第14回全国酸性雨講演会報告 谷尾桂子(京都府保健環境研究所)
(1) 酸性雨から見た地域汚染と地球環境保全 ((財)ひょうご環境創造協会 玉置元則)
知らない人に、「酸性雨って、何?」と聞かれる時、一言でどう言えばよいのか、私自身いろんな思いがあるだけに、難しく感じています。酸性雨に取り組むことから沢山のことが見えてくること、また、自然科学の世界だけでなく、文化や思想も含め、様々な立場から眺めた酸性雨についてのお話を聞きました。この「広さあるいは深さ」が色々な迫り方に繋がり、面白いんだろうなあ。この辺りのことも広く伝えて行けたらいいのかなあ。と思いました。
(2) 中部山岳地域における河川・湖沼pHの経年的低下と酸性雨との関係 (長野女子短期大学 栗田秀實)
長野県内の酸性雨調査、降下ばいじん調査並びに公共水域水質調査結果を総合的に解析された結果が紹介されました。公共用水域の調査は行政調査であって、水質環境基準をクリアーしてるかどうかを先ず見なければいけないのでしょうが、蓄積された水質データを酸性雨の視点で改めて活用され、新たな知見が導かれたというお話しを聴き、感銘を受けました。地方環境研究所としての研究課題の持ち方について考えさせられました。
(3) 八方尾根における大気、酸性雨観測(長野県環境保全研究所 鹿角孝男)
八方尾根測定局で行われてきた大気環境測定を中心に、長野県環境保全研究所が行った多くの調査研究の成果が紹介されました。行政からの求めにも対応しつつ、国立環境研究所や大学等と共同研究をされています。地理的気象的そのほかにも、長野県の特色をしっかり把握されておられることが素晴らしく思いました。振り返って、私がいる京都府の特色は、外から見ると何だろうか、また、内側から見るとどうなのか、と考えています。
(4) 八方尾根の自然 (長野県環境保全研究所 尾関雅章)
八方尾根測定所の付近の自然環境について教えていただきました。八方尾根の地質は蛇紋岩からなり、蛇紋岩の化学組成を反映して、植生も独特なものになっているとのことでした。八方尾根と同じ程度の標高(1850m)の場合、普通の山地では10m以上の樹木が茂っているところですが、八方尾根測定局周辺は樹木の丈が低く、随分風通しが良くなっています。酸性雨、大気測定所としては良いところにあるのだなあと思いました。
講演会のお話しをじっくりと聞いたのは随分久しぶりの気がします。講演会終了後の懇親会でも多くの方から色々なことをお聞きし、とても楽しく過ごさせていただきました。一方、改めて自分の仕事(保健環境研究所での調査研究の企画)について宿題を持ち帰ることにもなりました。 また、鹿角様はじめ、長野県環境保全研究所の皆様には、受け入れ準備等大変だったのではないかと思います。多くの場面でお心遣いをいただき、ありがとうございました。
八方尾根見学会 (情報交換会)報告 武(新潟県保健環境科学研究所)
前日の晴天とうって変わって、当日は怪しい雲行き。長野からバスに乗り、白馬に着いたら雨が降ってきました。不安な気持ちでバスターミナルで雨具に着替えましたが、ゴンドラ、クワッドリフト二本を乗り継ぎ、八方尾根に到着するまではまだそう降らず、素晴らしい眺望を楽しむことが出来ました。ゴンドラ山頂駅付近で放牧された牛がのんびり草をはみ、行楽気分を盛り上げてくれました。
八方尾根では、30人近い参加者が半数ずつ交代で、局舎と周辺環境の説明を受けました。私は周辺環境の説明が先でした。八方尾根付近に多く分布している蛇紋岩は、CrやNiなど重金属を含んでいることもあり、植物の生育にはあまり適さないと昨日の講演で伺いました。ミズナラ(ドングリの木)やハイマツが足元にしょぼしょぼ生えているのを見て、そのことが実感できました。本来標高の高さに応じて植物の大きさが決まるのに、ここでは八方尾根より高いところの方が植物の生育がよく、学術的にも貴重な「植物の逆転現象」が見られる所だそうです。そのため八方尾根は標高(1850m)のわりに視界が開け、局舎を置くのに適した地点と成り得たのです。 局舎は、八方池山荘からすぐの登山道脇に南東の斜面に面して建っていました。屋外機を置くことが出来ないため、エアコンは設置出来ず、夏季は温度センサー付きの扇風機で冷房し、冬季は四隅のライトで暖房するのだそうです。また、冬季の北風により局舎の屋根が浮き上がり、雪が吹き込んだこともあるそうです(その後ワイヤーで補強したそうです)。長野県職員の皆さんの苦労が忍ばれました。地方自治体職員(私を含めた)の地道な努力のおかげで日本の環境測定が支えられているんだと実感しました。
