むつ犬のおまぬけ日記
平成20年 1月
1月31日 くもりいちじゆき
雪は、どうやら夜中にひっそりと降り積もったらしい。朝、犬小屋から外に出ると5センチほどの雪が降り積もっていた。雪は雨と違って密やかに降るから恐い。音が何もしない恐ろしいほど静かな夜などは大雪になりやすいという。次から次へと降り積もっていく雪の降りざまが、すべての音を吸収してしまうのかも知れない。その点、雨はにぎやかである。屋根に降り注ぎ、地に降り注ぎ、にぎやかな音を立てて僕の安眠を妨げる。でも、北国の犬としては、深々と音もなく降り積もる雪の方が好きだ。雪の羊水に包まれた母犬の胎内にいるような気がして何だか懐かしい。そして、胎児のように犬小屋の中で丸まって眠る様は、生まれる前の、胎内での安らかな眠りと共に成長し続ける自分を思い出すようにも思う・・・・かそけき記憶が脳の中に残っているのかも知れない。

1月30日 はれたりくもったり
今日も、昨日と似たような気候だったよ。道路は、さらに「ぐちゃぐちゃ度」を増し、散歩に行くと僕の自慢の白いお腹の毛が真っ黒になってしまう始末だ。御主人にタオルで拭いてもらったけれど、何だか気持ちが悪い・・・除雪された雪はどす黒くにごり、あの降り積もった時の真っ白な雪の姿は何処へ行ったのだと不思議に思う。
そこで、しんしんと降り積もる雪の中で無邪気に遊ぶ自らの姿を思い出して詠める。

北国の 真白き雪の 気高さに 我喜びて植木鉢とたわむる・・・禄食

この和歌は「本歌取り」だけれどね。本歌取りとは元の和歌があって、それをベースに新たに歌を詠む事なんだ。現代風に言えばパロディ・・・?、パクリ・・・?、えっ?、誰の和歌のパロディかって?石川啄木って言う名前らしい。聞く所によると、その昔に石川さんという家の庭に住んでいたキツツキらしいというのだ・・・御主人の言う事だから、あまり当てには出来ないけれどね。その啄木鳥(キツツキ)が詠んだ和歌は「東海の 小島の磯の白砂に 我泣きぬれて 蟹とたわむる」だよ!!

1月29日 はれたりくもったりのちあめ
今日も3月上旬並の天気だったよ。薄日が射して気持ちが良い陽気になった。こんな日は、外へ出て寝ころんでいたいのだけれど、あいにく地面の雪が溶け出してシャーベット状になっている。こんな所へは寝そべりたくない。いくら僕の毛皮が撥水処理をされているからと言っても、身体が濡れる事には変わりがない。
そして、夕方散歩である。道路は、所々がシャーベット状の雪が残り、どろどろの土と、泥水の水たまり・・・・はぁぁ〜、暖かくなるのはいいのだけれど、これだけは困りものなのだ。しばらくシャンプーをされていない僕の身体が、いっそう汚れる事になるのだ。
「だから、春よ早く来い!!」
乾いた春の風が、いきなりやってきて欲しいと思う僕なのであった。

1月28日 はれたりくもったり
今日は寒波もゆるんで、時々お日様が顔を出すような天気だった。僕も時々、お日様の出具合を見ながら外へ出て雪の上でお昼寝をしてみたんだよ。気温も4度から5度ぐらいあったと言う。2月下旬から3月上旬の平均気温なのだという。でも、まだ地面は雪で覆われていて、土肌は姿を現しそうにない。本当に2月の末頃になったら、そうなるだろうと思うけれど、雪の下から徐々に土の色が見えて来るというのは、心がわくわくして楽しいものなのである。これは犬に限らず北国に住む動物なら同じ気持ちだと思うよ。人間も含めてね。内犬と猫さんは例外だと思うけれど・・・?

