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アトピー
アトピー・ステロイドに関するアンケート調査報告書 1999.6
編集発行人:住吉純子
発行:アトピー・ステロイド情報センター
〒530-0047 大阪市北区天満 3-4-5、西天満ワークビル101号
06-6364-0275 FAX 06-6364-0311
発行日:1999年6月10日 定価:600円(消費税別)

はじめに
 本調査は、アトピー・ステロイド情報センターが、アトピー治療の現状、すなわち年代別インフォームド・コンセントの推移や医療機関でのステロイド剤の使われ方、また、ステロイド離脱にいたった状況など、患者のアトピー治療の実態を知ることを目的として行った。過去、医療機関を中心としたアンケート調査は幾度かなされてはいるが、患者サイドにたった詳細な治療の実態調査はまだない。患者達の過去のアトピー歴や治療歴を探ることで、アトピー患者が増加してきた背景を知り、ひいては本調査がこれからのアトピー治療の参考資料になることを目指した。
 アトピー性皮膚炎の治療は、今も相変わらず、ステロイド外用剤の症状をコントロールすることが主流となっているが、実際には、いつまでも続くステロイド剤のサジ加減でコントロールする治療にアトピー患者が失望しているのが現状である。今回の調査では、特にステロイドの使用の実態、ステロイドからの離脱理由やその後の状況や経過、アトピーやステロイド離脱で起きる生活困窮度及び社会状況など、および医療機関に受診する立場からみるインフォームド・コンセントなど、様々な形でのアトピー治療の実態が明らかになるように配慮した。
 この調査報告が患者にとってのより良いアトピー治療の一歩になることを願ってやまない。

第3章クロス分析と考え
C-3ステロイドを外用している人と中止した人との比較から見えたもの
 ステロイドの外用期間は、中止している人ほど外用した期間も長期にわたり、より強い薬を塗っており、ほとんど毎日外用していた人が多い。また、中止した理由も症状が増悪したから、症状が変わらないからと回答した人が多い。これらのことから、ステロイドの外用を中止した人ほど重症度が大きいと考えることができる。また、現在ステロイドの外用を続けている人(248人)の中(B-2ステロイドの外用期間)で50.1%(124人)の人が5年以上と長期に外用を続けており、ステロイドの使用とその効果には患者の個人差が大きく関係していると思われた。
 今回の調査で明らかになったことの重要な点に一つは、ステロイドの効果には患者側の個体差が大きく関与しているように見えることである。池澤1)はこの患者の個体差を次のように説明する。
 すなわち、接触アレルギーを起こすステロイドアレルギー群、ステロイドが効かなくなるステロイド抵抗群、効くことは効くが中止することによってすぐに急性増悪を起こすステロイド依存性群、逆によく効いて中止しても急性増悪がみられないステロイド感受性群などの個体による違いがある。
 だが、この患者側の個体差を何らかの試験方法などであらかじめ知ることは、今のところ出来ない。従ってアトピーのステロイド治療とは、相手かまわず闇夜で鉄砲を打つという原始的な、無謀な療法といえる。
 次に、もう一つの重要な点は、ステロイドの効果に時間的な一定の限界があるということである。今回の種々の設問から得られた結果は、先に述べたように、使用開始後5〜10年に大きな転換期を迎えているということである。
 これに関連して、以下にステロイド使用期間限界があるのではないかという考えを支持するこれまでの研究を述べてみよう。
 西岡2)はアトピーの思春期の再燃に対して、IgE値の上昇やLT4の増加を挙げている。ステロイドが免疫系を操作することはそのメカニズムから明らかであるが、一時的に使用すれば有効なステロイドも、幼小児期から使い続けることによりこのようなサイトカインの異常生成を導いてしまっている、というのである。われわれも、このサイトカインの異常生成がステロイドの長期使用によって起こっていると考えるわけである。
 Horikiら3)、Grabbeら4)、井川ら5)は接触感作したマウスにおいてステロイド剤の長期間外用は皮膚表皮のランゲルハンス細胞を除去し、接触過敏症を増強させるということを証明した。
 すなわち、ステロイドの長期使用はTh1細胞誘導性遅延型過敏反応の増強をもたらして、アトピー性皮膚炎の悪化を招いており、アトピーの悪化を助ける一つの要因となっている。
 また、槙野6)は免疫反応に対して重要なCD T細胞が、特にステロイド長期大量使用後に減少するという現象をつかまえている。
 これらの研究結果は必ずしも全てが一元的な説明のつく話ではないかもしれないが、少なくとも免疫細胞の働きの抑制とステロイドの長期使用との間に何らかの関連があることを示している。今回の調査で明らかとなったヒトでのステロイド使用5年乃至10年限界説を考える由縁である。

