タイのバンコクで2003年12月1−3日に開催された国際ワークショップ
The
Ninth International Joint Seminar on Atmospheric Deposition Processes
の報告です。日本からは12人参加しました。以下は写真のアドレスです。
http://photos.yahoo.com/abismakgahn.
(1) 静岡大学理工学研究科システム科学専攻大原研 博士後期課程1年 谷本直隆
まず学会についての感想です。 最初に会場に入った時に、テーブルクロスが敷いてあったりして会場の豪華な感じにびっくりしました。 肝心の発表なのですが、英語の聞き取り能力もままならないのもあって内容が殆ど理解できませんでした。 特にモニタリングといった畑の違う研究の発表は難しかったです。 当日配られた資料を読む時間がなかったので、前もってアブストラクト等を見ることが出来るシステムがあればいいなと感じました。 自分の発表は終始メモを読みながらの発表となってしまい、聞き手の人に訴えるものが弱くなってしまい残念でした。 また、東アジアの各都市でも色んな観測をやっていること、実は利用できるデータが存在すること、などを知ることが出来ました。 プレゼンにもそうですがディスカッションの場では英語能力が必須であって、英語能力を向上させなければというモチベーションが上がったのが一番の収穫です。スタッフの方々はとても良くしてくれて、船でのレセプションやディナー等でタイの多くのことを見たり聞いたり味わうことが出来、とても有意義で楽しかったです。
またバンコクでは排気ガスを強く目と鼻で感じ、話には聞いていたその深刻さを実感いたしました。 主催してくださったJGSEEの方々にはとても感謝しています。 次回が開催されたらまた参加できたらと思っています。
(2)静岡大学工学部大学院生 井上 雅路
私にとって海外は初めてのことで何もかもが新しいことの連続でした。パスポートも持っておらず、当然飛行機も乗ったことがない状態でした。海外のイメージというか、そのような世界観が全くなく、日本との違いなど全く知らない状態でした。テレビでは色々と世界情勢などは知ってはいたものの、実感がわきませんでした。タイに着いてから、周りを見ているとまるで映画の中やテレビの中のような感覚でした。 会話についてはタイに着いた当初は聞き取るのに必死で、なかなか自分からはしゃべれませんでした。つくづくもっと勉強しなくてはいけないなと思い知らされました。それは今まで英語を嫌っていやいや勉強しようと思う気持ちとは違って、本当に違った感情で英語の勉強をしたいと思うようになりました。それが今回の旅行での一番の収穫だったように思います。学会では多くの研究者がモニタリングをしていたり、色々な結果を出しておりとても勉強になりました。東アジアでそこまでモニタリングをしているとは知らず、新たな発見や新たな知識を身に付けることができました。今回は私はポスター発表で皆さんの前で話す機会がなかったのですが、たくさんの発表を聞き、今回の学会に参加して本当にためになりよかったと感じました。そして船上レストランでの食事などで外国人の方々と雑談したり、国際交流を深めることができたのは本当に良い体験となりました。今まで経験できなかったことがたくさんできました。そして多くのことを学び、多くのことを感じ、多くのことを考えさせられました。この若い時期にこうして海外へでたり、多くの外国人の方々と触れ合うことができたのは私にとってとても価値のある、とても良い経験となりました。
(3) 国立環境研究所 村野健太郎
先日(12月1日−3日)バンコクのホテルで大気汚染・酸性雨関連の国際ワークショップが開催されました。これは1995年から毎年行われている国際ワークショップであり、今回はタイでの開催という事で、開催が順調に行くかどうか心配していました。しかしながらタイの研究者は十分にその役割を果たしてくれた。参加者はオーストラリア:3名、中国:2名、韓国:4名、日本からは12名であり、地方環境研から8名が参加しました。中には有給休暇を取り、自費で参加された方もおられた。これらの人々には感想文を依頼しているので、今後でてくると思われるが、私の感想を述べる。
