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読売新聞 1999年(平成11年)6月7日(月曜日)
アトピー性皮膚炎 ステロイド治療に95%が抵抗感
「副作用感じた」「一時しのぎ」患者団体が全国アンケート
患者が増加し、症状も深刻になっているとされるアトピー性皮膚炎。その実態を探ろうと、患者団体「アトピー・ステロイド情報センター」(大阪市北区)が、全国の患者にアンケートを実施した。結果をもとにセンターは5月下旬、厚生省に症状が長引く原因の究明などを求めた。
調査は昨年9月から今年1月にかけて、センター会員や医療機関への通院者、別の患者団体などを通して募った3074人を対象に実施。うち1580人から回答を得た。医療機関にかかっている患者は69%だった。5歳までに63%発症。
【患者増加の背景】
回答者の年齢分布は17歳から急に増え始め、19〜31歳が一つのピーク。始めて発症した年齢を尋ねると、63%が5歳までに発症しており、それ以降は減少傾向だった。
センターでは、成人のアトピー患者には、幼少期に発症したものが治り切らずに続いている人と、思春期に再発した人が多いのではと分析する。患者の生年をみると65年ごろから急増傾向にあった。
センター代表の住吉純子さんは「大気汚染などの環境悪化の影響なのか、治療法が間違っていたのか、なぜ治らないのかの原因をきちんと究明すべきです」と話す。
症状変わらず中止
【ステロイドの効果】
アトピー治療は、ステロイド(副腎皮質ホルモン)剤による症状コントロールが主流だ。調査はステロイドの効果や患者の思いも探っている。
回答者のうち、ステロイド剤を塗っている人は16%(248人)。使用期間を尋ねると、最も多いのは「1年未満」だったが、5年以上塗っている人が半数を超え、「21-25年」とした人もいた。
使い始めの頃の症状が「良かった」「まあまあ良かった」人は90%を越えたが、現在も「良い」は半数以下に減り、「まあまあ良い」「悪い」が増えている。
今は使っていないが、過去に使った経験のある人(1265人)には、中止した理由を聞いた。「症状の改善」を挙げたのはわずかに6.4%で、「症状の増悪」「症状が変わらないから」が合わせて半数近くになった。
【ステロイドへの抵抗感】
アトピー患者はステロイドを避ける傾向にあると言われてきたが、この現象が何によるものかも調べてみた。
ステロイドへの抵抗感は、95%が大なり小なり持っていた。その理由を聞くと、「(ステロイドが)一時しのぎでしかない」「副作用を感じた」ことが「大いに関係ある」とした人は60%と49%いた。
一方で、副作用を強調する「マスコミ情報」が「大いに関係ある」としたのは34%。だが、「塗っても効かない」(36%)との経験に基づく理由は少なくなかった。
「ステロイドを嫌がるのはマスコミや一部の医師の責任だとする意見もありますが、患者は自分たちの体でおかしいと感じて避けている」と住吉さん。「ステロイドは短期間で上手に使おう、と言われますが、結果をみると決して上手に使われているとは言えない状況がある」
かさむ治療費用
【患者の日常生活】
家庭・社会生活で困ることや悩みも尋ねた。「治療のための費用がかさみ経済的に困る」が最も多く、成人を中心に「働いているが、仕事が辛い。出来ない」「結婚に対する不安」「就職できない」が多く、学生では半数が「学校へ行けない」と答えた。
アトピーの症状や、ステロイドを中止することによる一時的な症状悪化で引きこもった経験のある人は、全体の60%にも上った。その期間は、「1ヶ月未満」と短い人もいたが、「3年以上」「5年以上」とした人もいた。
住吉さんは「調査対象が、症状が改善しない患者に偏っているという見方があるかも知れないが、よくならない患者が千人単位でいる事実を考えてほしい。現在のステロイド中心の治療で見直すきっかけになれば」と訴えている。
調査に協力した国立名古屋病院(名古屋市)の皮膚科医、深谷も元継さんは「最近、皮膚科医の中でステロイド使用をめぐって議論が続いているが、患者が置き去りにされているような気がする。今回の調査では医療機関にかかっていない患者の声も集めることができた。この実態を謙虚に受け止めたい」と話している。
