ミスティック・リバー/MYSTIC RIVER

【監督】 クリント・イーストウッド
【出演】 ショーン・ペン/ティム・ロビンス/ケヴィン・ベーコン/マーシャ・ゲイ・ハーデン

※ややネタばれしてます。

■ 「あの日、あの車にさえ乗らなければ」。予告でこのシーンを見た時、「ああ、この子は引っ越すんだね」と単純に思っていた私を許して欲しい<デイブ(ティム・ロビンス)

少年時代のある事件を機に疎遠になっていた幼馴染のジミー(ショーン・ペン)、ショーン(ケヴィン・ベーコン)、デイブ(ティム・ロビンス)の3人は25年後、ジミーの娘が殺された事件の遺族(ジミー)、容疑者(デイブ)、捜査官(ショーン)として再会する。これが更なる悲劇の始まり。「殺人事件の真相はわかってみるとかなり強引な気がしました。計画性のあったものだってんならともかく、偶然にしちゃ犯人と被害者の関係に因果がありすぎなのでは

主役の3人の演技は申し分ないのだけど、いかんせん話が暗い。その上救いがないときてる。あれではデイブがあまりに気の毒です。子供の頃に起きた忌まわしい事件のことを当事者のデイブはもちろん、ジミーもショーンも決して忘れてはいないし、彼らなりに引きずっている。なのにどうしてそうなるの?とジミーを正座させて問い詰めたい。誰よりも愛していた娘を殺されて頭に血が昇っているのはよくわかるけど、あのときのデイブの様子に感じるものはなかったのかなぁ。それとも、自分の子供を殺したかも知れない人間を前にすると親は誰でもああなってしまうんでしょうか。それにしてもやりきれない。

最後のパレードの場面で、デイブの息子がひとりぽつんと座ってるのが痛々しくてもう。結局、全ての不幸の原因はジミーにあるんじゃないかという気すらしました。ジミーってなんか怖いですよ。理解のあるふりをして実のところ、自分の思うようにしかやらせないみたいな。そんなんだから娘もBFのことをひた隠しにしていたんじゃなかろうか。(まぁジミーも娘に負い目みたいなもん感じてたとこある気もするんだけど。その分余計に愛情を注ぐというか)いや実は一番怖いのはジミーの二番目の嫁なんですが。最後のあれはなんなんだ。自分さえよけりゃいいのか。デイブの嫁はあんたの従姉妹だろうに。

最初はティム・ロビンスのばかでっかい身体に不釣合いな童顔があいまって、「申し訳ないけどデイブ、ちょっとキモイ」と思っていた自分ですが、彼の心の傷を正味のとこ理解していた人間が誰もいないというのは悲しかった。「自分には持てなかった青春を持っているのが羨ましかった」という言葉は痛いなぁ。

少年時代のジミーを演じた男の子、ショーン・ペンに似すぎです。


シービスケット/ SEABISCUIT

【監督】 ゲイリー・ロス
【出演】 トビー・マグワイア/ジェフ・ブリッジス/クリス・クーパー/ウィリアム・H・メイシー/ゲイリー・スティーブンス

※ネタばれしてます。

■ 世界恐慌下のアメリカで、家族を失った騎手、息子を亡くした馬主、時代に置いてかれた調教師が一頭の競走馬、”シービスケット”に未来を夢見るドラマティックな物語。実話。

シービスケットは本来、木陰でお昼寝してばっかりのはんなりした馬なんですが、元の馬主がそんなことではいかんと無理矢理根性を叩きなおしたことがトラウマとなり、暴れん坊の人間不信馬になってしまいます。身体も小さいし、とても使い物にならないと匙を投げたところを拾ったのが、職人肌の調教師スミス(クリス・クーパー)と馬主のハワード(ジェフ・ブリッジス)。気の荒いビスケットは「誰も乗せたらへんで!」と暴れ狂い、並の騎手では手に負えません。そこでスミスが目をつけたのが、ビスケットと似た気性の男、レッド(トビー・マグワイア)。赤毛だからレッド。彼もまた騎手としてはやや規格外(身体がでかい)ではあるけれど、秘めたる才能の持ち主でもあります。

