第20回全環研東海・近畿・北陸支部酸性雨情報交換会に参加して

玉置元則(財団法人・ひょうご環境創造協会)

 

 去る722日―23日に豊橋市で「酸性雨情報交換会」が開催された。今までは主催者側としての参加であったが、今回からはオブザーバーと名の付く参加であったため、後方からそっと皆さんの後をついて行った。今回は第20回という節目の会でもあり、第1回を神戸で開催した時、これが10年余も続けることができるとは思いもよらぬことで、きわめて感慨ぶかいものがあった。

全公研(現全環研)東海・近畿・北陸支部では1989年から共同調査研究会(酸性雨)の活動を開始していたが、調査を効率よくかつ精度よく実施するための情報交換の場、手法・技術の継承、普及、改良・開発の場、森林ならびにその衰退の観察の場としての「酸性雨情報交換会」の設置が望まれるようになり、1994年から活動を開始した。

最初は講演など室内中心の活動で、野外見学は将来の活動を見据えての気分転換程度の位置付けであった。しかし、六甲山麓、北山杉、大台ケ原、金剛山さらには乗鞍岳と、山に入り森林を見ていくうちに、参加者の意識は変化した。その最初の転機は大台ケ原であり、それを決定的にしたのは乗鞍岳だった。森林枯損の原因は別としても、屍の樹木が林立するさまを目にしたとき、都市部での大気汚染や酸性化した降水が脳裏にオーバーラップするのは避けられないことでもあった。

 この意識の変化は、より内に閉じこもりがちな研究行動のみからの脱皮を会員・参加者に要求せざるをえない。自ら森林に足を踏み入れなければならない。そこで起きていることを自らの目でしっかりと見据えなければならない。そしてそのことをより多くの人々に伝えなければならない。このことは研究者として野外を素材にし、室内実験と理論的整備により、科学としての体系化を図り、真実の解明に努め、その成果をもって森林保護の番人の一人になることを義務付られている。実際、本活動に協力していただいた国立環境研究所の村野先生をはじめとして多数の大学の先生らからも、本会の活動を高く評価していただき、これにより会員を中心とする参加者はどれだけ勇気付けられたかわからない。本会の初期の目的に関しては、情報交換という形での成果は十分得られたし、これをさらに積み重ねることでより得られるものは多くなる。

 今回は愛知県のご協力により次のような盛りだくさんの内容で実施することができた。

講演会は、豊橋商工会所で開催され、約50名の参加があった。主催者を代表して愛知県環境調査センター・近藤徳雄所長と兵庫県立健康環境科学研究センターの平木隆年研究主幹の挨拶があり、それに引き続き4名の講演が行われた。玉置は「酸性雨モニタリングと研究における自治体研究機関の役割」と題して、過去19回の酸性雨情報交換会の歩みを説

明した。北田敏廣氏(豊橋技科大)は「植物成長に対する大気汚染の影響 ー持続可能な地域排出の管理は?:総合評価のためのモデリングPGSM(Plant Growth  Stress Model)」と題して、具体的な例をあげて新しい総合評価手法を示された。片山幸士氏(人間環境大学)は「都市周辺での水の循環系(源流域から三河湾に至る豊川の水質)」と題して、豊橋周辺の河川を例にして、水の循環過程における汚染物質の挙動などを示された。原浩子氏(愛知県環境調査センター)は「愛知県の酸性雨の現況」と題し、長年の酸性雨関連のデータを基にして、地域特性や経年的傾向を示された。

 宿泊・懇親会は豊橋市の石巻山にある石山荘で行われた。明くる日の都市近郊自然植生視察では、まず、早朝に石巻山山頂周辺を散策した。次いで、葦毛湿原では貴重な植生を観察することができた。これには多数の豊橋市の観光ボランティアにご協力いただき、詳細な説明を受けることができた。最後に豊橋市自然史博物館の見学を行い、学芸員による植物、動物など多彩な自然を対象にして、その進化過程などの説明を受けることができた。

 秋の情報交換会へ経て、第22回は和歌山県のお世話になり、来年7月に世界遺産登録されたばかりの高野山で実施する予定である。

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