スパニッシュ・アパートメント/L' AUBERGE ESPAGNOLE

【監督】 セドリック・クラピッシュ
【出演】 ロマン・デュリス/ジュディット・ゴドレーシュ/オドレイ・トトゥ/セシル・ド・フランス/ケリー・ライリー/クリスティナ・ブロンド/フェデリコ・ダナ/バーナビー・メッチュラート/クリスチャン・パグ/ケヴィン・ビショップ

■ フランス、イギリス、イタリア、ドイツ、ベルギー、デンマークからの留学生と地元スペインの学生、計7人が家賃を安くあげるために共同生活を送る”スパニッシュ・アパートメント”を舞台にした作品。特になにがあるわけでもないけど面白い。

外国の人って初めて会った人にも気軽に話し掛けられるし、打ち解けられるのが凄いと思ってたけど、この映画に出てくる7人もそんな感じで、同世代だというのもあるだろうけど、お互い特に気を遣いすぎることなく、楽しく賑やかに暮らしているのが見てて羨ましかった。一緒に飲みに行ったりもするけど、我慢ならないことはハッキリ言うし、それで仲違いすることがないのはそれぞれが大人だからかな。これは主張することが苦手な日本人にはなかなか難しい距離感かも〜。と「日本人には」なんて大きくくくってみましたが、もちろんすべての日本人がそうであるわけないし、外国の人もその国のイメージどおりではなく、そう見られるのを嫌がってるというのがわかって面白かったです。(ドイツ人は時間にうるさくて几帳面。フランス人は恋の話ばっかしてるなんてのは万国共通のイメージなんですな)自信満々で我が道行ってるように見えても、言葉の壁や習慣の違いに戸惑うのはどこの国の人間も同じだと思うとちょっぴり安堵。

主人公のフランス人よりよっぽど面白いのがイギリスからの留学生ウェンディ(ケリー・ライリー)とその弟のウィリアム(ケヴィン・ビショップ)。ゴミ溜めみたいなアパートの中で唯一、片付けることを知ってるウェンディはアパートの住人の中で一番普通に見えたけど、実は強烈なブラコンでまたその弟がどうしようもないときてる(笑)。空気読もうよ、もうちょっと。ウィリアムの登場でアパート内がぎくしゃくするかに見えた矢先に起きたウェンディの浮気騒動が傑作です。彼氏にバレるかも!!となった時のルームメイト一丸となった偽装工作(まさにアイコンタクトのみ)には「いい仲間やんか〜」と笑いと涙が。バカ弟もここだけはグッジョブ。


スクール・オブ・ロック/THE SCHOOL OF ROCK

【監督】 リチャード・リンクレイター
【出演】 ジャック・ブラック/マイク・ホワイト/ジョーン・キューザック

※ネタばれしてます

■ 売れないロック・バンドのギタリスト、デューイ・フィン(ジャック・ブラック)は空気の読めないお調子者。 自分がリーダーだったバンドからも解雇され(明らかに浮いてた。何が違うって等身が違う)、友人のネッド(マイク・ホワイト)と共同で借りているアパートからも家賃滞納で叩き出される寸前。とにかく稼がなきゃならないデューイはネッドの名前を騙り、名門市立小学校に代用教員として潜り込む。

お金さえもらえればいいやと初めから授業なんかする気がないデューイは、生徒には「遊べ!」と一言。それが音楽の授業でいろいろな楽器を達者に弾きこなす生徒を見た瞬間、「これは使える!」と目の色が変わってしまう。さっそく自分の夢(本物のロック・スターになる気らしい)を実現させるために、生徒たちに嘘をついてロックバンドを結成する場面が笑えます。この先生、生徒の名前、ひとつも覚えてないんやもん。そして「そこのお前!天才ギタリスト!」なんぞと呼びつけながら、大興奮で指導に入るデューイ先生の恍惚とした表情はキモすぎでした。自分の欲望にあれほど忠実に生きてるひとって初めて見たな。しかもメンバー以外の生徒には目もくれてないし。「僕たちは仲間外れですか?」と聞かれて初めてそれぞれの生徒に役割を与えたのも「拗ねたガキが親にチクリでもしたら俺の計画がめちゃくちゃになる」と思ったからに違いない(笑)。