ところが、いざレースに出てみると思わぬ事実が発覚。レッドは片目が見えないんですな。それを黙ってたことに怒るスミスに「しょうがないじゃないか。少しくらいの怪我で命を奪うのは間違いなんだろう?」と答えるハワードの男前なこと!!!スミスもまた一見、頑固一徹な男だけど、実は怪我をして処分されるところだった馬を引き取って世話をしているような優しい人間で、その辺がハワードが彼を見込んだ所以でもあるんですな。で、このセリフが効いてくるわけです。オヤジ萌え〜。(つうかスミスは人より馬の方が大事で大事でしょうがないんだな)。なんせカッコイイんですよ、ハワードが!彼も息子を亡くしたり、嫁に去られたり、会社がやばかったりといろいろ大変なんですが、それでも「未来は明るいはず!」と言い切ってしまう。たまらんなぁ。(原作ではもっとクレイジーな人だそうですが)

カッコイイと言えば、レッドの親友の天才ジョッキー、”アイスマン・ウルフ”(ゲイリー・スティーブンス)がこれまたナイスキャラ。彼は本物のジョッキーでこれが映画初出演らしいですが、芝居がめちゃくちゃ上手かった。あるレースでウルフはレッドのピンチヒッターを務めるのだけど、彼って見るからに自信家だからレッドからの数々のアドバイスを本番では活かさないんじゃないかと実は少々疑ってました。すいません(笑)。大怪我をしたレッドをレースに戻すことをためらい、「足が砕けてしまうんじゃないか」と心配するハワードに彼が一言、「その前にハートが砕けてしまう」とグサリと言うシーンには痺れたな。カッコイイよ〜。この映画、馬も含めてイイ男ばっかりゴロゴロ出てる!と思ったらハワードの二番目の妻のマーセラ(エリザベス・バンクス)もまた肝の据わったイイ女なのでした。お笑い担当のウィリアム・H・メイシー(競馬実況)の芸達者ぶりも必見。


飛ぶ教室/DAS FLIEGENDE KLASSENZIMMER

【監督】 トミー・ヴィガント
【出演】 ウルリヒ・ノエテン/セバスチャン・ゴッホ/ハウケ・ディーカンフ/フィリップ・ペータース=アーノルズ/フレデリック・ラウ/ハンス・ブロイウ・ヴトケ/フランソワ・ゴシュケ

※ネタばれしてます。

■ ドイツの国民的作家エーリッヒ・ケストナーのベストセラーを映画化。現代版にアレンジされてて、原作とは違う設定(女の子が出てきたりとか)もあったけど、これはこれで面白かった。

6回も転校を繰り返した末、少年合唱団で有名な聖トーマス校の寄宿舎にやって来た少年ヨナタン。「ここがダメならもう行くとこないなぁ」と悲壮な決意でやってきた彼を温かく迎えてくれるのがルームメイトのマルティン(リーダー)、ゼバスティアン(発明王)、マッツ(暴れん坊)、ウリー(おぼっちゃま)の4人。この5人の子供たちのキャラの立ちっぷりが素晴らしい。個性的で嫌味がないんですな。こんな溌剌としてる男の子達を見るのは久しぶりでした。敵対する通学組に合唱会で使う楽譜を盗られた彼らが「1対1」の勝負を挑む場面はわくわく。結果はマッツの圧勝に終わるのだけど、彼にいつも守ってもらってるウリーが「心配したよー!」と飛びついてくるのが可愛いてもう。鼻血たらしながらえへへと笑ってるマッツがまたえらい男前でたまりません。ところが楽譜はとっくに燃やされて灰になってるんですな。でも先生には誰が盗んだかは言わない。子供の世界なりの仁義ってやつです。もうなんかいちいち男前だなお前ら!

毎日犬っころみたいにじゃれたりケンカしたりして過ごしてる彼らにもそれぞれ悩みはあるわけで、身体が小さくみんなでやる芝居ではいつも女の子の役をふられるウリーは、そんな自分をなんとかしたくてしょうがない。一番の親友のマッツが「みんなをあっと言わせることをやれ!」と適当にけしかけたのを間に受けて校舎の屋上から風船を気球がわりに飛び降りる場面は涙なしでは見られません。(原作ではあっという間にドスンと落ちるのだけど、映画の方はかなりファンタジックな仕上がり。それでも落ちるんだけどさ)ウリーがそんな無茶をやったのは全部自分のせいだと、マッツが自分を責めて責めて号泣するのがかわいそうで、劇場でもいっせいにすすり泣きが。合唱団の指揮者、ベク≪正義≫先生が一言、「ウリーは足を骨折したけど、この先一生、弱虫として生きていくことに比べたら足の1本や2本どうってことない」(←さすがにここまでは言ってないか)と言ってくれた時は心底ほっとしました。さすが正義先生だよ!うわーん!!