注・・・内犬とは外犬の反対語で、家の中だけで飼われている犬を言う。一方、外犬とは僕のように外でのみ飼われている犬の事を言う。時々、家族のスキを見て家の中に入り込む事はあるけれど、それは例外となっている。

1月27日 くもりときどきゆき
夕方散歩をのんびりと御主人と歩いていたら、大学の建物の方から、突然と花火が上がった。僕は驚いてしまって尻尾を下げた。僕は花火が雷と同じぐらい嫌いである。大きな音と不気味な光が同時に僕を恐怖に陥れる。だが御主人は、しばらく見ていようという。どうやら大学周辺で「冬のイベント」が行われているらしい。花火は、そんなに間を置かずにどんどんあがっては夜空に花開いている。「いいねぇ。冬の花火も」と御主人は言う。夏の花火は華麗さの後のいい知れない、祭りの後の寂しさや哀しみであるのに対して、冬の花火は、緩やかな哀れさであり、郷愁だ。と言う。僕には、そんな理屈っぽい事はわからないけれど、出来れば、早くこの場から逃げ帰りたい気分だったのだ。花火は10発ほどあがって突然終わった。そして、僕はその恐怖がさめず、家に帰るまで尻尾を下げっぱなしなのであった。もちろん、御飯をもらったら、いつもの「クルクルン」とした二重巻き尻尾に戻ったけれどね。

1月26日 ゆきがふったりやんだり
海底に無限に降り積もるという「マリンスノー」のように地上に降り積もる「スカイスノー」も、又無限に降り続くかのようであった。そんな思いに駆られて、飼い犬のムツは空を見上げて、ため息をつくのであった。
飼い主が、又トラクターで除雪を始めている。ここ一時ほどは日射しも出ていたので、飼い犬は外へ寝ころんだりしていたのだが、飼い主が除雪を始めたとたんに吹雪になった。いかなるものの采配であろうか・・・天にも地にも呪われた飼い主の元で一生を送らなければならないかと思うと、飼い犬は、またもやため息をつくのであった。そして、ややしばらく、降り積もった20センチばかりの雪がきれいに寄せられてトラクターが小屋の中に格納された。そのとたんに、雪はぴたりと止み、飼い犬は喜びの声を上げて、おもちゃにしているプラスチックの植木鉢を雪の上に転がして遊び始めるのだった。
(一巻の終わり)・・・・って、いったいなんの話?

1月25日 ゆきがふったりやんだり
朝になったので犬小屋を出てみると、「降っては降っては、ずんずん積もる」という、「雪の朝の犬」という唱歌・・・だったかな?違うと思うけれど、御主人に聞いても「忘れた」というので、とりあえず、そういう題名の歌にしておこうと思う。まぁ、辺り一面が、そんなような状態だった。ここで、犬である僕は「犬は喜び、庭駆け回り」という行動を取らなければならないのだけれど、とてもそんな気分にならないぐらいの降りようだし、駆け回る事が出来るような状態ではない・・・。とりあえず、雪にオシッコを引っかけて、御主人が「朝散歩だぞ」と迎えに来るまで、犬小屋の中に引っ込んでいた今日の僕なのであった。

1月24日 ぼうふうせつ
今日は台風並みの風が吹いて雪も降り始めて吹雪になった。雪は風に飛ばされて山の奥の方に降ったのか、ここら辺はそんなに積もらなかったのだ。ただ雪の吹きだまりが、あちらこちらに出来ている。僕はもちろん、こんな天気なので一日中、犬小屋の中にこもりっぱなしだったよ。御主人の話によると、気温はプラスの2度位なのだという。それでも、冷凍庫の中とまでは言わないけれど、冷蔵庫の中より低い気温なのだと御主人は言っていたよ。夕方散歩の時もひどかった。前が見えないぐらいの吹雪で、御主人も北西に向かっての散歩なので風と雪がまともに吹き付けてくるから、顔を前に向けて歩けない、下を向いたり、横を向いたりして歩いている。そこで僕の出番である。北国の犬は吹雪にも強い。顔を真っすぐ上げて吹雪に顔を向けてずんずん前に進む。御主人は、僕の白い尻尾を目印にして僕の後に付いてくる。そうなのだ。僕の尻尾は「くるくるくるん」と、二重巻きになっているので、尻尾の表側(背中と平行になった線)は赤い色なんだけれど、巻いているから、どうしても裏側が表になってしまう。(ちょっとわかりづらいかも知れないけれど・・・)だから、白い尻尾は下を向いて歩いている御主人のちょうど目の斜め下に見えているといった具合なんだ。これで吹雪の中でも白い尻尾が目印になって、迷わないって言うわけなんだ。もっとも、僕と御主人とは散歩紐で繋がれているので、散歩紐を引っ張っている僕に黙って付いてくればいいだけの話なんだけれどね・・・えっ?、白い尻尾だと白い吹雪の中では見えにくいんじゃないかって?、その点は大丈夫なのである。しばらくシャンプーをしていないので、ずいぶん汚れが目立つ僕の尻尾なので、暗くてもあたりが白くても目立つのであった・・・・

