■ ティム・ロスとガブリエル・バーン共演(主役は誰か知らん男)とくれば観たい!と思う人もいただろうに(数人か)劇場未公開のこの作品。配給会社が二の足踏んだのは地味な話を引っ張る力が主役になかったせいかしら。なんて偉そうに書いたけど、ティム・ロスとガブリエル・バーンの共演シーンはぴりぴりしてていいんだな。
あんまり説明がない作品なので、細かいところとか裏設定みたいのは自分で想像して勝手に埋めさせてもらいますが、主人公のエメット刑事(スコット・ウルフ)は病院の誤診により「白血病で余命わずか」と宣告されてしまう。多分、白血病なのには間違いないみたいなんだけど、実は命には別状なかったにもかかわらずに。病院で苦しんで死ぬのは嫌だと思いつめてるところに話しかけてきたのが「元FBI」だと名乗るジャック・マーロウ(ガブリエル・バーン)。初めて会ったうさんくさい男なのに、なぜか心情を吐露してしまったのは「誰かに話さずにはいられなかった」のだろうと思う。一人で抱え込むには怖すぎるもん。自分があともう少しで死ぬなんて。そこでジャックが提案したのが「誰かに殺してもらうってのはどう?相手の顔も場所も時間も知らされずに」ってんだから唐突です。が、エメットはそれを受け入れてしまう。それほど追いつめられてたんだなと思うと物凄い初歩ミスで彼に死の宣告をした病院の責任問題を追及せずにはいられないところです。
エメット殺害の計画を持ち込まれたのが冴えない私立探偵もどきのジョン(ティム・ロス)。かつて警官だった彼は刑事になるのが夢だったのだけど、それが叶わず、しかも自分より年下の刑事を半殺しの目に合わせて退職したようです。その時に彼の弁護をしたのが悪徳弁護士のバーン。「俺だから無罪にできた」なんて恩着せがましいことを会うたびにねちねち言ってそうなジャックと、彼のことを睨みつけるようにして話すジョンのやりとりがたまりません。ジョンはジャックのことが大嫌いなのに、なんとなく漂う共犯者めいた雰囲気。「お前のことなんかお見通しさ」と言わんがばかりのバーンに対し、一歩弱い立場にいるティム。こういうティムも珍しいです。
で、案の定「お金がいるから」と殺しを引き受けてしまうジョン。やるとなったら徹底してるのがちょっとオモロイです。わざわざピッキングのハウツー本みたいのを読んでるし(笑)。元警官だけあって、尾行やなんかもお手の物でじわじわとエメットに近づいていくジョン。自分の死の影から逃れるように連続婦女暴行殺人犯を追うエメット。この平行するふたつのエピソードをもっとスリリングに絡ませることができたら、もっとエンターテイメントぽく仕上がったと思うのだけどなぁ。でも絡んでない分、余計に「最後どう決着つけるの?」みたいな妙なハラハラ感があるのも確か。
そういうわけで、ストーリー的には地味なことこの上なしだし、正直「なんでティムとガブリエル・バーンはこの仕事を引き受けたの?」と思わないでもない。二人はすごく雰囲気あるんだけどね。ガブリエル・バーンはメガネをかけたり外したりするそれだけの仕草がなんとも言えず色っぽい。ジョンのことを勝手に自分と同じ側の人間、でも俺よりちょい下くらいに位置づけてるのがありありでその辺のいやらしさとかがたまらんです。ティムはもうやばいくらい孤独な男。一人でガードマンの仕事をしている時の、店で(逆ナンで知り合った)彼女を待っている時の尋常じゃない孤独感。それはもう、「生まれてこのかた誰にも愛されたことがないんじゃなかろうか」なんて邪推するほどです。それ故、彼はひととして大切な何かが欠けてるんじゃないかと思えるような部分もあるんだけど、彼女に「私立探偵なの?すごいじゃない!」なんて無邪気に絶賛されて少しだけ嬉しそうな顔をするのを見ると「そこのあなた。彼を大事にしてやって下さい。愛してあげて下さい」と切実に願ってしまう。でも結局あれなんだけど。エメットを彼の家で待ち伏せしてるのに帰ってこないなんてひにゃ、殺す相手にまで振られてるんかと可哀想で泣けてきましたよ。
この作品でのティムはかっこよくも、エロくも、可愛くもない。なのに「最後のティムの行動の意味は?」 なんて主役そっちのけで彼のことを考えてしまうのは、単なるティムファンの業なのでしょうか。←いややっぱりそういう行間を読ませる芝居をする役者だからだと思いたい。だから監督、ティムとガブリエル・バーンの馴れ初めみたいなとこから始まる短編を作って下さい。エメットも悪くはないんだけど、特に興味もないんだよね。ただ「あんだけ仕事ができるのに、なんで署内じゃおみそ扱いなんだ?」ってことだけは気になります。気になるといえばフィラデルフィア署のあまりのやる気のなさも。けっこうな大事件だと思うよ。早よ捕まえてくれ。
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