英雄/HERO

【監督】 チャン・イーモウ
【出演】 ジェット・リー/トニー・レオン/マギー・チャン/チャン・ツィイー/ドニー・イェン/チェン・ダオミン

※ネタばれあり。しかも最近みた割に記憶がごっちゃになってる可能性ありです。

■ 秦の役人、無名(ジェット・リー)と秦の大王(チェン・ダオミン)。類稀なる二人のファンタジスタが繰り広げる、素晴らしき妄想話の果てにあるものとは。

彼らがリレー形式で創作する中国武侠物語の登場人物が、残剣(トニー・レオン)、飛雪(マギー・チャン)の熟年カップルと、残剣に仕える如月(チャン・ツィイー)。そして長空(ドニー・イェン)の4人。全部で3部構成ですな(4部か)。それが1部ごとに色分けされて語られるので理解しやすくなってます。

最初に無名の口から語られたのは、いかにして自分が3人の刺客(残剣、飛雪、長空)を討ち取ったかという自慢話。一対一の真剣勝負で見事勝利をおさめた対長空戦はともかく、残剣と飛雪の負けッぷりがどうにも身も蓋もない話になっているのが哀しい。と思ったら、秦王が一言。「あの二人はそんな器の小さい人間ではないぞな!」

次に王の口から(まるで見てきたかのように)語られるのが、残剣と飛雪のそれはそれは美しい愛の物語。んもう美しすぎて怖いくらいっす。この口ひげ生やしたおっさんの脳内はどうなっとるのか?夢と魔法の王国か。が、急速に現実に立ち返った秦王は無名にキリリと言い放ちます。「なんだかんだ言って、お前こそがわしの命を狙う刺客であろう!!!」←ハイ正解。バレちゃっちゃしょうがないと無名が語るのが最終話。「さすがは大王、よくぞ見破った。しかしあなたは一人の男を見くびっておられる。それは残剣!」

参りました。この物語は≪命を狙う者と狙われる者≫と立場は真逆でも、残剣ってカッコイイよねー!」というそこだけはバッチリ気が合ってしまっている男二人の妄想合戦なのでした。いやマジだから。特にファンタジスタの上にロマンチストでもある秦王の萌は凄い。「なぜ残剣はあともう一歩というところまで自分を追い詰めておきながら、命を奪わずに去ったのか。」を日々悶々と考えていたらしいのだけど、その真相を無名の口から聞いた途端、涙ポロリ。「もうわしいつ死んでもいいもんね!さ、やってくれ!ひと思いにグサっとやってくれ!!」中国の歴史にはまるで疎いのでなんとも言えんのだけど、始皇帝ってこういうキャラなの?つうか、残剣ってこの人のこと過大評価しすぎなんじゃ(笑)。

あくまでも秦王を討つことにこだわった飛雪と、非常に大陸的な考えというか、おおらかさ(としか思えない)でそれを阻もうとした残剣の悲恋が哀しくも美しいでございますよ。「邪魔をするならお前も殺す!!」と大暴れの飛雪の前に最後は身を投げ出す残剣様。(様とか言ってるし)。なんとこの方、通算4回、飛雪に刺されてます。1本の映画で同じ人に設定だけ変えて4回。へたすりゃコントです。でも最後の1回がね。なんとも男前でござった。

ワイヤーアクションはちょっとやりすぎじゃないっすかね。無名と残剣による湖での脳内バトルシーンは映像が嘘みたいに美しいだけに、二人が奇声を発しながら飛びまくるのが邪魔でしょうがない。飛雪と如月の対決の場面も同じく。(映像はホントにキレイなのよー!!)その分、無名と長空のシーンを増やしてくれてもヨカッタな。二人とも武術の達人なので動きがいちいちツボにくる。へたにトリック使わなくても充分イケるってのが素晴らしい。

この映画は映像とアクションシーンだけを観るもので、ストーリーはあってなきが如しと言う人もいらっさるようだけど、私は話も面白いと思いました。「書」と「剣」を同列に考えるところなんか中国!って感じがしたし、最後の秦王の決断もそうするよりなかったと思う。しかしアレだ。やっぱり男ってのはロマンに生きてなんぼなのね(笑)。残剣、長空、無名、秦王、いずれ劣らぬロマンチスト揃いで、みんなやたらカッコイイ。が、一歩引いて見てみるとなんだか情けない気もする。「あんたらはそれで気持ちいいかも知れんがな!」とツッコミのひとつも入れたくなりました。

