クライム&ダイヤモンド/ WHO IS CLETIS TOUT?

【監督】 クリス・ヴァーベル
【出演】 クリスチャン・スレイター/ティム・アレン/リチャード・ドレイファス/ポーシャ・デ・ロッシ

■ 映画好きの監督が作った(タラちゃんほどオタクではない。)古い名画好きの殺し屋のお話。←物凄く大雑把にまとめてます。

トレバー・フィンチ(クリスチャン・スレイター)は仲間のマイコー(リチャード・ドレイファス)と共に刑務所を脱獄。昔、マイコーが銀行から盗んだ(この手口がまた可愛いのである。)ダイヤモンドを手に高飛びするはずが、トレバーの身代わりとして用意された男がマフィアから狙われている真っ最中というやっかいな物件だったもんだから話がややこしくなります。人違いだと言うにも言えず、逃げるしかないトレバー。おまけにアテにしていたダイヤモンドの隠し場所にはまさかという建物ができちゃってて、んもう何のために脱獄したんだかわかりゃしません。しかし、いかにも絶対絶命っぽい彼がなんとか殺されずに済んでいるのは、マフィアが送り込んだ殺し屋コンビがどうにもまぬけなおかげなんですな。(雇い主の方も、なんでこんなお気楽コンビに何回もチャンスをやるのかわかりません。やはりアホなんでしょうねい。)いい加減しびれを切らしたマフィアが次に雇った男。通称「毒舌ジム」(ティム・アレン)。殺しのプロ(最後になるほどと思わせる腕の持ち主)であるが、一見「映画好きのサラリーマン」に見えなくもない。しかも、何かといえば映画のセリフを引用したがるのでOLからはうざがられている課長といった感じです。

お気楽コンビと違い、あっさりとトレバー捕獲に成功したジム。見事な腕です。しかし言ってるセリフがこれ。 「マフィアから殺しの報酬を入金されるまでの90分間に、何か面白い話を聞かせてくれたら命を助けてやろう。」・・・・やっぱりアホでした。実はこれが冒頭のシーンで、トレバーが語る「面白い話」というのが、脱獄やらダイヤモンドの件です。ようするに回想シーンですな。こういう手法の映画は他にもあるけど、凝りすぎてわけわからんのは嫌なんですよ。その点、この作品はストーリーの繋がりがシンプルでわかりやすかった。よくできてると思います。

「おっ!回想シーンから入るのか!映画的だな!!」とやったら嬉しそうなジムを見てると、トレバーの運の強さを思わずにはいられません。満を持して現れた殺し屋がこれだもんな(笑)。それと、彼の話の構成力の上手さに感心。ジムったら身を乗り出してますから。芸は身を助くってこういうことなのね(違)。ドンパチもあるし人も死ぬわりに、全然血なまぐさくない映画でした。ラストシーンのティム・アレンが好きです。軽快。


ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ/HEDWIG AND THE ANGRY INCH

【監督】 ジョン・キャメロン・ミッチェル
【出演】 ジョン・キャメロン・ミッチェル/マイケル・ピット/ミリアム・ショア

■ ストーリー的には私の苦手な内容でした。「自分の失われた半身はどこにいるんだろう」とか「本当の私を探す」とか、こういったテーマはめんどくさく思えてならんのです。探してどうすんだとも思うし。←身も蓋もない。ただし、主人公の「怒りの1インチ」(性転換手術の失敗でアレが1インチ:約2.6pだけ残ってしまったのですね。)こと、ヘドウィグ(ジョン・キャメロン・ミッチェル)は好き。

男に捨てられようが、自分が作った曲を持ち逃げされようが決してへこたれない。オカマの中のオカマ。なんなら、我が一人でスターになったくらいの勢いの年下の男をストーキングですから。かといって粘着質の嫌な奴でもないんですよ、これが。バンド仲間にも見捨てられ、ひとり夜の街に立つヘドウィグを、元彼で今や人気ロックスターのトミー・ノーシス(マイケル・ピット)が車で拾いに来るシーンが可愛くてねぇ。最初は「なんなのよ、あんた。」って感じなのが、トミーが自分のCDに「作詞・作曲、共作:ヘドウィグ」と書いて渡した途端、にっこり(笑)。ああ、なんて単純なんだろう!!つうか可愛い性格だと思いますね。ホントに。トミーもなんだかんだいっていい子だし。二人はとってもお似合いなのに、わずか1インチが邪魔をする・・・。