1月23日 くもりのちはれ
午後から晴れた。晴れたと言っても雲が多い空で、お日様がぼんやりと見えるぐらいな天気だった。僕も外へ出て雪の上にオスワリなどをしてみたんだけれど、気温が4度ぐらいで、暖かいから何となく雪が湿っている様に感じて座り心地が良くない。御主人が、夕方になって除雪を始めたんだ。今日は晴れたけれど、夜中になると雪が誰にも内緒で降るらしく、朝に目を覚まして外に出ると新雪が、いつの間にか降り積もっているのだ。御主人も雪が降るたびに除雪するのが面倒になったらしくて、ある程度積もったら実施するようになった。
ところで、午後から晴れたので、夕方になると、珍しい現象が発生した。濃い霧が発生して、辺り一面を乳白色に染めたのだった。どういう具合でこうなるのかは知らないけれど、僕達は夕方散歩で、そんなシルキーミスト、あるいはミルキィミスト・・・って言うのかな?、そんな風な霧に包み込まれながら、いつものコースを歩いてきたんだよ。

1月22日 ゆきのちくもり
今日の午前中は、穏やかに雪が降っていた。そんなに積もるような降り方ではない。最高気温も1度まで上がったので、いくらか暖かいような気もする。
ところで、今日の僕は夕方散歩の時、雪に付いた匂いが気になって、なかなか前に進む事が出来なかった。雪の上に付いたのか、雪の下に隠れている匂いなのか判別は付かない。そして、その匂いが何であるのかも特定できなかったのだ。もしかすると、雪の下でねずみどもがうごめいているのかも知れないけれど・・・・?
「悔しい!!」犬ともあろうものが匂いをかぎ当てる事が出来ないなんて!!、そういうわけで、僕の足取りは、少し歩いては止まり、匂いをかぎ廻り、又戻っては匂いをかいで、又進む。と言った状態だったのだ。「三歩進んで二歩下がる」様な状態だと思ってもらえばわかりやすいかも知れない。
おかげさまで、御主人はじれったくなって、「ムツ帰るぞ!!」と、散歩の途中にもかかわらず僕に宣言をすると、僕を引きずるように家路に足を向けた御主人なのであった・・・・哀れ!!飼い犬!!散歩の楽しみである「匂い嗅ぎ」も許されないのか!!

1月21日 くもりいちじはれまあり
今日は、久しぶりに晴れ間が見えた。お日様と会うのも久しぶりである。この10日ほどは雪が降って、降って、45センチほどの積雪になったようだ。僕の背丈の半分以上にはなっている。
ところで、今日の僕はお日様が顔を出したので、雪の上に寝ころんでみた。これも又、気持ちの良いものである。御主人が、お腹をナデナデすると、お日様の暖かさが毛皮の奥までしみ込んでいって身も心も温かくなる。実は、今朝の事ではあるのだが、僕を繋いでいる紐が小屋の柱にぐるぐる巻きになってしまって、僕は犬小屋の中に入れなくなってしまったんだ。仕方なく、僕は雪の上で眠っていたんだけれどね。御主人が「朝の散歩に行こう」と、やって来なかったら、僕は「緊急信号」を発していたところだったよ。