会場はホテルであり、立派であった。講演集は白黒印刷であり、各発表者から結構な枚数のカラー図版が出されていたのであるが、それが見えなくなっていたのは残念である。しかしながら参加者には、全発表論文がカラーの図を入れてPDFにされたCD-ROMが配られた。我々もこのシリーズでの国際ワークショップを2年前に開催したが、カラー図版印刷を数枚入れたが、PDFによるCD-ROM配布などはしておらず、一段とレベルが上がっていた。講演会では発表が色々なされたが、レベルはさまざまであった。研究発表は多岐に及んでおり、大気力学、モデル、観測、発生源インベントリ、黄砂に関する研究等があった。その中には水田からのメタン発生という地球温暖化研究も発表されて、結局は内容は大気汚染・酸性雨に限られずに大気環境学会というような内容であった。しかしながらこの国際ワークシヨップの良いところは、参加者が少人数であるために、みんながほとんどの人と話して、友達になれる点にある。大人数の国際学会や国際ワークショップでは、そのような知り合いや友達はほとんどできないが、この小さな所帯の国際ワークショップではそれが可能であり、非常に楽しい。
1日目の夜にはバンケットがディナークルーズになっており、チャオプラヤ川の船の上で、みんなで夕食を取り、船から見えるライトアップした大寺院を見わたしたり、みんなで楽しく過ごした。この船上で盛り上がったのは、タイの言葉の「サワディーカ」であり、これをXXさんが「触っていいか」と似ていると言い、参加者の女子大学院生に説明していた。筆者は「どうも」が「おはようございます」、「今日は」、「今晩は」、「すみません」、「ありがとう」に使えて、非常に便利な言葉であるという事をみんなに教えた。
2日目の最後にクロージングセレモニーが行われ、今後の予定が述べられたが、来年2004年はオーストラリア、2005年が韓国というところまで決まった。その後の予定は未定である。3日目は環境研究研修センター(ERTC)に出かけた。午前に国環研に滞在したことがあるセンター研究者から環境研究研修センターの概要と酸性雨に関する取り組みの説明を受けた。環境研究研修センターも軌道に乗っているようであり、運営予算もそこそこ取れていた。タイ国内で種々の研修事業をやったり、共同研究やったりして実力をつけているという印象を持った。その後、近くの酸性雨モニタリングステーション(EANET局)を見た。何年か前に行った時には降水サンプラーがビルの屋上においであったので、これではまずいなと思ったが、今回は地上の芝生の上に置いてあり、満足するべきものであった。その後、近くのレストランで昼食を食べた、バンコクの都心から離れていたためにかなり小さなレストランであった。特にトイレは小屋みたいであり、落ち着かなかった。その後、かっての都であるアユタヤに行き、そこで遺跡と現在も存在している大きな寺院を訪れた。タイの旧都であるために、遺跡、寺院ともに素晴らしかった。その後、バンコクのホテルへ帰ってきて、日本人だけでフカヒレスープを食べに出かけた。バンコクの市内はなかなか分かりにくくて道に迷ったが、無事にフカヒレスープを食べられてみんな満足であった。
今回の旅行に関しては自費参加のXXさんはツアーのシンガポール航空の往復航空券を探して、約3万円であった。ホテルの滞在費は1泊約7000円であり、4泊したのでやはり3万円ぐらい、その他に参加登録料が1万円ぐらい。あとは夕食などの滞在費に1万円ぐらいと考えると費用は総額で8万円ぐらいであり、日本で遠方に旅行する費用とほとんど変わらない、または日本での国内学会に出かける費用ともほとんど変わらないことになる。このように費用が安いので、今後地方環境研の人は是非とも国際ワークショップに参加してもらいたい。みんなバンコクでの国際ワークショップと滞在に非常に楽しい思いをされたことと思う。
筆者は12、3年前からバンコクに行っているが、車の質が非常によくなっていることに驚いた。12、3年前は黒煙モクモクの自動車が走り回り、交差点では揮発性炭化水素のにおいがするほどであった。また二輪車も数多く排気ガスが非常に臭くて大変であった。現在は高速道路も整備されて、スカイトレインという電車も走るようになっていた。全般的に成長著しい国であるという印象を受けた。また特に国際ワークショップ参加者であったタイ人は温和であり、仏教を心の底から信じている国民であるために、フレンドリーであった。一人の女子学生は自分のことをルイちゃん、エビちゃんと言っていた。 日本への留学をした人もいて日本語を片言喋る人も多かった。国際ワークショップ会場には神戸で毎年開催されている酸性雨JICA研修に参加した研究者も来ており、奈良県の松本さんと知り合いであった。兵庫県立健康環境科学研究センターの玉置部長から今でも連絡があると言ってた。EANETに関する活動や種々の活動によって、日本とタイ、日本と東南アジア諸国との結びつきは結構強いし、今後も強くなっていくことが期待され、日本はこれらの地域におけるキャパシティービルディングに関しては、今後も指導性を発揮していかなければならないと思った。
