■ 心臓発作で倒れた母親(カトリーン・ザース)が8ヶ月後、奇跡的に意識を取り戻す。ベルリンの壁が崩壊したことも知らずに眠り続けていた母親にショックを与えないため、息子のアレックス(ダニエル・ブリュール)は嘘をつき通すことを決意する。
この嘘ってのが、「眠っていた間も何も起きませんでした。東ドイツは健在ですよ、お母さん」ってことなんだけど、これがなかなか難しい。なんせ壁が崩壊した途端、どっと西側のものが流れ込んできて、それまで食べていたものが根こそぎなくなって(西側のものに替わって)いるんである。お母さんが大好きなピクルスはオランダ産のものに取って代わり、コーヒー豆もどこを探しても見つからない。焦ったアレックスはゴミ漁りまでして空き瓶を探し出し、中身を入れ替えることで母親を騙す。同居の姉とその恋人、近所のひとたちまで巻き込んでの大騒動を繰り広げるアレックスに、姉もGFも「そんなことして何になるの。お母さんが可哀相」と意見する。私もそう思う。でもアレックスは聞かない。しまいには「姉さんは冷たい!」と絶叫。このくだりで「男の子ってやっぱり母親のものなんだな」としみじみ思った。姉もGFも冷たいわけではなく、現実的なだけなのに。
周りにどう言われようと嘘をつき続けるアレックスは、子供の頃、父親がひとりで西側に亡命してしまった時の母親の呆然とした顔が忘れられないのだろうと思う。しかも母親が倒れた直接の原因は自分にあるわけだし、これは必死にもなろうというもの。いつまでも騙し通せるわけではないけど、もう少しお母さんが元気になるまではそっとしておきたい。だから頑張る。切実なまでに頑張る。でもある日、逆に母親が子供たちに嘘を吐いていたことを告白する。その内容は母親が理想としていた社会主義、東ドイツを懸命に再現していたアレックスにとってとても辛いことだったはず。それでもこの優しい息子は最後まで嘘をつき続けるのである。母親がとっくに真実を知っていることも知らずに。
と、いきなりネタばれもいいとこなんですが、お母さんがなにも知らないふりをするシーンがじんわりとくるのです。アレックスは友達と捏造したニュース番組を母親に見せているのだけど、お母さんが見ているのはTVではなく息子の背中。自分のためにここまでやるなんて、この子アホちゃうやろかと思ってるわけはなく(当り前だ)、しみじみと愛しい目でじっと見つめるんである。そらもう可愛くてたまらんだろうよ。逆に娘とGFには入り辛いこの世界(笑)。こういう話はやっぱり母と息子でしか成り立ちにくいだろうなぁ。娘ってやつは母親にはシビアだし(と私は思うのだけど。いまどきの若い娘さんは母親とも友達感覚だからなぁ)、息子が父親を見つめる目もここまで優しくないのでは。そして女より男の方がよほどロマンチストの心配性でもありますな。アレックスが思ってるほどお母さんは弱い人ではないんだよ〜。だって母だもん。
脇役スキーとして見逃せないのがアレックスの職場の同僚デニス(フロリアン・ルーカス)。西ドイツからきた映画おたくの彼とアレックスが協力して東ドイツ風ニュースを捏造する場面がおかしくて。ほんのちょっと撮影するだけなのに、やたら光の加減とか気にするんだよね(笑)。せっせと編集したテープを病院に届けてくれる彼にアレックスが礼を言おうとすると、「よせよ。うるうるするじゃないか」と照れくさそうにするのがまたよかった。アレックスのためにというより、自分が楽しいからやってるんだって感じのこだわりのおたく臭さがステキでした。
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