平成18年5月
5月31日 くもり
今日は人間にとっては、肌寒い一日になったようだ。僕にはちょうど良い気温で、外で「ごろん」と寝転がってお昼寝である。
ところで、この頃は夕方の5時になり「時報に合わせて「うお〜ん、うお〜ん」と、遠吠えをして散歩の催促をしても、御主人は、まだお仕事中だし、お日様も沈むまではだいぶ間があるところで暑いぐらいの日射しを僕にぶつけている。べつに僕だけに限った事ではないかも知れないけれど・・・だから、遠吠えしても、すぐに散歩へ連れて行ってもらえないので近頃はむなしい・・・・単純に喉の調子を整えるためとか、夏に行われる「犬喉自慢」あるいは「声良し犬祭り」の練習だと割り切ってしまえばいいのかも知れない。遠吠えに2つも3つも期待するからいけないのだ。「犬は質素を旨とすべし」という御先祖からの言い伝えには背いてはいけないなと、つくづく思ったよ。
5月30日 はれのちくもり
飼い犬は夕方が近くなって、御主人なり家族が側にいると落ち着かなくなる。散歩の時間が近づいているからだ。誰かが連れて行ってくれるだろうという期待を込めて、その人の側に用もないのにまとわりついたりする。もっとも、飼い犬なので、あからさまに「散歩に連れて行け!!」などと乱暴な事はしない。遠回しに、婉曲に、さりげなく「散歩に行こうよ」という意思を態度で表すのだ。無視される場合もあるけれど、大概は「散歩はまだだよ」と言われてしまう。そして、ややしばらく待たされて、「散歩に行くぞ」という言葉がかかると、今まで抑圧されていた「散歩に行きたい!!」という気持ちが一気にはじけ飛び、うれしさのあまり、そこいら中を駆け回り、飛び跳ねる。そして、散歩に連れて行く人は、なかなか散歩紐を僕に付ける事が出来ない状態になってしまうのだった。このようにして僕の日常は静かに黄昏れていくのであった・・・・・
5月29日 くもり
最近、御主人が「インターネットの調子がおかしい・・・」と言っている。別に犬には関係ない事だけれど、ただ、いんたーねっと、とやらを介して僕のおまぬけぶりや愚痴などが全世界に広まっているという事は聞いている。それが、機械の調子なのやら設定の不具合なのかは知らないけれど、調子が悪いという事で僕自身の事が露呈されずにすむという事は、なんに増してもありがたい事だ。この状態がしばらく続く事を僕は望んでいるのだけれど、インターネットの調子が悪いと、御主人のご機嫌も悪い・・・・御主人のご機嫌が悪いと、僕の扱いにも悪影響が出てくる。僕の察するところ、御主人は、今はやりの「インターネット依存症」とやらを患っているのではないだろうか・・・・?
5月28日 あめがふったりやんだり
昨日から台風並みの風が吹いている。風速11メートルとやらで、こんな大風が吹く事は滅多にない・・・・「雨が降り始めるまでの辛抱だ」と、御主人に言われていたのでホコリをまともに浴びながら、じっと耐えていた。すると、昼近くになってあんなに強く吹いていた風が止んだ・・・と、思うまもなく激しい雨降りである。「大雨が近づいていたので、あんなに強い風が吹いたのだ」とご主人は言う。おかげでハウスのビニールを押さえていた紐が何本も切れたらしい。だけど、風が収まったので、修復するのは明日の事になるらしい。僕は、と、いうと風もおさまったし、午後になって激しく降っていた雨も降ったり止んだりの天気になった。だから、時々は外へ出て地面に横たわってお昼寝をしたりした。雨に濡れた地面はひんやりとして気持ちが良いものだ。御主人達、人間も一度やってみると良いよ。気持ちよくてやみつきになるかも知れないよ。
5月27日 はれ
今日は25度ぐらいの気温になって暑い一日だった。それでも風がひじょうに強いのでビニールハウスの中でお仕事をしている御主人は、昨日より過ごしやすいようだった。僕はひんやりとした作業小屋のコンクリートの床の上でのんびりとお昼寝だ。でも・・・・風が僕の方に向かって吹いてくるのでホコリも風と一緒にやってくる。僕は体中ホコリまみれになってしまった。これでは「シャンプー」をされる日が近くなりそうだ。もっと涼しくて清潔な場所が何処かにないものだろうか・・・・?