(4)第9回国際ジョイントセミナーの感想 長野県衛生公害研究所 鹿角孝男
12月1〜3日、タイのバンコクで開かれた第9回国際ジョイントセミナーに参加させていただきましたので、感想を中心に述べさせていただきます。
11月30日に国環研の村野先生とご一緒させていただき、成田空港からタイ国際航空で出発しました。私は海外渡航の経験が少なく、成田は初めてでした。飛行機が動き始めてから滑走路に着くまでに10分程かかり、成田空港の広さを実感しました。バンコクのドンムアン空港へは約7時間かかりました。空港ではKing
Mongkut’s 大学のAmnatさんが出迎えてくださり、自家用車のCR-Vで会場のPathumwan Princessホテルまで送って下さいました。当日は日曜日であったため、バンコク名物の交通渋滞にあうこともなく、30分ほどでホテルに到着しました。ホテルは四つ星の高級ホテルで、東急デパートのショッピングセンターとつながっていました。
翌12月1日にホテル内の会議室でセミナーが始まりました。会場は冷房が強く利いており、スーツでちょうどよいくらいでした。冷房が良く利いていることがステータスらしいです。主催者挨拶、Park教授の挨拶の後、奈良県の松本さんが最初に発表されました。私は午後一番の発表でした。今回の発表内容は、降水中の金属と鉛安定同位体比に関するものでした。鉛同位体比の測定については村野先生が科研費を取得され、当所の3名が共同研究者として加わり、14年度から3年間の計画で現在進めております。セミナー参加者の中に重金属を専門とする方は少なかったものと思われ、質問は座長のパーク教授から出されたもののみでした。私はリスニングが苦手で(話すのもうまくありませんが・・・)質問が良く聞き取れないのですが、オーストラリアのHooper教授の質問が演者に通じない場面がありました。ご存じのように、オーストラリア英語は独特ですので聞き取りづらい面がありますが、私の仲間が存在したことに妙な安心感を覚えました。第5回のソウルではUKの女性から質問をいただき、これがさっぱり聞き取れず困りましたが、今回のPark教授は私の語学力を知っていて、やさしい質問をしてくださったのではないかと思います。
第5回のソウルで知り合った韓国気象研究所の全映信さんは黄砂の研究をされており、ご自分で作成されたパンフレットをいただきました。そこには黄砂で視程が低下したソウル市内の写真が紹介されており、車のボンネットやトランクに積もった黄砂の写真も載っております。ソウルは日本に比べて黄砂の発生源である砂漠地帯に近いことから、その影響が大きいようです。今回、私は発表用のpptファイルを保存するためUSBメモリーを持参しておりました。映信さんはパソコンを持参しており、お互いの発表に関心があったのでpptファイルを交換しました。便利になったものです。(残念ながらファイルを開いた状態でコピーしたためか、私がいただいたファイルは開けませんでした)他に小さなメモ帳を用意していったところ、フィルターパック法の説明で図を描いたり、筆談したり、とても役に立ちました。
私が特に関心を持った発表は福岡県の下原さんの発表で、下原さんはカーボンファイバーを用いたNO2の浄化に取り組んでおられ、内容の独創性に加えてスライドが美しく、動きも加えられておりました。第5回のソウルではカナダのChul-Un
Roさんの模範的なプレゼンテーションに魅せられた記憶がありますが、全体に日本人の発表ではスライドが見えるようよくできていたと感じました。一方、中国、オーストラリアの研究者の発表ではよく見えないものがありました。白地に青文字のもの、明るいバックに白や黄色の文字のものなど、プロジェクターがあまりよい状態でではなかったこともありますが、人に見てもらうということをもう少し意識して作成していただけたらよいと思いました。また、福岡県では若手の板垣さんの、車にNOx計を積で測定されたデータの発表もあり、若い方が国際セミナーで発表できる実力をつけておられることに感心し、うらやましく思いました。若手職員の確保と養成は、私のような50代の職員にとっては各県に共通した課題ではないでしょうか。