久しぶりにスクリーンで観た(リーサル・ウエポン4以来かも)ジェット・リーは、正直老けた。でも姿勢がよくて、すたすたと歩き去る後ろ姿がキレイなんですよ。それと、残剣と飛雪がいちゃいちゃしながら字の練習をするシーンは大好き。何書いてるんだか映らないんだけど、トニー・レオンがマジ笑いっぽいのが気になります。(マギー・チャンがとんでもないこと書いてたらどうしよう)


ジョニー・イングリッシュ/JOHNNY ENGLISH

【監督】 ピーター・ハウイット
【出演】 ローワン・アトキンソン/ジョン・マルコヴィッチ/ベン・ミラー

まったくの無自覚のまま英国情報部の精鋭エージェントを全滅に追いやったジョニー・イングリッシュ(ローワン・アトキンソン)。残ってる情報部員は彼と彼の部下のボフ(ベン・ミラー)のみという超人材難のMI-7は仕方なく、彼らに女王陛下の王冠警護を任せる。が、その任務の裏にはとんでもない陰謀が隠されていたのであった!

かなり好き嫌いわかれる作品だと思いますが私は大好き。同じローワン・アトキンソンのMr.ビーンよりもこちらの方が面白いと思いました。ビーンのボケにはたまに悪意を感じるからね。驚いたのはJ・Eが情報部員として全くの無能というわけではなく、彼なりに仕事に対する熱意も責任感も持ち合わせていたこと。もっと根本的にダメ人間かと思ってたのでこれは意外でした。しかも声は二枚目だし、よく見りゃ脚も長い気がする。その気になれば本家007の役も不可能ではないかも?とほんの一瞬思わせといてでも肝心なところではお約束どおりの早合点と凡ミス連発。(そうでなきゃいけないわけですが)彼のやることもおかしくて笑えるけど、それ以上にオモロイのが一方的に巻込まれる周りの人達の迷惑振り。特にスシバーと病院でのシーンは爆笑です。ベタなんだけど爆笑。

脇役フェチとして見逃せないのが部下のボフ君。どう考えてもボスであるJ・Eよりあらゆる面で優秀なのに妙なところで発想のツボが上司と同じという哀しい男(笑)。彼のでしゃばらず、引きすぎずの絶妙なるサポートには感心通り越して感動すら覚えます。シリーズ化するなら絶対外せないキャラですね。好きだわ〜こういう人。

悪役として登場するのが怪優・ジョン・マルコヴィッチ。フランス人の役(笑)。フランス語訛の英語が上手い。(と思う。知らんけど)。正直、バカキャラには間違いないのだけど、彼が演じると品もあれば知性もあるように見えるから不思議。しかし熱心なファンから見たらどうだろう。仕事選んでくれ!と言うかな。


インファナル・アフェア/無間道

【監督】 アンドリュー・ラウ/アラン・マック
【出演】 トニー・レオン/アンディ・ラウ/アンソニー・ウォン/エリック・ツァン

※ネタバレしてます

■ 潜入という同じ使命を持ちながら、勤め先が違うとこうも人生かわってくるのかという実に対照的な二人が交叉し、また別れていくまでのお話。

警察学校でへたに優秀だったせいで、ウォン警視(アンソニー・ウォン)からマフィアに潜入することを命令されたヤン(トニー・レオン)は「バレたら終り」のハラハラドキドキの生活を10年間も強いられ、今やすっかり精神的に不安定な男。「最初は3年の約束だったじゃないか!」とごねる姿が胸に痛い。何かと問題を起こすようになったヤンの消耗した姿に責任を感じているのか、部下である彼にタメ口をきかれてもじっと我慢のウォン警視。ビルの屋上で逢引しては「今日はお前の誕生日だったろう」と腕時計をプレゼントしてご機嫌伺いまでしちゃったり。管理職も大変なのだ。かたやマフィアのボスであるサムからの指示を受け、香港警察に潜りこんだ元サムズ・ジュニア出身のラウ(アンディ・ラウ)は警官としてエリート街道まっしぐら。そのうえ作家のメリー(サミー・チェン)と婚約までしちゃい、まったくもって前途洋々。ヤンとは違い着ている服もパリっとしてます。