説明を受けた後、集合写真を取って解散となりました。雨は降ったり止んだりを繰り返していましたが、この頃には雨脚を強めていました。私は悩みつつも、昼食後に標高2060mに位置する八方池を目指すことにしました。
国環研村野先生、筑波学院大学妹尾さんと深澤さん、新潟大学大学院伊藤さんと5人で写真を撮りつつ、お花を愛でつつ登りました。途中、第2ケルン付近で激しい雨に遭いました。もうやまないんじゃないかと思う程の絶望的な雨。トイレに避難しました。
「止めましょうか。」(武)
「ここまで来たんだから行こうよ。」(村野先生)
「いや〜ちょっと、無理じゃないですかね〜。」(武)
「行こうよ。もうちょっとだよ。帰りは時間かからないよ。また途中で雨が降ったら戻ればいいよ。」(村野先生)
「ホントですか!?・・・わかりました、行きましょう。」(武)
八方ケルンでも雨に遭いましたが、筑波学院大の二人の要望で登り続けました。途中でばてた私の変わりに伊藤さんがペースを作ってくれました。皆さんのおかげで1時間半かけて八方池に辿り着くことが出来ました。軟弱ですみませんでした。
八方池は標高2060m、pH5.6、モリアオガエルやクロサンショウウオが生息している「天上の池」。天気がよければ周辺の山岳と青空を映し、絵のような風景を見せてくれることでしょう。今回は残念ながらそのような風景は見られませんでした。でも達成感は十分得られました。
帰路も雨が激しく、全身びしょぬれ、歩くたび靴の中もジャボジャボ音を立てました。時間は40分位だったでしょうか。「山の天候は変わりやすい」、「山を甘く見るな」・・・十分わかっているつもりでした。でも、上半身のウインドブレーカー的な雨具しか用意しておらず、自分は山を甘く見ている側の人間だと自覚しました。反省です。
下山してから伊藤さんに咲いていた高山植物を教えてもらいました。ショウジョウバカマ、ユキワリソウ、ミヤマアズマギク、タカネナデシコ、ハクサンチドリ、ヨツバシオガマ、シモツケソウ、ウメハタザオ、クモマミミナグサ、クルマユリ、カライトソウ、ノアザミ、オニアザミ、イワシモツケ、オオコメツツジ、イワイチョウ、ワタスゲ、オオバギボウシ、ハッポウタカネセンブリ、ハクサンシャジン、チシマギキョウ、クガイソウ、タテヤマウツボグサ、ニッコウキスゲ、キンコウカ、エゾシオガマ。高山植物は図鑑で見るよりずっと小さくて、私はついつい見逃しがちでした。また、ウグイス、ホオジロの声を聞きました。
雨が降っていなければもっと楽しめたかもしれませんが、自分だけでは絶対に体験することがなかった雨天決行のハイキングです。前日の講演会、午前中の情報交換会とともにとても良い経験になりました。この会を催し、また参加されてきた皆さんは、ずっとこんな風に親睦を深め、自然環境への思いを共有して来たんだな、と感じました。村野先生、このような機会を与えて下さってありがとうございました。また、丁寧に説明してくださった鹿角さん、尾関さん初め長野県環境保全研究所の皆さん、ありがとうございました。大満足の二日間でした。
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第14回全国・酸性雨講演会(長野)
主催:大気環境学会酸性雨分科会、酸性雨研究会、他
日時:2006年7月27日(木)14時 ― 17時
場所:長野県職員センター・大会議室
長野市大字中御所字岡田131-6、:026-227-6181
JR長野駅から西へ徒歩10分、バスターミナルから南西徒歩3分
講演
1.酸性雨から見た地域汚染と地球環境保全:玉置元則((財)ひょうご環境創造協会)
酸性雨とはpH5.6以下の降水のことではない。雨、雪や霧のような湿性沈着と非降水時の乾性沈着を含め「酸性沈着」として総合的に評価される。「酸性沈着」には地域汚染とある程度長距離輸送された地球規模環境汚染の両現象が反映されている。酸性雨を知ることによって、現在の環境破壊の本質に迫りうる。 |
2.中部山岳地域における河川・湖沼水pHの経年的低下と酸性雨の関係
:栗田秀實(長野女子短期大学)
過去32年間の水質データ解析から、長野県内の上流域にある河川や湖沼27地点のうち15地点でpHが経年的に低下し、水質の酸性化が進んでいることがわった。これは酸性雨の影響と見られ、さらに酸性化が進めば水生生物など生態系への影響が懸念される。今後、酸性雨の影響を受けやすい上流域の河川・湖沼についてアルカリ度のモニタリング測定等を行い、影響の範囲を見極めつつ、対策について検討することが必要である。 |
3.八方尾根における大気及び酸性雨の観測:鹿角孝男(長野県環境保全研究所)
