第4回国環研ミニシンポジウム−越境大気汚染研究−  報告

                 日浦盛夫(広島県立総合技術研究所 保健環境センター) 

 

 第4回国環研ミニシンポジウムが,2007227日に国立環境研究所で開かれました。このミニシンポジウムで,国環研の村野先生,向井先生と地環研研究者の共同研究成果について発表と討論が行われました。私ははじめての参加でしたが,「越境大気汚染」については行政やマスコミも注目しており,非常にタイムリーな議題で興味を持って参加させていただきました。

 前半にあった6つの演題は,降水等の鉛同位体や金属濃度の測定に関する発表でした。

「降水による廃棄物中鉛の溶出とその同位体比測定」では,石膏ボードを加えた産業廃棄物の溶出試験で,浸出水中にみられる鉛をその同位体比から由来を推定するものです。鉛同位体比の測定が鉛汚染の発生源推定に有効なツールになる可能性が示されたものと思います。降水の中の鉛同位体比の解析に関する発表が3件あり,それぞれ流跡線解析と気隗の通過エリアから発生源の推定を行うものでした。そのうち,「八方尾根における調査」では,MnAlとの元素間相関等についても解析されています。他の金属元素の挙動をあわせて解析することでより,有効な解析結果が得られるものと思われます。「松山,大阪,つくばで同時観測した浮遊粉じん中金属元素濃度比と長距離輸送と地域汚染の解析」では,ハイボリで採取した試料の金属比と流跡線解析から地域汚染と長距離輸送の影響を求めるものです。最後に向井先生から鉛同位体比の観測に関する現状として,中国や韓国の有鉛ガソリンの廃止とそれに伴い日本での同位対比との差が縮小していることや,韓国や中国の地域によっては特異的な同位体比が存在することなど今後の方向性について示されました。

 越境汚染汚染と地域汚染の寄与を精度良く解析するためには,発生源のデータの充実が重要と感じました。

 

 後半は,酸性雨に関するものを中心に粒子状成分,ガス状成分を含む発表が7件ありました。沖縄県の湿性沈着の経年変化で近年年々pHの低下傾向が見られること,また,nss-SO4,NO3,NH4の増加傾向が見られたようです。「文献検索による酸性雨研究のトレンド調査」では,国内でよく使われるJDreamUを使って,「酸性雨」等をキーワードで文献出現の頻度を解析したもので,酸性雨研究のトレンドが見えて興味深いものでした。「大気中二酸化いおうと粒子状硫酸塩による東海近畿北陸支部の地域的・広域的特徴の解析」全国酸性雨調査研究部会で実施された第3次調査(フィルターパック法)を中心に発表がありましたが,三宅島の噴火の影響がはっきり認められております。「埼玉県騎西町における大気中ガスおよび粒子状成分の夏期調査」は光化学反応をターゲットにして夏期にフィルターパック法を用いて調査し,ガス成分と粒子状成分を求めて,汚染物質の高濃度要因や地域特性を解明されています。

演題発表に引き続き,午後は,来年度の予定や運営に関する意見などの討論がされました。

演題発表は15分で行われたが,もう少し討論の時間をとって十分な議論ができればよいが,酸性雨講演会やC型研究の会議との絡みもあるので,検討を要するようです。また,調査研究の今後の展開として,サンプリングを各地方環境研でおこなって,分析を手分けしてすれば広域な調査を合理的との意見がありました。ぜひ検討して頂きたいアイデアですが,その際,採取機材や採取期間等の調整が難しいような気もします。

 私は大気関係の業務経験は短いのですが,これまで主にSPM調査をしており,試料もいくらかあるので,早速ICP/MSでの鉛同位体測定をしてみようかと思っています。これが今回のシンポジウムに参加させていただいた大きな成果と感謝しております。

 

 

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第4回ミニシンポジウム−越境大気汚染研究−

 

日時:平成20年2月28日(木曜日)

場所:国立環境研究所 第2会議室

 

プログラム

 9:00− 9:15 長野県環境保全研究所(鹿角孝男)

降水による廃棄物中鉛の溶出とその同位体比測定

 9:15− 9:30  富山県環境科学センター(溝口俊明)

富山県射水市における降水中の鉛同位体比について

 9:30− 9:45 宮城県保健環境センター(北村洋子)

国設箟岳局における降水中の鉛安定同位体比について(3)

 9:45−10:00 京都府保健環境研究所(日置 正)

松山、大阪、つくばで同時観測した浮遊粉じん中金属元素濃度比による長距離輸送と地域汚染の解析

10:00−10:15  長野県環境保全研究所(鹿角孝男・中込和徳)

八方尾根における降水中微量金属元素の挙動と長距離輸送

10:15−10:30 国立環境研究所(向井人史)

鉛同位体比観測について−そのポイントのまとめ?−

10:30−10:45 鉛同位体比測定議論

 

10:45−11:00 休憩

 

11:00−11:15  沖縄県衛生環境研究所(友寄喜貴)

沖縄県南城市大里における湿性沈着の経年変化(平成8〜18年度)

11:15−11:30  広島県立総合技術研究所 保健環境センター(大原真由美)

瀬戸内海の島での酸性沈着物質の特徴

11:30−11:45  京都府保健環境研究所(都築英明、谷尾桂子)、大阪工業大学(都築泉)、国立環境研究所(村野健太郎)

文献検索による酸性雨研究のトレンド調査

11:45−12:00  広島県立総合技術研究所 保健環境センター(日浦盛夫)

広島県における煙霧と浮遊粒子状物質調査

12:00−12:15  兵庫県立健康環境科学研究センター(平木隆年)

大気中二酸化いおうと粒子状硫酸塩による東海近畿北陸支部の地域的・広域的特徴の解析

12:15−12:30  埼玉県環境科学国際センター(松本利恵)

埼玉県騎西町における大気中ガスおよび粒子状成分の夏期調査

 

12:30−13:40 昼食

 

13:40−15:00 討論

 

 

問い合わせ:独立行政法人 国立環境研究所 企画部  村野健太郎

直通TEL  029-850-2908  共用FAX 029-851-2854

 e-mail: murano@nies.go.jp

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