5月26日 はれ
今日もさわやかに晴れた。僕もさわやかにお昼寝する事が出来た。外の気温は21度ぐらいだという。今頃の季節が人や犬には一番良いのかも知れない。しかし、御主人はさわやかに・・・とは行かないようだ。お米の苗が無くなったビニールハウスの中でお仕事をしている。お仕事と言うより半分趣味と言った方が良いかも知れない。これから、このハウスの中には様々な夏野菜が植えられるのだ。堆肥や肥料をばらまいて、トラクターで土を耕す。そして、野菜を植える畝を作る。ハウスの中の気温は31度・・・・なんと、外と10度の違いがある。外からの空気を取り入れていてもこの温度だから、犬にとっては灼熱地獄と同じだ。(もっとも、そこへは一度も行った事はないけれどね)まぁ、御主人だから良いのだろう。家の御主人は寒さに弱くて暑さに強いから、僕とは逆の体質だ。きっと冬に生まれたからなのだろう。僕は夏生まれだから夏には弱いという事なのだろうと思う・・・・えっ?、犬は大概夏には弱いものだって?・・・・・そうかも知れないけれど、よその犬が暑さで苦しんでいるのを見た事がないからね。
5月25日 はれ
今日は、おじいちゃんがハウスの古いビニールをそこいら中に広げて干したので、僕の居場所が無くなってしまった。だったら犬小屋の中にでも入ればいいじゃないかという人もいると思うけれど、こんな良い陽気の日に犬小屋の中でくすぶってなんかいられない。こんな天気の日には、外で大の字になって寝ころんでいる方がよっぽど気持ちが良い。ただし、犬の場合は大の字に寝る事が肉体的構造上出来ないので、身体を思いっきり伸ばして腹を出して寝るという格好になってしまう。こういう場合の犬の寝そべり方は表現のしようがないほど複雑かつ繊細なのである。で、さっきの話に戻るけれど、居場所が無くなった僕は、紐が届くぎりぎりの所まで避難した。そこは、雑草が今を盛りと伸びている、あの梅の木の根元だった。果たして僕は、また、この木の側にある石に紐が引っかかり、身動きがとれなくなってしまうのだろうか・・・・乞うご期待・・・・って、だれも期待していないと思うけどね・・・・
5月24日 はれたりくもったり
今日は、特にどうと言う事もなく「穏やかで平凡な平和な一日」だった。・・・・・と、言う事はひじょうに退屈な一日だったと言う事だ。飼い犬はつながれているので自由に何処へでも行くわけには行かない。毎日毎日同じ場所で暮らしているから、近くのものは大概見飽きている。よほど変わった出来事でも起こらないと飼い犬はあくびばかりをかみ殺して一日を過ごす事になる。今日なんか、あくびばかりをしていたてので、アゴが痛くなってしまったよ。ほんとに、もう〜・・・・
5月23日 あめ
今日は一日中雨降りの天気になってしまった。しかし、のんびりと作業小屋の床に寝ころんでいるわけにも行かなかった。御主人は外のお仕事が出来ないので、屋根の下のお仕事をする事にしたようだ。つまり作業小屋の整理。農繁期中にごちゃごちゃになった小屋の中のものを整理するわけなんだ。もちろん農機具もである。トラクターが動く、田植機が動く・・・・僕は安閑としてお昼寝できるような状態ではなかったのだ。おまけに、御主人は僕に「食パンの耳」をおやつ替わりにくれた。僕はあまり食べたくなかったので、雨降りの中を濡れながら、両足で穴を掘りくわえていた食パンの耳を穴に落として鼻先で土をかぶせて埋めたんだ。その行動の一部始終を御主人に見られていた。それを悟った僕は「食パンの耳」を守るために、雨の中で見張りをしなければならない事になった。これは犬の習性なので、雨の中だろうと雪の中だろうと、自然な行動なのだ。おかげで、全身びしょぬれになってしまったよ。御主人も、まったくよけいな事をする・・・・「パンの耳」さえ僕にくれなかったらこんな事にはならなかったのだ。
注1...犬は今食べないものを土の中に埋める習性がある。
注2...犬は埋めたものを他の犬や外敵、飼い主に取られないように見張る習性がある。