そんな話のわかる正義先生がなぜか、子供たちが一生懸命練習しているクリスマスの校内発表劇「飛ぶ教室」のリハを見た瞬間、「この芝居は上演禁止だ!ダメったらダメ!」と頭ごなしに叱り付けます。普段は大人っぽいヨナタンが「先生も他の大人とかわらないじゃないかー!ぼけかす!あほんだらーー!!」と絶叫するのが子供らしくておかしい(笑)。実は、「飛ぶ教室」はその昔、正義先生と親友が書き下ろした思い出の作品だったのですが、数々の事情があってその親友と疎遠になってしまい、作品も封印されたはずだったのです。理由を聞いて「正義先生の親友ってもしかして自分達の友人でもある≪禁煙さん≫では?!」とピンときた子供たちは正義先生をだまくらかして禁煙さんの元へ。この場面はもっとドラマティックにやるかと思ってたら意外とあっさりしてたな。子供たちの手前ってのもあったんでしょうか。個人的に泣けたのが、疎遠になった親友を思って禁煙さんが恋人も作らず一人身だったのに、正義先生はちゃっかり職場恋愛をエンジョイ中だったこと。ふたりともいい年なので(私が想像してたよりずっとな!)当たり前っちゃそうなんだけど、「自分だけ幸せになったら悪い」と禁煙さんが10代の頃からずーーーっと正義先生に負い目を感じてたのかと思うと気の毒で気の毒で。正義先生は意外と人生を楽しんでいらっしゃいますよと誰か禁煙さんに教えてくれる人はいなかったのか。

最後はクリスマス恒例の学芸会。なんだかんだあったけど結局、「飛ぶ教室」を上演するヨナタンたち。それも現代っ子らしくラップでミュージカルです。正直、下手だと思うんだけど「僕達の大好きな正義先生をクビにしないで〜♪」なんて盛り込まれてて教師冥利に尽きますな。友人も戻ってきたし、正義先生にとっては最高のクリスマスプレゼントでした。幸せひとりじめ。ひとつ残念だったのが、マルティンの家庭のエピソードが大幅に変えられすぎていたこと。原作のクリスマス休暇を巡ってのマルティンと正義先生の触合いは実に感動的なんだけどな〜。現代版にアレンジしたおかげでそこが薄まっちゃったのが残念でした。


ニューオーリンズ・トライアル/RUNAWAY JURY

【監督】 ゲイリー・フレダー
【出演】 ジョン・キューザック/ジーン・ハックマン/ダスティン・ホフマン/レイチェル・ワイズ

■ ニューオーリンズの証券会社で起きた銃乱射事件。16人を死傷させた犯人は自殺。事件で夫を失ったセレステはベテラン弁護士ローア(ダスティン・ホフマン)を雇い、犯人の使用した銃の製造メーカー、ヴィックスバーグ社を相手に民事訴訟を起こす。

よくある法廷劇かと思いきや、陪審員の中に被告・原告両方に評決を売ろうとする謎の男ニック(ジョン・キューザック)が潜り込んだことで話がややこしくなります。自分が要求する金額を先に支払った方に有利な評決を売るというニックの目的がお金だけではないことはなんとなくわかる。ではほかに何が?というのが裁判の行方と共に気になるところですな。が、「彼が悪い人間でないことは比較的早い段階でわかるので、おのずと裁判の結果は見えてくるし実際思った通りになるのだけど、」じゃあどうやって彼が陪審員を導くのか。ここらへんの展開は「12人の優しい日本人」によく似てると思いました。←微妙に違うんだけど。

ところで陪審員制度って公平なんですかね。この映画を見る限りはとてもそうは思えないんですが。ジーン・ハックマン演じる企業側の陪審コンサルタント(そういう職業があるんですな)は、陪審員候補の中から自分たちに有利な人間を選び出すのが仕事なんだけど、そのやり方がえげつなくて。下手したら裁判が始まる前から勝負が決まることもあるのかも?と思うとなんにも信じられなくなりそうでした。人間の良心を信じるっていっても限界があると思うんだけどなぁ。その点でローアって勝負師だと思いました。大博打。


