第19回酸性雨東京講演会の感想   松本光弘(奈良県保健環境研究センター)

19回酸性雨東京講演会に参加しましたので、感想文を書かせていただきます。

東京での酸性雨講演会も今年で19回目を迎え、JR新橋駅近くにある国立環境研究所東京事務所で開催されました。今年の参加者は約60名で、狭い会場が一杯になる盛況であった。会場には、酸性雨研究の先駆者であります大喜多先生や戸塚先生も来られ、また国立環境研究所・地方環境研究所で酸性雨研究に関わった多くの人たちが参加された。例年と違い、今年は酸性雨研究会の中心的存在であった玉置さんが昨年末に急逝されたため、玉置さんの心である緑の酸性雨研究会の旗を掲げ、講演会が行われた。

まず、宮城県の北村さんから主催者挨拶があり、その後、厳粛な中で玉置さんの黙祷が行われた。今回の講演会の大きな題目は「酸性雨研究の過去を振り返り将来を展望する」ということですので、講演会の前半が堀場製作所の芝田さんによる「酸性雨のpH測定の問題点と将来」と日本ダイオネクス社の草薙さんと鈴木さんによる「酸性雨研究を支えたイオンクロマトグラフィーとその今後」と題して、酸性雨測定技術の基本であるpHとイオンクロマトグラフについて過去、現在、未来と非常にわかり易い講演であった。

芝田さんのご講演では従来のpH電極の内部液をゼリー状にすることにより、液絡部からの内部液の浸出がなく、そのため内部液の補充が不必要の新規電極の説明があった。新規電極は安定時間が短いが、従来電極と比べてpH指示値に0.2H程度の差が生じている。参加者からどちらが正しいかの質問があり,この点については明快な回答はされなかった。

草薙さんのご講演ではイオンクロマトグラフの歴史的な経過を説明され、私も使っていた初期のMODEL-142000i等の名機の写真があり、懐かしく拝聴することができた。ともあれ、現在、2000台のイオンクロマトグラフがわが国で稼動していることは、酸性雨研究がなければこれほど普及しなかっただろうと話されていた。もちろん、イオンクロマトグラフがなければ酸性雨研究も進んでいなかったと思われ、私たち酸性雨研究に従事しているものにとってはありがたい機械である。鈴木さんのご講演ではイオンクロマトグラフの新技術として、溶離液そのものをインラインで生成する溶離液ジェネレーターシステム(EG)が現在広く普及しつつあり、これの説明がなされた。このEGでは、従来の炭酸系溶離液に代わり、KOH溶離液となり、そのための従来の炭酸系カラムから新規のOH系カラムの開発も進んでおり、また、グラジエント分析についても従来ではポンプミキシンググラジエントで行われているが、EGでは純水を送液する定流ポンプがあればグラジエント分析も簡単にできるという説明であった。また、これまで炭酸系溶離液では測定ができなかった炭酸イオンの測定が可能となるメリットがある。また、最新のICテクノロジーではIC-MS技術の紹介がなされた。従来の炭酸系溶離液ではそのままMSに接続できなかったが、EGシステムと高交換容量サプレッサーにより、ICMSとの接続が可能となり、有機酸等の測定に利用されつつある。

講演会の後半は京都府保健環境研究所の谷尾さんによる「酸性雨研究担当を離れて酸性雨研究に一言」と国立環境研究所の村野先生による「酸性雨研究の30年と将来展望」ということで講演がなされた。

谷尾さんのご講演では、ISO17025(2005)に基づく高品質の分析データを維持するため品質管理システムを酸性雨測定方法に適用され、その基本的な話をされ、精度の高いデータを得るためのマネジメントシムテムの構築が必要とされた。ただし、私の考えとして、このシステムは、これは工場での製品の品質管理と同じで決まりきった分析方法に向いており、確かに精度の高い測定データを得られると思われた。研究部門には向かないように思われた。今後、議論される必要がある。

村野先生は1976年から国立公害研究所(現:国立環境研究所)に勤められ、エアロゾルの研究から始められる、現在、わが国の酸性雨研究の第一人者であり、また地方の環境研究所に対して非常な理解があり、知的あるいは物的支援をされており、今年の3月に定年退官されますので、研究の総まとめをされました。私は、先生とは20年以上お付き合いさせていただき、その間、客員研究員として国立研究所へ毎年呼んでいただき、時には、軽井沢での霧の調査にも参加させていただき、私の研究遂行にとっては非常に役立ちました。また、タイ・バンコックや韓国・済州島での国際学会へも連れていただき、大変感謝をしています。講演では、草創期の自由な雰囲気の国立公害研究所の話から始まり、当時から硝酸ガス測定の重要性を気づかれ、ナイロンチューブを用いた拡散デニューダーによる硝酸ガス測定の写真を紹介された。私も、当時、村野先生の研究室で見せていただいたことがあり懐かしく思われた。また、先生が行われた酸性霧・酸性雨研究や越境大気汚染研究も現在の東アジア酸性雨ネットワークの基盤となっていると考えられる。また、最後に玉置さんのことに言及された、村野先生と玉置さんとがダブってきて、走馬灯のように玉置さんの思い出が浮かんできました。また、会場にこられていた、村野先生の当時の上司である福山先生から、酸性雨研究のレベルを上げた功績は大きい旨のコメントがあった。

最後に、土器屋会長から閉会の挨拶があり、講演会が盛会裏の内に終わりました。今回の講演会は村野先生の30年に渡る研究の総まとめのご講演であり、我われにも非常に有意義な話であった。講演会のあと、JR新橋駅近くの居酒屋でこれまでになく多くの人が懇親会に参加し、村野先生に花束の贈呈がありました。村野先生長い間ありがとうございました。また、これからも宜しくご指導をお願いいたします。

