悪魔 ー追放された天使ー

 人々は自然に育まれて生活を営む。しかし、自然は時に気まぐれに大きな災害を人々にもたらすことがある。その人知を越える自然の災害に対し、ユダヤ人は長い間苦しみは神の意志によってもたらされるものだと考えていた。ユダヤの論理に従えば、災害によって神は自らの民の不信を罰したのだと。

 しかし紀元前6世紀のバビロン捕囚の間に、ユダヤ人は悪が相対的に自立したものであり、神の意志とは反対に働くことがあると考えはじめた。同時にバビロニアの宗教やゾロアスター教にも影響され、天使と悪魔に分かれた世界観を受け入れることになる。バビロニアの宗教やゾロアスター教の影響はとりわけ紀元前3世紀から紀元前1世紀の間に盛んに書かれた黙示文学にみられ、アザエルのようなすでに有名であった悪魔に加えカスデア、シュミアザ、バラキエルといったそれまでに悪魔が数多くあらわれる。サマエルとベリアルといったサタンと主に重要な役割を担う悪魔は、その後、キリスト教の中で確固たる地位を得ることになる。

 キリスト教はユダヤの悪魔観を受け継いでいるが、新約聖書の中で名指しされている悪魔はサタンとベルゼブルしかいない。キリスト教悪魔論は教父時代に発展し、後にルネサンスの時代に大きく展開することになった。

 悪魔として語られるものの多くはかって天使でありながら神から反逆したいわゆる「堕天使」である。堕天使とされた天使の数は多く、名高い大天使の中にも堕天使とされたものもいる。ただ、なかには堕天使には神の存在を際だたせるため、一部の天使たちに嫌われ役として悪魔になる道をたどった職務としての堕天使もいるという。また、かってキリスト教の前から存在していた「古き神々」も堕天使のレッテルを貼られることになった。

 悪魔はサタン、デヴィル、デーモンの名称で呼ばれる。「サタン(Satan)」はヘブライ語で「敵対する」「妨害する」の意味である。「デヴィル(Devil)」はこの「サタン」をギリシャ語訳した際に使用した言葉「ディアボロス(Diabolos)」の変化したもの。「デーモン(Demon)」は「ダイモン(Daimon)」という「超自然の力」という意味を持つギリシャ語源の言葉である。それぞれに語源も意味するところも異なっているが、美術や説話・文学においては必ずしも厳密な使い分けは行われていない。ただし一般的にはデヴィルは「悪霊」と訳されるような小物的な悪魔の名称に使われることが多く、サタンは支配者的な悪魔に対して使われることが多い。



【悪魔の階級】

 ルネサンス以降、悪魔を研究する学問が出現した。デモノロジィ(Demonology)と呼ばれる。悪魔もまた天使と同じく階級分けがされた。ほとんど天使の階級の裏返しのようなものだが、ここではドイツ出身の哲学者兼魔術師アグリッパ(1486〜1535)が記した「黄道12宮のデーモン」のリストを記しておく。

十二宮 デーモン 魔術効果のある石 かっての天の階級
白羊宮 マルキダエル 紅縞瑪瑙 熾天使
金牛宮 アスモデル 紅玉髄 智天使
双子宮 アムブリエル 黄玉 座天使
巨蟹宮 ムリエル 玉髄 主天使
獅子宮 ウェルキエル 碧玉 能天使
処女宮 ハマリエル 緑玉 力天使
天秤宮 ズリエル 緑柱石 権天使
天蠍宮 バルビエル 紫水晶 大天使
人馬宮 アドナキエル 風信子鉱(ジルコン) 天使
磨羯宮 ハナエル クリソプラーズ 罪なき者
宝瓶宮 ガムビエル 水晶 殉教者
双魚宮 バキエル 青玉 証聖者
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