ラブ・アクチュアリー/ LOVE ACTUALLY

【監督】 リチャード・カーティス
【出演】 ヒュー・グラント/コリン・ファース/アラン・リックマン/エマ・トンプソン/リーアム・ニーソン/ローワン・アトキンソン/キーラ・ナイトレイ

■ 19人の出演者が織り成すラブ・ストーリー。実に幸せなクリスマス映画です。ちゃんと季節を合わせて上映してくれりゃよかったのにな。

19人も出てくるのでそれぞれの恋に上手く行ったり行かなかったりの違いはあるけど、誰も停滞してないのがいいんですな。みんなチャレンジしてる。中にはもう遅すぎる人もいるんだけど、それでも「これで充分」だと思える結果になってる。ステキだ。

一番若いチャレンジャーは、妻を亡くしたばかりのダニエル(リーアム・ニーソン)の義理の息子サム(トーマス・サングスター)。最近ふさぎがちなのは母親を亡くしたせいだと思い込んでいたダニエルが、実はサムの憂鬱は片思いにあったと知ってからの張り切りぶりがおかしくて(笑)。自分になついてないんじゃないかと不安に思ってた反動か、やたら真剣にアドバイスするのを素直に聞くサムくんがもう可愛いてしょうがないです。ふたりで「タイタニック」のビデオを見たりしてね〜。親子というより兄弟。もしくは友達みたい。

若い子に負けちゃいられんとおっさん二人(コリン・ファース、ヒュー・グラント)も頑張る。作家のジェイミー(コリン・ファース)は家事手伝いのポルトガル人オーレリア(ルシア・モニス)に、イギリスの新首相デヴィッド(ヒュー・グラント)はお茶くみ秘書のナタリー(マルティン・マカッチョン)にそれぞれ愛を告白。言葉の通じないジェイミーとオーレリアの微妙にかみ合ってない会話は笑えます。同じとこぐるぐる回ってる(笑)。ヒュー・グラントが首相とはまた思い切った配役だなと思ってたけど、これがなかなかいける。特にアメリカ大統領(ビリー・ボブ・ソーントン)にナタリーがちょっかい出されてるのを目撃した後の会見シーンが最高です。それまでは強気な米大統領に押されっぱなしだと思ってた首相がいきなり一発かますんだもん。(言ってることは「イギリスにはハリー・ポッターとベッカムがいるんだぞ!負けないぞ!」てなレベルですが)それが完全に彼の嫉妬心から転がり出た発言だとは夢にも思ってない側近たちが「うちらの新しい首相、なかなかやるでない!」と満足そうなのがもう〜(笑)。

この発言をTVで見て「あんたもうちょっと考えて喋りなさい!」と電話してくるのが、姉(字幕では妹になってたけど姉だよね?)のカレン(エマ・トンプソン)。彼女の場合は恋というより情かな。夫ハリー(アラン・リックマン)が若い社員と浮気しているのでは?と疑ってた矢先に自分へのクリスマス・プレゼントだと思ってたネックレスがその彼女への物だと知ってひとり泣くのが悲しくて。エマ・トンプソンって苦手な女優だと思ってた自分までが貰い泣きしたくらい切ないっす。ハリーの方には浮気だって意識はないんだけど、よりにもよってクリスマスプレゼントに自分よりいい物をあげるなんて!(←そこか)そりゃ泣きたくもなるよなぁ。で、このプレゼントを包装するのがデパート店員のルーファス(ローワン・アトキンソン)。妻の目を盗んで買ってるのにやたら包装に時間かけるのがわざととしか思えない。シナモンスティックなんか入れないだろう(笑)。

↑の出演者以外にも面白い人がたくさん出てきます。ポール・ベタニーをブサイクに下品にしたようなコリン(クリス・マーシャル)のあほらしさ、久々に大ヒットを飛ばした老ロック歌手のビリー(ビル・ナイ)のエキセントリックさ、スタンド・イン俳優のジュディ(ジョアンナ・ペイジ)とジョン(マーティン・フリーマー)の可愛らしさ、サラ(ローラ・リニー)とカール(ロドリゴ・サントロ)の切なさ。ひとつひとつのエピソードがよくできてて楽しい映画でした。音楽もいい。


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