酸性雨調査研究における乾性沈着の位置づけ、―乾性沈着の環境への負荷―

 

100名が岐阜市での第12回近畿東海北陸・酸性雨講演会に参加

 

 12回目をむかえる近畿東海北陸・酸性雨講演会が7月24日(木曜)に岐阜市のぱるるプラザ岐阜・5階大会議室で開催された。今年は岐阜県保健環境研究所の全面的な協力の下で、初めて岐阜市で開催することが可能になった。テーマは「酸性雨調査研究における乾性沈着の位置づけ、―乾性沈着の環境への負荷―」で、その開催趣旨は以下の通りである。

酸性雨調査研究において、従来から長期的に行われてきた降水や霧などの湿性沈着に加え、非降水時の沈着過程である乾性沈着の重要性がより指摘されるようになってきた。ガスや粒子による乾性沈着過程は複雑であり、その評価方法の確立も容易ではないが、個別研究においてのみならず、広域的なモニタリングにおいてもフィルターパック法やデニューダー法で濃度データの蓄積がなされるようになってきている。乾性沈着の考え方、濃度測定のデータならびに生態系への影響などを総合的に議論できる機会を設定したい。

 東海地方での開催は1996年の名古屋市での第5回講演会に次いで2度目であったが、どの程度の参加者があるのかはきわめて不安であった。しかし、岐阜県保健環境研究所の木方所長や角田部長などの努力により、岐阜県ならびにその周辺の方々が多く参加してくれ、遠方からの参加者も含め、約100名が会場を生めるという大盛会となった。木方所長と玉置の挨拶に引き続き、酒井哲男氏(名古屋市環境科学研究所)と平木隆年氏(兵庫県立健康環境科学研究センター)が座長をつとめ、熱気に包まれた講演と質疑応答が続いた。

 最初の演者である村野健太郎氏(国立環境研究所)は酸性雨研究における乾性沈着評価の重要性」と題した講演を行った。まず、湿性沈着量の測定は全世界において精力的に行われているが、同様に重要である乾性沈着量の測定はいまだに試行錯誤が続いているとし、酸性雨研究で指導的な役割を果たしている欧米諸国においても乾性沈着量のデータは限られていること、日本国内においてはかってはバケットを用いた代理表面法が使用されていたが最近は行われなくなったこと、乾性沈着量の推定はインファレンシャル法や濃度法により行われていること、および大気汚染物質の濃度測定はフィルターパック法などで行われていることを説明した。それに加えて、欧米で用いられている濃度測定の種々の方法や最新のデータについても具体例を示した。

次に福崎紀夫氏(新潟県保健環境科学研究所)は東アジア地域における乾性沈着モニタリング」と題した講演を行った。福崎氏は大気環境学会酸性雨分科会代表幹事でもあり、この3月までは酸性雨研究センターの大気圏部門の研究責任者でもあった。その経験と豊富な資料を駆使して主に次の点を説明した。東アジア酸性雨モニタリングネットワーク(EANRT)は東アジア地域における酸性雨問題に関する共通理解の形成、政策決定に有益な情報を提供すること及び酸性雨問題解決に向けた協力推進を目的に活動しているが、そこでの乾性沈着モニタリングの全容を理論的背景も含めて説明した。さらにEANETでのモニタリングの現状に加えて、韓国が中心になって稼動しているLong-range Transboundary Air Pollutants in Northeast Asiaなどのプロジェクトにおける乾性沈着モニタリングの現状などを示した。

 また、北瀬 勝氏(名古屋市環境科学研究所)はフィルターパック法により得られる濃度データの評価」と題した講演を行った。全国の自治体における環境・公害関係の研究機関の連合体である全国環境研協議会(全環研)では、1999年度から2001年度までの3年間、湿性沈着に加え乾性沈着を全国規模で把握する目的で第3次酸性雨共同調査を実施してきた。北瀬氏は3年間のこの調査のとりまとめにも参画してきたが、ここでは、近畿東海北陸ブロックの調査地点で実施したフィルターパック法による濃度データを用いて、ガス状物質や粒子状成分の地点差や季節変化、物質・成分間の関係について検討した結果を報告した。得られた結果では、都市部で高濃度となった地点ではルーラル地点と比較してHNOとHClが2−3倍、それ以外は5−7倍の濃度であった。フィルターパック法による測定で得られるデータは本来の目的に加えて、金属に対する腐食影響やSPMの長期的あるいは短期的な変動を検討するのにも有用であることも示した。

最後に、井上隆信氏(岐阜大学)は渓流河川の水質変化特性と降水の酸性化との関係」と題した講演を行った。渓流河川など陸水に対する「酸性雨」の影響においては、今のところ乾性沈着を区別して解析できるようなデータはほとんど得られていないようであるが、湿性沈着に加えて乾性沈着を強く意識して本テーマを説明した。陸水生態系の保全のためには、陸水が酸性化してからではすでに遅く、酸性化する以前にその兆候を把握し対策を講じる必要がある。北欧等では、融雪時に陸水が酸性化するAcid Shockから生態系への影響研究が始まったが、降水量の多い日本では、降水時に渓流水が酸性化する可能性がある。降水は融雪よりも短期間で流入量も多いことから、湖沼に与える影響も大きいと考えられる。とくに、降水時における渓流水の水質変化を中心に渓流河川の水質変化特性を、伊自良湖上流地点に設けた観測地点のデータをもとに報告した。自動観測装置の設置と頻度の高い水質調査を行うことで、降水時の水質変化を長期間モニタリングすることができ、降雨時のpHや導電率の低下が観測できている。

 来年も東海地方(愛知県)での開催を検討中である。(文責:玉置元則)

 

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