怪談6Short-Short 「怪談」

                     
「おとなり」       ササキ マサヨシ作



「ジャンジャジャーン! ギュイーーーーンンン!!」


「又だわ!お隣から大きな音の音楽が聞こえてきた。全くどう思っているのかしら、こんな夜中に。
 少しは近所迷惑と言うことも考えてほしいわ。おそらくとなりのドラ息子よ。大学生ということだけど、髪の毛は金髪のだんだらだし、何を勉強してるんだか分かったものじゃないわ! いつもこの時間になるとロックだか何だか知らないけど、大きな音でかけまくるんだから・・・。

 だいたいお隣は前から気に入らなかったのよね。ご主人は結構一流の会社にお勤めらしいけど、何だか奥さんもそれを鼻にかけてるのか、すましたところがあるしね。
 家の前を掃いてあげててもありがとうも言わないんだから・・・。一度なんか宅配便の荷物を預かってあげたんだけど、お礼を言うどころか、こっちが盗っちゃう様な顔で睨まれたし・・・それ以来二度とお隣の荷物は預からない事にしたのよね。

 夜中の音楽もね、一度電話で文句を言ったのよ。そうしたらどうしたと思う? すみませんの一言もなく、黙って電話を切っちゃうのよ。あんまり腹がたったからファックスで文句を書いて送りつけてやったわ。その後さすがに音楽がやんだからいいようなものの・・・。

 それからお隣の猫! だいたいペットを飼うんだったらちゃんと躾ぐらいしてほしいわね。しょっちゅううちの物干し台のところに来てウンチをしていくの。臭くってたまらないわ! さかりの季節には窓の外でギャーギャー泣くしね。これもうるさいわよ。一度思いきりホウキでひっぱたいてやってから少しはおとなしくなったかしらね。

 下の娘さんもね。高校生らしいけど・・・派手な化粧して・・・あんな格好で本当に学校へ行けるのかと思うぐらい。よく、親が許してるものだわ。
 時々、休みの日なんか友達を連れてきて騒いだり・・・一度なんか親が留守の時に男友達を連れ込んでたこともあったわね。
 その時もあまり騒がしいからもう電話じゃ何だと思って直接どなりこみに行ったのよ。チャイムを何回も鳴らしてね。でも、ちょっとドアが小さく開いたかと思うとすぐに閉まって・・・ウンともスーとも言わないで・・・それっきり・・・出ても来なかったわ。結局その時も静かになったから、もう引き返して来たけどね。

 となりの音楽ももう少し続くようなら、そろそろ電話・・・いえファックスしなくっちゃね。

 ああ、でも最近変なことに気が付いたのよね。いえね、お隣って、こんだけいろいろ迷惑を掛けられてるんだけど、ここ数週間、直接顔を見たりしてないのよ。音だとか・・・声だとかは聞こえてくるんだけど、なぜかご主人が勤めに行くところも知らないし、奥さんが買い物に行くところも見かけないのよ。息子や娘だって最近は直接顔を見かけないしね。

 おかしな話だけど・・・本当にお隣がいるのかと思うぐらい・・・変でしょう。でも、都会じゃこんなものかもね。近くにいても何日も顔を合わさなかったりとかね。もし何かあっても何日も気づかないこともあるでしょうし・・・これでもし隣に何かあったりしてたら・・・本当、怪談よね。ふふふ。


「こんにちわ!ごめんなさい、おじゃまして。ええ、そうなんです。急なんですけど・・・引っ越すことになって、ちょっとご挨拶に・・。
 まあ、お隣のことがないと言えば嘘になりますけど・・・。あまり大きな声では言えないんですけど・・・お隣の・・・例の事件の後、ちょっと気味が悪いことが続きましてね。ほら、お隣の奥さんって、生前からちょっと変わったところがあられたでしょう。

 宅配便を預かってもらってるってメモが入ってたから受け取りに行ったら、まるで自分のものを盗られるかのようにグッと睨まれて、お礼もそこそこに引き取ってきたり・・・自分の家の前のゴミをわざとうちの前に持ってきたり・・・何て言うか、うちの主人がいい会社に勤めているということで何かコンプレックスの裏返しみたいにして変な行動をとられてたんじゃないかって・・・主人とも話してたんですけど・・・。

 それがいきなり例の事件でしょう。そりゃびっくりしましたわ。一家で無理心中なんて・・・。それだけでも気味悪いのに・・・。
 それからなんですよ。変なことが続いたのは・・・。お隣がおられなくなったからって、ちょっと息子も気が緩んだのか、夜に大きめの音でステレオをかけてたんですよ。
 そしたら、急に電話が鳴って・・・受話器をとっても何も聞こえないんですよ。いたずら電話かと思って切るやいなや、今度はファックスが動いて・・・紙を送り出したんですけど・・・何も書いてない白紙の紙で・・・だけどその発信元の番号がお隣の番号と名前で・・・ぞーっとしましたわ。きっとたちの悪いイタズラなんでしょうけど・・・何回かそんなことがあって・・・。

 それから娘のお友達が来てるとき、何回もインターフォンが鳴るので玄関に出てみても誰もいなくて、それでもまだインターフォンが鳴るもんで娘も恐くなってドアをピッタリ閉めたそうなんです。結局お友達も気味が悪いって帰っちゃうし・・・。

 飼い猫のジルも事件後しばらくは屋根づたいにお隣の方へ行っていたみたいですけど、ある時何があったのか、すごく興奮して帰ってきてから二度と外へ出なくなりました。ちょっと音がしただけでびくつくようになりましたし・・・ええ、そんなわけで・・・主人とも相談して結局引っ越すことにしたんです。
 
 ごめんなさい。引っ越す前にこんなお話して・・・まあ、どっちにしても無理心中のあったおうちの隣っていうのも気持ちのいいもんじゃないですしね。きっと神経質になりすぎていたんだと思いますわ。それじゃあ、失礼します。お元気でね」


 ここ数週間、お隣も静かだわ。どうやら知らない間に引っ越していったみたい。
 全く挨拶もなしに、非常識なんだから・・・。ああ、でもせいせいしたわ。これで音やペットの迷惑をかけられずに済むしね。全く、あんないやなお隣もいなかったわ。

 あら、トラックの音。お隣の前で停まったわ。新しい方が来られたのかしら・・・今度はいいお隣だといいけど・・・。本当にお隣同士、仲良くやっていきたいものね。落ち着かれたら、さっそくご挨拶に行ってこようかしら・・・。
 今晩にでも・・・。  


作者コメント:映画「シックセンス」のアイデアに似ていますが、「シックスセンス」が公開されるより以前にネット上で発表した作品でした。ちょうど昨年の今ごろも一度このサイトに載せたのですが、その後PC上のトラブルが起こって結局立ち消えになっていたので今回夏に向けて再録しました。
今回も消えてしまえば、それだけでホラーかも・・。