初めてトミーがヘドウィグのスカートに手を入れたシーンがおかしくも切ないんすよ。「今の何?」(あんたマジで女だと思ってたのか)と、とびのき逃げる彼に「私が好きなら私の股間も愛してよ!」と叫ぶヘドウィグ。この時ほど、東ドイツの藪医者を憎く思ったことはありません(涙)。なんでもっとスパっとやんなかったんでしょうな。モロッコに行けばヨカッタか・・・。

元が舞台劇(ミュージカル)だけあって、ストーリーの大部分は唄で表現されています。「切ったの残ったの」という話を田舎の食堂みたいなとこで、胃の中の物が逆流しそうになってる客にはお構いナシに歌い上げるヘドウィグはもはやかなりの男らしさ(笑)。サントラがヒットしたのも頷けますね。唄、上手いです。

最初は”イロモノ”にしか見えなかったヘドウィグを、稀に見る女らしく男っぽいオカマとして見事に演じたジョン・キャメロン・ミッチェルはこの作品の脚本、監督もやってる才人。(雑誌に載ってた素顔はものすごくフツーの人でした)これまで、私の最愛のオカマ役者は「プランケット&マクレーン」におけるアラン・カミングだったけど、ちょっと並んだかも知れません。


ノーマンズ・ランド/NO MAN'S LAND

【監督】 ダニス・タノヴィッチ
【出演】 ブランコ・ジュリッチ/レネ・ビトラヤツ/フィリプ・ショヴァゴヴィッチ

■ ボスニア紛争をテーマにした映画。

戦争ってやってる当人は大真面目なんだろうけど、端から見るとちょっとおかしい。ノーマンズ・ランド(ボスニアとセルビアの中間地帯)に取り残されたボスニア兵とセルビア兵が自分の陣地に向かって「攻撃しないでーー!!」と合図を送るのだけど、どちらもパンツイチなんですよ。そうなると、それぞれの基地からはどっちがどっちなんだかわかりゃせんのです。なんせ民族紛争なのでね。言葉も通じる。ボスニア兵のチキが昔付き合ってた女がセルビア兵のニノの同級生だったりもする。(この時の二人の会話が微妙に笑える。チキが異常に嬉しそうなのにも笑える。)もう一人、気絶してただけなのに死んでるもんだと思われて体の下に地雷を埋められた、チキの仲間のツェラって人がいるんですが(誰が気の毒って、この人ですよー!)彼の頭にニノが枕をしてやったりもします。なんとなくいい感じである。天気もいいし、ピクニックに見えないこともない。←大嘘。

戦争の真っ只中とはいえ、やはりお互い人間同士。話せばわかるのだ!!なんて甘っちょろいことを考えてたら大間違い。国連軍が3人の救助にやってきたものの、ツェラの下の地雷は撤去できないという。爆弾のプロを連れて戻ってくるまでちょっと待ってろと言われたチキが、自分には関係ないからと去ろうとしたニノをそうはさせじと撃つシーンは衝撃です。彼が戻ってしまったらセルビア軍が攻撃を仕掛けてくると思ったチキの気持ちは理解できる。でも、それまでフツーにしゃべっとったやんか!!

