「いま一度、酸性雨に注目を」「中韓などとの連携対策必要」

 阪口進(滋賀)、京都新聞(2004.4.20)

 

 日本では雨は昔から、川や海の水が蒸発してできた天然の蒸留水で、きれいなものと思われてきた。井戸や河川のない離島では雨水をためて飲料水や生活用水として長年利用してきた。

[73年に初の被害]

 そのきれいと信じてきた雨であったのに、1973年から75年にかけ関東地方で、酸性雨による初の被害が、主に人体被害として出たのだ。目や皮膚がヒリヒリすると訴えた人は、3年間で32,585人にものぼった。この時のpH(水素イオン指数)は、熊谷で3.05を示していた。83年になって当時の環境庁によって全国的に降雨状況の調査が行われ、日本全国でpH4台の雨が降っていることがわかった。

 志賀町に住む私は、85年5月、自宅庭に咲く平戸つつじの花びらに、雨後、脱色斑点ができるのに気づき、以来、私の酸性雨観測は続いている。

 酸性雨の定義は、pH5.6以下の雨をいう。専門家でもない私が、勤めながら観測を始めたのは単なる好奇心からで、長くは続かないと思っていたが、国立環境研究所の村野健太郎主任研究官に励まされながら観測を続けてきて、今年で19年になる。その間、一回の欠測もなく、観測を続けてこられたのは、妻の協力があったからと思っている。

 データを見る限り、85年の開始当時から現在までの状況は変わらず、年平均pH4.56の雨や雪が降っている。pH2.7のレモン並みの雨が降ったこともある。関東で人的被害がでたり、日光連山や赤城山で樹木の立ち枯れが発生した当時は、マスコミにも取り上げられ、酸性雨や環境に対する意識も高まったが、ノド元過ぎれば熱さを忘れるのたとえ通り、今では忘れ去られたように思える。

 日本には、中国や韓国をはじめ東アジア地域から、風に乗って運ばれてくる酸性雨の原因物質、硫黄酸化物や窒素酸化物がある。とくに中国は12億の人口を抱えた大国であり、最近の経済発展を見ていると、これら原因物質の排出量は急増すると考えられる。

[緩衝作用も限界]

 越境してくる大気汚染物質は、酸性雨や酸性雪に取り込まれる湿性沈着だけでなく天気の良い日にもガスやちりとなって飛来する乾性沈着がある。乾性沈着物質は、樹木や建造物などに付着するが、降雨によって流されて土壌にしみ込んだり、河川や湖に流入する。京阪神の人の飲料水にも利用される琵琶湖の水も、周辺の山や川から流れ込んでいるが、幸い土壌にはまだ緩衝作用があり、酸性雨も中和されている。が、酸性雨化が進んでいけば緩衝作用もなくなってこよう。大きな琵琶湖にはフタがない。河川からの流入以外に、酸性の雨や雪は広い湖面に直接降り注ぐことになる。 酸性雨による影響をあげてみると、琵琶湖の水源を涵養している樹木を衰退させる。酸性雨や酸性雪によって痛めつけられた森林で、ミズナラなどの樹木は、夏の高温などをきっかけに突然大量に立ち枯れるのだ。   また、土壌の酸性化は、土の中に固定されていたアルミニウムを溶かす。溶けたアルミニウムが脳に蓄積して、アルツハイマー病を発症させるといわれている。酸性雨問題は日本でも対策を進めなければならないが、東アジア全体で考え、対処する必要がある。

 いま一度酸性雨に目を向けることが、その第一歩である。研究者だけでなく、国や産業界とともに私たち市民も協力して、次の世代に美しい日本を引き継ぐのが責務だと思っている。

 

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