セミナーが終わってみると、私がいちばんお話をしたのは韓国の研究者でした。それは知り合いであったということもありますが、韓国は日本に近く、黄砂、長距離輸送など共通する話題があること、漢字が通じること、などの理由があると思われます。2年後の第11回セミナーはソウルで開かれる予定ですので、酸性雨研究会会員の皆様が多数発表され、交流が深まることを期待しております。
発表に必要なのは語学力よりも度胸だと常々思っております。○○県の○○さん、チャレンジされてはいかがですか。
(5)奈良県保健環境研究センター 松本光弘
今年の大気環境学会のオールナイトミーティングで村野先生からタイのバンコクで国際セミナーがありますとのことで、一つ返事で行くことを決めました。というのはこのセミナーが5、6年前に奈良で開催され、こじんまりとした非常にフレンドリーなセミナーであることと、バンコクというキーワードで決めました。これまで、バンコクへは過去2回行ったことがあり、非常に良い印象をもっており、かつ季節的にも良い(実際行ってみると少し暑かったです)し、食べ物もおいしいし、人々も穏やかし言うことがありません。
早速、参加することを決めた後、プロシーリングを出すまでに1ヶ月しかありませんでしたが、どうにか8ページのプロシーリングができたのが、締め切り直前で、ご多忙中の村野先生にチェックしていただきありがとうございました。
今回のバンコクでの会場は非常に立派なホテルで、日本での会場とは格段の差があり、開催国の意気込みが感じられました。ただ、冷房がききすぎて、これには閉口しました。発表内容については、モニタリング、モデル等が主で日本で酸性雨を研究している者にとってはなじみやすいものであった。ただし、発表が英語であるためパワーポイントを見ることでどうにか理解できたつもりである。会場には、昨年バンコクのPCDでEANET研修をした方々、また2,3年前に神戸でJICA研修を行ったワサラさんに会うことが出来ました。兵庫県の藍川さん突然の国際電話で申し訳ありませんでした。
発表もさることながら、夜の行事が多彩であり、1日目は夜遅くまでクルージングを楽しみ、2日目も夜遅くまで伝統的な人形劇(これは日本の文楽みたいなもので、始まる前に国王の写真が出て、おそらく国歌と思いますが、起立して聞き、そのあと幻想的にはじまりました。3日目はERTCとアユタヤへ行き、ますますバンコクが気に入りました。タイの方には非常に良くしていただき、ありがとうございました。
4日目は自由行動でしたが、バンコクのBTM(sky train)をうまく利用して、2,3のデパートでショッピングをしました。カシミヤより高級なパシュミナを安く手に入れ、今マフラーに使っています。
村野先生には大変お世話になりました。福岡県の下原さん、板垣さん、新谷さん、長野県の鹿角さん、長崎県の森さん、千葉県の鎌形さんありがとうございました。また、次回も参加しましょう。
最後に、この国際セミナーは大変フレンドリーな学会であり、酸性雨を研究している者にはなじみやすい学会でありますので皆様どしどし参加してください。
アユタヤ アユタヤの日本人と韓国人 人形劇 クルージング ERTC ERTCの酸性雨モニタリング
(6)福岡県保健環境研究所大気課 板垣成泰
12月1日から4日間、私にとって初となる国際ワークショップが始まりました。ワークショップは高級なホテルの一室で行われ、ドリンク等の各種サービスも充実していました。発表は大気汚染に関わる様々な研究について行われ、大気環境学会と似た構成でした。少し違ったのは、大気環境学会の場合自分と関係する研究を事前にピックアップして聞くのに対して、今回のワークショップは数題ずつ用意された全ての研究を聞けたことです。(英語はよく分からなかったのですが)発表内容も丁寧で分かりやすかったように思いました。少し気になったのことは、私も発表後にご指摘を頂いたのですが、パワーポイントの文字サイズが小さい図表が一部あったことです。また、プロジェクターの光の具合で、淡い色で書かれた文字・数字が見えにくいものもありました。今後の参考にしたいと思います。