 

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第19回酸性雨東京講演会(2006.2.21)の感想  鹿角孝男(長野県環境保全研究所)

 第19回の酸性雨東京講演会に出席させていただきましたので、感想を述べさせていただきます。

 会場は昨年と同じ霞ヶ関にある国立環境研究所の東京事務所で、参加者で埋め尽くされました。開会に先立って、昨年12月に他界された玉置元則さんのご冥福を祈り、黙祷が行われました。そしてホワイトボードに玉置さんに見立てた酸性雨研究会の緑の旗が掲げられました。また、今回は今年度で定年を迎えられて退官される国立環境研究所の村野健太郎先生の最後のご講演が有り、特別な講演会でした。

 講演会では4題の講演が行われ、最初は計測器メーカーの芝田さんから、新製品の開発のようすが紹介されました。はじめにpHの定義と測定方法、それに指示値を早く安定化させる『こつ』の説明がありました。授業を受けているような感じで、久しぶりに基本を教えていただきました。次に新たに開発された複合電極が紹介されました。pH電極は既に完成されたものと思っていた私にとっては、まだまだ開発の余地があるという点が驚きでした。新電極は応答性に優れているということで、じっと待つことが多い測定、特に現場での測定時間の短縮を期待しています。

 2番目はイオンクロマトグラフのご講演でした。メーカーの草薙さんと鈴木さんから初期の装置から最新の装置まで、たくさんの機種が写真で紹介されました。私が過去に使った機種もあり、当時チャート記録して測定していたことを思い出しました。測定は主に夜間にやっておりましたが、室温が下がってベースラインが低下するため、帰宅前にベースラインを上げたり、チャート紙がなくならないよう点検したりすることが必要でしたが、難しいワークステーションの操作は不要で楽な面もありました。

 3番目は京都府の谷尾さんから、リスク管理についてご講演いただきました。タイトルのとおり酸性雨からは離れた内容でしたが、私の職場で通常取り組んでいる内容も含まれており、納得しました。特に「分析データに関してひとつひとつの手順を明確にし、文書化し、運用し、記録・保存し、見直しをする」という部分はとても重要なことで、今後もしっかり取り組んでいきたいと考えています。

 最後に国立環境研究所の村野健太郎先生から「酸性雨研究の30年と将来展望」という演題でご講演いただきました。内容は研究成果よりも裏話や研究の経過についてのものでした。国環研の研究者としてのプレッシャー、高価なイオンクロマトの購入、高い時間分解能が要求される航空機調査の様子、所沢や軽井沢で泊まり込んでサンプリングされた時のこと、赤城山での霧のサンプリング、沖縄辺戸岬でのサンプリングなどが紹介されました。村野先生の若かりし頃の写真も何枚か見せていただきました。観測機材の写真では、私も八方尾根で使ったことのある、ガスメータとテフロンホルダーを組み合わせたタイプのサンプラーにお目にかかり、懐かしく思いました。

 村野先生は、酸性雨研究の将来展望として、EANETを支えることの必要性、酸性雨データの可視化、乾性沈着モニタリングの充実、地方自治体との共同研究の充実等を示されました。これらのことは我々地方自治体の研究者が実施できることであり、取り組んでいく必要性を感じました。

 最後に、このたび村野先生が定年退官されることをとても寂しく思いますが、今までの村野先生のすばらしい功績と、我々に対してご指導いただいたことに感謝するとともに、今後の村野先生の新たなご活躍を祈念申し上げます。

 

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第19回酸性雨東京講演会

主催:大気環境学会関東支部酸性雨部会

共催:大気環境学会酸性雨分科会、酸性雨研究会

日時:2007年2月21日(水曜日) 13:20-17:20(開場12:40)

場所:(独)国立環境研究所 東京事務所 東京会議室(地下鉄霞ヶ関駅近く)

お願い:当日のご案内はできません。お越しになる節は場所や時間の確認をあらかじめお願いいたします。

所在地:〒100 −0013

東京都千代田区霞ヶ関1−4−2 大同生命霞ヶ関ビル7階

http://www.nies.go.jp/gaiyo/maptokyo.pdf

交通の便:銀座線「虎ノ門」9 番出口徒歩1分

千代田線・日比谷線「霞ヶ関」C2 出口徒歩2分

丸ノ内線「霞ヶ関」B3 出口徒歩3分

都営地下鉄三田線「内幸町」A4 出口徒歩3分

JR ・地下鉄「新橋」日比谷口徒歩10分

 

テーマ「−酸性雨研究の過去を振り返り将来を展望する−」

13:20-13:30 主催者挨拶

13:30-14:10  酸性雨のpH測定の問題点と将来

芝田 学(堀場製作所開発センター)

14:10-14:50  酸性雨研究を支えたイオンクロマトグラフィーとその今後

               鈴木隆弘(日本ダイオネクス)   

14:50-15:00  休憩

15:00-15:40  酸性雨研究担当を離れて酸性雨研究に一言

               谷尾桂子(京都府保健環境研究所)

15:40-16:50  酸性雨研究の30年と将来展望

               村野健太郎(国立環境研究所)

16:50-17:20  総合討論(17:40程度までは延長可)

 

参加費:無料

資料代:酸性雨研究会会員:500円、非会員:1000円

参加登録:参加希望者は平木隆年(兵庫県立健康環境科学研究センター)まで、

E-mail:Takatoshi_Hiraki@pref.hyogo.jpまたはFAX(078-735-7817)で、

2月17日までに、参加者氏名、所属、連絡先をご連絡下さい。

問い合わせは 村野健太郎(国立環境研究所)まで、

TEL 029-850-2537 共用FAX029-850-2579 e-mail: murano@nies.go.jp

 

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