面と点字用紙との位置関係
 ◆エーデル画面の縦位置(用紙)
   ・水平方向の描画領域 480ドット
   ・水平方向の印字文字数 32字 
   ・したがって、グリッド幅を15(=480÷32)に設定するとグラフィックと文字との位置関係を、容易に対応させることができる。
 ◆プリンターの基準用紙位置
   ・画面の縦の中央線上に直線を引いた、位置調整用データを用意しておく。
   ・用紙に打点した中央の直線位置が、左右の紙送り用の穴から等距離になるよう、プリンターの紙位置を設定しておくこと。
   ・グラフの目盛り線を裏打ちする場合は、この用紙位置の設定が大切。

2.パソコン画面寸法とタブレット寸法および点字用紙寸法との対応
 ◆最も使いやすい寸法の組み合わせ(例)
   ・ディスプレイ:15吋(液晶) ⇒ A4用紙とほぼ同じ大きさ。
      * 1024×768(標準設定)の解像度で、エーデルの画面を表示させると、点字用紙の90%の大きさで表示する。
   ・タブレット :A4サイズ対応 (高価なのが難点)
      * 点図の原稿が作りやすい。(完成図の90%の大きさ)
      * 描きやすい。
 ◆準備する原稿の大きさ
   ・タブレットが小さくなると、原稿の大きさは、A4タブレットの場合を基準に縮小した下記サイズで準備すればよいが、描きづらくなる。
              (原稿サイズ)
      * A5対応 ⇒ 完成図×0.9×0.71=完成図×0.64
      * A6対応 ⇒ 完成図×0.9×0.71×0.71=完成図×0.45

3.タブレット上にエーデルの画面を配置する。
  点字用紙上の指定位置に点図を配置するには、タブレットのサイズに対応させたエーデル画面コピーを、タブレット上に貼り付けておけば、ペン操作方式のディスプレイと同様に扱うことができる。
   ・現物にてデモンストレーション。

4.A4タブレットに貼り付ける、エーデル画面の用紙
   ・縦位置、横位置のものを、配布。

〈補足〉 円弧を使ってきれいな曲線を描く
 CADやドローイング・ソフトでは、複雑な曲線が描けるように、連続円弧の描画機能があります。エーデルでもこの機能が備えられていて、綺麗な曲線を描くことができます。
・連続円弧の作画機能は、どんな曲がりくねった曲線でも、部分的な2点間を、大小いろいろな半径の円弧を連続に繋いで描くことができます。
・直線や円で描いた線は、フリーハンドに比べて、滑らかで綺麗な線を引くことができるので、曲線はできるだけ、この連続円弧の機能を活用することをお奨めします。
 (フリーハンドで描くのは、地図のような特殊な図の場合に限定したほうがいいでしょう。)


◆エンボス製版
 亜鉛版を使ったエンボス製版では、職人的な原版製作により、エーデルなどの点図描画ソフトと点字プリンタを利用した図よりもかなり表現豊かな図が作られている。以下の例はいずれも高校の理科の教科書の図。

●例1 鉱床(模式図)
 原図は、山から海にかけての断面に見られる鉱床・地層の分布を示したもの(海側部分は、断面を右側から見た図)。
・地層・鉱床の示し方
 地層・鉱床の示し方として、この図では2つの方法が使われている。
 1つは面記号による塗りつぶしで、高さの低い小さな点の粗密の程度の違い(正マグマ性鉱床は密、風化残留鉱床はやや粗、石灰岩は粗)で示されている。境界線を示しているやや大き目の点の高さよりも低いため、塗りつぶしによって輪郭線が不明瞭になることはない。
 もうひとつは、ある地層を示すのに、その地層の主な岩石名の略称を並べるやり方である。この図では、花崗岩の分布している領域に点字の「カ」を並べている。このやり方はとくに細長く分布している地層に有効で、例えば砂岩層は「サ」、礫岩層は「レ」、石灰岩には「セ」などとして利用すれば良い。

●例2 フェーン現象
 原図は、右側が、風上側の山麓から山頂を越えて風下側の山麓に向かう空気の流れの図、左側が、その時の空気の流れの高度を縦軸に、温度を横軸に取ったグラフ。右側の図と左側のグラフで、同じ高度の点が結ばれて示されている。
・2つの図の対応のさせ方
 点図ではこれを横書きで示し、左に空気の流れの図、右にグラフを配し、図とグラフで同じ高度の点は、高さの低い小さな点による点線でつないで対応させている。高さの低い小点の点線を使うことで、山やグラフの軸を示す線を切断せずにそれらの線を越えて結ぶことができる。(なお、各点には大点が使用されているが、エンボス製版の大点は、点字プリンタの大の点よりも点も大きく高さも高く、周りの点からはっきり区別して触知できる。)
 上から見た図と正面から見た図などでは、上下あるいは左右に配した図の対応する点を、このような高さの低い小点の点線(時には裏に出した線でも良い)で結べば、2つの図の対応関係をよく理解できる。

●例3 日本および諸外国の河川の縦断曲線
 原図は、横軸に河口からの距離、縦軸に高度を取り、日本の川8本と諸外国の川5本の縦断曲線(勾配)を示したグラフ。河口近くでは各河川の曲線が極めて接近している。
・接近した線の表現
 点図ではこれら13の線を、高さの低い小点の実線、中点の実線、中点の破線で示している。とくに高さの低い小点の実線は、点間隔が小さいため急なカーブなども細かく表現でき、また他の線とも極めて接近して(たぶん2mm弱)描くことができる。(もちろん、これらの接近した線を見分けるためにはかなりの触知力が必要となる。)


◆課題
 エンボス製版による上の3つの図には、エーデルと点字プリンタの組み合せでは十分描けない部分もある。
 上の3つの図について、いろいろな事情で図を描くことができないと仮定して、言葉(文章)だけで説明してみてください。