オーストリア(ウィーン)・ドイツ国際会議出席報告        

 

村野健太郎(国立環境研究所)

 

10月2日から13日までオーストリア(ウィーン)、ドイツのライン河沿いの小さな町(バドブライシッヒ)に出張した。この時感じたことを記そう。

ウィーン(IIASA)

 ウイーン南駅からバスで30分くらいのところにあるIIASA(国際応用システム解析研究所)は、昔の宮城跡が研究所になっているために風格を感じさせていた。後には小さな湖と城を持つ庭園が控えていて、すばらしい場所であった。この中で種々の研究が行われているが、私は越境大気汚染問題の研究グループと親しくしているので、彼ら(M. Amann, Z. Klimont)から情報を聞き、非常に多くのことを学んだ。まず、欧州においては国際会議等が次々に行われ、各国間の情報流通が非常に早くて、研究が進展していると思った。酸性雨の問題も硫黄酸化物の話はほとんど終わり、窒素化合物(窒素酸化物、アンモニア)の問題や粒子状物質の問題に移っている。IIASA自体はいろんな機関からのファンドを得て研究を行っているが、大多数の研究者は短期間の滞在である。越境大気汚染問題に関しては大量の研究が蓄積されており、研究の進展の速さに驚くほどであった。

 ウィーンの町の観光もしたが、目線より上を見上げると文化財の宝庫であり、建物に施された彫刻とか歴史の重みを感じさせる文化財が多くて感嘆することであった。しかしながら目線を落として路上を見ると結構ゴミが多くて地下鉄の通路なども黒く汚れていて、日本の方が清潔だなと思った。途中から地下鉄に乗れるようになったので、だいぶ楽になった。ただし、日本と違って改札口がないので、何か変な感じがした。その代り切符を責任を持って買って乗っていないと大変なことになると聞かされていったので、切符は注意しながら買った。また、レストランでの夕食は楽しみでもあるが、メニューがドイツ語でなかなか理解できなかった。ただし、レストランの入り口の外の部分にメニューが掲げてあるので、どの位の予算を用意すればよいか分かって実用的だと思った。またミネラルウォーターよりもビールの方が安くて、みんながビールを飲む理由が理解できた。さらにメニューには液体のものは容積が明記されており、量的な点でも金額的な点でも比較ができるようになっていた。またコップに0.2リットルとか目盛りがうってあるものもあった。

 

バドブライシッヒ(ライン河沿い)

 ウィーンを後にして、フランクフルト空港へ行った。そこで列車に乗り換えて、ライン河沿いのバドブライシッヒに行くのであるが、駅は空港からだいぶ離れているし、切符売り場もなかなか分かりにくくて苦労した。切符売り場ではある程度時間がかかることを覚悟しておかなければならない。また事前にインターネットで時刻表を打ち出してあったので、それを示して切符を買ったので楽であった。フランクフルトからコプレンツまでは乗車券の方が圧倒的に高くて、特急券は安かった。フランクフルトからコプレンツまではライン河沿いを列車が走ったので身を乗り出すようにして景色を見た。コプレンツからローカル列車に乗り換えて、バドブライシッヒに行った。バドブライシッヒは非常に小さな町で駅前も鄙びていた。

 

国際会議はホテルであったが、前半は北半球における越境大気汚染問題の会議で多数の発表がなされた。日本からは秋元先生(地球フロンティア)、戸塚先生(酸性雨研究センター)が参加された。秋元先生の発表はモンディイでのオゾン観測の解析による欧州からアジアへの汚染量負荷の推定であった。戸塚先生は「東アジア酸性雨モニタリングネットワーク(EANET)」の紹介をされた。私は沖縄辺戸岬でのオゾン観測の結果を話した。欧米の研究者はオゾンの問題、粒子状物質の問題を観測やモデルを駆使して解析した結果を話した。大量の研究の集積があることがわかった。この会議においては総括の文書が、今後作られることになっている。これはシリーズ3回目の国際会議になっており、1回目は2000年にシアトルで開催されて、越太平洋大気汚染が広範に議論された。2001年は米国で開催されたが、欧米間、北極への輸送が主であったために日本人の参加者がいたのだろうかと思われる。私には会議開催の通知もなかったように思う。

 

この国際会議に引き続いてドイツ・米国間の大気汚染問題に関する情報交換が行われた。ドイツが研究者層が厚くて、種々の研究を勢力的にやっていることがうかがわれた。特にラジカル計測等に関しては非常に高いレベル持っているように思われた。米国も研究ポテンシャルは高いが、特に米国環境保護庁の場合モデルによる大気汚染対策評価は数人の研究者により広く行われていることが理解できた。種々の環境問題が、それぞれの対策を要求するのではなくて、「一つの大気(One Atmosphere)」というモデル、しかも使い勝手がよいモデルによって、オゾン問題、粒子状物質問題、酸性雨問題、視程低下問題などが相応の連関を入れて、解析されていた。例えば窒素酸化物を50%削減するとそれが大気汚染物質濃度や酸性物質沈着量にどのように利いているかが解析されていた。またカリフォルニア州では大気汚染の問題が非常に厳しいが、そこでの種々の取り組みが紹介されており、かっては日本の方が大気汚染対策が進んでいたのであるが、今では米国の方が研究も対策も進んでしまっているという感を抱いた。今回はドイツと米国間の会議であったが、これが日米にあるいは日独の大気汚染問題を論ずる会議であったとして、誰がどのような発表をするかできるかということを考えると日本の研究ポテンシャルはこのままでは恥をかくなと思った。

 

ライン川を見ながら何日間か暮らしたが、ライン川の流れが結構急で驚いた。船の行き来もかなり頻繁であった。ゴミを運んでいる船も来て、なるほどなぁと思った。物資の輸送は生活に役立つものだけではなく、ゴミもあるんだなあと思った。会議が終わってからコプレンツの町に行ったが、そこは観光に適した町であり、古い建物や歴史的な建造物が多数見られた。石畳の曲がりくねった道にいたるところにある小さな広場の噴水、欧州の都市だなと思った。コプレンツからフランクフルトへは特急列車で行ったが、慣れなくて列車は利用しにくいなと思った。

 

(02/11/19)

 

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