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カラーで見るアトピー性皮膚炎のステロイド離脱
深谷元継(国立名古屋病院皮膚科)著、医歯薬出版、2000、¥5200

序文
平成12年2月
青木敏之(前羽曳野病院皮膚科)
 この度、深谷元継氏が「カラーで見るアトピー性皮膚炎のステロイド離脱」という本を執筆され、読ませていただく機会を得た。深谷氏は国立名古屋病院で、アトピー性皮膚炎患者の診療に長年携わってこられ、脱ステロイドで秀でた成果をあげられておられる。  最近のアトピー性皮膚炎の治療分野では、皮膚科医をステロイド派と脱ステロイド派に色分けすることがはやっている。その分類によれぱ、皮膚科医のほとんどがステロイド派であるなかで、脱ステロイド派は圧倒的に少数派であり、大方の皮膚科医達から指弾を受けている。
 その著書に序文を書くなどと言う行為はかなり勇気のいることである。しかし、あえてそれを引き受けることにした。その理由は、脱ステロイドはアトピー性皮膚炎の治療の現状を見るとき、無視することができない機能であると、私は考えるからである。アトピー性皮膚炎は炎症性疾患である。そのために抗炎症剤というステロイドが第一選択薬として推奨されている。ステロイドは、強力なものであっても使用期間が限定されておれぱ問題はない。しかし、アトビー性皮膚炎という痒みを主な症状とする疾患では、いくらステロイドで皮疹をよくしたとしても、掻き破ってまた悪くすることがある。忙しい外来では痒みを止めて欲しいという訴えに応じてステロイドの処方しすぎが起こりやすい。その結果、ステロイドがもはや消炎作用を示さず、皮膚炎が一向に改善されない状態も起こりうる。
 それでもステロイドを強力にし量もどんどん増やして治療すれば必ず治せると豪語する人がいる。確かにそういう治療もあるかもしれない。しかし私はそうは考えない。何らかの理由で急性増悪したとき、長期の無治療で悪い状態が続くとき以外は、アトピー性皮膚炎は強力なステロイド治療をする必要がない疾患と考えている。したがって、それなりに強力かつ充分なステロイド治療を行ってもなお症状が悪い方向に向かっているときは、どこか間違っていないかと考える。
 どの分野の臨床医学でもそうであろう。「押して駄自なら引いてみる」ことは、薬物療法でもしぱしぱおこなわれることである。そしてそれがアトピー性皮膚炎にとって有効なことがある。それが脱ステロイドなのである。しかし私は、脱ステロイドが常に安全で優れた手段であるというつもりはない。むしろ脱ステロイドの仕方によっては危険でさえある。深谷氏のこの著書には、ステロイド治療をしていて長くなり、いつまでたっても治らないので、ステロイドを一度止めてみたいという人がやってきて、相談の上、止めることになった人37例の治療経過が写真で示されている。経過によって、潮紅局面型、紅斑融合型、地図状拡散型、激症型、痒疹拡散型に分類されている。読者は軽い症例の脱ステロイドの経過も見ることもできるし、激症型や痒疹拡散型のように、非常に重症なリバウンドを起こすけれどもやがて炎症が治まって行く過程を見ることもできる。ステロイドを使っていても良くない状態に止まっていた症状が、ステロイドを引き揚げることで軽症化することがあるということは、アトピー性皮膚炎治療の歴史上、画期的な発見であったとわたしは自著で書いた。しかしいうまでもないことだが、全てのアトピー性皮膚炎てステロイドを中止するようなことはしてはならない。
 脱ステロイドにはいくつかの注意点がある。たとえやむなく脱ステロイドを選択したとしても、すべてで成功するとは限らない。やむを得ずステロイドを再開せざるを得ない例も多い。ステロイドを止めたときは、この書物にも記されているように、半年以上の苦しみを乗り越えてやっと成功という場合がある。そのような長期間治療に専念できる人は少ない。その意味で脱ステロイドはどこでも誰でも適応すべきではなく、それなりに可能な施設や症例であつかうべきものである。しかも成否の見極めが難しいので、まだ十分解明されていない分野である。
 脱ステロイドにはもう一つの問題点がある。ステロイドを止めるだけならぱ医者でなくてもてきるとぱかりに、民間治療者が真似をすることである。緊急事態に対応されていない患者に被害が増大している。脱ステロイドは医学的に速やかに体系化されることが望ましい。この書物は、脱ステロイドの成功例を示すことによって、実は、ステロイドに頼りすぎのアトピー性皮膚炎の治療に警告を発しているものである。すなわち、弱いステロイドで効かないときに強いステロイドに切り替える治療は、いつまでもエスカレートするのではなく、最後はもとの弱いステロイドに戻すことが出来なけれぱならない。しかし、ここで示された症例はそれが出来なかったのである。このように、脱ステロイドによってアトピー性皮膚炎が改善することがあるならぱ、初めからなるぺくステロイドを上手に少なく使う治療があった筈である。これからはそのような治療を組み立てていかなけれぱならない。
 ステロイド派、脱ステロイド派というような色分けが、今のアトピー性皮膚炎治療の混乱を解消するであろうか。ましてや脱ステロイドの希望に対応している医師を魔女狩りするかのごとく、やり玉に挙げるだけの行為は問題の解決をますます遠ざけるばかりである。ステロイド中心の治療がいま広くおこなわれていて、それによってうまく行っている症例が多い中で、破綻を来しているような症例がなかにあり、それに対応しているのが脱ステロイドと考えれぱ、種々の状態のアトピー性皮膚炎患者を、ステロイド治療中心の医師と脱ステロイド中心の医師で、分担して診ているようなものてある。わたしが脱ステロイドを無視することができない機能というのはその意味である。
 これを読まれた方が直ぐに脱ステロイドを真似して成功するとは限らない。むしろ脱ステロイドでこれだけよくなることがあるならば、ステロイドを使うぺきときと、使わざるべきときとがあるに違いないことに、考えをめぐらせていただきたいと思う。この書物が、アトピー性皮膚炎の治療に進展をもたらすきっかけになることを祈ってやまない。