結果の報告集は1部600円(送料240円)で希望者に分けている。申し込みはセンター(アトピー・ステロイド情報センター 〒530-0047 大阪府大阪市北区天満3-4-5-402 06-6364-0275)へ。
1999年7月31日 週刊現代
初の全国調査でわかった
「アトピー地獄」の元凶は乱脈ステロイド治療だった
日本全国に数百万人も存在するといわれるアトピー性皮膚炎患者には、ステロイドが唯一の特効薬として使用され続けてきた。しかし、その治療実態はあまりに杜撰(ずさん)だった。”薬害アトピー”といえるほどの医師による無責任な処方。大阪の患者団体が初めて全国調査を敢行した。1558人の悲鳴と怒りを聞いてほしい。
痒さで顔を叩き、網膜剥離に
「ステロイド剤は、短期的には劇的に炎症を抑えます。が、長期にわたって使用すると、かえって病気を悪化させることになります。サラ金からカネを借りるようなもので、安易に頼っていると、いずれは借りた金額の何倍もの額を取り立てられることになりかねません」
著書に『ステロイド依存』がある、国立名古屋病院の深谷元継医師はこう警告する。アトピー性皮膚炎は、乳幼児の患者が大幅に増えて、いまや乳幼児の3人に1人が症状を示すようになった。その治療には、長年、炎症を劇的に抑える合成ホルモン剤のステロイドが主に使われ、ほとんどの医師がアトピーの唯一の特効薬として処方してきた。しかし、思春期以降の成人アトピー患者が、近年急増していることから、”乱脈ステロイド治療”の影響ではないかという疑いが出ている。
'67年から'96年の間に、東京大学分院皮膚科で診療を受けた患者数の推移でも明らかだ。アトピーは、もともと思春期になると自然に治る病気で、つい最近まで皮膚科学の教科書にもそう記してあった。しかし、'67年は0〜9歳が73.8%で、20〜29歳が3.1%だったのに対し、'96年は0〜9歳が23.4%で、20〜29歳が38.7%と、成人患者が激増している。
大阪にあり、650人以上の患者が情報交換する場になっている患者団体「アトピー・ステロイド情報センター」が、患者側として初めて、全国規模のアンケート調査をおこない、その結果を6月に発表した。同センターの住吉純子代表はこう説明する。「これまで、国側や医療側が、ステロイドの治療実態を調査したことはありませんでした。私たち患者間の情報交換で、医師の杜撰な処方が問題となりました。そこで、去年の9月から今年の1月にかけて、成人を中心にした全国のアトピー性皮膚炎患者3000人あまりにアンケート用紙を送付し、1558人から回答を得ました」
この結果をまとめた冊子は”アトピー地獄の「調査報告書」”といえる。「全身の皮膚が、つぎつぎにボロボロと剥がれてきて、その部分は赤く腫れあがるんです。そして治りかけの皮膚もその繰り返しにより、赤紫色に変色していました。『お岩さん』のようになってしまっていたんです」
このように成人アトピーのつらさを、痛々しく語ってくれたのは、大阪市在住の主婦・青山里見さん(37歳、仮名以下同)だ。仕事を辞めざるをえず、家事もできないため、夫の許可を得て、3ヶ月間実家に引きこもっていた。青山さんは、続けてこういう。「見知らぬ人からの冷たい視線もつらかったのですが、なにもせずに家にこもっているのは、もっとつらかったです。あまりの痒さに、顔を叩くのが癖になり、そのために網膜剥離になってしまっったときは、『もう死んだほうがましなのでは』と思いこみました。青山さんのような多数の成人アトピー患者の悲惨な実態が、今回の調査で明らかになったのだ。
ステロイド剤は、長期間にわたって漫然と使用し続けると、皮膚が薄くなってしまう。さらに、免疫機能が弱まるなどの副作用が起こるため、自然治癒力まで抑えてしまうのだ。ほかに、使用を止めるとリバウンドと呼ばれる激しい症状の悪化が起こることがわかっている。前出の青山さんも、リバウンドにより紹介したような症状に陥ったのだ。