文献
1)池澤善郎:Modern Physician, 17巻2号、213-220, 1997
2)西岡清:皮膚科の臨床、33(3), 413-418, 1991
3)Horiki S. et al:J. Dermatol. Sci., 10(1), 92, 1995
4)Grabbe S. et al:J. Immunol., 155, 4207-4217, 1995
5)井川健、他:日皮会誌、160巻5号、751, 1996
6)槙野茂樹、他:免疫薬理、9巻27, 1991

まとめ
1.成人アトピー性皮膚炎患者の増加とステロイド外用剤の関与について
 患者数を年齢別にみると20歳以降の成人アトピー患者が増加しており、患者の生まれた年を西暦でみると1965年以降に生まれている。また、1965年以降に生まれた成人アトピー患者の多くが0歳から5歳までアトピー性皮膚炎を発症しており、成人アトピーの急激な増加は成人になって発症したものでないことが分かった。乳幼児期に発症したアトピー性皮膚炎が成人にまで持ち越されるようになった要因の一つとして、治療に使われるステロイド剤が関与しているのではないかということが明らかになった。

2.インフォームド・コンセントについて
 インフォームド・コンセントは90年代に入って急激に良くなっている。それまでは患者は病名も教えられない人が多く、出された薬の名前も告げられていない人が多かった。ステロイド外用剤に関しても、患者の声からも推測されていたように、副作用はもちろんのこと、外用期間を教えられていた人は少なく、医者に処方されるままステロイドを外用し続けていた実態が明らかになった。

3.ステロイドを外用し続けている人と外用を中止した人との比較
 ステロイドの外用期間は、中止している人ほど外用した期間も長期にわたり、より強い薬を塗っており、ほとんど毎日外用していた人が多い。また、中止した理由も症状が増悪したから、症状が変わらないからと回答した人が多い。反面、ごく少数だが5年から25年と、現在も長期にステロイドを外用し続けている人もいる。これらのことから、ステロイドの使用とその効果には患者の個人差が大きく関係していると思われた。

4.ステロイドの外用期間について
 現在ステロイドを外用中、中止している、あるいは年齢などにかかわらず、ステロイドの外用期間は5年から10年が多く、ステロイドを外用していて症状が悪化したと感じたり、副作用を経験する時期も5年から10年が最も多い。また、中止時期は悪化時期や副作用の経験を感じた時期と重なるため、5年から10年外用した時点で中止する人が多いとことが考えられる。このことから5年から10年の外用期間は何らかの意味をもつ数字であると推測できる。

5.ステロイド外用のアトピー性皮膚炎の治療効果について
 ステロイドの外用経験のある人たちが、長期にわたって外用してきたステロイドを「症状が改善した」ために中止したと回答した人はわずか10%にも満たない。また、現在、ステロイドの外用を中止している人がステロイドの外用時と中止後を比較すると中止後の方が「良い」とする人が半数以上もいることから、ステロイドの外用がアトピー性皮膚炎の治療に必ずしも有効でないことが明らかになった。