臨床治験から見たアトピー性皮膚炎のステロイド外用剤治療の問題点
国立名古屋病院皮膚科 深谷元継

 ステロイド外用剤がアトピー性皮膚炎の皮疹を抑えることは1952年のSulzburgerによって初めて報告された1)。彼が用いたのは酢酸ヒドロコルチゾンで、本邦では1953年に承認され、現在はコルテス軟膏(大正製薬)として発売されている。しかし1980年の山崎らの論文2)では、小児の湿疹・皮膚炎群での有効率は62%と他剤に比し低く「有効率はやや落ちるが、副作用の発現も他剤より低いと考えられるので、もう少し見直されても良いように思われる」とあり、他のより強力なステロイド外用剤に席巻されつつあった様子が窺われる。ちなみにデルモベートの日本での承認が1978年、リンデロンDPは1980年であった。

 筆者がいくつかの製薬会社に「アトピー性皮膚炎に対する効用や副作用というのは、臨床治験や市販後調査において、どの程度の長期まで確認されているのか」を問い合わせてみた。その結果、気が付いた問題点を以下にまとめた。

1) 治験や市販後調査の殆どは、アトピー性皮膚炎としてではなく「湿疹・皮膚炎群」に対して行われてきた。

 これはアトピー性皮膚炎が幼少児期の自然治癒傾向のある皮膚疾患として扱われていた時代の発想としては問題が無かったのかもしれない。結果として適応症にも湿疹・皮膚炎群とのみ記されアトピー性皮膚炎が特に挙げられていないものが多い。現在のように患者数も増加し、後に述べるように再燃傾向が浮かび上がって来ている以上、今後は別枠に考えた方が良いだろう。

2) 「長期」は一般に百数十日までを想定している。

 例えば「Diflorasone Diacetate外用剤長期投与による局所および全身的影響」という論文3)において観察期間は最長16週であった。また「ハルシノニド外用剤長期投与時の臨床的有用性(臨床効果と全身影響)の検討」4)では14から112日(平均59日)であり、「ハルシノニド軟膏の長期投与による有用性の検討」5)においては3例のアトピー性皮膚炎について35から127日の観察がなされている。その他の多くの治験論文では数日から数十日の外用期間で有効性の判定を行っており、「ステロイド外用剤開発に関するガイドライン」(石原私案)6)でも、第三相試験での期間は1ないし3週間、長期投与試験の期間は1ヶ月以上3ヶ月以内とされている。
 アトピー性皮膚炎において、ステロイド外用期間が数年から数十年に及ぶことは珍しくないが、このような長期使用の安全性を治験や使用後調査は保証してはいない。また長期投与を表題に掲げた論文の主眼は下垂体副腎機能の低下の有無にあるようであり、後述するような、中止減量後の強い再燃(リバウンド現象)については関心が払われていない。
 有効性に関しては「アルメタ軟膏再審査申請資料要約」に興味深い結果が示されている。湿疹・皮膚炎群の投与期間別改善率は、7日未満90.7%、7から14日87.7%、14から21日84.2%、・・・42から182日76.1%と投与期間が長くなるにつれて有意に低下する。虫刺されやジベル薔薇色ひ糠疹では逆に投与期間が長くなるにつれて改善率は有意に上昇する。