この映画のトニー・レオンがとてもいいというのはよく分かる気がしました。任務と割り切って悪の道に入ったものの、時間が流れるにつれ次第に警官としての自分を見失い、そのことに戸惑いと苛立ちを隠せない男を例の下がり眉と濡れた様な瞳で物の見事に演じきってます(笑)。逆にアンディ・ラウの方にはそういう切羽詰った感がない。むしろ人生を謳歌してるように見える。だもんで、同じく人生を偽っている者同士にしかわからない言葉のやりとりや、心の交流みたいなものが感じられなくってそこが少し物足りなかった。ラウがまったくの野心家で、自分以外はどうだっていいと思うような人間だったっていうんならそれも分かるけど、そこまで悪い人にも見えなかったしな。

哀しいのは、切実に警官になりたかったヤンにはその機会が与えられず、マフィアの一員であったラウの方がどんどん出世し、しまいにゃ人望さえも勝ち得たこと。ヤンが物陰に隠れるようにして、かつての上司の葬列に対して送った敬礼に込められた想いや、精神科医のリー(ケリー・チャン)に「ホントは警官なんだ」と打ち明けた時の心の内を想像すると泣けてくるであるよ。

それとウォン警視の死を目の当たりにした際のトニー・レオンの表情は秀逸でしたな。目の演技が上手いと言われるのも納得。でもあの姿は見る人が見ればバレバレでしょ。そらもうアレコレ色んなことが(笑)。無性にハラハラしちまいました。でも考えたらヤンが警官だってことを知ってる唯一の人だったんですよね、ウォン警視って。ある意味同志だし。勝手に死なれたら困るってのもあるか。

最後のヤンの願いをラウはどれくらい理解していたのか、最初私にはわからなくて、彼がカッチョイイ制服に身を包みビシィっと決めてみせた敬礼も偽りに思えてしょうがなかったのですが、最後の最後、エンドロールで流れた主題歌のど頭で殴られたような衝撃を受けました。いやいや200%理解してるじゃないですか(笑) そっか生きていくか、ラウ(笑)←笑ってるし。


ウェルカム・トゥ・コリンウッド/WELCOME TO COLLINWOOD

【監督】 アンソニー・ルッソ/ジョー・ルッソ
【出演】 サム・ロックウェル/ウィリアム・H・メイシー/マイケル・ジェッター/パトリシア・クラークソン

※ややネタバレしてます

■ 終身刑の囚人から大儲けの話を聞かされたコジモ(ルイス・ガスマン)。計画を実行するにはまず自分が出所せねばならず、そのために愛人(パトリシア・クラークソン)に身代わりを捜すように言う。ところが、話を持ちかけられた5人の男、勝てないボクサーのペロ(サム・ロックウェル)、コジモの相棒の老人トト(マイケル・ジェッター)、妹想いのレオン(イザイア・ワシントン)、妻の保釈金が欲しいライリー(ウィリアム・H・メイシー)、プータローのベイジル(アンドリュー・ダヴォリ)は嫌われ者のコジモを出し抜き独自に金庫破りの計画を進めようとする。

オチから始まるこの映画。計画が失敗に終わるのはそれで予想がつくのだけど、それ以前にこのメンバーで金庫破りをしようってのが間違い。別にプロの犯罪者でもなんでもなく、それどころか頭も口も軽いただのぼんくらの集まりですよ(言い過ぎ)。そんな彼らに金庫破りの奥儀を伝授するのがジャージー(ジョージ・クルーニー)。いやそれにしたって奥儀でもなんでもないただの肉体労働なんですが。ホントにこのメンバーだけで大丈夫なのか?と見てる方は違う意味で手に汗握るというか、あまりの情けなさにしまいには「頑張って!もう少しだから!」とスクリーンに向かい声援を送りたくなる始末です。それくらいダメなんですよ。全編コントかと思えるほどの失敗の嵐。でも本人たちは真剣なんですね。狂おしいくらいに真剣(笑)。そして、数々の苦難を乗り越え(これがいちいち笑える)なんとか後一息のところまでこぎつけた彼らがちょっと休憩しながら語る「盗んだ金の使い道」にはちょっぴりホロリ。金庫破りなんかするわりに欲がないよー。小悪党すぎて泣けてくる。

