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2023年11月1日発行 No.665

病の中で何が幸福なのか

                            金田 佐久子

 今年も「聖徒の日」(11月第1日曜日)が巡ってきました。先に神のみもとに召された方々を偲びつつ、召天者記念礼拝をささげます。
 先月、がん哲学外来で知られている樋野興夫先生の新刊『なぜ、こんな目にあわなければならないのか がん病理学者が読む聖書「ヨブ記」』(いのちのことば社)が発行され、拝読しました。対話に満ちていて、一読しただけでは消化しきれないほど豊かな内容です。召天者記念礼拝を思いつつ、この本の中から、今、心に留まったところを分かち合いたいと思います。「第二章 家族は天からの預かりもの」から引用いたします。
 “…私はお子さんを亡くされたご両親に、何組もお会いしたことがあります。ほとんどの方が誰かを恨むことはなく、「これから、どう生きていくか」を淡々と語っていた姿がとても印象的でした。淡々とした様子の裏に、深い悲しみがあることは承知しています。ではなぜ、このような潔いとも思える振る舞いが可能になるのでしょうか。それは、お子さんに徹頭徹尾、寄り添ってきた日々があるからです。ある母親がつぶやいた言葉を、今でも鮮明に覚えています。
悲しさよりも、一緒にいられないことが心の底から寂しい」。…”
 寂しさは、お子さんに対する大きな愛があったからこそです。私たちが愛する者と、今、共に生きていること自体、かけがえのないときであり、出来事だと思いました。
 もう一つ分かち合います。
 “…編集者から聞いた作家の井上ひさしさん(1934~2010年)のお話を紹介します。
 井上さんは五歳の時に父が病死、家族とともに東北各地に移り住むなど苦労されましたが、大人になってからは膨大な資料を読み込んだ人間性あふれる小説や戯曲で、多くのファンを惹きつけました。しかし晩年、肺がんであることが発覚します。その病の渦中にあって井上さんは、「戦争や災害で死ぬのに比べて、病気で死ぬのは幸せなことなんだよ」と周囲に語ったそうです。死と幸せを結びつけるあたりに、カトリック教徒と言われる井上さんの信仰心があるのかもしれません。…”
 戦争や災害に見舞われている時代、井上さんの言葉が心に沁みます。地の上に平和を祈ります。

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