ワークショップでは、タイの汚染状況についての報告もありました。SPM濃度は予想どおり高かったのですが、それに比べて粒子の酸性度はそれほどでもなく、意外でした。懇親会等では外国人の方々と話すチャンスがあり、いい経験をさせて頂いたと感謝しています。特に印象に残っているのは、船上の懇親会のときに『通勤時間はどのくらい?』とタイの先生に英語で質問され、勤続年数を聞かれたと勘違いした私は『2年6ヶ月』と答えて、大笑いされたことです。また、大気環境学会で発表及び座長されているような先生方と食事や買い物をご一緒にする機会がありました。先生方には色々とよくして頂き、この場をかりでお礼を申し上げたいと思います。ありがとうございました。最後になりますが、このようなワークショップは、情報の交換のみならず、若手にとっては貴重な発表経験の場所なので、今後も続けて欲しいと思いました。
(7)千葉県環境研究センター 鎌形 香子
このたび、村野先生に誘われ、第9回国際ジョイントセミナーに参加させていただきました千葉県環境研究センターの鎌形です。村野先生に直接誘われたわけではなく、同僚の押尾さんから、村野先生からこういうお誘いのメールをもらったけど、鎌形さんどうですかと紹介していただいたのが一番最初のきっかけです。たまたま今年頭、アジアからの研修生をお世話したことで、国際交流に大変興味を持っていたこともあり、えっ?国際セミナー?行きたいからって行けるものじゃないんだから、このチャンスは絶対逃してはいかん!てな具合で、直接誘っていただいたわけでもないのに、厚かましくも参加させていただいてしまいました。ちょうどいい具合に、去年半年ERTCから研修生として職場にいた方がバンコク近郊に住んでいますし、隣国カンボジアのプノンペンにも同じく以前研修生として職場に来ていたカンボジア環境省の友人がいますので、今回ついでにプノンペンにも寄ることにしました。これらの滅多に会えない友人たちに再び会えることもとても楽しみでした。 結果、海外旅行の経験は何度かありますが、今回の旅行は私にとってこれまでで最高の旅行となった気がします。セミナーでは各国の方と交流ができましたし、クルージングやアユタヤなどを、色々な国の方と感想を言い合いながら、現地の方にガイドしていただくという、普通はできないような贅沢な体験もできました。このようなチャンスを与えてくださった村野先生、押尾さん、そして長期休みの許可をくれた千葉県環境研究センターに深く感謝しています。そして、現地でお世話になったみなさま、本当にありがとうございました。
全般的な感想ですが、1つは、今回はアジア地域のセミナーということで、やはりアジアというものを意識させられたというのがあります。タイの人の印象として、少しシャイだけどとても優しくて穏やかという、日本人と近いものを感じました。おそらくこれは同じ仏教国であることが一因なのでしょうね。また、同じ漢字文化圏である中国や韓国の方と、漢字を通じてコミュニケーションがとれたときは、ああ、私たちは共通のものを持ってるんだなあと、妙に嬉しかったです。たまたまこの旅行前、研修に来ているメキシコ人と友達になって、日本とメキシコ(欧米)の文化が根本的に違うことを認識させられたあとでしたので、逆に日本がアジアの一部であることを強く感じさせられました。環境関係ではEANETをはじめとする様々なネットワークの強化を、そして環境以外の分野も含めたアジアの連帯が深まることを心から願っています。 また、外国、とりわけ日本よりも貧しい国に行くと強く感じることですが、やはり南北問題というか、先進国とそれ以外国の貧富の差というものを実感させられますね。カンボジアの貧しさはいわずもがなですし、国単位の話だけでなく、たとえばバンコクでも、外観は東京と変わらないぐらいの都会なのに、東京では目にすることのない貧困をビルの合間に見つけたりします。プノンペンでも建設中のビルを幾つか目にしましたが、都市と一部の人間だけが発展し、地方や農民は置き去りといったような、東南アジア全般に見られるような事態にこれからなっていくのではないかという危惧も感じました。そして、そのような貧しい国に観光でやってくる我々先進国の人間がどう見られているのかというようなこともいつも考えさせられます。
最後に、私事になりますが、今回の旅行では私はどうやら日本人らしくなかったようです(?)。懇親会の席で日本人の方に「Where are you come from ?」と聞かれたので、ああ、周りの外国の方に気を遣って英語で聞いてるんだなと思い、まじめに「Chiba prefecture」と答えたら、ええっ?日本人だったんですかと驚かれ、セミナー最終日に初めてお話しした日本人の方にも、ずっと中国か韓国の人かと思ってましたと驚かれ、韓国の研究者の方にも、えっ、日本人ですか、ずっとタイ人かと思ってましたと驚かれ……うーん、なぜ?
