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アトピー大逆転
清水良輔
神戸新聞総合出版センター 1997年1月10日発行 定価 \1,300
電話 078-362-7140

発刊にあたって
 昔は治っていたアトピー性皮膚炎が、今は治りにくくなっています。最近では、いったん小児期にかげをひそめていた病気が、思春期をくぐり抜けた頃から再び増悪してきたり、なかには三十代、四十代でアトピーがでてくる人もいます。私は、こういう現象は現代の社会生活と密接な関係にあると考えています。
 学歴至上主義の教育制度を背景に、幼小児期から家庭や学校、塾での厳しい管理、一度落ちこぼれるともとにもどるのはむずかしくなると感じさせる学校生活など、子供たちが心に傷を受ける要素がいっぱいです。
 また、核家族や子供の少数化などをベースに親のひとりよがりな子育てが展開され、ありのままの子供を愛せない親たち、勉強や病気に関することでしかコミュニケーションがとれない親子関係、両親の不仲や離婚増加など、子供たちを取り囲む環境にも多くの問題がみられます。
 心の傷が癒されないまま年齢を重ねていくと、心の傷はその人の人生にいろいろな”生きにくさ”を与えることになります。性格的なコミュニケーションが苦手だったり、人目が人一倍気になったり、物事が楽しめなくて依存しやすかったり「ノー」といえず何でも自分で背負ってしまうなどさまざまです。
 たとえば、少年期では”生きにくさ”を非行や校内暴力、いじめ、不登校などの行動異常で表現する子供もいます。そして、アトピー性皮膚炎についても、心の問題が大きく関与していると思います。アトピーがあることで心に傷を受けてしまうという悪循環を形成してしまいます。
 このほんの読者は、ご自身がアトピーもしくは、ご家族がアトピーであるという方が多いと思いますが、私はアトピーを取り巻く多くの情報の中で、自分自身の足元の問題に気づいていない方が多いと感じています。
 本書は、第一〜四章とQ&Aで構成しました。
 第一章「患者さんが教えてくれたこと」は実際に私が貴重な体験をしたと感じたように、読者の方々にも感じていただければと思います。
 第二章「逆転するには敵を知れ」は、教科書や論文などに記されている内容を知識として知ってもらうためにまとめ、その中にも私なりの意見を盛り込みました。
 第三章「ステロイドはもういらない」は、この数年学会でも大きな論議となり、アトピーの患者さんにとっても最大の関心事であると思われるステロイドの問題について、数年間の体験と臨床データを中心にまとめました。
 そして、第四章「アトピー大逆転」は、第一章でアトピーが客観視でき、第二、第三章で知識や自分の体験を整理できた方たちへのわたしからのアドバイスです。
 一昨年、本書執筆のお話があったときはまず考えたことは、今でも病気の成り立ちが十分に解明されておらず、百人の医者がいれば百通りの治療法があるなどといわれるアトピーについては、「これでアトピー治療の決定版」「こうすればアトピーが治る」というような書き手側の理論を一方的に押しつけるような本にはしたくないと考え、二年半の月日を要しました。アトピー克服というゴールへの到達方法はいくつもあると思います。決して私の主張がすべてなどとは思っていませんが、本書に触れていただくことで何かを感じ、アトピー克服への一つのきっかけにしていただければと祈念してやみません。
 最後に、私に主張の場として本書の発行をお勧めいただいた神戸新聞総合出版センター取締役出版部長谷口公夫氏、同出版部岩崎典子さん、そして日頃の診療を支えてくれている神戸労災病院の医療スタッフの仲間たちに感謝いたします。
1996年9月    
清水良輔

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