「酸性雨分科会特別集会(大気環境学会年会、2006)の講演を聴いて」
伊藤和男(大阪府立高専 総合工学システム学科 )
全体テーマは「日本における酸性霧の現状と評価」で、4つのすばらしい講演がありました。
会場は満員で、立ち見も出るほどの盛況でした。
1番目の講演は、神奈川大学の井川学先生による「酸性霧の生成とその環境影響」でした。酸性霧研究の重要性と、丹沢大山における20年近くにおよぶ研究成果を発表されました。酸性霧により丹沢大山のモミやブナが枯損被害を受けているという内容で、大変興味深いものでした。ただ、どのようなメカニズムで枯れが起こるのかなど、未解明の部分が多く残されていることがわかり、今後更なる研究の必要性を感じました。
2番目の講演は、「都市近郊の山間部(
質疑応答で、兵庫県の平木氏より前講演者の井川先生へ貴重な質問がありました。「六甲山でも酸性霧が発生しているのに、なぜ丹沢のような樹木被害が現われないのか、お考えを聞かせてほしい」。これに対して、井川先生から「大山でもモミ、ブナは枯れるが、となりのスギは枯れていない。スギなどは影響を受けにくい樹種ではないか」。との答えがなされました。確かに、六甲山ではスギ、ヒノキが主要樹種であるとのことでした。
3番目は「中国山地沿いに発生する放射霧の化学と発生機構」で、広島県保健環境センターの大原真由美先生によるご講演でした。中国山地沿いは霧が発生しやすい地域で、特に調査地点の三次盆地は霧の名所で、年間100日も霧が出現するとのこと。降水と比較して霧水のECは数百倍大きく、硫酸イオンとアンモニウムイオンが高く、pHは3.1〜6.9とのことでした。質疑応答では、「植生への影響はないのですか」との質問に対し、「松枯れが見られ、霧の影響かもしれない」との興味深い回答でした。
4番目は「2つの山岳部に発生する霧の化学的性状−赤城山と榛名山における長期観測−」と題し、群馬県企業局水質検査センターの田子博先生が話されました。1994〜1998年の5年間観測した結果、霧水pHの低下は主に大気汚染に由来する硝酸イオンと硫酸イオンであると推定されたこと、また硝酸ガスが霧水中の硝酸イオンに寄与しているらしいことなどのお話がありました。また、2つの山でpH3を下回る10回の強い酸性霧について、流跡線解析が行われ、興味深い結果が示されました。赤城山では全ての流跡線が首都圏を通過していたが、榛名山では名古屋や大阪など西の大都市を通過していたとのこと。30kmしか離れていない2つの山でこのように違っているのは、驚きでした。質疑応答では、北海道の野口氏より「赤城山では樹木の枯損被害がみられるのに榛名山で見られないのはなぜか」という直球質問があり、「赤城山の方が榛名山より酸性物質の負荷量が多いためではないか」との答えでした。
全体を通じて感じたことは、酸性霧の生態系への負の影響は、無視できるレベルではなく、何らかの対策が必要だということです。酸性霧に耐性のある樹種の植林を推進するなどが必要ではないでしょうか。最後に今回の講演ではほとんど報告のなかった、酸性霧による土壌酸性化の研究が進むことを、土壌酸性化を専門とする私としては、おおいに期待したいと思います。
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第47回大気環境学会年会「特別集会」
大気環境学会・酸性雨分科会
世話人
玉置元則((財)ひょうご環境創造協会)
村野健太郎(国立環境研究所)
日 時:東京大学本郷キャンパス工学部2号館
場 所:9月20日(水)17:00-19:00
テーマ:日本における酸性霧の現状と評価
酸性雨現象は大きくは、湿性沈着と乾性沈着に分けられる。湿性沈着のうち、酸性霧については空気中での滞留時間が長く、低pHと汚染物質の濃縮の点からの特性があり、森林生態系への影響が大きいとされているが、十分にはデータが蓄積されているとは言えない状況にある。日本のデータを解析し、欧米のデータを比較することにより、酸性霧研究の成果を検証する。 |
座 長:平木隆年(兵庫県立健康環境科学研究センター)
押尾敏夫(千葉県環境研究センター)
講 演
1「酸性霧の生成とその環境影響」
井川 学(神奈川大学)
2「都市近郊の山間部(
藍川昌秀(兵庫県立健康環境科学研究センター)
3「中国山地沿いに発生する放射霧の化学と発生機構」:
大原真由美(広島県保健環境センター)
4「2つの山岳部に発生する霧の化学的性状−赤城山と榛名山における長期
観測−」
田子 博(群馬県企業局水質検査センター)