シネマ法話度チェック
       2003年 5月

「カルマ」  2002・香港   
                         (法話度 3)
 香港のスター、レスリー・チャンの遺作となった。今、香港などでもホラーブームらしく、一見ホラー仕立てだが、実は人間の心の奥底にあるトラウマなどが、幽霊を見せてしまうという筋立て。

心理学者のレスリーは、幽霊が見えてしまうという、ある少女の患者を看るようになる。やがて、彼女のトラウマ(両親の離婚など)を探り当て、彼女は回復し、二人は付き合うようにもなるが、実はレスリー自身もある過去を抱えていたのだった。

 あのレスリー・チャンの遺作にしては、時流に乗ったような、ややスケールの小さい作品。そのことと彼の自殺が関係するかどうかはわからないが。

 日本語の題名を「カルマ(業)」と名づけたセンスは、なかなか・・。



「チベットの女ーイシの生涯」 2000・中国  
                                (法話度 4)

 これはずるい。自然がきれいすぎる。民族衣装が格好良すぎる。歌がきれい過ぎる。ラサの街がシブイすぎる。こんなに「過ぎる」を並べられるとなあ・・。

今はもう老夫婦の、イシギャツォが、孫娘などを相手に昔を振り返る形で、現在と過去が入り混じりながら、イシの生涯が浮かび上がる。

農奴の娘として、妻ある荘園の若旦那クンスンに見初められながらも、無頼のギャツォに略奪婚さながらに連れ去られ、子供も生まれ、いつしか情を移していく。

しかし夫は放浪の旅へ。仕方なく、また荘園に帰り、若旦那との間に子供もできてしまうが、その子は亡命する若旦那に連れされ、遠くの村で酒びたりのギャツォの元に過酷な旅を続ける。それを助けたのが、幼馴染みで今は僧侶の修行を重ねるサムチュ・・。

という具合に、身分の違う3人の男性との関係を軸に、一人のチベットの女性の置かれた生涯を描いている。

そして現在、今は年老いた、かっての若旦那クンスンとも再会、ギャツォともども、恩讐を超えて昔をなつかしみ、かって連れ去られた息子の消息もわかるが、すでに持病を抱えていたギャツォは息を引き取り、その枕元で歌を歌いながらイシも息絶えていく。

冒頭に述べたように、いろいろな意味できれい過ぎるのが、ややリアリズムを欠いてしまっているようにも感じた。

映画の中で何度も出てくるイシの歌う「ツァンヤンギャツォ」という歌が一つの縦軸になっていて(原題は「チベットの歌」)、これはダライ・ラマ6世が作った恋の歌というところが何ともおしゃれ!


 「過去のない男」 2002・フィンランド   (法話度 3)

 一人の中年男性が列車から降り、公園のベンチで寝ているところを暴漢に襲われ、記憶を失くしてしまうところから映画は始まる。

かと言って、失われた記憶を追い求めてという展開でなく、なんとなく地域のコンテナの家に住む人たちとの交流の中で生活を始め、救世軍のハイミス(死語?)の女性と淡い恋愛をしたり、救世軍のバンドにロックを指南したりして、新しい生活に溶け込んでいく。 

しかし、ある事件に巻き込まれたことから、すでに結婚もしていたという、自分の素性がわかる。しかし彼の気持ちはすでに新しい救世軍の女性に・・。

ほとんど感情を表さないような登場人物たちの独特の世界は、アキ・カウリスマキという、カリスマ的な監督の、今までの作品の延長上でないと、少しわかりづらいのかもしれない。

そして、日本の歌謡曲にも似た、哀愁を帯びたフィンランドの独特の音楽が場面を盛り上げる。(事実後半に日本のバンドの曲がBGMにも使われている。)

独特の世界ながら、新しい未来へつなぐハッピーエンドで終わるのがうれしい。 (カンヌ映画祭グランプリ・主演女優賞他)


「1票のラブレター」 2001・イラン、イタリア合作  
                               (法話度 3)

紺碧の海を臨む島の海岸に、木箱がパラシュートで落ちてくる。下で待ち受けるのは、海岸を警備する兵士。箱の中身は、本日行われる選挙のための投票箱をはじめとしたグッズ。

やがて小船で岸に着いた選挙管理委員は何とチャドルを被った若い女性。
そこから彼女と護衛を命じられた兵士との珍妙な道中が始まる。夕方までにできるだけ多くの人に投票を頼んで廻らなければならないのだ。

任務に必死の女性と、 懐疑的な兵士。そして、なかなかまともに投票してくれない島の人々。村中の女性の票を自分ひとりで書くという男性や、神様にしか投票しないという老人などなど・・。

やがて夕方になり、何とか元の岸に帰ってくる頃には、兵士の心にも少しは変化が生じていたが・・。

「キシュ島の物語」でも有名になった舞台は、それだけで不思議な雰囲気をかもし出してしまう。どこかシュールでどこかユーモラス。

しかし「1票のラブレター」の邦題はあんまりやろう。


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