■ 「楽園の瑕」(ウォン・カーウァイ監督)の出演者が本編の撮影が中断している間にちゃちゃっと撮ってしまった前代未聞の問題作。1993年制作。93年といえば「ギルバート・グレイプ」や「父の祈りを」等の名作が生まれた年でもあります。その中でこっそりこんなの撮ってるなんて。素晴らしき哉、香港。
金輪国の王妃(ヴェロニカ・イップ)は従兄の西毒(トニー・レオン)と共謀し、国王から王の印章と王位を奪い、国を乗っ取ろうとします。しかし、肝心の印章は第三皇女(ブリジット・リン)が持ってとんずら。慌てて後を追う西毒ですが、空飛ぶブーツが発火し墜落。(この場面のしょぼさには目を瞠るばかり。大真面目に飛んでるポーズを(飛んでないのがバレバレなのに)とり続けるトニーに頭が下がります)ボロボロになりながらもなんとか生還したところに出会ったのが、失恋を苦に自殺するところだった北丐(ジャッキー・チュン)。「俺を殺してくれ!」と迫る北丐に「では殺してやろう!」と秘技・蝦蟇なんとかを披露する西毒。しかし死にたいはずの北丐に逆にボコボコにやられて、ついには泣いてしまう西毒が死ぬほど可愛い(笑)。泣きながら「お前を殺すには俺はまだまだ未熟なんだ」つってるのに「そんなことない」と彼をガッチリキープする北丐は完全に遊んでいる様子が伺えます。
その後、毒までくらって唇と耳が巨大化する西毒ちゃん。絵描き歌のコックさん状態です。甘いマスク(死語)が売りのトニーさんの「こんなんなっても可愛いもんは可愛いでしょ?」という心の声がうっすら聞こえてくる余裕の珍メイク。すっかりユウジ化した西毒を可愛いなぁと思ってるのがありありの北丐は彼を連れて丹霞山へ行きます。なんで一緒に行くことになったのかは忘れました。なんかあまりにひとつひとつのエピソードが濃いもんで、全体の話の流れがわからなくなるんだよね。その点は「楽園の瑕」と一緒か。
逃げ延びた第三皇女が出会うのが東邪(レスリー・チャン)と彼の妹弟子(ジョイ・ウォン)。皇女に一目惚れした東邪は西毒に対抗できる秘法である九陰真経を探しに丹霞山に向かいます。そこで九陰真経を守っているのがゴリラと鳥と怪獣。93年といえどこの着ぐるみはあんまりあれではないの。面白いと思ってやってるのか、マジで予算が足りなかったのか判断つきませんでした。山で鉢合わせした怪物トリオと東邪たちの永遠とも思えるギャグの繰り返しには気が遠くなる思い。お互い怖がっちゃって出会う度にキャーキャー大騒ぎしたり、壺(?)をあっちやったりこっちやったりするのが延々と続きます。北丐が西毒をバキバキにやっつけるシーンもそうなんだけど、とにかくしつこいくらい同じことやるんだよね。あともう1回やったら殴るよ!と言ってもやる。それがだんだん面白くてしょうがなくなるから慣れって怖いです。
第三皇女の婚約者の南帝(レオン・カーファイ)は仙人になるためには「胸にあざのある人に三度『我愛イ尓』(アイラブユー!)と言ってもらえばよい」と聞き、街で手当たり次第に、「あなたの胸を見せて!」と迫り変態扱いされます。実際変態です。偶然、東邪の胸にあざを見つけた南帝はさっそく彼に「我愛イ尓」と言ってくれ!と迫ります。が、南帝のあまりのキモさに東邪失神。可憐です。あの可憐さはそこいらの女には出せないかも。吐くほどキモかったせいか錯乱した東邪はついに「我愛イ尓」と言ってしまいますが、2回で力尽きてしまいます。頭だけが残った南帝が「あと1回言ってくれないと困るよ〜!」と東邪を追い掛け回すシーンは夢に見るほどの恐ろしさ。しかし同時に思いました。「大英雄はあんただよ。レオン・カーファイ・・・」と。この作品では出演者全員が香港役者魂とも言える怪演を見せてくれてはいますが、彼にはとうてい及びません。トニーもよくやってはいるけど、あの唇も耳も「蝦蟇戦法だぞー!」と一生懸命ほっぺたをぷうぷうさせてもどこか、「可愛いと思ってやってるだろう」というのが見える。その点、彼には邪心がありません。直球勝負です。つうか、この人バカなの?頭ん中すっからかんなんじゃないの?と人を不安にさせるほどの邪気のなさ。天晴れでした。
ごちゃごちゃやってるうちに東邪たちに追いついた西毒が怪獣トリオに出くわし、「ひとっぽく見えるけど、ホントはアヒルなんだ」と言い張るシーンは悶絶ものの愛らしさ。(やっぱり計算してるだろー!)しかもこの場面はラストに続く伏線となってたりして見逃せません。最後はまんまと九陰真経を会得した西毒対その他出演者全員の一大アクションシーンが展開されます。西毒の顔もいつの間にか元に戻っていて、こんな映画なのにちょっとカッコヨカッタりするのが驚きです。北丐でさえ敵わないほど強くなった西毒を倒せる者は誰もいないのか!いました。もちろん≪大英雄≫レオン・カーファイが満を持しての登場です。嘘です。ぽやーーんと出てくるだけです。2時間に渡ってそれぞれ勝手に迷走しているだけのように見えた各エピソードがオチに向ってひとつの形に収束しているあたり、意外にもちゃんと考えられた作品なのでしょうか。少なくとも「楽園の瑕」よりわかりやすかったことは確かです。
最後は旧正月映画らしく、出演者全員がカメラに向ってご挨拶。長い夢から醒める瞬間です。現実に立ち返るとこの映画を撮ろう!と言われてすんなり承諾した役者たちの脳をスキャンしたい気になりますが、やってる方が見てるだけよりよほど楽しそうです。私も出たい。「DVD化されるのを心待ちにしていた!」という声が多く寄せられるのも納得の一大娯楽作品でした。「楽園の瑕」よりよっぽど面白い。←でもこっちを先に観ないと出演者の偉大さが伝わりにくいやも。
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