第13回酸性雨講演会(大阪等)
●聖地・高野山で酸性雨と森林生態系を学ぶ
玉置元則(財団法人・ひょうご環境創造協会)(2005/8/15)
盛夏、7月28日ー29日に、和歌山県・高野山で「酸性雨講演会」と「酸性雨情報交換会」が開催され、東は宮城県から西は佐賀県まで約50名が参加した。
「酸性雨講演会」は、大気環境学会酸性雨分科会と酸性雨研究会が共催し、今回は和歌山県環境衛生研究センターのご協力で開催されたものであるが、年に3回程度各地で行われている。そのうち、夏季は近畿地方を中心にして開催されてきており、今回で13回目であった。一方、「酸性雨情報交換会」は地方自治体の環境・公害関係の研究機関の連合体である全国環境研協議会の東海・近畿・北陸支部が主催しており、今回で22回目であり、これも和歌山県環境衛生研究センター所長・錦見先生が陣頭指揮され開催が実現したものである。和歌山県での開催は平成9年(第7回)の南紀に次いで2度目であり、前回は台風の最中にびしょぬれになり熊野古道を歩き、潮岬で台風の直撃を受けるというきわめて印象的な会であった。今回も直前に台風8号が日本列島を襲い、開催が危ぶまれたが、幸運にも直前に通り過ぎ、絶好の好天に恵まれた。
高野山での開催は、主催者の一人である玉置が強く要望して和歌山県の関係者のご好意で実現した。強く希望した理由は、故郷(橋本市学文路。高野山は橋本警察所轄)であるというまったく個人的な願望に加えて、多くの方に南海電車高野線に乗ってほしいということと弘法大師の懐に抱かれた真言密教の聖地で心安らぐひと時を過ごしてほしいという両面からであった。動物は最初に見た動くものを母親と認識するようであるが、私にとってそれは緑色の高野線の電車であり、次いで緑色の南海ホークスの鷹印であった。
ところが、ある日、近畿地方にある某超有名大学の超有能若手研究者との会話で唖然とさせられた。『高野山へ行ったことあるやろ?』、「ありません。どこにあるんですか」、『―――』。「どうやって行くんですか?」、『南海電車や!』。「どこで乗るんですか?」、『―――。難波や!』。私はそれまで、高野山へ大阪・難波駅から南海電車高野線に乗って行く、というのは関西に住んでいる人間の常識以前の知識と経験であると思っていた。また、いくら優秀な人間であっても、この常識を知らない人間は私にとっては関西人と名乗る資格がないと思っている。これは彼のまったく個人的な生活範囲の中からの常識外れの反応であると強く思っていたが、もしかしたら、彼以外にまだそういう非常識な若者がいるかのしれないという懸念が私の心中をよぎった。「近畿のおまけ」と歌でもさげすまれている和歌山県人にとって、高野山は最後の砦のひとつである。
南海電車には恨みがある。昭和63年10月30日、暮れなずむ難波大阪球場の夕陽の下、悲しみのトランペットの音に送られて南海ホークスは福岡の地に旅立った。さらにそれに追い討ちをかけるような事件が平成6年12月15日に起きた。南海電車の社長が「高野線は田舎くさい、不快な思いがするから、今風、都会風の山手線に名前を変えイメチェンする」という提案である。結果として最終的には高野線の名前は残った。真言宗・高野山にも恨みはある。高野山寺社領の領民として積年の恨みがある。しかし、いくら騙されても、いじめられても母親・高野線を捨てきれないし、精神的支柱は父祖の骨が眠る高野山・奥の院にある。
講演会は高野町中央公民館で蝉時雨と緑陰に包まれて開催され、4名の演者が興味ある講演を行った。和歌山大学の高須先生はこの地方に自生するマタタビの話をされた。高野山大学の奥山先生の「南方熊楠と曼荼羅の思想」は環境問題における循環系を自然科学的ならびに哲学的に理解するヒントを与えてくれるものであった。これ以外に玉置から酸性雨の課題を、和歌山県の上平氏が酸性雨の監視体制と現状を説明した。
講演会終了後、隣の宿坊・光明院に宿泊し、和歌山県の錦見所長や大阪産業大学・菅原学部長を囲んで夜遅くまで懇親を深めた。光明院は後白河法皇の皇子の開基でご本尊は阿弥陀如来立像であり、高野槙と石楠花に包まれた感じのいい静かなお寺であった。いくら夜遅くまで口角泡を飛ばして議論をしていても、お寺の朝は早い。眠い目をこすりながら6時半には本堂に集められ、全員参加の朝のお勤めが始まる。心ならずも、心洗われる思いにさせられる。
2日目の午前は、「酸性雨情報交換会」の勉強会である。国立環境研究所の村野先生は、直前にチェコのプラハで開催された2005酸性雨国際学会の概要を説明された。5年前につくばで前回の学会がもたれたが、あっという間の5年の経過であり、その後の各国の研究成果が発表されている。和歌山県の上平氏は「高野六木のかおり」の話をされた。昔から高野にある香り高い樹木と、最新最高の分析機器の力を駆使した化学成分との関係を説明された。しかし、すべて科学的に説明されてしまうと逆に味気ないものもどこかに感じる。「秘してこそ花、秘してこそ香」であるかもしれない。和歌山の野中氏は、鉛同位体比測定における汚染解析例を説明された。