注・・・「緊急信号」とは、人間世界の「SOS」の様に「きゅぉぉぉ〜ん」とか、「しゅうぅぅぅ〜ん」という、聞く人が、いかにも哀れを催すような声を言う。

1月20日 くもり
やっと雪は止んだようだ。でも、曇りだけれど風が強い。寒さは雪が降っていた頃よりも寒い今日の一日だった。
さて、今日の御主人は全国的に有名・・・かどうかは知らないけれどインターネットという網を広げると出てくる「新山神社の裸参り」というお祭りの警備に行った。なんと、この寒さの中を男衆が下帯一つで長い参道を駆け上がり、山の上にある本殿を目指すという行事である。だが、犬の僕には驚くに値しない。何しろ犬は年がら年中裸なのだから・・・まぁ、おかげで「鬼の居ぬ間の何とやら」で、のんびり過ごさせてもらったよ。日曜日というのでお母さんも家にいるからね。

注・・・大きな声では言えないけれど「鬼の居ぬ間の何とやら」の「鬼」の部分は「御主人」と読むようにして欲しい。飼い犬「ムツ」から、ないしょのお願いだよ!!

1月19日 ゆきのちくもり、またふる
今日も、又トラクターで除雪を始めた御主人だったのだが、御主人が除雪を始めると雪が降り出した。見ている僕の方が情けなくて涙が出てくる。どうして御主人はこんなに天気に恵まれないのだろうか?輪廻転生の因果か、普段の行いの精進の悪さなのか、犬の僕には想像も付かない。雪は御主人が除雪している間中、降り続き、終わってトラクターを小屋の中に入れると、ぴたりと止んだのであった。(本当だよ!!!)おかげで僕は降りしきる雪の散歩道で白犬にならなくて良かったよ。

注・・・「白犬になる」とは赤犬の僕の身体に雪が降り積もっておしろいを塗ったようになる事を言う

1月18日 ゆきがふったりやんだり
また雪のお話なのである。「えっ、もう飽き飽きしたよ」という人もいるかも知れないけれど、飽き飽きしているのは僕の方なのである。御主人も同様なのである・・・・
ところで、雪は水が冷やされて出来たものだから湿っていると思うかも知れないけれど、今頃に僕達の地方で降る雪は乾いているのだ。その証拠に、降り積もった雪を踏みしめると「ギュッ、ギュッ」という音がする。もっと乾いた雪になると、濁音が消えて「キュッ、キュッ」という音になる。白砂青松で知られる観光地の海岸の「鳴き砂」と似たようなものなのかも知れない。つまり、僕達は、自分の家にいながら観光地の砂浜を歩いているような気分になれるのである。・・・・・と、思わないと、この雪に飽き飽きした気持ちは、晴れないのであった・・・・

1月17日 ゆきがふったりやんだり
毎日、除雪に明け暮れる御主人である。毎日、雪の上ではしゃぐ僕なのである。・・・・連日、氷点下の気温が続き、冷凍庫の中で暮らしているようなものである。僕は別に平気なのだが、寒さに弱い御主人には酷らしい。ただ、この寒さで御主人が喜んでいる事と言えば、ビールを冷蔵庫に入れて冷やさなくても良いという、その一点だけなのである。でも、あまり冷えすぎるとビールの栓を開けたとたんに中身がシャーベット状になってしまうから要注意である。ともあれ、毎日、楽しみがあるのはよい事なのだ。僕の楽しみも「散歩」と「食事」なのだから。でも、これって、もしかすると犬が生きていく上で、必要かくべからざるものなのでは・・・と思ってしまう僕なのであった。