(8)長崎県衛生公害研究所 森淳子
【タイで感じた アジアのなかの長崎】
<長崎の環境と国際学会>
春の風物詩、黄砂はゴビやタクラマカン砂漠から舞い上がった砂が運ばれている現象であることはよく知られています。また、長崎はもちろん、日本の大気環境は、格段に改善されているにもかかわらず降る雨の9割が酸性雨です。この原因は、大陸で、硫黄分の多い石炭を燃やすことと関係していることも明らかになっています。このように、日本の西の果てに位置する長崎の環境には、中国や韓国の環境が大きく影響しています。そのようなことから、長崎県衛生公害研究所は、早くから国立環境研究所との共同研究により、地域的な問題と、国際的な問題とを連携させながら解明にあたってきました。
2003年12月1〜3日、タイのバンコクで、大気環境に関する国際会議が開かれました。国立環境研究所との共同研究の最近の成果については、すでに国内の学会で発表していましたが、今回、国立環境研究所の村野先生の一声で、更に解析を進めた内容をバンコクで発表するぞ! ということに相成りました。地方の環境研究所が国際学会に出席することはあまり一般的ではありませんが、気がつけば、夏から秋にかけて、たくさんの解析を仰せつかり、「滅多にない機会だから」と背中を押されて初めてタイを訪れました。
今回の学会の参加者は、オーストラリアから3名、中国から2名、韓国から4名、日本から12名、タイから26名でした。ほとんどの方が、日本や欧米に留学して博士号をとったという大学や、国立研究所の研究者の方で、英語がそれは流暢なこと!日本からは、大学や国レベルの研究者のほかに、地方環境研究所からは長野県の鹿角さん、奈良県松本さん、福岡県下原さん、板垣さんの4名の方が発表されていました。学会での発表内容は、黄砂やオゾンの問題など、まさに今長崎県が直面している問題も多く、なによりのメリットは、中国や韓国の方とも、直接コミュニケーションを図れることです。このように、国際的な場に出て行けば中国や韓国との共同研究の中から、長崎の環境を改善していく道も開けていくのではと感じました。
ちょっと意外だったのは、今回の学会をお世話して下さった大学の教授の先生が、私とあまり変わらぬ年代の女性だったことです。聞けば大学の学生やスタッフの6割は女性とのこと。日本式の男は仕事、女は家庭 という通念は、中国や韓国の方からも一笑に付されました。
<日本やアメリカはお手本か?>
閉口したのは会場の冷房が効きすぎていたこと。なんでも、冷房をガンガン効かすのが高級ホテルのステータスになっているとか。確かに、バンコクの町は想像していたよりも遙かに近代的でした。走る車はほとんど日本車、目につく看板は日本やアメリカの資本。町にはモノがあふれ、日本やアメリカに追いつけ追い越せと励むパワーを感じました。3日目に視察に訪れた研究所も、日本の資金援助で建ったということでしたが、研究の内容はなかなかどうして、立派なものでした。日本で一部頑張る人々の成果を自分たちのものと勘違いして私のような怠け者が昼寝している間に、ゆっくりだけど確実に歩む亀にそろそろ追い越されるのでは? となぜがウサギと亀の寓話を思い出しました。タイの子供たちが広場でボールを蹴って遊んでいる場面をたびたび目にしました。部屋に閉じこもって、ゲームにはまる日本の子供たちよりは遙かに健全だなあと感じました。郊外で目にした川は上水兼下水とか。たしかに衛生面ではまだまだ途上かも知れません。けれど、そんな田舎のスローなあり方こそが、持続可能な暮らし方なのかも知れません。バスの車窓から、焼き畑の黒煙を目にしました。例えば伐採した植物を焼かずにエネルギーにかえる技術が開発されつつあります。日本やアメリカを目標にした先にあるのは、幸せばかりではありません。一面では大量にエネルギーを使い、大量のゴミを出す社会です。地球規模でそのような社会を目指せば、限られた資源が枯渇し、温暖化や環境汚染やゴミに苦しめられるのは自明の理です。「タイが今持っている良さを生かしつつ、ちょっと知恵を働かせて資源を枯渇しない方向に歩んで下さい。日本やアメリカはむしろ反面教師ですよ。日本はタイやアジアの人々と一緒になって、資源を繰り返し生かす将来のあり方を考えていくべきでは?」旅行者の勝手な言い分ですが、そんなことをつぶやいて帰途につきました。