自分の野望を満たすためなら子供でさえ踏み台にする、熱血デューイ先生に誰ひとり逆らいもしなければ引きもしないのが不思議っちゃ不思議。名門の子弟らしく根がおっとりしてるのか、初めてみるタイプの妙な大人が珍しかったのか、それともやはり授業より遊んでる方が楽しいのか、とにかくひとつになって頑張る生徒たちはどいつもこいつも可愛らしい上に才気煥発。キーボード担当の男の子のありえない老けっぷりには驚いたけどな(ポロシャツの裾は出してみようよ)。彼と太ってるのを気にしている内気な女の子が、「自分はイケてないからバンドを辞めたい」と相談にきた時のデューイが(実力派のふたりに抜けられては困る!という打算もあったろうけど)やけにまともなことを言うのがおかしかった(笑)。それは彼自身が太ってるしイケてないのをまったく気にしてない(つうかわかってないのか)だけにストレートに子供たちの心に響いたようで、にっこりして「じゃあ頑張ります!」というのにゃホロリときましたよ。子供に自信をもたせてやるのは大切なことなのだね。

デューイを偽教師だとは夢にも思ってない生徒たちは彼のことをそれなりに先生として見てるけど、デューイの方は彼らを生徒ではなく、あくまでバンドメンバー(とスタッフ)として扱ってるのが面白い。裏方のことは完全に任せてるもんなぁ。最初は生徒のことなんかひとっつも興味がなかったわりに、意外にも適材適所の役割を与えてるあたり、実はひとを見る目があるのかデューイ(謎)。

自分を切り捨てた仲間を見返すために、子供たちとバンドを組んで、まんまとロック・バンド・バトルに出場したデューイの得意げな顔が忘れられません(笑)。自作の曲よりギターの男の子が作った曲の方が「よりロックだ!」と認めたあたり、彼も少し成長したのかと思えばさにあらず。「歌は苦手だから先生が唄ってください」と言われてすぐさま熱唱(結局お前が歌うんかい)、最後は客席にむかってダイブ!(どうしてもこれがやりたかったんですなぁ)誰よりも満喫ですよ。大充実。そういうわけでデューイも満足、子供たちは自分の可能性を発見し、親はそのことに感動と八方丸く収まる大ハッピーエンドでした。ビデオでもいいけど1人で見るより大勢でわいわい見る映画だと思います。楽しいよ。


コールド・マウンテン/COLD MOUNTAIN

【監督】 アンソニー・ミンゲラ
【出演】 ジュード・ロウ/ニコール・キッドマン/レニー・ゼルウィガー/キャシー・ベイカー/ナタリー・ポートマン/フィリップ・シーモア・ホフマン

※ネタばれしてます

■ ほんのわずかの時間を一緒に過ごしただけで、恋人同士ともいえないような二人が何年もの間、ひたすら待ち続けたり、死を覚悟の脱走劇を見せるのはムリがあるだろうというツッコミを、ニコール・キッドマンとジュード・ロウという超絶美形コンビに演じさせることによって黙らせた力技のキャスティング。そりゃ故郷でニコールが待ってるとなれば男は這いずってでも帰るだろうし、ジュードが帰ってくるのなら女は黙って待つだろうよ。

とは言ってもこれは美しいふたりのラブ・ストーリーではなく、女のド根性物語なのでした。1人じゃ何もできないくせに、そのくせ他人に頼ることもよしとしないでひたすら「帰ってきて〜」と手紙ばっか書いてるエイダ(ニコール・キッドマン)はさておき、脱走兵だろうが罪人だろうが、金さえ払えば逃がしてやる渡し舟の少女(ジェナ・マローン)や息子を守るためにはどんな拷問にも耐えてみせるサリー(キャシー・ベイカー)の「泣いたり祈ったりしてるだけじゃ生きていけんのよ」という強烈な生き様には恐れ入るばかり。中でも印象的だったのが戦争未亡人のセーラ(ナタリー・ポートマン)。インマン(ジュード・ロウ)が見逃した敵の男を後ろから一発で撃ち殺した彼女のまだ幼さの残る姿は痛々しいほど華奢だけど、それでも母は強しの気概を感じましたよ。まったく、男たちが仲間であるはずの脱走兵を見つけてきゃあきゃあ喜んでるのとはえらい違いであるな。ルビー(レニー・ゼルウィガー)の猛者ぶりはまた格別。最終的に全部(オスカーまでも)持っていきはりました。完勝。

