とある街の一角。
うす汚いアパートの部屋の前に立つ数人の男たち。
男たちは目配せするといきなりアパートの一室のドアを蹴破った。
「おい、ブラック!警察だ!ホワイト氏の殺人容疑でおまえを逮捕する!」
いきなり入って来た男たちに拳銃を突きつけられ、ブラックと呼ばれた男は酒びんを抱えたまま目を白黒させた。
「な・・何だってんだい、いきなり!俺は何もしてないぜ!」
「しらばっくれてもダメだ。昨夜自宅でホワイト氏が殺されてるのが見つかったんだ。」
刑事らしい男たちのうち、年長の男が言った。
「昨夜って、ホワイト氏の家とこことは何千キロも離れてるじゃないか! それに俺は昨晩酒場で飲みつぶれてたんだぜ。」
ブラックは焦点の定まらない目で言い張った。
「おまえ!ホワイト氏と手紙のやりとりをしていただろう!」
若い大柄な刑事が言った。
「そりゃ確かに、いろいろ借金のこととかあって、やってたが・・
それがどうしたってんだい。」
「おまえはホワイト氏のある癖をしっていた。それを利用してまんまとホワイト氏を何千キロも離れたところから殺したんだ。」
「く・・癖だって!何のことだかわからないぜ!一体、なんの証拠があってそんなこと言うんだ!・・」
やや動揺しながらブラックは叫んだ。
「証拠?ふふん!そうかじゃあ証拠を見せてやろう!証拠はな、お前自身だ!」
再び年長の刑事が口を開いた。
「俺が証拠!?」と驚いた表情のブラック。
「そう、おまえ自身だ。おまえ自身がホワイト氏と同じある癖を持っているだろう。 もっともそれが2人が知り合うきっかけにもなったんだろうが・・。」
そういうと年長の刑事は懐からなにやら出そうとする仕草を見せた。
「今ここに、ホワイト氏がおまえに送る予定だった手紙を持っている。 ただし、これにはおまえがしたと同じ細工が施してある。」
年長の刑事は反応を確かめるように言葉をきった。
「これを目の前にすれば、ホワイト氏と同じ癖をもったお前は同じ行動にでるはずだ。とりもなおさず、そのこと自体が証拠というわけだ。 もっともそうすればお前もホワイト氏と同様死んでしまうがね。それでもいいか!さあ出すぞ!」
途中から身体をブルブル震わせていたブラックは、耐えきれず叫んだ。
「ま・・・待ってくれ!出さないでくれ!言うよ!俺だ!俺がやったんだ。」
もともと小心者らしいブラックはあっけなく白状した。
「借金の返済の期限をどうしても待てないと言われて・・しかたなく・・。 手紙に毒をしませて・・悪かったよー!だから、その手紙を俺に見せないでくれー!!」
酒びんを抱いたままブラックは泣き崩れた。
「さあ行こうか、ブラック。」年長の刑事がブラックの肩に手を置いた。
夕日の照らす道を、首に縄をかけられて、うなだれて引かれていくブラックの姿があった。
街の方を振り返ったブラックの口から、ため息とも嘆きともつかない一声が洩れた。
「メエエエーー 」
END.
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