1月16日 ゆきがふったりやんだり
連日、雪が降り続いている昨日今日なのである。もう、すでに積雪高は40センチを超えたように思う。例年の積雪よりは、いくらか多いぐらいになってしまった。この冬は暖冬か・・・等と断定?していた頃が懐かしいような恥ずかしいような、今日この頃なのであった。まさに予断を許さずといった所である。
ところで、僕はと言えば、雪がたくさん降り積もったので、嬉しくてしょうがない。雪の上に寝ころんだり、除雪した雪のお山にオシッコを引っかけてみたり、雪の上でプラスチックの植木鉢を足で蹴って転がして、それに飛びついたり、噛みついたりして遊んでみたりしている。まさに、僕は北国の犬なのだという事を実感した、今日の僕なのであった。

1月15日 くもり
さて、冬休みも昨日で終わり、今朝は元気いっぱい・・・かどうかはわからないけれど、小中学生が登校していった。
ところで、昨日はあまりの雪の深さに、いつものコースの途中で引き返した散歩だったのだけれど、今日の夕方にいったら、いつものコースとは逆の方向を除雪車が歩いた後があったので、そちらの方に散歩に行ってきた。墓地の方向である。御主人は大喜びである。なぜなら雪の中を泳ぐように歩かなくても良いからである。逆に僕は物足りない。秋田犬は雪をかき分けかき分け、獲物である熊を追いかけていくのが本当の姿なのである。もちろん、大概の秋田犬はクマなど見た事がないし動物園にも行った事がないから、熊を追うなんて事はありえないのだが、雪の中を泳ぐように歩いていると、ご先祖だった熊狩り犬の血が騒いでしまう僕なのであった。

1月14日 ゆきがふったりやんだり
昨日から今日一日かけて25センチから30センチほど雪が降った。この冬、初めての大雪である。今日一日で御主人は2回もトラクターで除雪をした。それでも雪は、後から後から降ってくる。「一体どうしたんだ?」とお空に向かって問いかけたいぐらいの天気である。そんな中、夕方の5時になったので市役所の時報に合わせて遠吠えをして御主人を呼び出した。飼い犬の中には飼い主の口笛や犬笛(人間の耳には聞こえない高周波の音を出し、犬だけに聞こえるように出来ている笛)を吹くと飼い犬が御主人の所に飛んでいくという習性があるそうなのだけれど、あいにく、僕にはそんな習性はない。御主人に呼ばれたら逃げ出すぐらいの僕なのだから・・・・そんなわけで、雪が降り積もった中を夕方散歩となったわけなのだが、あまりに雪が深いので歩くのに難儀をする。途中まで行って「ムツ、帰ろう」という御主人の言葉に、いつものなら足を大地に踏ん張って「イヤイヤ」をするところなのだけれど、今日は、すんなりと納得して、すぐさま身体の向きを変えて家路をたどった僕なのであった。

1月13日 ふぶき
今日は、冷凍庫の中で過ごしたようなものだった。今日の最高気温が約−2度である。最低気温が−4度・・・・雪もだいぶ降り積もった。僕は、雪が降って嬉しいものだから外ではしゃぎ廻ったり、雪の上に座り込んだりしてみたんだ。御主人はと言えば、あの寒がりの御主人が、今日は「成人式」だというので警備に出かけたのだ。今日は、半日立ちっぱなしのようである。そうだなぁ・・・午前中の10時半頃に出かけていって、帰ってきたのは16時前頃かなぁ・・・ちょうど僕が外に出て、雪の上にオスワリをしながら雪景色を眺めていた頃だったからねぇ。御主人は寒さで、僕の身体をナデナデする余裕もないようだった。自動車から降りると、まっしぐらに家に入っていった。早くストーブの側に行きたかったにちがいない。けれど、お母さんは何処かへ出かけてしまっていて、家の中は外よりは幾分暖かいけれど、冷え冷えとした居間が待っているだけだったのである。僕をナデナデしてくれたら、そのことを教えてやったのに・・・・

1月12日 くもりいちじゆき
朝は「キリリン」と冷えて寒い一日の始まりとなった。「朝散歩に行くぞ」と、御主人がやってきたので、僕はうれしさのあまり、そこいら中を走り回った。ところが地面が凍っているものだから、ツルツルと滑ってしまう。御主人に「滑って怪我をするからはしゃぐのを止めろ」と言われたぐらいである。夕方散歩もその通りだった。御主人は、滑って転ぶのを恐れてつま先で歩いている。僕の場合は爪の先が滑り止めのようになっているので、歩く分には支障がない。ただ、気温が低い上に北西の風が強く吹いてくるので体感温度は、又一段と下がってしまう。もちろん僕は平気だけれどね。御主人はあまりの寒さで僕を引きずるようにして散歩を終わらせたって言うわけなんだ。