勉強会終了後、高野山金剛峰寺の学芸員2名の方に案内していただき、2班に分かれて約5時間、高野山の植生の説明を受けた。最初に一の橋から奥の院まで2kmにわたる墓地の間に生い茂る高野杉などを解説していただいた。参道に沿って戦国武将などの巨大な墓石が何百、何千と並ぶさまはまさに壮観である。私見ではあるが、真言宗(高野山)は権力迎合的であると思っているが、宗派を問わず、諸大名などの墓を受け入れている包容力は別の側面を見せている。その墓石を包むように樹齢500年を超える杉の大木が林立しているが、水廻りや敷石による障害など人為的理由で、十分に根が張れず衰退したり倒木した杉も相当数あるようである。
奥の院前から山道に入り、高野山の森林をトレッキングし、昆虫・動物も含めた豊な生態系を実感した。他の地域と同じように高野山にも「高野」の名の付く樹木が多数ある。そのうちの一つに「高野箒」がある。先年、奈良県の山間部で殺人事件があり、遺留品として「高野箒」の葉っぱが残されており、その生育域が限定していることから有力な手がかりになると報道された。それが手がかりになったかどうかはともかく、犯人は捕まった。その名前から当然高野山一帯にしか生育していない木とばかり思っていたが、違った。学芸員談「高野では竹で作った道具で悪霊を閉じ込めています。例え箒であっても、竹を使えば、悪霊がよみがえってくるので、高野では箒としてこの木を使っています。」目から鱗である。
すべての行事が終わるやいなや、観光客に早変わりし、10%割引券を持って、「数珠屋四郎兵衛」に走り、お土産を買った。もちろん、「高野山に行って来ました」的饅頭や煎餅もあるが、お土産は「数珠」、「高野豆腐(凍り豆腐)」、「胡麻豆腐」、「高野槙」などである。バス、ケーブル、高野線を乗り継いで、高度800m差、6℃低い聖地から、喧騒であるが魅力ある町・難波に帰りついた。
(本原稿は、雑誌「環境技術」9月号掲載内容を改定したものである)
●
第22回酸性雨情報交換会に参加しました
山本暁人(京都市衛生公害研究所)(2005/8/13)
7月28〜29日に和歌山県の皆様のお世話で開催されました酸性雨情報交換会に参加させていただきました。たどたどしい文章ですが,ご報告させていただきます。
開催日が近づくにつれ,台風も近づいてきて,「もしや当日は台風の直撃をうけるのでは!?」と心配もしましたが,晴天に恵まれ,高野山大学の奥山先生曰く「高野山では暑いくらいの日」のもと,1日目を迎えることができました。
1日目の講演会では,高須先生,玉置先生,奥山先生,上平先生より,高野山や和歌山県に関係する植物,歴史,思想,及び酸性雨の各方面より貴重なお話を聞かせていただきました。また講演途中には,会場の間近でヒグラシが鳴いて演者のお声が聞きとりにくくなるくらい自然を感じることもできました。
夜の懇親会は,宿泊先の宿坊にて,高野山ならではの「精進料理」をいただくことができました。その後,2次会は宿泊する一室で行なわれました。ビール,日本酒,ワイン,ソフトドリンクと十分すぎるほど用意していただき,深夜までとても楽しいお話や議論などなど大盛況でした。
2日目の朝は「オツトメ」が早朝6時半よりありました。少し早起きをして,お経らしきもの(?)を仏前の前で聞かせていただき,とても心洗われる思いでした。
朝食後,上平先生,村野先生,野中先生のご講演を聞かせていただき,高野山の女人道(昔,高野山が女人禁制だったころ女性の方が最も高野山近くに訪れることができた周辺の山道)を目指し,高野山の自然環境の視察に出発しました。西田先生,茶原先生の詳しい解説と,植物を手にとってみたり,匂いを嗅いでみたり,口に含んでみたりと実演もあって,高野山の自然をとても身近に感じることができました。
残念ながら,時間の都合上,奥の院にお参りすることができなかったのですが,もう一度是非来たいと思うほどすばらしい所で,かつ充実した2日間でした。
村野先生(国立環境研究所)と楽しくお酒を飲むと,もれなく感想文の宿題がついてきます。次はあなたの番かもしれません!?
追伸
秋の情報交換会の日程が決まりました。
11月30日(水)です。お時間が合えばぜひ参加してください。
ご講演くださる方は・摂南大学 海老瀬先生
・京都府 山川さん
・京都市 吉川さん の3名を予定しています。
場所は,京都キャンパスプラザ(4階第4講義室)と
環境省の酸性雨陸水モニタリング調査地点である沢の池の現地視察を予定しています。
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
第13回酸性雨講演会(大阪等)
日時:2005年7月28日(木)13:00〜17:00
場所:和歌山県高野山、「高野町 中央公民館」
(南海高野線高野山、奥の院行きバス:かるかや堂前下車徒歩5分大阪なんば駅から2時間30分強)
主催:大気環境学会酸性雨分科会、酸性雨研究会、他
講演内容
1) 植物の個体の寿命と枯死について 高須英樹(和歌山大学)
2) 酸性雨問題の現状と課題 玉置元則((財)ひょうご環境創造協会)
3) 和歌山県の酸性雨の監視体制と沈着量のトレンド 上平修司(和歌山県環境衛生研究センター)
4) 南方熊楠と高野 奥山直司(高野山大学)
資料代:1,000円
連絡先〔お問い合わせ、申し込み〕:玉置元則( (財)ひょうご環境創造協会)
〒654-0037神戸市須磨区行平町3-1-31 e-mail: tamaki@heaa-salon.or.jp FAX:078-735-1800
酸性雨分科会大阪講演会へ戻る 酸性雨研究会ニュースに戻る トップページに戻る