第一話 新しい家族
女は少女へと近付くと、精一杯やさしい声で言った。 「おじょうちゃん何をそんなに泣いているんだい?」 少女は言った。 「わたしのお母さまが死んでしまったの。」 女はなんとも気の毒そうな顔をして少女をみつめた。 「それは可哀想に、私も夫を亡くしたばかり、お前の気持ちは良くわかるよ。もし時間があるなら私の家にいらっしゃい。うちにも2人の女の子がいるんだよ。」 少女は少しはにかみながら言った。 「ほんとうに?おじゃましてもいいのですか?」 「ああ、いいともさ。きっとうちの娘たちもお前を歓迎することだろうよ。おいでよ。」 少女は涙を拭いてコクリとうなずいた。 女の家はしばらく歩いたところにあった。それはシンデレラの家のようなお屋敷ではなくて、粗末な木でできた小さな家だった。 「ただいま、いま帰ったよ。」 家の中には2人の少女がいた。 「お帰りなさい。あら?その子はだあれ?」 女はシンデレラの肩に両手をのせて前に歩ませた。 「この子はシンデレラだよ。母親が亡くなったばかりの可哀想な子だから仲良くしておやり。」 「はい、おかあさん。」 ふたりの姉妹は顔を見合わせてクスクス笑った。シンデレラもつられて微笑んだ。 女は未亡人だったがまだまだ若く、美しく気立てが良かったし、ふたりの娘も母親と同様に美しかった。 シンデレラはふたりの姉妹とすぐに仲良くなった。 ひとりはシンデレラよりひとつ年上の9才、もうひとりはふたつ年上の10才だった。 ふたりはとても親切にシンデレラをもてなした。一人っ子のシンデレラはまるで本当のお姉さんが出来たようで嬉しかった。 帰りぎわシンデレラは言った。 「ああ、今日は楽しかった。お母さまが死んでからこんなに楽しかったことはありません。また遊びに来てもいいですか?」 「ああ、いいともさ。こんな家で良かったらいつでも遊びにおいで。」 女は笑顔でそういった。 女の家に通ううちに、シンデレラはこの人がお母さんだったら良いのにと思うようになった。 ちょうどその頃、半年家を空けていたシンデレラの父親が異国から帰ってきた。シンデレラは父親がいない間に良くしてもらった女とふたりの娘を屋敷に招待した。父親は、母親が死んで悲しんでいたシンデレラを慰めてくれたお礼にと、女とふたりの娘を精一杯もてなし、そのまま屋敷に泊めた。 その日の夜、女は父親のベッドへと滑り込んだ。 「旦那様、長い船旅でお疲れのことでしょう。どうか私にお任せください。疲れを取ってさしあげます。」 女は未亡人だったがまだ若く魅力的だった。父親はすぐに女の虜になってしまった。 「旦那様、シンデレラはまだ幼く母親が必要でしょう。私で良ければぜひシンデレラの母親になりたく存じます。」 次の日、父親はシンデレラに言った。 「今日からこの人がお前のお母さんだよ。私はまたすぐに異国へ発たねばならない、私がいない間お母さんの言うことを良く聞いて良い子にしているんだよ。」 シンデレラは急なことに驚いたが、新しいお母さんが出来たことをとても喜んだ。 「おばさまがわたしのお母さんになって下さるなんて、なんて素敵なことでしょう。」 女は言った。 「シンデレラ、お前は今日から私の娘。私やふたりのお姉さんの言うことを良く聞くんだよ。」 「シンデレラ、お前は今日から私たちの妹。妹は姉の言うことは何でも聞くものなんだよ。」 上の姉がシンデレラに言った。シンデレラは笑顔でこたえた。 「はい、お母さま、お姉さま。」 いっぺんにお母さんと、ふたりのお姉さんができるなんて今日はなんと素敵な日でしょう。シンデレラはこれからの楽しい生活を夢見るのだった。 |