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2020年11月1日発行 No.629 

「復活」の希望のうた

                            金田 佐久子

 NHKの連続テレビ小説『エール』の10月16日の回で、讃美歌「うるわしの白百合」(1954年版「讃美歌」496番)の独唱シーンが約3分もあり、大変驚きました。
 この放映の後で、讃美歌独唱に至るまでのいきさつがインターネットのニュースで紹介され、興味深く読みました。ドラマ『エール』では、主人公(モデルは昭和の音楽家・古関裕而)の妻の両親は豊橋在住の「日本聖公会のキリスト者」という設定です(そのこともあって私は途中からこのドラマを観ていました)。主人公の妻の母親「光子」を薬師丸ひろ子さんが演じています。ドラマのキリスト教考証は立教大学の西原廉太教授(日本聖公会司祭)で、西原教授ご自身がキリスト教考証者として、この場面についてのコメントをフェイスブックで発信しておられました。
 そのコメントによると、当初の台本では、薬師丸さん演じる「光子」が、空襲で我が家も工場も焼失してしまった焼け跡で「戦争の、こんちくしょう!」と唸りながら地面を叩くシーンでした。しかし薬師丸さんから、ここは地面を叩くのではなく、讃美歌の「うるわしの白百合」がその場面に適当ではないかという提案があり、キリスト教考証として西原教授が検証することになったというのです。西原教授は「1931年版『讃美歌』に「うるわしの白百合」が収録され(509番)、歌詞もほぼそのままであることが確認できた。大正から昭和初期に、とりわけ女子学生の間で愛唱されたようである」と歴史的事実を確認されました。そしてこの事実に矛盾しないよう「『光子』はミッションスクールの卒業生で、学生時代に『うるわしの白百合』に親しんでいた」という設定を提案されたとのことです。
 この場面の撮影当日に西原教授が立ち合い、薬師丸さんが「うるわしの白百合」の1節と2節すべてを完璧に暗唱されてこられたのを知りました。こう書いておられます。
“…薬師丸さんは、最初は静かに「うるわしの」と歌い出され、そして2節に入ると、歌は高揚し、最後はまさしく「絶唱」であった。監督の「カット」がかかっても、広いスタジオは深い沈黙に包まれたままであった。…若いスタッフたちが、目を真っ赤にしながら泣いていた。私も、胸が締めつけられながら、涙が溢れて止まらなかった。…「うるわしの白百合」の歌は、深い深いところで響いたのだろうと思う。…今回の放映で、ただの1秒もカットされることなく、1節、2節、すべてが歌われた…”
 「うるわしの白百合」を歌うことが薬師丸さんの提案であったと知り、その見識に感じ入りました。キリスト者ならば、信仰者ならば、ここで讃美歌を歌うのではないかとお考えになったからです。薬師丸さんご自身ミッションスクールに在学中この讃美歌に親しんでいたそうです。また、この讃美歌独唱場面をノーカットで放映を決断されたドラマスタッフの見識にも敬意を表します。
 ドラマでは戦時下「光子」は特高に目を付けられ、秘かに家庭集会に集っていましたが、その集会で同じ信徒から妬みや皮肉を言われる場面もありました。当時生きていたら、キリスト者としてどう行動しただろうか、と思いました。「うるわしの白百合」はキリストの復活をうたう讃美歌です。今も昔も、戦争・死・暴力の前に、無力を覚えることがあります。現在コロナ禍の苦難があります。しかし、信仰者は賛美することができます。キリストを復活させられた神が、私たちの神となっていてくださる。賛美はその神への祈りなのです。

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