山岳地域の八方尾根で1980年代からオゾンなどの観測が開始され、現在は東アジア酸性雨モニタリングネットワーク(EANET)の測定所で降水をはじめとする各種の観測が行われている。山岳地域は局所的な汚染源の影響が少なく、長距離輸送されてくる汚染物質の観測に適しており、過去に行われた観測の概要と山岳地域大気の特徴について紹介する。 |
4.八方尾根の自然−植生分布と地質環境−:尾関雅章(長野県環境保全研究所)
八方尾根は、その大部分が、植物の分布に強く影響を与える超塩基性岩(蛇紋岩)からできており、固有植物や、高山植物の下降による植生の”逆転現象”など、特徴的な植物相や植生分布がみられる。地質と植生分布の対応は、尾根主稜線部で顕著で、稜線部にみられる蛇紋岩と他の地質との境界付近では、蛇紋岩上に高山植生、他の地質上に亜高山帯森林植生が発達する、明瞭な植生の分化が生じる。 |
資料代:1,000円(参加費:無料)
懇親会:同所、17:30-20:30、費用:4,000円
申込先:平木隆年(兵庫県立健康環境科学研究センター:Takatoshi_Hiraki@pref.hyogo.jp
問合せ:平木または玉置元則((財)ひょうご環境創造協会:tamaki@heaa-salon.or.jp)
7月28日(金)には八方尾根見学会(酸性雨情報交換会)があります。
宿泊希望者:30人分を確保しています。
第14回全国・酸性雨講演会(長野)会場案内
長野県職員センター・(講演会、懇親会)
長野市大字中御所字岡田131-6、:026-227-6181
JR長野駅から西へ徒歩10分、バスターミナルから南西徒歩3分
酸性雨情報交換会
場所:白馬村・八方尾根
スケジュール
8時20分長野駅東口からバス乗車(バス代片道1,400円)
9時40分:白馬村八方到着(リフト乗車口まで徒歩約10分)
10時:リフト乗車(リフト代団体往復2,340円)
八方尾根・国設酸性雨局舎見学
八方尾根・自然観察
12時:八方尾根・自然観察後解散
(八方ケルン、八方池周辺散策(八方尾根自然研究路トレッキング)は自由参加
八方池山荘で食事可、飲み物等の販売あり)
八方尾根全体のご案内
(写真、ライブ映像、アクセス案内等)http://www.tokyu-hakuba.co.jp/summer/
八方尾根周辺地図 (酸性雨測定所は八方池山荘のすぐ近くです)
http://www.tokyu-hakuba.co.jp/summer/map/happo.jpg
八方尾根 黒菱平周辺の高山植物・蛇紋岩植物観察 八方尾根は、その大部分が超塩基性岩(蛇紋岩)からできています。蛇紋岩は、植物の分布に強く影響を与える地質として知られ、八方尾根では、ハッポウタカネセンブリ(リンドウ科)、ハッポウアザミ(キク科)、ハッポウワレモコウ(バラ科)などの固有植物や、高山植物の下降による植生の”逆転現象”など、特徴的な植物相、植生分布がみられます。 この蛇紋岩の分布を主因として、亜高山帯域に相当する黒菱平(1,680m)周辺でも、森林が十分発達せず、お花畑や湿原が多くみられます。7月下旬には、ニッコウキスゲ、コバイケイソウ、オオタカネバラ、クモマミミナグサ、シロウマアサツキなど、多くの高山植物も見頃を迎えることでしょう |
第14回全国・酸性雨講演会(長野)申込様式
7月27日の講演会、懇親会、お宿 および28日の見学会の申し込みは、以下の必要事項を記入の上メールでお願いします。
申込先:平木隆年(兵庫県立健康環境科学研究センター:Takatoshi_Hiraki@pref.hyogo.jp)
問合せ:平木または玉置元則((財)ひょうご環境創造協会:tamaki@heaa-salon.or.jp)
申込期限:7月7日(金)
申し込み時の記載事項
1.氏名
2.所属機関
3.電話番号
4.メールアドレス
5.緊急時連絡先(携帯電話等)
6.講演会への参加の有無
7.懇親会への参加の有無
8.八方尾根見学会の参加
9.宿泊手配の依頼の有無
有の場合はA.B.どちらかまたはどちらでもよいをお選び下さい。
先着順で埋めてゆきますのでご希望にそえない場合もありますが、ご容赦下さい
A.長野県職員センター
B.メルパルク長野
宿泊:主催者で30人分の宿を確保していますのでぜひご利用ください。
長野県職員センター。10名。講演会ならびに懇親会会場と同一施設です。
(3600円、食事なし)
メルパルク長野。20名。講演会会場と駅の反対側、長野駅東口から徒歩5分
(6930円、食事なし)
なお、以下の費用は現地で頂きます。
講演会資料代:1,000円(参加費:無料)
懇親会費用:4,000円
宿泊費:宿泊施設へ直接
見学会交通費:長野から往復の場合5,140円