1月11日 ゆきがふったりやんだり
今日は電気保安協会の人が作業小屋の電気施設点検にやってきた。この所、犬小屋の中に引きこもって退屈し切っていた僕は、久しぶりのお客さんなので「わんわんわんわん」と勢いよく吠えようとした。ところが、保安協会の人の後から御主人が姿を現して、僕の首輪をがっちりとつかみ込んでしまった。よその人に僕が飛びかかってしまわないかと心配だったわけなんだ。でも、僕は自分に向かって敵意のある人には飛びかかるけど無害な人には吠えはするけれど乱暴な事はしないような習性なのである。まぁ、少なくとも僕の犬生7年の中ではね。と、いうわけで、久しぶりのお仕事を妨害された僕は御主人に文句を言った。すると、「おまえは何をしようとしていたんだ」という。よその人に飛びかかるかのように見えたのかも知れないけれど、「僕はお仕事を忠実に実行しているだけなのだ」と、今度は、御主人に向かって「ガウン、ガルルルル〜・・・」と唸り声を上げてやった。

1月10日 くもりのちゆき
昨日降った雪は全部消えてしまったのだけれど、今日の午後になって、又雪が降ってきた。辺り一面真っ白になった。
ところで、動物の世界のことわざに「アニマルにマニュアルはいらない」という洒落みたいなことわざがある。マニュアルとは日本語で言えば「手引き」のことである。これが書いてある本を見ると、自分で考えなくても行動できる。楽なのである。だから大概の人間は、人間のくせにマニュアルが必要なのである。ところが、最前も言ったように、動物に手引きはいらない、つまりアニマルにはマニュアルはいらないという言葉になってくる。なぜなら、動物は決まり切った行動をしないし、しようとも思わない。身近にいる猫さんを見れば納得できる事と思う。ところが、飼い犬に関しては「アニマルなのにマニュアルがいる」という事になってしまう。わかりやすいように、僕の行動を見てみよう。朝は決まった時間に散歩へ行き、必ず帰ったらおやつをもらう。(もらわない内はテコでも動かない)、一日中、番犬と昼寝の仕事をこなし、夕方は決まった時間に散歩に行き、御飯をもらう。このように行動が決まっていて、この行動からはずれる事を嫌う。これが一般的な飼い犬の姿なのである。「手引き」というのが、大まかな言い方であるならば「規範」と言い換えても良い。飼い犬は動物の常識である「アニマルにはマニュアルがいらない」という言葉の範疇には入らないのである。ならば一体、犬は何者なのか?人間でもない、動物でもないとするならば、植物か、神のどちらかに違いないと思っている僕なのである。


1月9日 ゆきがふったりやんだり
今日は、朝から雪が降ってきて、辺り一面真っ白になってしまった。こんな中、御主人は冬には珍しく外でお仕事をするらしくて、朝から出かけて行ってしまった。2月生まれのくせに寒いのが大の苦手な御主人にしては珍しいなって思ったら、集落の仕事なのだそうだ。まさか、寒いからと言ってさぼるわけにはいかないのだろう。お留守番を言いつかった僕は、さぼりながら犬小屋の中でぬくぬくとお昼寝を決め込んでいたというのに・・・午後も3時になろうという頃になって、御主人は「寒い、寒い」と言いながら帰ってきた。僕の身体で温めてやりたかったけれど、体温が奪われてしまうのが嫌だったので止めた。夕方散歩も、突き刺すような北西の風にさらされながらだったので、御主人は僕を引きずるように散歩へ行った。早く終わらせたかったに違いない。あくまでも飼い犬に対する義務感がそうさせたというような散歩だった。こんな御主人の散歩に対しては僕も一考しなければならない。寒い北風の中で、わざと立ち止まり、だだをこねてみたり、わざとゆっくり歩いてみたりと、御主人に様々な嫌がらせをしたのだ。別に、僕の性根が悪いわけではない。こんな時じゃないと、御主人に抵抗は出来ないからね。僕としては、御主人が僕の行動に対して、どんな反応をするのか楽しんでいるだけなんだけれどね。