注3...犬はすべての事柄を他の犬または外敵、飼い主の責任にしてしまう習性がある。
5月22日 はれ
暑い・・・・日中は25度まで気温が上がったようだ。とてもじゃないが外へ出て、のんびりとお昼寝できるような状態ではない。作業小屋の床がコンクリートで出来ているので、そこに横たわっている。ひんやりしていて、全身が毛皮にくるまれている僕の身体にはとても気持ちが良い。御主人は、この暑さの中を「手作業で田植え」をやっている。家の廻りの田んぼをやっているので、寝ころんでいる僕から丸見えである。腰が痛いらしく、時々背伸びをしたりしている。そういえば、田んぼに出かける時、寝ころんでいる僕をなでなでしながら「朝からお昼寝でうらやましいなぁ・・」といった。本当は、なでながらではなくて、ほっぺを痛いぐらいにつねりながらこの言葉を言いたかったに違いない。御主人の言葉は、いやにドスがきいていたような気がするのだ。ただ、唯一の救いになる事は、今日で「手作業田植え」が終わったという事なのだ。・・・いやいや、もう嫌になって、「こんなものでいいかな」と田んぼと妥協したのかも知れないのだ。そこいら辺は飼い犬の立ち入るところではなく、田んぼと御主人のあうんの呼吸というヤツなのだろう・・・・たぶん?
5月21日 はれ
今日は、そんなに気温は上がらなかったものの「五月晴れ」と言っても良いような天気だった。朝から僕のシャンプーの話が出ていたけれど、あんまり汚れていないから・・・と言う理由で取りやめになった。何でも、今年は僕のシャンプーを最低月一回の割合で実施する事に決めたそうだ。そんな事を勝手に決められてたまるものか!!と思ったけれど、僕は飼い犬なので文句も言えない。せめてもの抵抗と言えば、シャンプーされる時に暴れて、御主人に水飛沫がたっぷりかかるようにする事ぐらいである。飼い犬の御主人に対するせめてもの鬱憤晴らしとは、せいぜいそんな程度のものなのである。
5月20日 あめのちはれ
夜半にたっぷりの雨が降った。これで田んぼも畑も潤う事だろう。ただ良くない事は、僕のお腹が泥んこになってしまったという、だだその一点だけである。今朝は珍しく雨が降っているのに御主人が僕を散歩に連れ出したんだ。濡れるほどの雨ではなかったからかも知れない・・・・そういうわけでお腹が泥んこになってしまったんだよ。日中はさわやかな風が吹いて洗濯物も良く乾いた。ちなみに洗濯を干す場所は、僕がいたずらをするので今年から別の場所に設置されてしまったんだ。おかげで楽しみが一つ減ってしまったよ。今日の御主人は鼻炎と風邪と田植えの疲れで何もする気がないようだ。それに今日の御主人は運の悪さも人一倍だったようだ。床屋へ出かけようと、鼻炎の薬を飲んで用意万端整えて行ったのは良いのだけれど、休みだったのだという。なぜ薬を飲んでから床屋へ行くのかというと、鼻炎なので、くしゃみをしたり鼻水を流しながら散髪をしてもらうと嫌われるかららしい・・・・と、言うわけで御主人は床の中で休養する事にした。しかし、今度は咳が止まらないらしく、外で寝ている僕の耳にも咳をする音が聞こえてくる。大丈夫のだろうか?。と、御主人の体調を心配する「忠犬むつ犬」であるけれど、その裏には、まだ昼を過ぎたばかりなのに夕方散歩は行けるのかしら?、御飯はちゃんともらえるのだろうか?・・・・と、自己中心的な打算が働いてしまう心配性の僕なのであった。
5月19日 くもりのちあめ
久しぶりの雨である。けれど、寒くはない。雨が降ると僕の散歩がたびたび中止になってしまう。犬は少しぐらい濡れても「ぶるぶるぶるん」と身体を一振り二振りさせると身にかかった雨露などは吹き飛んでしまう。人間の、こうはいかないので飼い犬としては困ってしまうのだ。今朝は、御主人の都合で散歩に行けなかったし、夕方は本降りの雨となって散歩に行けなかった。僕は自主的に紐の届く範囲で駆け回って、一応、運動をしたと言う事にした。こうでもしないと、僕は雄犬だから体力が余ってしょうがない。そして、僕は日頃の欲求不満を散歩で発散しているから散歩の中止は僕ならず、御主人にもその影響が及ぶ。飼い犬の欲求が鬱積してきて不機嫌だと、「飼い犬に手を噛まれる」って事もあるのだ。人間世界のことわざでは、「信頼していたものに裏切られる」という意味に使われているようだけれど、裏切られるには、それ相応の理由というものがあるって事を理解してもらいたいね。僕の場合は、「散歩へ行けない」という事なんだよ。
