東アジア酸性雨モニタリングネットワーク(EANET)構築下における

日本での酸性雨広域モニタリングの位置付けとその役割

 

今年は富山市。150名を越える研究者・市民、学生らが酸性雨講演会に参加。

 

 11回近畿北陸・酸性雨講演会が7月25日(木曜)に富山市の高志会館カルチャーホールで開催された。この真夏恒例の行事は昨年はホームグラウンドの大阪市で開催されたが、今年は富山県環境科学センターの全面的な協力の下に、初めて富山市での開催が可能になった。テーマは「東アジア酸性雨モニタリングネットワーク(EANET)構築下における日本での酸性雨広域モニタリングの位置付けとその役割」で、その趣旨は以下の通りである。

 EANETが構築される中で国内のモニタリング体制のあり方が問われている。酸性雨における「地域的」と「広域的」との差は何であろうか。環境監視においてもより効率的で効果的な体制が求められている。これまで、日本あるいはアジアを視野に入れて地域でモニタリングを行ってきた中で次世代に確実に何を継承して行く必要があるのであろうか。

 北陸での開催は第8回に次いで二度目ではあったが、どの程度の参加者があるか不安であったが、富山県環境科学センターの鳥山さん等の努力により、地元の自治体関係者、市民や学生が100人以上が参加し、東北や九州等からの参加者も含め、150名以上が会場を埋めるという大盛会となった。

 最初の演者である鳥山成一氏(富山県環境科学センター)は「富山県における酸性雨による金属腐食について」と題した講演を行った。富山県は日本海に面し、背後には3000m級の山岳からなる中部山岳国立公園を擁する自然豊かな県である。古くからの銅器やアルミニウムの美術工芸品の伝統地場産業やアルミニウム関連企業が多数立地している他、文化財も多く、早くから金属腐食についての関心が高い。このようなことから、富山県では酸性雨による金属腐食への影響のメカニズムを解明し、かつ金属腐食を大気汚染の評価指標及び文化財への影響評価する目的で、炭素鋼板、青銅板、アルミニウム合金板、銅板、鉛板等の金属板を用いた調査を実施している。鳥山氏はその結果を報告した。

 次に、田口圭介氏(大阪府環境情報センター)が「全国環境研協議会(全環研)酸性雨共同調査に参加して思うこと」と題した講演を行った。全公研は全国都道府県政令市等にある67の環境・公害関連の研究機関で構成された協議会で、これまで三次にわたる酸性雨全国調査を実施してきた。田口氏はその事務局を引き受けた経験などをもとにして、「全環研は今後もこれまでと同じような全国レベルの共同調査を実施していけるのか」、あるいは「新しい方向に向かうべきなのか」等について私見を述べた。

 また、山川和彦氏(京都府保健環境研究所)は「三宅島噴火に伴う大気への影響、‐東海・

近畿・北陸地方でのSO2高濃度事例と酸性雨」と題した講演を行った。三宅島の噴火後の平成12年8月以降の降雨pHは明らかに平成11年度より低くなっていた。また、nss-SO42-の沈着量は平成12年9月以降多くなり、特に三宅島に近い地域は顕著であった。地域的には三宅島に近い関東および東海はもとより、程度の差はあるものの北海道・東北から九州に至る全国に影響が及んでいる。

 最後に、藤田慎一氏((財)電力中央研究所)は「東アジアの酸性雨−水・物質循環系の視点から−」と題した講演を行った。水と物質の循環の関わりを検討するうえで、湿性沈着量とガス状・粒子状物質の濃度はもっとも重要な情報の一つである。洗浄比は両者を介在する役割を担う。黄砂や噴煙の広域輸送を解析する際にも、濃度データは不可欠であり、その多くは酸性雨のモニタリングを通して蓄積されてきた。日本の酸性雨の研究者は、過去20年間の取り組みの結果、水・物質循環の研究に必要な宝庫を抱えていたのである。ならば酸性雨に拘泥せず、もっと広い視野で大気科学の進展に貢献できるのではなかろうか。

 来年は、東海地方で開催できないかと検討中である。(文責:玉置元則)

 

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