6.ステロイドを外用していて発生する副作用について
 ステロイドによる副作用で最も多いのは色素沈着で、1年未満の外用でも51%の人に現れた。皮膚萎縮や酒さ様皮膚炎もその発生は多く、1年以上外用した人の約半数に現れている。
 何らかの眼障害がある人は、述べて157人で、中でも最も多いのは白内障の97人(6.2%)であった。
 白内障についてはこれまで、ステロイド剤からの離脱の際に白内障の発症率が高くなるという説もあったが、ステロイド離脱後に白内障を発症している人は57人であり、これらの人の発症時期をみると、離脱してから2年以上経った人も多く、必ずしも離脱と直接関係があるとはいえないことが分かった。また、ステロイド外用との関係を肯定するには至らないが、ステロイド外用によりアトピー性皮膚炎が重症化し、その結果、眼の合併症が生じる可能性はある。
 緑内障、円錐角膜では圧倒的に外用中に優位に発症していることが分かった。

7.ステロイドを外用する抵抗感について
 アトピー性皮膚炎でステロイドの外用経験のある90%以上の人が、ステロイドを外用することに抵抗があると回答している。また、その抵抗感は「ステロイド剤が治療に有効ではない」「副作用を感じた」などの自分自身の体験から発しているものであり、民間療法や一部の医者の「ステロイドをできるだけ使わない治療」を推進しようとする医師の影響でアトピー性皮膚炎患者たちが、「ステロイドの外用治療を拒否」しているのではないことが明らかになった。

8.抗アレルギー剤の効果について
 ステロイドの外用剤に次いでよく処方される抗アレルギー剤に関しては、有効性はあまり認められなかった。アトピー性皮膚炎の痒みや炎症反応がそう簡単に制御できないことの現れととれる。また、有効性が不確かといわれながらも比較的よく処方されるのは、従来の抗ヒスタミン剤と比較しても10倍以上の薬価が設定されていることも関係しているのではないかと考えられる。

9.引きこもりについて
 1年以上の長期のひきこもりは、21歳から35歳までに集中しており、人生における貴重な一時期を、アトピー性皮膚炎やステロイド離脱のために引きこもらなければならない実態を、国や行政で調査するとともに、一刻も早く対策をとられることが望まれる。

アトピー・ステロイド情報センターとは
《会の設立経過および活動目的》
 アトピー・ステロイド情報センターは、アトピーに関する情報が氾濫する中、お互いの治療体験を交換することで、情報を整理し、患者同士がより良いアトピー治療を検索する場として発足しました。
 その時々の情報に惑わされることなく、医学文献の解析や会員の情報に基づき情報センターとしてある程度の見解をもった活動をしていくことを目標としています。
 また、アトピー性皮膚炎で長期にステロイド剤を塗り続け、結局、ステロイド剤でアトピーを治療できなかった人たち、そればかりかアトピー以上の苦痛をあえて受けなければならなかった人たちが「アトピーにステロイドは要らない」と声をあげ始めました。長い間、アトピーと闘い、ステロイド離脱で苦しんだ人たちの「もう自分たちのような思いを誰にもさせたくない」という声を、広く社会に届けるための活動を情報センターの目的の一つです。
《会の活動内容》
*機関誌の発行
アトピーやステロイド離脱を克服した会員の体験談、その他、薬や民間療法に関する疑問点など、アトピーやステロイドに関する記事を掲載した機関誌を年6回発行しています。
*交流会や学習会、講演会の開催
会員同士の交流をもつための交流会、合宿等を行っています。交流会の中からアトピーの友達の輪が広がっています。ぜひあなたも仲間に加わって下さい。アトピーを正しく理解するために、アトピー治療に携わる医師を招いての講演会や環境問題を学ぶ場としての学習会などを開催しています。また、もう一つの大きな目的である「患者にとってより良いアトピー治療を求めて」厚生省や行政と話し合いの場をもっています。
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