第3回国環研ミニシンポジウム−越境大気汚染研究− 報告 日置 正(京都府保健環境研究所)
2007年2月22日(木)、第3回国環研ミニシンポジウムが24名の参加者を迎え開催された。このミニシンポジウムは村野先生と共同研究を実施している地環研の研究者が一堂に会し、研究成果の発表と討論を行う場である。
小職は酸性雨研究会の会員ではないが、向井先生の降雪中鉛同位体比に関する論文にロマンを感じて、2001年以降、村野先生、向井先生とエアロゾルの長距離輸送に関する共同研究を継続してきた立場から、ミニシンポジウムには小職なりの思い入れもあり、報告を書かせていただくこととなった。
前日に国環研東京事務所で開催された第19回酸性雨東京講演会において、村野先生は「酸性雨研究の30年と将来展望」と題し、ご自身の研究の歩みを概観されるとともに、今後の研究の方向性について提示された。その中で、将来の課題として(1)EANET(東アジア酸性雨モニタリングネットワーク)を支える (2)湿性・乾性沈着モニタリング技術・システムの確立 (3)発生源インベントリー (4)観測研究(地環研との共同研究) (5)ソース・リセプターマトリックス (6)生態系影響 を示されたが、今回のミニシンポジウムの演題はこれらの課題のいくつかに取組んだものであり、村野先生の30年にわたる研究の総括にふさわしいミニシンポジウムとなった。
通例ならば各演題について概要を紹介し、報告者の感想や今後の展望を述べるところであるが、村野先生が近年取り組まれてきた研究分野や活動を網羅するシンポジウムであったことから、演題は合計13題、発表の分野も多岐に渡っているため個々の演題の紹介はご容赦いただき、全体の印象を述べるにとどめたい。
前半の演題は、4段ろ紙によるガス及び粒子状物質中のイオン成分、水稲葉枯症原因調査、瀬戸内の気象と大気質の特徴、奈良県河川水・ダム湖の酸性化、フィルターパック法によるアンモニアの動態、自動車から排出されるアンモニアの影響であり、ガス、エアロゾル、降水、陸水を網羅する酸性雨研究の裾野の広さを実感した。いずれもローカルな観測点としての地環研の特性を活かした研究であり、今後の発展が期待される。また、酸性雨調査における品質管理、JICA(独立行政法人 国際協力機構)酸性雨研修については、村野先生が取り組まれてきた活動分野の広さをあらためて認識した。特に、JICA酸性雨研修は故玉置元則さんが大いなる情熱を傾注されたことであり、その熱い思いが伝わってくる発表であった。今後も地環研の酸性雨研究者が玉置さんの情熱を連綿と引き継いでいただきたいと願う次第である。
後半の鉛同位体比及び金属濃度比に関する発表は、小職が携わっている研究分野でもあるので、少しコメントさせていただきたい。発表は、すべての降水を対象にして流跡線解析を行い、気塊が経由するセクターによる同位体比の差を議論しているが、降水はwash out(降雨中の大気汚染物質の取り込み)による地域汚染の影響をかなり受けるので、典型的な(大陸から観測地点に直達するような、あるいは相当の高度を輸送されるような)流跡線に絞ったイベント解析にもっていった方がより明確な結果が得られるのではないかと考えた。また、将来、多様な切り口で解析を行うことを想定して、ICP-MS(アルゴンプラズマ質量分析)法の強みである同時多成分分析能力を活かし、可能な限り金属濃度データを取っておくことを提案したい。
午後は鉛同位体比分析のSOP(標準作業手順書)について、午前に中込氏、鹿角氏(長野県)から発表のあったSOP案の検討を行った。若干、細部の詰めを行う必要はあるが、概ね参加者の合意が得られ成案となる見込みである。今後はこの案に基づいて各研究機関が自家版のSOPを作成し、運用することとなる。SOP案をまとめていただいた、また、同位体比分析のデータを取っていただいた皆様に感謝の意を表したい。
村野先生は前述の講演で、第7代東京市長 後藤新平の言葉「金を残すのは下、仕事を残すのは中、人を残すのは上」を引用され、人材を育成することの重要性を強調されたが、多方面にわたる地環研との共同研究ネットワークは他に類を見ないものであり、先生のご薫陶を受けた研究者は数多く、まさに「人を残された」30年の研究生活であったと感じた。
ミニシンポジウムの今後については参加者一同の関心事であったが、最後に、村野先生から向井先生へ来年以降のミニシンポジウム開催の意向確認があり、向井先生から「来年も開催します」という力強いお言葉がいただけた。参加者一同、これに意を強くし、さらなる研究の推進に取組むことを決意してミニシンポジウムを終えた。
参加された皆様、ご苦労様でした。
村野先生、向井先生、これからもよろしくお願いいたします。
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第3回 国環研ミニシンポジウム−越境大気汚染研究−
場所:国立環境研究所 温暖化棟会議室1(温暖化棟交流会議室の隣の小さな部屋)
http://www.nies.go.jp/index-j.html
プログラム
9:00− 9:15
県内4地点における酸性降下物調査結果−18年度調査結果−
9:15− 9:30
9:30− 9:45
中国山地と四国山地の間にある瀬戸内の気象と大気質の特徴
9:45−10:00
10:00−10:15
大気中アンモニアの動態
10:15−10:30
自動車から排出されるアンモニアの影響
10:30−10:45 休憩
10:45−11:00
酸性雨調査における品質管理システムの視点
11:00−11:15
地方環境研究所における国際技術貢献−JICA東アジア酸性雨モニタリングネットワーク研修−
11:15−11:30
鉛同位体比測定のSOP作成について
11:30−11:45
11:45−12:00
降水中微量金属成分濃度と鉛同位体比による長距離輸送と地域汚染の解析
12:00−12:15
国設箟岳局における降水中の鉛安定同位体比について(2)
12:15−12:30
12:30−13:40 昼食
13:40−15:00 討論(特に鉛同位体比測定のSOPについて)
●要旨集作成の都合で、参加登録が必須です。
2月14日(水曜日)までにメール(murano@nies.go.jp)か共用FAX 029-850-2579で参加の意志を村野まで示して下さい。
●部屋の大きさの都合で参加人数は20人に限らせていただきます。
不明な点は以下に連絡下さい。
独立行政法人 国立環境研究所 大気圏環境研究領域
村野健太郎
直通TEL 029-850-2537 共用FAX
029-850-2579 e-mail:
murano@nies.go.jp