1月8日 あめがふったりやんだり
まるで早春のような天気である。雪の代わりに雨が降ってくる。例年であれば2月の末から3月にかけて、こんな雨が降り積もった雪を溶かしてくれるのだけれど、この冬は溶かす雪もない。故郷の霊峰である鳥海山は2000メートル級だけれど、この山のてっぺんには、さすがに雨ではなく雪が降っている事だろうと思う。春雨なら、洒落た芝居の文句でも言ってみたくなるけれど、春雨ならぬ氷雨では、どうにもシャレにならない。「春よ来い!!」、そうしたら僕が月形半平太になって「春雨じゃ、濡れていこう」と見得を切ってやる。えっ、「月様、雨が・・・」っていう相方のセリフは誰が言うのかって・・・?。もちろん、可愛いメス犬に決まっている。でも・・・・いまのところ、心当たりがないんだよね。春先まで探しておくよ。

1月7日 はれのちくもり
今日も又、春のような陽気だった。お日様が燦々と降り注ぎ、風もなく穏やかな一日だったよ。僕なんか外へ出て、お腹を出してお昼寝をしたんだ。犬の場合、身体の柔らかい所プラス大事な所を寒気にさらしては眠らない習性になっている。お腹がそうであるように、お尻、目、鼻などである。お尻は尻尾で隠すようにするから大丈夫だし、鼻と目は後足の間、つまり人間で言えば足の太ももの部分に潜り込ませるようにして身体を丸くして眠る。特に、通常は濡れた状態にある鼻などは眠っている内に凍ってしまうと大変だ。このようにして、人間のように他力本願的暖房を持たない犬は、自分の暖かさのみで冬を乗り切るのである。でも、「春よ、早く来い!!」

1月6日 ゆきのちくもったりはれたり
どうやら、この冬も暖冬傾向らしい。雪が降ったと思えば、すぐ消えてしまうし、・・・おかげで僕のお腹は、散歩の時に泥んこ道を歩かなければならないので真っ黒に汚れてしまう。自慢の秋田犬特徴である「裏白」が台無しなのである。散歩から帰ると御主人にお腹をタオルで拭いてもらうのが日課になってしまっている。ヤレヤレなのである。冬は冬らしく、夏は夏らしく・・・・・でも、夏だけは夏らしくなって欲しくないと思うのが僕の本心だけれど、御主人は夏が好きだし、夏が暑くないと作物が良く育たないので、僕は大きな声で「夏はすずしく!!」とは言えない立場なのである。この飼い犬のつらい立場を今年は十分ご理解の上、この「ムツ犬のおまぬけ日記」を読んで欲しいと願う僕なのであっった。

注・・・「裏白」とは、すべからく秋田犬のアゴからお腹、尻尾の先に到るまで、地面の方を向いている肉体の色は白色でなければならないのだ。頭から背中、尻尾の先まで、空に向いている方の肉体が、赤、虎、ごま、白、であれ、そういう決まりになっているし、裏白でなければ「秋田犬」ではないとされる。

1月5日 はれのちくもり
今朝は「キリリン」と冷えてお日様がまぶしい。実に「消防出初め式」にふさわしい天気である。御主人は、もう消防団は退任している。だから今日の式典には関係がない。関係がないけれど、交通警備の関係で出動しなければならないのだった。お母さんも今日は仕事始めだし・・・僕も今日から仕事始めなのだ。なぜなら「留守番をしていろ」と御主人に言いつけられてしまったのだから・・・まぁ、誰も見てないし、お日様も出ているので地面に寝ころんで適当に仕事をしたふりをしていたのだけれどね。午後になって御主人が帰ってきたので、僕は真剣に自分のお仕事をしなければならなくなってしまった。そこで「わんわんわんわんわんわんわんわんわん!!」と、御主人にうるさいと言われるまで吠え続けたのであった。別に我が家へお客さんがやってきたわけではない。外を通る郵便配達の高校生に吠え続けたのであった。こんな人に吠える事が出来るのは1年に今の季節、一度だけだからね。貴重な体験をして僕も満足だよ。

