第9章「ついにОMソーラーと出会う」

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 実際には時間的にちょっと遡る。
 家造りの研究に本屋のハウジングコーナーに通っていた俺はふと気になる本に出会った。
 「チルチンびと」
 何が気になったって、表紙の写真がナイスなのと「チルチンびと」というロゴがかわいいのとこの何となくエコロジックな響きがよくて……。
 実は当時は今のように「自然素材」とか「ナチュラルハウス」とか、ましてや「シックハウス(病気の家)」なんて言う言葉もほとんど聞かれないころだった。
 俺たちはひたすら建て売り住宅を巡っている日々だったし。
 評価はほとんど外見がかっこいいかどうか。でも実際に中に入るとどれもこれもステレオタイプの建て売りモノ……。それがイヤだったわけだけど。
 「チルチンびと」をつらつらと立ち読みでページをめくってみると、中に使われている写真もまたいい。印刷の質感がどうも他の家関係月刊誌と違う。良い。
 で、内容も大きなハウスメーカーの実績記事中心ではなく、なんだか手作り感のする家ばかりが載っている不思議な魅力の本だった。家造りの宣伝本には見えなかった。
 役に立つのか立たないのかわからないけど、いい写真集でも買うようなつもりで取りあえず創刊号と3号を買ってみた。
 実は創刊号のみ表紙がイラストで買うのをためらったのだが、その創刊号に「今、ОMソーラーが面白い」と言う記事が載っていたのだ。
 最初に見た3号に載っていたある家が、とても俺の理想の家だったのだ。その家主は『ОMソーラーの新聞記事でフォルクスハウスを知り、しっかりした構造と自然な木の風合いが目にとまり、その工務店のモデルハウスを見てこれだと決めたのだ』と、書いてあった。
 ほおほお、とうなづきながら読んではいたが、正直良くわからん。
 ОMソーラーってなんだ?
 ОMソーラーにすればこんなかっこいい家が出来るのか?
 ОMソーラー?
 朝日ソーラーじゃけん、気持ちいいぞなもし……みたいなやつか?
 なんか違うっぽいゾ……。
 気になって気になって仕方なく、創刊号を後から買いに行ったのだった。

 ОMソーラーとは、どうも「太陽熱を屋根で集めて床下のコンクリートに送って床暖房に利用したり給湯や換気に利用する」というものらしい。

 いやしかしまだわからない。
 それに関するかなりのページ数の特集記事が載っているのだが……。
 しかし、わからないのである。イメージがわかないの。っていうか何が書いてあるのか意味がわからんの。なんかコンピュータのソフトの解説本読んでるときのような感じ。
 大体その頃って「坪って何?」とか言ってる頃だぜ。

 「ОMソーラーは機械的な装置に頼らないで建築の仕組みそれ自体を活用するパッシブソーラーですが……」って、意味わからないですよ。まず「パッシブ」ってのが……。(アクティブに対してパッシブ……受け身……?らしい)

 ただ、「太陽エネルギー」を最大限に利用する(らしい)というこのシステムにかなり魅力を感じた。
 太陽(自然)は利用するべきだ! と思っていたから。
 冬は太陽の熱で家全体を暖めるが、他の床暖房とも違うらしい。それが「パッシブ」らしいんだけど。夏のОMソーラーは熱い空気を外に排気するんだって。
 あるОMソーラーで家を建てた人のコメントに「帰ってきたとき玄関を開けた瞬間のあのむっとする感じがなくなった」と書いてあったこともかなり気になった。
 ОMソーラーは空気を循環させる家らしい。それで家の中に空気が澱まないのかな?
 これ、すごい魅力だよね。
 とにかく当時住んでいたマンションの空気の澱みと言ったらない。その「玄関を開けたらむっとする」毎日に辟易していたから。それだけで帰る気が失せていたのだから(ま、もっとも居場所がなかったのが最大の理由だというのは変わらないけど)。
 この辺りでかなり大地はОMソーラーというものに無闇な魅力を感じていた。
 実態を知ろうと一生懸命、記事やパンフを読むのだが、読んでも読んでもどうしてもわからない。
 読んで理解しようとするのはやめた。
 ただ、ОMソーラーとあのかっこいい理想の家との関係を探ることにした。
 取りあえず、当時はパートナーだった若き不動産屋小山に聞いた。
「ОMソーラーって気になるんだけど、どうなのかなあ」
 小山は直ぐに答えた。
「ОMソーラー……ですか……。そうですねえ、技術的にまだわからないので例えば10年後50年後にまだ有効なのか、どうなってるかワカリマセンよ」というような後ろ向きな答えだった。でもあんまり良くわかってないみたいだったけど。
 確かにこの技術の開発は最近らしい。
 だが、それならツーバイフォーだってそんなに歴史ある工法ではないはずだ。
 もう無闇にОMソーラーに惚れているのでマイナスイメージの答えは却下だった。

 とにかくあの家を建てた人が見たというその工務店のモデルハウスが見たいと思った。
 それは世田谷にある近藤工務店というところだった。

 しかし「チルチンびと」の記事によると相当良いシステムに思うが、小山はじめ多くの工務店でも他の雑誌でもほとんど話題にもなっていないのは何故だ?
 良いものだったらもっと騒いでもいいはずなのに……。(この辺はあんなに面白い『少林サッカー』なのにそれほど騒がれていないのと同じか?)

 ОMソーラーの家にするには家を建てる時からОMソーラーで設計しなければいけない。そしてその技術はОMソーラー協会というところで学んで認可を受けた工務店だけが持っている。つまり、ОMソーラーにするためには特定の工務店に発注しなければならないのだ。

 阿佐ケ谷南に見つかった土地にどんな家を建てようかという思いのなかに実はこの「チルチンびと」で見たОMソーラーの家が想定としてあった。
 小山が探してきた工務店にはあの家のようなものは出来ないという直感があった。どう考えてもどこにでもあるような建て売りのような当たり前の家しか脳裏にないような工務店だった。
 ОMでなくとも「自然素材」だとか「構造のしっかりした家」「日当たり風通しを考えた家」とかを考えるだけでもいいのに。が、訪ねた工務店はそういう考えからほど遠い「やっつけ」っぽいイメージしかなかった。だって「どんな家にしたいですか?」なんて聞きもしないんだもん。
 「こだわり」がほしかった。
 もっとこだわってほしいのだ。
 自分でもこだわりたいし、工務店もこだわってほしい。

 そんな「こだわり」が感じられる「チルチンびと」と「ОMソーラー」だった。

 結果的には小山とは決裂したが、小山と組んでいるときから俺はОMソーラーの研究を始めていた。
 世田谷の近藤工務店に訪れたのが、その第一歩であった。(続く)

 資料写真を沢山載せたいところなんですが、雑誌から無断掲載するわけにも行かず(一応交渉中なのですが難しいと思う)、リンク貼りました。

「チルチンびと」の風土社
ОMソーラー協会

 (次回のコラム更新もいつになるかわからないので興味ある方は、こちらで御研究なさいませ、私の体で転生なさいませbyクララお品)

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