「傍観することは加勢することと同じ」となんとか彼らの間に入ろうとする国連軍の兵士もいるにはいるんですよ。でも彼が感じたのはおそらくとんでもない無力感。結局のところ、本人達が殺し合いを止める気がないんやもん。あほくさーって感じっすよ。会話を交わすことで、見ず知らずの敵だった男を少し知るわけでしょう。一緒に笑ったりもして。それでも最終的に「あいつを絶対に殺す!!」と言い切るんですから。もう他人がどうこうできるレベルじゃない気がしました。それと、最後の方にちらちら映るおそらく生の死体。道端にゴロゴロ転がってるんですよ。ボロボロのくちゃくちゃでね。あんな死に方するために人間って生まれてくるわけじゃないよねぇ・・・。

見終わった後、なんともやるせない気持ちになります。でもそれが戦争ってもんなんだってことをわかりやすく表現している映画。見て損はナシ。


スズメバチ/NID DE GUEPES

【監督】 フローラン=エミリオ・シリ
【出演】 ブノワ・マジメル/サミー・ナセリ/ナディア・ファレス/パスカル・グレゴリー

■ ブノワ・マジメルがアクション映画に出て何やるんだ?と思ってたら、いきなり渡哲也ばりのサングラス姿で登場。どうやら5人組の窃盗グループのリーダーのようです。しかし、「マジメルがショットガン片手に暴れまくる団長?できるの?」という私の心配はあっさり杞憂に終わりまして、実は銃を持つ事すらできないヘタレ坊やでした。いやその方がいい。安心して見られるからね。そんなヘタレ男サンティノ(ブノワ・マジメル)をサポートしてくれるのが、ナセール(サミー・ナセリ)。TAXIシリーズの兄ちゃんですな。ちなみにこの2人はお互いの腕に「N極」「S極」というタトゥーまで入れているラブラブっぷりです。

窃盗グループとは言っても凶悪な感じはあまりしない彼らが盗みに入った倉庫に、アルバニア・マフィアの大ボスを護送中の特殊警察がボス奪還を目指す手下どもに襲撃され逃げ込んできたからさぁ大変。あっという間に敵に包囲され、バカスカ銃撃されてるうちに頼りのナセールが重傷を負います。「俺を置いて逃げろ。」というナセールに「置いていけるもんか。絶対に死なせやしない!」と周りの空気もなんのその、2人だけの世界を築き上げるサンティノ。「俺らは逃げるぜ。」と薄情なグループのオミソ男セリム(サミ・ブワジラ)に「逃げられるわけないでしょ。」と共に闘うことを強制する、特殊警察のリーダー、ラボリ(ナディア・ファレス)。これにどういうわけだか無茶苦茶強い倉庫の警備員ルイ(パスカル・グレゴリー)が加わって、数に物を言わせて襲ってくるマフィア(軍隊並のフル装備)と壮絶な死闘を繰り広げることになります。とんだ迷惑ですな。

人数差で言えば、殺しても殺してもどこからか湧いて出てくる敵にとうてい敵うはずもないのですが、さすがに特殊警察。ラボリを入れてたったの3人しかいない彼らが実に見事な狙撃の腕を披露してくれます。シャッターの隙間や割れた窓ガラスの間から、まさに百発百中の勢いで次々と撃ち殺していくシーンは爽快ですらありました。逆にマフィアの方は弾の無駄遣いもいいとこ。この映画、「12000発喰らえ!」というのが煽り文句なんですが、そのうち10000発は彼らがムダにしてます。

しかし、腹をくくった人間ほど強いものはありませんな。殺しのプロ同士の争いにビビリ、逃げたい逃げたいとそればっかりだったセリムでさえ、最後には自分と仲間のために命がけの行動に出るし、サンティノにいたってはもはや壊れたか?!と思うほど勇敢に銃を取って戦いますから。(そしてあいかわらず、ナセールの手を握る事も忘れない。ロマンチック!)マジメル、意外とカッコよかったなぁ。監督が彼を念頭において脚本を書いただけのことはありました。そして! カッコイイと言えば、この人を忘れてはいけないのが警備員のルイです。元消防士という以外、なにも明らかにされない彼がとにかく渋い。倉庫内のことなら俺に任せとけ!とばかりに冷静沈着に作戦を練り、傷ついたナセールの治療にも当たる。確実にただもんじゃないんですが、いかにもわけありそうに振舞わない奥ゆかしさに惚れ惚れしましたね。好きです(告白)。


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