5月18日 はれ
毎日、暑いぐらいの日が続く。春先に寒い日が続いたのでその反動ではないかと僕は思っているのだ。どうも自然というヤツはどこかでつじつまを合わせる性質があるらしい。犬とは大違いだ。犬は「のほほん」と、その日その日を無為に過ごしているので、全体的なバランスを考えてつじつまなど合わせる必要がないのだ。人生・・・いや、犬生たかだか長くて20年、夢幻の如くなり・・・と言うからね。あまり深く物事を考えてもいけないし、ほどほどに生きていければそれに越した事はないんだと思っているよ。いつも言っているけれど、人間は「せかせか」というのか「こせこせ」というのか、そんなに生き急ぎをするなと言いたくなる時があるよね。もっと犬の生き方を手本にしてみた方が良いと思うなぁ〜
5月17日 はれ
今日もすばらしく晴れ渡り、気温もぐんぐん上昇した一日であった。御主人は、昨日も話した通り「機械田植えの手直し」のお仕事を始めている。そろそろ「初夏」と言っても良いような陽気になってきた。今までが寒すぎたのだから、これからはほどよい暖かさになって欲しい今日この頃である。もっとも、いきなり「盛夏」なんてやってきたら困る。僕は北国の犬だから暑さにはとても弱いのだ。
ところで、ご主人は風邪を引いたようだ。「夏風邪は○○がひく」とは人間世界に広く言い伝えられていることわざであるけれど、まさに、御主人のそれが実践されたと言っても良いだろう。御主人は「喉が痛い」と言っている。おまけに花粉症なのか鼻炎なのか「くしゃみ」が止まらないという。困ったものである。僕としては、御主人の「喉の痛み」が、風邪なのかどうかひじょうに興味があるところだし、この後の展開がどうなるのか「わくわく」しながら見守ってゆきたいと思っている。でも、人間の風邪か犬にも移るのかどうかは知らないけれど、なるべくは、僕の側に近寄って欲しくないと思っている今日この頃の僕なのであった。
5月16日 はれ
今日はマァ、なんと暑い一日だった事か・・・・御主人なんかティシャツ一枚で田植えをしているんだ。僕なんか、まだ冬の毛皮を着ているものだから、暑くて暑くて仕方がない。毎年恒例の「毛抜け」も一部分は始まっているようなんだけれどね。足の部分とか頭のてっぺんのあたりが抜けてきているようだ。御主人はおもしろがって抜け毛を引っ張るものだから煩わしくってしょうがない。出来るだけ御主人を避けるようにしている僕なのだが、僕は飼い犬なので100%さける事は出来ないでいる。
とにかく、今日でめでたく「田植え」は終わったようである。この後、御主人一人でもくもくと機械田植えの手直しをしなければならないようだ。特に今年の機械田植えは春先の天候不順の影響でひどい植え方になったらしくて、孤軍奮闘する御主人が心配である・・・・・とは、いくら僕がこの家の飼い犬だからといって、本当はそんな事等は、これっぽっちも思ってはいないのである。
5月15日 はれ
一昨日と昨日はお母さんが御主人と田植えをしていたんだけれど、
