幸せになるためのイタリア語講座/Italian for Beginners

【監督】 ロネ・シェルフィグ
【出演】 アンダース・W・ベアテルセン/ピーター・ガンツェラー/ラース・コールンド/アン・エレオノーラ・ヨーゲンセン/アネッテ・ストゥーベルベック

■ デンマーク映画。市役所が主催するイタリア語講座(定員割れで存続の危機。おまけに教師のイタリア人死亡。このおっさんがなかなかいい味出してて、女性の生徒には「素晴らしい!まるでキミのピンクの頬のように美しい(発音が)」なんて言うのだ。さすがはイタリア男だな。惜しい人を亡くした)に集まるいい年した男女の恋物語。だいたいみんな30代半ばくらいだと思われるのだけど、結婚もせず、仕事もパっとせずとやたらとわが身に染みるひとばかりでありました。講座に通う理由はひとそれぞれだけど、最初から幸せ目当てではないです。当然だけど。そんな都合のいい講座あるか。

最終的に講座仲間9人の内から3つのカップルが誕生。特に劇的なエピソードがあるわけでなく、講座で町で顔を合わせているうちにお互いのことを少しずつ知り自然にカップルになっていく。正直、恋愛ドラマとしては地味です。けど、大人の恋愛ってこんなもんじゃないのかな。ちょっと気になる人がいても、その人のことばかり考えて浮かれてもいられない。仕事のことで悩みもすれば年老いて手のかかる親もいる。大人だから誰も助けてくれない微妙にしんどい生活。そんな気忙しい日常において息抜きになるのが「イタリア語講座」なのだと思う。だから講師もいないのにみんなせっせと通ってくるのだね(気になるあの人に会うためにも)。

で、最終的に講師を引き受けるのが生徒の一人だったハル・フィン(ラース・コールンド)という男。元サッカー選手という設定なんだけどデンマーク代表にこんな顔した人がいたような(笑)。とんでもない短気で頭も悪そうな彼が誰よりもイタリア語が上手いのは、子供の頃にユベントスの選手と話したことがきっかけでイタリア語に興味をもったから。実は一番キャリアが長いのだ。人間誰でもひとつは取柄があるのだな。


グッバイ、レーニン!/GOOD BYE LENIN!

【監督】 ヴォルフガング・ベッカー
【出演】 ダニエル・ブリュール/カトリーン・ザース/チュルパン・ハマートヴァ/フロリアン・ルーカス

※ネタばれしてます。

■ 心臓発作で倒れた母親(カトリーン・ザース)が8ヶ月後、奇跡的に意識を取り戻す。ベルリンの壁が崩壊したことも知らずに眠り続けていた母親にショックを与えないため、息子のアレックス(ダニエル・ブリュール)は嘘をつき通すことを決意する。

この嘘ってのが、「眠っていた間も何も起きませんでした。東ドイツは健在ですよ、お母さん」ってことなんだけど、これがなかなか難しい。なんせ壁が崩壊した途端、どっと西側のものが流れ込んできて、それまで食べていたものが根こそぎなくなって(西側のものに替わって)いるんである。お母さんが大好きなピクルスはオランダ産のものに取って代わり、コーヒー豆もどこを探しても見つからない。焦ったアレックスはゴミ漁りまでして空き瓶を探し出し、中身を入れ替えることで母親を騙す。同居の姉とその恋人、近所のひとたちまで巻き込んでの大騒動を繰り広げるアレックスに、姉もGFも「そんなことして何になるの。お母さんが可哀相」と意見する。私もそう思う。でもアレックスは聞かない。しまいには「姉さんは冷たい!」と絶叫。このくだりで「男の子ってやっぱり母親のものなんだな」としみじみ思った。姉もGFも冷たいわけではなく、現実的なだけなのに。

周りにどう言われようと嘘をつき続けるアレックスは、子供の頃、父親がひとりで西側に亡命してしまった時の母親の呆然とした顔が忘れられないのだろうと思う。しかも母親が倒れた直接の原因は自分にあるわけだし、これは必死にもなろうというもの。いつまでも騙し通せるわけではないけど、もう少しお母さんが元気になるまではそっとしておきたい。だから頑張る。切実なまでに頑張る。でもある日、逆に母親が子供たちに嘘を吐いていたことを告白する。その内容は母親が理想としていた社会主義、東ドイツを懸命に再現していたアレックスにとってとても辛いことだったはず。それでもこの優しい息子は最後まで嘘をつき続けるのである。母親がとっくに真実を知っていることも知らずに。

と、いきなりネタばれもいいとこなんですが、お母さんがなにも知らないふりをするシーンがじんわりとくるのです。アレックスは友達と捏造したニュース番組を母親に見せているのだけど、お母さんが見ているのはTVではなく息子の背中。自分のためにここまでやるなんて、この子アホちゃうやろかと思ってるわけはなく(当り前だ)、しみじみと愛しい目でじっと見つめるんである。そらもう可愛くてたまらんだろうよ。逆に娘とGFには入り辛いこの世界(笑)。こういう話はやっぱり母と息子でしか成り立ちにくいだろうなぁ。娘ってやつは母親にはシビアだし(と私は思うのだけど。いまどきの若い娘さんは母親とも友達感覚だからなぁ)、息子が父親を見つめる目もここまで優しくないのでは。そして女より男の方がよほどロマンチストの心配性でもありますな。アレックスが思ってるほどお母さんは弱い人ではないんだよ〜。だって母だもん。

