コケ ―地味?いやいや・・・―
コケ、というと、どういうイメージが浮かぶだろうか。暗くてじめじめしたところに生える、なんとなく陰気な感じの植物だとか、あまりいい印象は持ってないかもしれない。でも、世界に2万種ほど確認されているこの生物。なかなかあなどれない性質を持っている。
まず、コケ類は腐りにくいという性質がある。詳しいことはわかっていないが、コケ類には顕著な抗菌性があるらしい。北欧の国ではこの抗菌性に着目し、新生児用のマットの詰め物として用いたりしているということである。また、ごく少数の例外を除いて、昆虫などの動物の食害を受けない。熱量をはかってみると結構あって、食物としての利用価値は小さくないみたいだが、どうやらコケ類には昆虫を含めた動物にはいやな味のする成分が多く含まれているので、誰も手をつけないということみたいだ。
またコケの中には乾燥にもきわめて強いものがある。明るくて水はけのいい場所を好む種類では、空気が乾燥した状態になると、急速に水分が出て行ってすぐカラカラに乾いてしまうが、水を与えるとあっという間に元のみずみずしい状態に復活する。特に乾燥に強い種類では数ヶ月から数年の間乾燥状態で生き続けるものもあるらしい。コケの葉の間にはクマムシなどの動物が生息している場合があるが、クマムシもまた乾燥に極めて強いと知られている動物である。したがって乾燥した際には、コケとともに中にすむクマムシも一緒になって仲良く乾燥に耐え、また水を得るとともに仲良くお互いに復活するという具合になる。
それらから、コケの中には金属を取り込むものもある。チャツボミゴケという種類は、生物にとって有害な水銀を取り込み、体の中で毒性のない硫化水銀の形にして細胞壁内で蓄えている。そしてやがて死んだときは細菌などに分解されるが、そのとき硫化水銀の粒はそのままの形で川底に沈殿するということになる。つまり結果的に環境浄化の役割を果たしているということになる。
たかがコケなどと侮ってはいけない。生物というものは多様化する中で様々な能力を身につけている。古生代から延々と生き残ったコケという種に対して、人間という種は(たとえほ乳類という種類と大まかに分類して考えたとしても)、まだまだ進化史の中では単なる新参者であると思ったほうがいいのかもしれない。