今日は上のお兄さんと御主人が田植えに汗を流している。夕方近くになって苗を取りに来たお兄さんが散歩替わりに田んぼへ連れて行ってやるというので、喜んでトラックの助手席に乗った。田んぼでは真剣な顔をした御主人が田植機に乗って植えていた。僕はお愛想も出来ないような雰囲気なので御主人を無視した。それに、家の外に出れば、もうこっちのものだ。僕の自由な時間だ・・・もっとも、紐でつながれているという点では家にいる時と同じだけれど、楽しい事がいっぱいある。草むらに残る様々な匂いをかぐ楽しみ。空の青さの中に浮かぶ霊峰鳥海山の美しさ。田植えをしているよその人達・・・・等々、見飽きる事がない。僕は明日もつれてきてもらうつもりでいる。もっとも、順調にいけば、明日で田植えは終わりだという・・・・ところが、この後の機械田植えの手直しが大変だと言う事を僕と御主人だけが知っているのだ。本当の田植えの大変さは「機械による田植え」が終わった後に始まる「手作業による補植」にあるのだった。まさに、B級ホラー映画にも匹敵する「田植えの恐怖」なのであった。
5月14日 あめのちはれ
昨日から我が家の田植えが始まった事はお話しした。田植えが始まると飼い犬の世話がおろそかになるので困る。朝は田植えの準備で散歩に連れて行ってもらえないし、夕方は散歩が遅くなる。すると、当然御飯も遅くなってしまうのだ。散歩に連れて行ってもらえればいい方で大概は、ほおって置かれてしまう。飼い犬にとっては「受難の季節」なのだ。かろうじて、御飯だけはもらえるけれどね。こんな状態が3日から4日ぐらい続くのかと思うとうんざりするよ。なのに、御主人は僕が寝っ転がっていると「犬は良いなぁ」と僕のほっぺをつねる。何が良いもんか・・・一度、こっちへ来て飼い犬になってごらんよ。そんなにおもしろくもない生活だから・・・・
5月13日 くもりのちあめ
我が家は今日から「田植え」である。僕もお手伝いしたいのだけれど、出来る事と言えば「監督」ぐらいしかない。「監督ぐらいなら手伝おうか」と、御主人に申し出たけれど「おまえが田んぼに来るとじゃまになる」という。そして、その理由を延々と僕に言うのであった。
1.おまえは水を怖がる。
2.泥んこになってしまう。
3.離すと、一匹で何処かへ行ってしまう。
4.おやつを食べているとほしがる。
等々・・・人には言えない僕の恥ずかしくて隠しておきたい部分などもいちいち指摘してくる。そして、決定打とも言える最後の一言が、僕のお手伝い意欲を急速にしぼませるのであった。
「おまえは、稲の苗を食いあさる・・・・」
そっ、そうだったのだ。僕は稲の苗を見ると、自分の家のであろうがよその家のであろうが、無性に食べたくなってしまうのだ。僕に食い荒らされた苗は、もう植える事が出来なくなってしまうのだった。
5月12日 うすぐもり
御主人は田植えの準備に大忙しである。僕がごろんと寝ころんでいると、わざと「じゃまだ!」と怒鳴りながら僕の寝ているすぐ側を通ったりする。時々は尻尾を踏んづけられそうになったりした。もちろん、嫌がらせである。僕がのんびりとお昼寝などしているものだから、うらやましさのあまり嫉妬しているのだ。さすがに夕方になってくると日中は忙しさの余りイライラしていた御主人だったのだが、いくらか落ち着いてきて、僕をモデルにスケッチなどを始める始末だ。「こら!!動くな!!」と言われても、僕は生き物だから咳もするし、かゆくもなる・・・・それを「動くな」とは、今までに様々な無理難題を言われたけれど、これほどはひどくなかったように思う。ヤレヤレ・・・である。そして描いた僕の絵を見せてもらうと「いつも、ちっとも似てないの・・・」という、あの名曲「神田川」の歌詞がとてもよく似合いそうな御主人の絵だった・・・・・これも、ヤレヤレ・・・である。
5月11日 あめのちくもり
ひぇぇぇぇ〜、昨日の最高気温から比べたら10度以上も低くなってしまったよ。昨日の最高気温は27度。今日の最高気温は16度だ。おまけに明け方にはどしゃ降りのような大雨が降ってきた。あまりに雨音がうるさいので眠る事が出来なかったよ。道理で昨夜のカエルの合唱が楽しそうだったはずだ。今日は雨降りだという事を知っていたんだね。夕べは夕べでカエルの大合唱で眠る事が出来なかったし、今朝は今朝でこの雨音である。人間世界に「人の恋路をじゃまするヤツは、馬に蹴られて死んでしまえ」ということわざがあると聞くが、犬の世界で同類のことわざと言えば「犬の眠りをじゃまするヤツは牛の舌でなめられろ」・・・である。牛の舌というのは意外にざらざらしている。いわば鮫肌と言ったところだ。この舌でなめられでもしたら、気持ち悪くて鳥肌が立ってしまうだろう・・・・もっとも、犬は毛皮があるから、表面上は鳥肌が立っているところを認識できないけれど、毛皮の下は目を覆いたくなるような姿になっているはずである。・・・・・・・・・・・・・・・