1月4日 はれたりくもったり
今日は春のような天気になったよ。お日様が所々浮かんでいる雲のあいだから「いないいないばぁ〜」を何度も繰り返して僕を楽しませてくれた。僕は地面の上に寝ころんで、一日を過ごしたんだよ。
ところで、今年も4っかが過ぎ、すでにお正月気分は終わったかに見えたのだけれど、御主人夫婦は、まだ抜けてはいなかった。3日か連続で僕にお留守番を言いつけてお買い物に行き、なにやら買い込んでくる。今日は「飼い主用犬専属散歩に関わる防寒対策手袋」というのを買ってきた。御主人は、「たかだか、750円だ」と言うけれど、なかなか暖かいらしい。けれど、僕の毛皮にはかなわないはずなのである。ともあれ、飼い犬に対する義務とはいえ、寒い冬の散歩が幾分楽になった事は確かなようである。この手袋を大いに利用して、僕の散歩に励んで欲しいと思っている僕なのであった。

1月3日 くもり
雪はすっかりシャーベット状になってしまって、風景は所々、煙突の中をくぐり抜けてきた白猫のようにまだらになっている。そんな風景の中を帰省していた下のお兄さんが東京に帰って行ってしまった。僕も外へ出てお見送りをしたんだ、御主人が駅まで車で送っていったよ。
ところで、飼い犬には「正月休み」だの「お盆休み」などと言うものはない。年中、休みのようであり、仕事のようでもあり・・・飼い犬という物は複雑な稼業なのだ。一方、猫さんは「毎日が日曜日」状態・・・・らしい。らしいというのは、僕は猫さんの立場になった事がないからわからないので、年中、寝そべったりあたりをうろついたりしている猫さんの姿を見て、そう思っているだけなのだ。猫さんは猫さんで、犬の知らない所で仕事があるのかも知れないけれど・・・

1月2日 くもりときどきみぞれ
今日は、いくらか暖気になったらしくて、雪ではなくみぞれが降ったり、時々はお日様が顔を出したりしている。今日は正月も2日目という事もあって、昨日の緊張感がいくらか和らいでいるような感じがする。誰の?・・・っていうか、世間全体というか、御主人もそうだけれど、風景そのものがが「正月だぞ!!」という気負いが薄らいでいるような気がするのだ。その証拠に、僕の御飯は「いつもの御飯」になってしまったからね。いつもの御飯とは、ドッグフードに犬の缶詰(牛肉と緑黄色野菜の和え物)に御飯、その上に牛乳をかけ回した物。なのである。
と、いうわけで日を追うごとに正月気分が薄らいでいくのを敏感に感じ取っている飼い犬の僕なのであった・・・・

元旦 ゆきがたくさんふる
「新年、明けましておめでとうございます」
今朝、起きて犬小屋から出ると、辺り一面真っ白に化粧をした風景が広がっていたのでびっくりした。今日が1年の初めの日なので、神様も装いを新たにしようという気になったのかも知れない。そんな新雪というか、初雪を踏みしめて、初散歩に行ってきた。他のワンコとも初接近遭遇になった。「初遠吠え」もしたし、初御飯も戴いた。初御飯には、お正月らしく「鰹節削り」やら「卵焼き」などが入っていた・・・・・何処が正月らしいのかって言うと、いつもの御飯の上に何かのっているときは特別にごちそうなのだと思う習性が普段から付いているので、御主人が正月だ、正月だと騒いでいるので「そうなのかな?」と思っただけなのである。
とにかく、今年1年もごひいきにお願いするよ!!