もうこのへんまでくると完全に彼らの味方と化してるわけですが、やっぱり上手くいくわきゃないんですな。つうか、ついに壁をぶち抜いた瞬間に現れたもののあまりの意外さに吹出してしまいました!そりゃあんまりだよー!今までの苦労はなんだったの?こっちは笑えるからいいけど、よく考えるとこの人たち、儲けるどころか下準備に金かけたせいで逆に足出ちゃってます!気の毒すぎる(笑)。このシーンは未だに思い出すと笑えるほどなんだけど、さらにもうひとオチあって最後はズタボロ。それでも、わずかに得たお金を一番切実に困ってる人にあげちゃうのがこの映画のいいところです。

激弱だけど女にだけは自信満々のボクサー役のサム・ロックウェルはじめ、キャストは絶妙。特にトト爺さんを演じたマイケル・ジェッターは最高でした。もう出てくるだけで何やらかすかと気になってしょうがない(笑)。それとライリーの息子(赤ちゃん)がまんまるくて死ぬほどキャワイイ!(萌)。制作のジョージ・クルーニーは出番は少ないけど、フロム・ダスク・ティル・ドーンを彷彿させる全身刺青がカッコヨカッタっす。90分弱と短いし、金はまったくかかってなさそうだけど気の効いた面白い映画でした。このメンバーで続編作ってー!<ジョージ・クルーニー・スティーブン・ソダーバーグ


アイデンティティー/IDENTITY

【監督】 ジェームズ・マンゴールド
【出演】 ジョン・キューザック/レイ・リオッタ/レベッカ・デモーネイ/アマンダ・ピート/ジョン・ホークス

■ 嵐の夜、さびれたモーテルに泊まり合わせた11人の男女。両親と息子、女優と運転手、娼婦、新婚カップル、護送途中の刑事と囚人、そしてモーテルの支配人。電話も通じない大雨の中、ひとり、またひとりと殺されていくうちに、偶然集まったはずの彼らに共通点があることがわかり・・・。ジョン・キューザックとレイ・リオッタとレベッカ・デモーネイ以外、どこかで見たことあるんだけど誰だっけな人ばかりなキャスティングも絶妙な密室スリラー。

見た後は「どこかで見た、または読んだ話」のような気がするけれど、見ている間は画面にぐいぐい引き込まれる。とにかく緊張感が凄くて、乾燥機のシーンでは映画館の沈黙の重さに耐え切れず「頼むから誰かしゃべってー!」と絶叫寸前でした(笑)。以下、犯人や結末には触れてませんが、まったく白紙の状態で見た方が面白いと思ったので反転しときました。

この映画の理想的な見方は、何も考えずにぶらりと入った映画館でたまたまやってたのがこれだった。ってのじゃないでしょうか。あらすじはおろかタイトルさえも知らずに見たらもっと面白かったかも。(ポスターもいらん)パンフレットを読むとなるほど最初から伏線張りまくりでしたな。冒頭での精神科医とのやり取りにヒントが凝縮されていて、はじめから「犯人、またはオチを見抜いてやるぞ!」と意気込んでた人にはすぐに見当がついたかも知れません。で、私はどうだったかというとボーっと見ていたせいで、ネタが割れた瞬間、初めて「あ、そうやったんか!」と気づいたという。いやいや全然結びつけて考えてなかったですよ、あれとあれを。←ちょっとは考えろ。つうかレイ・リオッタが怖くてそれどころじゃなかったって話ですが。

これ最後じゃなくて話の途中に種明かしがあるんですが、その後の展開が急ぎすぎた気がしてしょうがない。それまではわりと丁寧に怖がらせてたのが、急にダダダーー!とラストまで突っ走った感じ。ひとがせっかくあれとあれを結びつけて再構築しようとしてるのにちょっと待ってくれよ!でも、これで終りか〜と思ったらちゃんと二段落ちが用意されておりました。いやあのまま終わるとは思ってなかったけどさ。ただこういう終わり方嫌いなんだよねい。救いがない。 この映画で一番怖いのは、親子連れの母親をジョン・キューザック演じるエドが誤って轢いてしまうシーンですな。映像自体ショッキングなんだけど、ネタが割れた後、改めて考えるとさらにゾっとしました。

逆にちょっと面白かったのがモーテルの主人ラリー(ジョン・ホークス)が「ベージュの糸があればよかったんだけど」という場面。これだけだと何が面白いのかわからないと思いますが、セリフと映像にギャップがありすぎて笑かすんですよこれが。この映画で唯一一息つけるシーンです(笑)。


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