はて?、いったい何のお話をしていたのか、深く物事を考えない犬なので、話はどんどん関係ない方向に進んでいくのである。このまま行くと、「火星探査と生物の存在の可能性」という話まで進んでいきそうなので、ここら辺でお話を止める。謹聴を謝する。・・・・
5月10日 はれ
今日は、昨日にも増して暑かった。何しろ気温が27度もあったのだから犬はたまったものではない。7月上旬頃の天気なのだという・・・・やっと春らしい暖かさがやってきたと思っていたら、暖かさを通り越して、こんな暑さになるんだからね。気象も世の中と同じで不可解な事が起こるようになったのかなぁ?
所で、こんなに暑いと、ぐったりと地面の上に寝転がり、何もする気が起こらない。しかし、犬の習性で怪しいと思われるものには吠えなくてはならない。疲れる・・・吠え終わった後は、崩れ落ちるように地面に横たわり、夢かうつつの世界をさまよう事になる。まったく、なんて言う天気なんだろう・・・責任者出てこい!!「がうん、がるるるる〜」
5月9日 はれ
今日は暑いぐらいの一日だった。外に寝ころんでいると熱したフライパンの上に寝かされているようだ。だから、田植機の下に潜り込んでお昼寝をしている。夜も暖かいものだから、外に寝ている。24時間態勢のお仕事をしているようなものだ。外に寝ているから家の前を通る人や物がすべて見えてしまう。だから夜中でも「わんわんわん」と吠えなければいけないって言うわけなんだ。幸い夜中にこんな所を通る人は、今のところ誰もいないので熟睡する事が出来てありがたい。朝はといえば、早いのが新聞配達の人だ。でも、僕はこの人に吠えない。今朝などは、見知らぬ人が朝の5時頃から家の前をうろうろしていたので「わんわんわん」としばらく吠えていたら「御主人から「うるさいぞ」と言われてしまった。もっとも、僕から見れば怪しい人なんだけれど、本当は、近くの田んぼに用があって来た人だったんだよね。でも、番犬のお仕事を一生懸命やっているのに「うるさいぞ」なんて言われたら仕事をする気がなくなっちゃうよね。明日は、仕事をさぼって一日中ふて寝をしていようかなぁ・・・・
5月8日 はれ
この頃は農繁期と言う事もあって、御主人は朝早くから夕方遅くまで田んぼに出かけてしまい、家にいない。僕としても御主人が難儀をして困っている時は手助けをしたいと常々思っている。飼い犬なら、どんな犬でもそう思うはずだ。何しろ人間が忙しい時に手助けできるのは猫さんぐらいなものだ。犬はどうがんばっても猫さんのように手は貸せない・・・・だから、今僕が出来る最大の手助けは、僕自身がごろんと地面に横たわってお昼寝をする事ぐらいだ。誤解しないでもらいたい。僕がごろんと寝ころんでいる事によって「世の中、平和だなぁ〜。のどかだなぁ〜」という「安らぎ効果」を僕が御主人に与え、リラックスをしてお仕事をがんばってもらおうという趣向である。犬は浅知恵ながら、犬なりに色々考えて行動しているのだ。ところが・・・・寝ころんだのは良いけれど、陽気の良さに誘われて、熟睡してしまい、御主人が帰ってきたのも気付かない僕なのであった。
5月7日 あめのちくもり
今日の夕方散歩はお母さんと田んぼへ行ったんだ。御主人がまじめにお仕事をしているか見に行ったんだよ。農作業に関しての僕の立場は「監督」という地位というか仕事を受け持たされている。えっ?、誰から任せられているのかって・・・一応、自主的というのか、勝手にと言うのか・・・・だって、僕の出来る農作業といえば「監督」ぐらいしかないんだよ!!