ゲスな男が山ほど出てくる中、インマンは頭はよさそうじゃないけど素晴らしく普通の人でした。本人は戦争で自分の中の善良な部分が失われてしまったと嘆くけれど、他のクズと比べりゃもう。それになにより顔が違う。そらあんなのが落ちてたら私も即座に引きずって帰ります(フィリップ・シーモア・ホフマンは保健所に通報)。 「10分だけ目が見えるようになると言われたら、いくら払う?」という問いに、生まれつき盲目の男が「払わない。10分だけ見えたあと、また暗闇が戻ってきたら前よりもっと恨むことになるから」と答えたのに対し、「たとえ10分でも行きたい処へ行けるのならなんでもする」と言うインマン。即座に「自分は前者の方だ」と思った私はエイダ以下のヘタレでした。


ビッグ・フィッシュ/BIG FISH

【監督】 ティム・バートン
【出演】 ユアン・マクレガー/アルバート・フィニー/ビリー・クラダップ/ジェシカ・ラング/ヘレナ・ボナム=カーター/アリソン・ローマン/スティーブ・ブシェミ

※ネタばれしてます

■ 平成のホラ吹き男爵エドワード(ユアン・マクレガー/アルバート・フィニー)に自分の結婚式でさえ主役の座を奪われ、「もうホラは聞き飽きた。お父さんのホントの話がききたい」と願う息子のウィル(ビリー・クラダップ)。エドワードが余命いくばくもない身と知り、最後になんとか歩み寄ろうとする息子だが・・・。

エドワードが語るホラ話は最後までどこまでが真実でどこからが彼の創作なのかわかりにくい。だからこれは見る人が好きなように解釈すればいいのだと思う。たとえば、エドワードがサンドラ(アリソン・ローマン/ジェシカ・ラング)にプロポーズする場面。彼女が好きな黄色の水仙を近所の花屋を駈けずり回って集めるエドワードの姿は想像がつくが全米中から取り寄せたというのはホラだと思う。でも女としてはたとえ嘘でも「キミのために全米中からかき集めたんだ!」と言われた方が嬉しいに決まってる。

大抵の場合、エドワードの話すホラ話は誰かを傷つけるような内容ではないわけで、なんでウィルがあれほどまでに父親のホラ話を嫌うのかよくわからなかった。ただすべての話が美しい面白い話でないのも確かだけどな。身体つきが規格外の人間はサーカスで働く意外に選択肢はないのかと考えると切なくなるし(私のサーカスのイメージは暗いよ)、エドワードが旅の途中で迷い込んだ町で「どこにも行かないでね」と靴を奪われる場面はちょっとゾクっとした。(てっきり吸血鬼とか悪魔の住む町だと思ってました)

ウィルがエドワードを受け入れられないのはホラ話が問題なのではなく、母親は父親のことを熱烈に愛しているのに、父親の方はそうでもないのでは?という不信感によるところが大きいと思うのだけど、それが実はエドワードにとってサンドラこそが唯一絶対のひとだと知ってからいきなり父親を見る目が変わるあたり、親子そろってなんとまぁロマンチストなことか!と笑ってしまいました。ウィルは自分のことを父と違って面白味のない人間で、全然似たところがないと思いこんでるようだけど、なんのこっちゃない女性の好みも含めて(サンドラもウィルの嫁も同じネタで何度でも笑ってあげられるタイプ)二人はよく似ているのだね。だからこそエドワードが「魔女のガラスの瞳に映った」と言い張る彼の最期の瞬間をあれだけまざまざと描写してあげることができたのだと思う。(さすがに1000回も同じ話を聞かされ続けただけはあるな。過去のホラストーリー出演者を満遍なく網羅した素晴らしいパンチラインだった)