脇役スキーとして見逃せないのがアレックスの職場の同僚デニス(フロリアン・ルーカス)。西ドイツからきた映画おたくの彼とアレックスが協力して東ドイツ風ニュースを捏造する場面がおかしくて。ほんのちょっと撮影するだけなのに、やたら光の加減とか気にするんだよね(笑)。せっせと編集したテープを病院に届けてくれる彼にアレックスが礼を言おうとすると、「よせよ。うるうるするじゃないか」と照れくさそうにするのがまたよかった。アレックスのためにというより、自分が楽しいからやってるんだって感じのこだわりのおたく臭さがステキでした。


パリ・ルーブル美術館の秘密/La Ville Louvre

【監督】 ニコラ・フィリベール

■ パリのルーブル美術館で働く人々を追ったドキュメンタリー。作品の搬入経路やその方法、修復や整理等、美術館の裏側を垣間見れて(好きな人には)面白い。

ルーブル美術館には7年前に行ったことがあって、ほぼ1日かけてぐるぐるぐるぐる回ったんですが、それでも全部は見切れない。それもそのはず、所蔵品数まさに30万点。表に出てる数だけでも相当なのに、地下で出番を待ってる作品が鬼のようにありました。またその地下通路が迷路もいいとこで方向音痴の私は入ったら最後、二度と日の目を見ることはないと思われます。(朽ち果てるな、確実に。そのうち作品のひとつになるかも)恐ろしい数の作品をひとつひとつ修復する人、分類する人、展示する人、みなさんいい意味でかなり専門バカっぽい。あんまり横の連携取れてないんじゃないかな〜と思ったり(笑)。

作品を展示するレイアウトにもきっちりとしたこだわりがあるようで、学芸員が二人がかりであーでもないこーでもないと絵を動かしながら大議論。女性の方が、「なんかパンチに欠けるのよね」と言い残し、他の部屋へ行きかけるのを男性の学芸員がせっせとまた絵を動かして、「これでどう?」。で、返事も待たずに「ダメだ!」(笑)。この男性が実におたく臭くていいんですな。絵のことにはめちゃくちゃ詳しそうだけど、絶対生活音痴だと思う。彼が他の学芸員たちに熱く語る「観光客は有名な作品だけを見て帰ってしまうし、そんな人たちはここは作品数が多すぎるという。でも僕はルーブルは巨大な辞書のようなもので、参照する数が多ければ多いほど選択肢が広がると思うんだ」という言葉にはそれぞれの作品への愛情と、自分が愛してやまない美術品をできるだけ多くの人に見てもらいたいという情熱が感じられて、感動的ですらありました。(他の学芸員たちは「ふ〜ん」って感じだったけど)

彼以外にも、こだわりの学芸員に「その額をあと1cm上げてちょうだい!!」と怒鳴られてびくびくする作業員や、新しい制服の試着の最中に「服が盗まれた!」と騒ぐ女性、ごっついセーターを着てきてしまい、仕方なく素肌にジャケットを羽織る男性(ホストか)等、ユニークなひとがたくさん出てきて世界一の美術館がすごく身近に思えるような作品でした。特にコメントもないままさりげなく「モナリザ」(なんでも間近で見れるルーブルの中でこれだけはガラス張りの別格扱いなんだよね)が映るのも心憎い。また久しぶりにルーブルへ行きたくなりました。カフェで食べ損なった「クロック・ド・ムッシュ」にももう一度チャレンジしたいしね〜(ちゃんと注文したつもりが普通のサンドイッチが出てきてしまったというとほほな思い出)


ドラムライン/ DRUMLINE

【監督】 チャールズ・ストーン
【出演】 ニック・キャノン/ゾーイ・サルダナ/オーランド・ジョーンズ/レナード・ロバーツ/GQ

■ マーチング・ドラマーとして天才的な才能を持ってはいるけど、その分、自信過剰でうぬぼれ屋のデヴォン・マイルズ(ニック・キャノン)。音楽特待生としてスカウトされたA&T大学マーチング・バンド部でもたちまち頭角を現すが、軍隊並の規律を重んじるクラブの中で個人プレーで悪目立ち。おまけにある秘密がばれてついにクラブを去ることになるが・・・。

とここまで書いただけで、誰もがその後の展開を楽々と想像できるかと思います。そして、おそらくその想像どおりです。熱血単純スポ根青春ドラマですな。題材からしてそうそう捻れるもんじゃないのでそれはそれでいいとして、見所は最後のライバル校との対戦。ひとチーム100人くらいいるかと思うんですが、なるほど軍隊並の規律と服従を要求されるのも納得の一糸乱れぬ一体感とアクロバティックな動きに目が釘付け。どちらも最高にカッコイイ!!そして最後に直接対決で出てくるドラムラインがこれまたもう!!!私はリズム感もないし、万年肩こり故、小太鼓も担げないし、不器用極まりない人間ですが、それでも(マーチング・バンド部で)やるなら絶対”ドラムライン!!”なにがなんでもドラムラインをやりたいーーー!!と激しく切実に思いました。(最後のあれ見たら他はやる気になれないよ←傲慢な!)。それっくらいカッコよかったです。

そんなできもせんドラムラインに思いを馳せるのはこのへんにして、出演者の中で一番感情移入したのが、黒人が圧倒的に多いA&T大学でスタメンを狙う白人のバス・ドラム奏者のジェイソン(GQ)。「そりゃ白人にはキミらのようなリズム感ないですよ」とぶうたれつつ、ひとりでこつこつ練習してる彼を私しゃ本気で応援しました。黒人の兄ちゃんらと比べるといかにも細こっくて(なのになんで大太鼓を選ぶかな)頼りないけど、明るいナイスガイなんやもん。彼がチームワークに目覚めたデヴォンに太鼓を扱う”コツ”を教えてもらって、それまで一度も勝てなかった先輩にチャレンジする場面は泣けたー!漢!


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