ともかく、御主人のお仕事ぶりを見に行ったんだ。田んぼに水を張って、トラクターできれいにならすお仕事なんだけれどね。まあまあの出来だったよ。お隣の田んぼと比べたら、ちょっと首をかしげてしまうけれどね。監督の仕事兼散歩から帰ると、その報酬としてお母さんから御飯をもらった。そうこうしているうちに御主人が帰ってきたので、僕は「遊ぼうよ」とボールが置いてある方へ目線を送りながら言ったんだ。すると、「悪いけれど、これから精米しなくちゃいけないし、疲れているから」と、やんわりと断られてしまった。このようにして、世に言う「大型連休」、つまり僕のゴールデンウイークは幕を閉じたのであった。
5月6日 うすぐもり
待ての言葉で命令する君の側で僕は、よだれを流してる〜。
お手だの伏せだの言ってる〜。
今日一日の食事はこれが、一回切りなのに、
随分、間を持たせ続ける。
時が行けばお腹も鳴るし、いらだちと腹立ちが限度に達する。
それで君は「よし」と言い、僕は御飯を食べる。
普段と、変わりない御飯を食べる
いつもの御飯を食べる〜・・・・・
注釈・・・僕の切ない日常を、あの名曲「なごり雪」のメロディで歌ってみてください。ちなみに「君」とは御主人の事、「僕」とはむつ犬の事です。
5月5日 くもり、かぜつよし
今日は人間の行事では「端午の節句」、つまり「こどもの日」という事になっているらしい。僕は、いつも思うのだけれど、僕もこの家のこどもみたいなものだ。だから僕にも「こどもの日」らしい何かを御主人達はしてくれても良いのではないか・・・・だけど、今日も昨日と同じような一日が淡々と過ぎ去っていくばかりだった。そして、明日もそうだろう。何か特別な日だったら、それなりの行事をこなすのが「和の伝統」を守らなくてはいけない日本人のつとめなのではないか!!僕を見ろ!!僕は身体を張って天然記念物である「秋田犬」の伝統文化を守っているのだ!!それが、それが・・・・忙しさにかこつけて伝統をないがしろにしている今の日本人は日本人ではない!!本当の日本人だったら、僕の所へ「端午の節句」のお祝いに柏餅なりちまきなりを持ってきて食べさせてくれるはずなんだぁぁぁ〜!!・・・・・・
飼い主の談・・・・本当は、これが言いたかっただけなのだ・・・
5月4日 はれ
昨日は「秋田犬のふるさと」秋田県大館市で「秋田犬品評会」が行われたらしい。所詮、僕には縁のない大会だけれど、御主人の話によると新聞に載った写真を見ると、みんな僕のような色合いの犬たちが出ていて、とてもきれいだったそうだ。「ふん!!僕なんか垢まみれ犬だもん!!」と、へそを曲げてみたり、「僕なんか白いところが茶色になった、たいそう珍しい色変わり犬だぞ。」等々、開き直ったりもした。御主人がなかなかシャンプーをしてくれないからだ。そんな僕を御主人は気の毒がって、「よし、今日は気温が20度無いけれど、特別にシャンプーしよう!!」と、僕の前で宣言した。僕は「シャンプー」という言葉を聞いた途端に尻尾を下げ、その場から逃げ去り田植機の下へ逃げ込んでしまったのであった。普段から大きな事を言ってふんぞり返っているけれど、本当は小心者の僕なのであった。
ともかく、30分ほどシャワーを浴びせられ、シャンプー液を体中に塗り立てられる。そして、再びシャワーの温湯が僕の身体を洗い流すと、身体からどす黒いような水が流れ落ちていく・・・・そして茶色に染まっていた毛が、真っ白になり僕は白犬になったのだった。「醜いアヒルの子」が実は「白鳥」だったというお話を彷彿させるような出来事だった。御主人は真っ白になった僕の写真をしきりに写していたよ。そのうち、「シャンプー前のムツ犬」と「シャンプー後のむつ犬」なんて言う題で写真が公開されるかもね。このようにして、ようやく僕は去年からの汚れを落としてもらい「すっきりとした男前の秋田犬」になったのであった。