この病院でのホラDNA炸裂の一連の美しい映像から続く葬儀のシーンが秀逸。すべてが嘘ではなかったかという驚きと全部頭からホラだと決め付けて悪かったと一言謝りたい相手がすでに土の下という哀しみに涙と笑いがごちゃまぜで(エドワードはきっとほくそ笑んでるに違いないが)途中が少々ダレたり、どうよと思ったのも全部忘れて実にいい映画を見た気持ちになりました。作品には賛否両論あれど、この最後15分と高速でぐるぐる回るスティーブ・ブシェミのキモ可愛い笑顔は一見の価値ありかと思われます。


トロイ/TROY

【監督】 ウォルフガング・ペーターゼン
【出演】 ブラッド・ピット/エリック・バナ/オーランド・ブルーム/ピーター・オトゥール/ショーン・ビーン

※ネタばれしてます

■ 2時間45分、みっちり見終わった後、覚えてるのはパリス王子(オーランド・ブルーム)の無邪気な笑顔だけというのはいかがなもんか。「お兄ちゃん、僕のこと愛してるよね。守ってくれるよね」と何を急に言い出すのかと、見せたいものがあるんだという弟にくっついてったら、そこには今さっき和平を結んだばかりの相手国の王妃様がちんまり座ってたなんて、この時のヘクトル(エリック・バナ)の心中を想像するだけで泣けてくる。(彼が生まれてこの方、目にしたものの中でも3本の指に入る「ありえない」光景だったろうなきっと)。ところが誰も本気でパリスを責める風でもないのが驚き。家族もトロイの民も揃って彼を甘やかし過ぎだ。パリスが愛すべきごまめちゃんでいられるのも、ヘクトルというしっかり者の兄がいてこそであり、結局、弟のケツを拭かされた賢き兄を喪うと同時にトロイも滅びる。傾国の美女とはヘレン(ダイアン・クルーガー)ではなくパリスであったか(妙に感慨深い)。

そういうわけで、ヘクトルが死んだと同時に私の「トロイ」も終わったも同然でありました。だって他は誰一人感情移入できないぼんくらばっかりなんだもん。唯一、オデュッセウス(ショーン・ビーン)は見所あったけど。 アキレス(ブラッド・ピット)も何考えてるんだかさっぱりわかりませんでした。特にブリセウス(ローズ・バーン)絡みのエピソードは謎だらけ。初対面でいきなり「お前だけは俺を怖れなくていい」とか言い出して面食らいましたよ。まさか一目惚れか。最後もわぁわぁ言いながら探し回ってたとこ見ると本気で気に入ってたようだけど、あのふたりにそんな敵味方も越えた愛情があるようには見えんかったけどなぁ。

わからんと言えば、従兄弟のパトロクロス(ギャレット・ヘドランド)をヘクトルに殺されたアキレスがいきなり我を忘れて逆上するのも不思議で、アキレス命の部下でさえ、「てっきり、あなただと思ったんです」つうくらい似てたんだから、ヘクトルが彼を「アキレスだと思った」のもムリはないし、だいたい戦闘中なんだから敵だと見れば殺すのはお前も同じだろう!気持ちはわかるがちょっとは落ち着け!と思ったら、なんとパトロクロスはアキレスの友人で愛人だったそうではないですか。(とネットで知った。それであんなに怒ったのか。そうか)。しかしそういう大事なことはちゃんと本編で教えてくれないと素人にはわからんよ。(ブラピがホモだなんてあってはならないという判断でしょうか。逃げてはいかんと思うけどな)

それと「トロイの木馬」つうくらいだから、てっきりあれはトロイ軍が起死回生の策として考え出したものだと思ってたんですが、ギリシャ側の作戦でしたか。しかも自分ずっと、トロイの木馬は1000人くらい入れる超大型の最新兵器で中の人間が漕いで動かすもんだと思い込んでました(笑)。映画って楽しいけど、思わぬとこで自分の無知と向き合うハメになったりしてなかなか切ないもんですな。


>>>Back