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ステロイド依存 −ステロイドを止めたいアトピー性皮膚炎患者のために−
深谷元継(国立名古屋病院皮膚科)著、柘植書房新社、1999、¥1700+税

はじめに
 私は1986年に皮膚科医となった。入局してまもなく、まだ右も左も判らない頃に、大学からの派遣で代診のアルバイトに週一、二回行っていた。手荒れのひどいお母さんが、アトピーの子供の手を引いてやって来るのを随分相手にした。アトピーは、新米皮膚科医でも、見ればすぐに判った。処方も簡単であった。顔には弱めの、眼囲には眼科用の、体にはやや強めのステロイド軟膏。なかなか良くならないと不安がるお母さんには、「アトピーは子供の病気ですから、大きくなれば治りますよ。それまで適当にお薬を塗って抑えていればいいんです」
 考えてみれば、あの頃の子供たちを、今、成人アトピーあるいはステロイド皮膚症として診ているのかもしれない。この数年間、ステロイド皮膚症に陥った患者が離脱していく過程に立ち会いながら、いったい何がどう悪かったのか、私なりにいろいろ考えた。まだ結論は出ていないし、ああでもないこうでもないと延々と綴ることは本書の意図ではない。私がこの本によって提供したいのは、アトピー性皮膚炎患者がステロイド離脱を目指すにあたっての実戦的な情報である。
 ステロイドを拒否する患者を診ようとしない皮膚科医は、離脱後、患者がどうなっていくのかを知らない。あるいは、薄々気付いてはいても認めるのが怖いのだと思う。誰でも自分がそれまでしてきたことを否定したくはない。その結果、アトピー性皮膚炎に関して、皮膚科医は裸の王様になってしまった。多くの患者たちはもはや皮膚科医のもとを訪れない。そして情報不足の中、患者たちは孤独で不安な離脱へと踏み切る。
 本書は、不安に戸惑う患者たちと同時に、脱ステロイドの経験のない皮膚科医にも読んでほしいと思って書いた。これら事例は決して特異なケースを選りすぐったのではない。ごく典型的なパターンを紹介したものである。治療法についてはあまり書かれていない。というよりも、なかなか理解してもらえないかもしれないが、薬や「治療」はほとんどない。患者たちはただ定期的に私の所を訪れて、服を脱ぎ写真を撮って、話をして帰っていく。
 「不思議だけど、先生のところに来た日は、なぜか少しだけ治まるんですよ。」この言葉を何度聞いたか知れない。要するに、脱ステロイドにあたっての医者の効用というのはそんなものなのだ。それ以上でもそれ以下でもない。くどいようだが、本書は、私の「治療法」が優れていることを示すためとか、私の自己宣伝のために書いたものではない。できれば本書を道しるべとして自分自身で、あるいは現在の主治医のもとで、ステロイドから離脱してほしいと願う。患者たち同様、私もまた、こんなことに付き合うのはもうこりごりなのだ。いったいいつまで同じことが繰り返されるのだろう。

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