第四話 罰

  しばらくしてシンデレラの父親がまた異国へ出航する日がやって来た。シンデレラは父親が行ってしまえば、また虐められる毎日が来るのが判っていたから行ってほしくはなかったが、父親を止めることは出来なかった。もしそんなことをしたら後で継母にどんな仕打ちを受けるかわからなかったからだ。

 父親は子供たちに言った。
「お前たち、今度帰ってくる時のお土産は何がいい?」
すると下の継姉は言った。
「わたしは絹のドレスがいいわ!」
上の継姉も言った。
「わたしはドレスと宝石がいい!」
するとまた下の継姉が言った。
「ずるいわお姉さま、それじゃあわたしもドレスと宝石がいいわ!」
父親は言った。
「わかったわかった、それじゃふたりには絹のドレスと宝石を買ってこよう。」
「わーうれしい!」
ふたりの姉は飛び上がるようにして喜んだ。

 父親はシンデレラに言った。
「シンデレラ、お前は何が欲しいんだい?ドレスか?宝石か?それともその両方か?」
シンデレラは言った。
「わたしは絹のドレスも宝石もいりません。わたしには何か幸運のおまじないの品を買ってきてください。」
父親はあきれ顔で言った。
「お前はなんて欲深い娘だろう。今でも十分幸せだろうに、もっと幸せになりたいというのか。」
継母も言った。
「ほんとうにこの娘は欲深な娘だよ!」
継姉たちも言った。
「ほんとうにシンデレラは何でも欲しがる欲深な娘なんだから!」
みんなは笑った。シンデレラはひとり悲しさを噛みしめて我慢した。


 父親が出航してしまうと、継母は新しい召使い長になる男を屋敷に雇った。
「お前、召使いのマリアには何をしてもいいけどシンデレラには手を出すんじゃないよ!それに顔とか手とか見えるところにもキズをつけるんじゃないからね。」
男は言った。
「ああ、わかってますよ。娘の方には手をつけませんからご心配なく。その分召使いを可愛がってやりますよ。娘が失敗したらその分まで召使いに罰を与えることにします。その方がよほどこたえることでしょう。」
「フフフ、お前もまったくサディストだね。」
男もいやらしく笑い返した。


 「シンデレラ、それにマリア。この人がこれからお前たちを躾けてくれる人だよ。」
ふたりに紹介された男はうやうやしくお辞儀をすると言った。
「これはこれはお嬢さん、それとマリア、これから私が貴女達の面倒を見ることになりました。よろしくお願いしますよ。」
男のやせた細長い体の上には長い顔が乗っていた。その上には油で撫で付けた髪の毛が張り付いている。物腰は柔らかく優しそうな印象を与えた。
しかしマリアはその男の目に見つめられると、えも言われぬ不安を覚えた。

 男がどういう人間かわかるまでに長くはかからなかった。それはシンデレラが運んでいた食器から少しのスープが床にこぼれた時だった。
「シンデレラ!なんという不作法をするのですか。」
男はマリアを振り向くと言った。
「マリア、シンデレラを躾けるのはお前の仕事でしょう。」
「はい・・・」
マリアは答えた。
「では、シンデレラの失敗はお前の責任ですね。」
「はい・・・」
マリアにはそう答えることしかできない。
「では今からお前に罰を与えます。」
男は継母に言った。
「ここでこの娘に罰を与えても宜しいでしょうか?」
継母は困った顔で言った。
「まあ、仕方がないわね。早くやってしまいなさい。」
シンデレラは慌てた。
「失敗したのはわたしです。どうかわたしに罰を与えたください!!」
しかし男は言った。
「お前は黙って見ていなさい。お前が失敗するたびにこの娘が罰を受けるのです。」
男はそう言うとマリアに向かって言った。
「マリア服を脱ぎなさい。下着も全てです。」
マリアは震える手で服を脱ぎ下着も脱いだ。
「さあ、そこに四つん這いになりなさい!」
マリアの目には恐れが浮んでいた。全裸で四つん這いになったマリアの体はガタガタ震えている。

 「ああっ!ごめんなさいっ!もっとシンデレラを・・・厳しく躾けますから・・・もうやめて・・・・」
シンデレラの目の前では、男の手により信じられない光景が繰り広げられた。四つん這いのマリアを責める奇妙な形の棒を持つ男の手は、初めての経験による血に染まり真っ赤になった。マリアに与えられる罰はシンデレラの想像をはるかに越えていた。シンデレラは震えながらそれを見つめることしか出来なかった。あまりのむごたらしい光景に目を閉じることも出来なかった。そしてシンデレラはそれが自分の身に起こらなかったことを感謝せずにはいられなかった。幼いシンデレラには、とてもマリアの事を心配する気持ちをもつゆとりなど無かった。

 継母と継姉たちはその凄惨な光景を楽しみながら食事を続けていた。