脱ステロイドでアトピーを治す
淀川キリスト教病院の治療体験集
玉置昭治 淀川キリスト教病院皮膚科部長
はじめに
脱ステロイドに思いをかけて
−淀川キリスト教病院における治療−
淀川キリスト教病院皮膚科部長 玉置昭治
淀川キリスト教病院で、脱ステロイドをアトピーの治療に取り入れたのが、1990年6月からです。その結果を、91年6月に京都で開かれた第84回近畿皮膚科集団会で報告しました。皮膚科の学会はおとなしくて、反対意見があってもあまり議論を交わし、それが白熱化するということはありませんでした。しかし、この時は早朝一番目の発表にもかかわらず、報告が終わると数人から質問の手が上がりました。3分間の討論時間はゆうに20分を越えました。
「ステロイドなしでどうして治療する。そんな治療は間違っている」「皮膚科医が自らの手足を縛るようなことをして」というような雰囲気でした。しかし、休憩時間などに交わされた意見の中には、賛同してくれる方もいました。
その後92年5月に、市民団体主催のシンポジウム《アトピーとステロイド》で講演し、それが新聞報道されたことから、アトピー性皮膚炎患者が当院に急増することになりました。その年の6月に松江で開かれた第22回日本皮膚アレルギー学会で、「成人型アトピー性皮膚炎の脱ステロイド軟膏療法」を報告したときには、学会員にも好意的に受けれ入れられて、実際の方法や治療のコツなどが質問され、一年前との違いにびっくりしたものです。
93年1月25日朝日新聞論壇に、成人アトピー性皮膚炎の治療について、『脱ステロイドの道さぐれ』という私見が掲載されました。この頃の治療を振り返ってみますと、ステロイドを止めさえすれば、アトピーは良くなると考えていたように思います。
確かに止めるだけで良くなる人もいますが、それだけでは無理な人を多く経験するようになりました。入院して綺麗になっても、自宅に帰ると悪くなる。良くなっていても職場復帰して悪化する人や受験や一人暮らしで悪くなる人もいます。また、本当に症状がなくなり、アトピーとは見えなくなった人でも、95年の阪神・淡路大震災後のストレスにより、徐々に悪化してくる人も経験しました。
これらのことより考えて、最近はステロイドを止めるのは必要最低条件で、アトピーを克服していくためには、日常生活を改善してストレスを溜め込まないようにセルフコントロールする必要がある、と思うようになりました。ステロイドを止めると、ステロイドにより隠されていた原因が見えてくることがあります。何が自分のアトピーを悪くしているかを観察し、自分で気づいてもらう。それに基づいて、生活習慣・食習慣を変えてもらうように指導しています。
『俺についてこい、俺が治してやる』式の治療は、アトピー克服にはあまり効果がないように思います。また、『○○でアトピーが治る』式の大部分はいんちきです。患者さんが家族の協力を得ながらステロイドを止めて、アトピーと本気で向かい合い、スキンケアを行い、食生活に気をつけて、ストレスをためないように生活する必要があると言えます。
よく、『淀川キリスト教病院では、アトピーには主にどんな治療をされていますか?』と聞かれます。当院では、アレルギーの検査はほとんどしませんし、ダニ除去もそれほど強くは指導しません。しかも、特別な薬を使うわけでもありません。当院の治療の特徴を聞かれると困ってしまいます。
しかし、氾濫しているアトピー情報に翻弄され、にっちもさっちも行かなくなった人に、正しい情報を提供するだけでアトピーを克服されたというケースを経験するようになりました。私たちの話を聞くだけでホッとされる人も多くいます。薬もいらないのに、検査を受けるわけでもないのに、長い時間お待ちいただいてお話だけして帰っていかれる患者さんもいます。それで充分満足されています。そのため、『淀川キリスト教病院では特別な治療をしませんが、お話ができる』というふうに治療の特徴を説明しています。
アトピーとステロイドの問題は、まだまだ解決が済んだというにはほど遠い状態です。せっかく止めたステロイドを再使用している人もいます。職場復帰できないで悩んでいる人もいます。淀川キリスト教病院にかかるとすべての人が良くなる、というわけではありません。淀川キリスト教病院で治療を受けた人々に書いていただいた体験集を基にして、淀川キリスト教病院の治療を公表したいと思います。そして、アトピーに悩まされている人のアトピー克服の一助になればと思います。
第一章 アトピー性皮膚炎について
*アトピー性皮膚炎とは−アトピー性皮膚炎をどう考えるか
*アトピー性皮膚炎の治療
体験談
第二章 脱ステロイドに向かって
*ステロイド軟膏とは
*ステロイド軟膏の副作用
*脱ステロイドとは
*脱ステロイドの結果
体験談
第三章 アトピー患者の心とストレス
*アトピー患者の性格
*アトピー性皮膚炎とストレス
*プラス思考と支援システム
体験談
第四章 アトピー患者を支える家族
*家族との関係−親へのメッセージ
体験談
第五章 入院生活と患者同士のつながり
*入院治療とは
*アトピー研修所の試み
体験談
第六章 さまざまな民間療法とのつきあい方
*民間療法をどう考えるか
*温泉病院のこと
体験談
おわりに アトピー性皮膚炎と向き合って
発行日 1997年1月31日
メディカ出版 大阪府吹田市広芝町18-24
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