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2024年5月1日発行 No.671

人生はあなたに期待している

                            金田 佐久子

 「あなたが人生に期待できなくなっても 人生から期待されている」
 これは先月、川口がん哲学カフェいずみのオンラインカフェでいただいた言葉の処方箋です。「人生から期待されている」はフランクルの言葉です。カフェが終わってから偶然、NHKラジオの聴き逃しで「人生はあなたに期待している―V.フランクルからのメッセージ」が配信されていることに気づき聴きました。
 ヴィクトール・フランクルは第二次大戦中にナチスの強制収容所を経験し、その過酷な体験を『夜と霧』という本に綴った、オーストリアの精神科医です。極限状況の中で、人間はいかに生きる道を見出し得るのかを、明らかにしようとしました。番組では大阪府立大学名誉教授で哲学者の山田邦男先生が、フランクルの言葉をひも解いてくださいました。山田先生はフランクルの著書『それでも人生にイエスと言う』を翻訳されています。
 春からの新生活の中、学校や会社などあたらしい環境になじめず、戸惑っている人がいるかもしれません。苦境をどのように生きることができか、フランクルは私たちに何を語りかけてくれるのでしょうか。
 苦しみの中で人間を支えるものは何でしょうか。フランクルは強制収容所の体験から二人の例を挙げています。一人はその人が限りなく愛している子供が外国にいて彼を待っている。その子のことを考えると、いくら苦しくても耐え抜かねばならないと決意します。もう一人は科学者で、強制収容所に収容される前に書いていた書物が未完成のままになっており、彼はどうしてもその書物を完成させたいと願っている。そのことを書物の方から見ると、その書きかけの書物が彼を待っている、ということになる。生き地獄の中で彼らを支えたものは、自分の愛する子供や精魂を傾けて書いてきた書物であった。そういうものが自分を待っている。それらが自分を呼び求めている。そして自分としてはいくら苦しくても、それらの呼び求めに応えねばならないと決意します。結果、この二人は強制収容所を生き延びることができた。その呼びかけに応えることによって、そこに彼ら自身の生きる意味が生まれていたのでした。
 ですから、人の生きる意味は何かと問う場合、その問いを180度転回する必要がある、つまり「私は人生から何を期待できるか」という問い方から、「私は人生から何を期待されているか」という問い方へと、問いの観点を180度転回する、というのです。この「観点の転回」を行うとき、自分という存在は常に人生から問われていることになります。そしてこの問いかけに答えるとき、そこに意味が生まれてくると、フランクルは述べています。
 「観点の転回」を、教会の信仰に生きる者として受けとめると、自分中心から神中心への転回です。私たち一人ひとり、神に造られ、神に愛され、神に罪を赦された存在だからこそ、神から期待されている、神が呼び求めてくださっているのではないでしょうか。
 「あなたがたに平和があるように。父がわたしをお遣わしになったように、わたしもあなたがたを遣わす。聖霊を受けなさい。…」(ヨハネ20・21~22)

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