3)投薬中止後の経過観察がなされていない。

 嶋崎による「トプシム軟膏の使用経験」7)では、7例のアトピー性皮膚炎での16日から85日までの使用によって、著効1例有効6例と報告されているが、備考欄に全例「再燃あり」と附記されていた。接触皮膚炎・急性湿疹・慢性湿疹では再燃はなく、脂漏性湿疹・貨幣状湿疹ではやはり全例「再燃あり」とある。このような中止後の再燃の有無や程度が注意深く治験段階で観察されていたら、現在のような混乱は避けられていたのかもしれない。
 再燃に関しては、原田ら8)によって既に1989年に興味深い研究がなされていた。彼らはclobetasol propionate(デルモベート)を1ないし4週間外用させて寛解に導いた21名のアトピー性皮膚炎患者を、次に betamethasone valerate(リンデロンV)に落としてみたところ、13名では引き続き寛解が保たれたが、8名(約38%)は再燃したと報告している。そして丘疹(痒疹様結節を含む)が残存していた症例では再燃をみやすく、そのことは統計上も有意であったと記している。痒疹様結節のみられるステロイド連用中のアトピー性皮膚炎患者の多くが、中止とともにリバウンドを生じ、紅皮症化した後に自然消退することは、しばしば脱ステロイドの臨床現場で経験する9)。従って原田らの再燃例はまさにリバウンドを観察していた可能性が高い。
 彼は「 strongestの外用剤からただちにstrongの外用剤にtaper し、コントロール良好群が62%という成績が得られたが、strongest→ very strong→ strong→ mild→ weakとさらに細かく段階的にランクを下げていくことにより、より高い成績が期待できるのではないかと思われる」と考察しているが、仮に strongestからvery strongに落とすことによって80%の寛解率であったとして、very strong→ strongに落とす際の寛解率をやはり80%とすれば、結局0.8×0.8=0.64となり、一度に落とすのと大差は無いことになる。 strong からweakに落とす際およびweak からsteroid offにする際の寛解率をやはり62%程度と見込めば、0.62×0.62=0.38、0.38×0.62=0.24となり最終的に4人に3人はどこかで再燃するため、リバウンドを避けては離脱できないということになる。筆者の脱ステロイドの臨床経験からも、リバウンドを殆ど起こさずすんなりと離脱してしまう例は確かにある。松村ら10)はその率は11.8%であったと報告している。

4)ステロイド外用剤自身が長期的な自然治癒の阻害要因となっている可能性については全く検証されていない。

 多くのステロイド外用剤が開発され処方されているにも関わらず、アトピー性皮膚炎の治癒は遷延し成人患者が増加する傾向にある。このことは昨今言われているようなsteroid phobiaが社会問題化する以前からの現象として西岡ら11)によって1991年に指摘されており、少なくともステロイド外用剤がアトピー性皮膚炎に長期的な意味で本当に有効なのか?についての懐疑を投げかけるには十分だろう。筆者は一年以上の長期観察例においては、ステロイド非使用群の方がステロイド使用群よりも寛解傾向が高いことを示している12)。
 このような長期連用に内在するかもしれない薬物療法の危険性に関しては、開発治験の段階でチェックすることは現実的に不能と言わざるを得ない。このような課題に回答すべきは実地診療に携わっている我々臨床医であり、もしもこのような重大な現象が見過ごされてきているとすれば、皮膚科医全体としての責任問題と言っても過言ではない。学会や厚生省研究班が中心となって検証に取り組むべき価値があると考える。
 日米のステロイド外用剤の添付文書を日本医薬品集とPDR( physician's desk reference )とで対比してみると興味深い結果が得られる。alclometasone dipropionate(アルメタ軟膏)は、PDRでは「1才未満の患者には勧められない。3週間を越えた使用は安全性が確立されていない」とありclobetasol propionate(デルモベート)は、PDRでは「12才未満の患者には勧められない」とある。mometasone furuoate(フルメタ)は、PDRでは「2才未満の患者には勧められない。3週間を越えた使用は安全性が確立されていない」と記載されている。
 hydrocortisone acetateは米国でOTC ( over the counter ) として医師の処方なしに購入できるが、Directionsとして「2才未満の患者は使用してはならない。12才未満の患者は医師と相談せよ。7日使用して改善がなければ使用を止めよ、そして他のいかなるヒドロコルチゾン製剤も医師との相談なしには使用してはならない」と明記されている13)。
 このような警告は、皮膚表面の体積に対する割合の大きい乳幼児の下垂体副腎機能への影響を懸念しての事のようだが、結果的に乳幼児期でのステロイド外用剤の使用または連用を自然に控えさせていると考えられる。本邦での「成人アトピー性皮膚炎」の増加が、もしも乳幼児期のステロイド外用剤の多用に一因があるならば、十年ほどのcohort法による疫学研究によって回答を出すことが出来るのではないだろうか。
 ステロイドを離脱してリバウンドを越えたあと自然寛解してしまう「成人アトピー性皮膚炎」の患者たちを目の当たりにするにする毎に、この患者たちはひょっとしたら、ステロイドを使わなければとっくの昔に自然治癒し終えていたのではないだろうか?という疑念を筆者は抱く。

文献
1)Sultzburger,M.B.et al. J.Invest.Dermatol. 19:101,1952
2)山崎紘之他、皮膚22:613、1980
3)Diflorasone Diacetate研究班、西日皮膚47:530、1985
4)ハルシノニド長期臨床研究班、薬理と治療12:1815、1984
5)原紀正他、薬理と治療12:4871、1984
6)原田昭太郎、日獨医報38:33、1993
7)嶋崎匡、皮膚科紀要76:63、1981
8)原田昭太郎他、日小皮会誌8(sup)137、1989
9)深谷元継、ステロイド依存:38、柘植書房新社、東京、1999
10)松村剛他、臨皮49(5増):115、1995
11)西岡清、皮膚臨床33:413、1991
12)深谷元継、アレルギー48:520、1999
13)upjohn 社Cortaidの箱書き 

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