5月3日 はれ
人間の世界には武士道の心得を表した「葉隠」という書物があるという。犬の世界にも似たようなのがある。野生の犬の心得を表したのが「土隠れ」と言い、飼い犬の心得を表したものが「雲隠れ」という。それぞれの題名は、各々の生活環境を如実に表している。野生の犬の場合は、敵に襲われないように「土に伏せ隠れ」、飢えないように「餌を土の中に隠す」から来ている。一方、飼い犬の場合は、外敵や食料の心配はないが、いわば囚われの身の状態である。何処へも行けない。そして、時には飼い主の横暴な要求に耐えかねて、「何処かへ雲隠れしたい」という意味でこの題名が付けられた。
さて、それぞれの心得は、人間の世界のように書物にはなっていないが、先祖代々受け継がれてきていて、僕達は子犬時代に母親から、それを教わる事になっている。一番始めに教わるのは、「飼い犬は堪え忍ぶ事こそ本分なり」である。子犬の時は母親のお乳を呑んで母親の庇護の元で生活できるから、そんな心得を聞いても実感がわかず、上の空で聞いていたのだけれど、一人前の飼い犬になってこの家で暮らすようになると、母親から聞いた「雲隠れ」の教えが痛いほど身にしみる僕なのであった・・・・
5月2日 くもりいちじこさめ
今日は昨日に比べて、随分寒い一日になったようだ。「ようだ」というのは、別に僕にとっては寒くも何ともない一日だったけれど、御主人の格好を見れば、今日は暖かいか寒いかがわかる。防寒具を着た御主人は、まるで「歩く寒暖計」と言ったところだ。何でも北海道という所では雪が降ったらしい。僕達の地方でも鳥海山という2000メートル級の山裾でも雪が降ったらしく真っ白に化粧をしているようにも見える。ともかく、御主人は寒さしのぎの格好はしているけれど、お仕事が汗をかくぐらいの肉体労働なので「寒い、寒い」と言いながら汗をタオルで拭いているような始末である。犬の僕がどう考えても何処かがおかしいと思えるほど、御主人の言う事に矛盾を感ずるのである。もっとも、御主人の言葉には逆らえない飼い犬の立場では「あんた(御主人の事)、言う事がおかしいよ」とは口が裂けても言えない僕なのであった・・・・
5月1日 あめのちうすぐもり
今日は「薬を飲む日」である。毎年この時期になると恒例であるフィラリアおよびノミ、ダニ駆除剤を毎月飲まなければいけない季節になる。毎年の事ではあるけれど、御主人はどうやって僕に薬を飲ませるか悩む。と、言うのも僕が薬だけを吐き出してしまうからだ。舌をうまく使って口の外へ押し出すんだ。いつもだとお菓子やおいしいものに隠して呑まされるので、薬がのど元を過ぎてしまっても気が付かない事がある。今年は、「犬用チーズケーキ」というものを買ってきて、それにはさんで僕の口に入れようとしたんだ。ところが・・・・である。僕は今まで「犬用チーズケーキ」などと言うものは食べた事がない。犬の習性で、初めて食べるものは、たとえ御主人からのもらい物であろうとも、いったんは口でくわえ、舌で味を確かめてから吐き出す。そして、又拾い上げ、今度は歯で噛んでみる。そしてまたまた吐き出すのだ。それを何度か繰り返した後に喉の奥、つまり胃袋に送り込んでやるのだ。犬は意外に用心深いのだ。僕もこれをやったものだから薬は吐き出されてしまった。結局は御主人に無理矢理に口の中へ押し込まれてしまったけれどね。御主人があんまり無理して僕の口を開けようとするものだから、「がるるる〜・・・」と、うなってやったら鼻先をぶたれてしまった。まぁ、とにかく今年初めての重要な行事の1回目が無事に終わった事はたしかだよ。これを毎月、あと5回ほど繰り返さなければならないのである。ヤレヤレ・・・なのである。