■ 独身男性のキッチンでの行動パターンを調査するため、スウェーデンの「家庭調査協会」からノルウェーの田舎町に送り込まれたフォルケ(トーマス・ノールストローム)。彼の担当は年老いたイザック(ヨアキム・カルメイヤー)なんですが、見返りに馬を貰えると思って応募したのに、それがスウェーデン特産の木彫りの人形だと知ったイザックはへそを曲げちゃってなかなか調査に協力してくれません。いざフォルケがノートを取り出しメモしようとした途端、パチンと電気を消して出て行っちゃったり、困ってるフォルケを逆に天井に空けた穴から観察してほくそ笑んだりと非常に意地が悪い、この爺さん。しかも調査する側とされる側は一切口をきいてはいけないというルールがあるため、最初の方はほとんどセリフらしいものもなく、イザックとフォルケの静かな攻防が地味に展開されます。しかしこれがシュチュエーション・コントのようでしみじみおかしいのです。
ところがあることをきっかけに、急速に2人は親密になっていきます。そもそも「話したり一緒に食事を摂ったりしてはいけない」というルールの方が不自然なわけで、一度気持ちが通じ合った2人は実に活き活きと楽しそう。楽しさ高じてしまいにはイザックの誕生パーティまでやらかしましたよ。イチゴのデコレーションケーキにおそろしいまでの数のローソクを立て、揃って正装して乾杯♪(2人ともちゃんとスーツを着てかしこまってるのが可愛くてしょうがない)。フォルケがイザックに「おいしい?」なんて聞いたりして、彼らが若くてキレイな男ならとんでもない萌え映画になるところですが、いい加減枯れ切ったおっさん2人なのでそういう心配は(残念ながら)なく、いくつになっても誕生日を祝ってくれる誰かがいるのは幸せなことよのうとほのぼのした気持ちになりました。
が、楽しそうな2人を横目にイザックの友人のグラント(ビョルン・フロベリー)は浮かない顔。実は彼もイザックのお誕生日を祝おうと思ってたのに、フォルケに先を越されてしまったわけです。とぼとぼとケーキが入ってると思しき箱を手に夜道を帰るグラントの後ろ姿の切ないこと!!ここで「なんだよー!かぶっちゃったじゃんか!」と明るく乱入できるような人ならよかったんだけど、グラントは(多分イザックとフォルケも)そういうタイプじゃないんだなぁ。で、思い余ってとんでもない行動に出てしまうんですが、そうせずにはいられなかったグラントの気持ちと、見つめるイザックの胸中を思うとふたりの不器用さに泣けてきます。イザックはグラントのことをないがしろにしてるつもりはないんだけど、グラントにはそれがわからんのだなぁ。いい年こいて何を拗ねてるんだか。ええやん、3人で仲良くすれば!
なんでも北欧というところは独身の独居率が高い個人主義のお国柄なんだそうですが、それでも茶飲み友達にはいてもらいたい。年をとればなおさら、誰かと話したいと思うのは人情でしょうな。電話のベルが4回なるといそいそしちゃうイザックの気持ち、よくわかるわ〜。ストーリーはもとより、1950年代の北欧の生活ぶりや、極東から見ればどちらも同じように見えるスウェーデンとノルウェーの微妙な違いなども伺えて、その辺りも見るに楽しい作品です。家も車も可愛いよ。
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