まさに、そうした実態の衝撃データが、報告書には詳細に記されている。その内容をみてみよう。《アトピー患者のほとんどが最初は皮膚科か小児科の医師にかかり、ステロイド剤を処方されている。ところが、1カ所の医療機関だけで治療を続けたケースは全体の5%にすぎず、2〜5カ所が66%、6〜10カ所が23%で、11カ所以上の医療機関を転々としていた患者が4%もいた》
患者たちは、藁(わら)にもすがる思いで、治してくれる医者を求めて捜し続け、なかにはその期待を裏切られ続けた人も数多い。《病院を転々としたすえに、治療を受けずにいる患者は、全体の3割にも上っている》
治療費用などの経済的な問題をはじめ、仕事ができない、就職ができない、家事・育児ができない、など社会生活に支障をきたしている例も多い。《アトピーのために家に引きこもった経験のある患者は、全体の6割に達する》社会から孤立した成人アトピー患者の実態が浮き彫りにされているのだ。
20年以上のステロイド使用が1割も
成人アトピー患者が急増した理由について、この報告書でも一つの答えを投げかけている。《成人アトピー患者の6割が、0歳から5歳の間に発症し、そのまま治らずに成人になるか、いったん症状が落ち着いたものの思春期以降になって再発している》《ステロイド剤の使用期間については、5年未満が最も多く、約4割に上るが、5年から10年が2割、10年から20年も2割、20年以上と答えた患者も1割に上る》
現在は、強いステロイドを使うのは短期間で、強度をだんだん低くして、激しいリバウンドにより、肌がボロボロになることを防ぐ治療法が常識になっている。しかし、調査報告書にあるように、激増する成人アトピー患者は、長期間にわたって、医師に処方された強いステロイド剤を漫然と使っていたケースが多い。
全国からアトピー患者が集まってくる京都の高雄病院では、ステロイド剤の塗り方や副作用について、患者に丁寧な説明を行っている。副院長の江部康二氏はこう指摘する。「患者さんの多くは、前にかかった医師にステロイド外用薬を処方されています。しかし、塗り方について具体的で、きめ細かい指導を受けていることはまれです。皮膚科の専門医が、なにも支持せずにただ漫然と薬を出していることさえあるんです。そのために効果が出ず、ステロイドは聞かないと思いこむ患者さんもいます。その意味では、アトピーは”医原病”の側面があると思います」
森田由美さん(30歳)は、医者の”乱脈ステロイド治療”のあり方について、いまでも怒りを隠さない。
森田さんは、幼少時にアトピーと思われる湿疹が出て以来、湿疹が出るとステロイド剤を塗って抑えることを繰り返してきた。結婚後の28歳の時にヘルペスに罹り、全身にステロイドを塗ってから症状がひどくなったのだ。「副作用が心配だったので、医師に尋ねると、大丈夫だから安心して塗りなさいといわれました。そのとおりにしていると、明らかに薬による反応と思われる症状が出てきました。別の医師にも診てもらいましたが、もっと強い薬を塗るように支持されたのです」
自分の判断で、医師に見切りをつけてステロイドの使用を中止したところ、3ヶ月ほどで症状はおさまったという。しかし、仕事は辞めざるをえなかった森田さんの告白は続く。「小さい頃から医者にかかっていましたが、アトピーという病名を知ったのは中学時代、薬がステロイドだとわかったのは高校の時でした。ステロイドの使用期間や塗り方について、医師から指示されたことは一度もありません。副作用について知ったのも、つい最近です。もう二度と使いたくありません」
アトピーで死ぬわけでもない
'70年代から'80年代にかけて、医療現場は医師だけのものだった。診断結果は医師だけのものだった。診断結果や治療計画について患者に詳しく説明し、同意を得た上で治療を進めるインフォームドコンセントの考え方はなかった。《診察を受けた医者からアトピーという病気についての説明を受けた患者は2割に満たない。また、薬についての説明を受けた患者も4人に1人程度で、なかでもステロイド剤の塗り方や副作用についてまで説明を受けたケースは40人に1人にすぎなかった》
と、報告書にあるとおりだ。しかし、厚生省発表のアトピー性皮膚炎の治療ガイドラインをまとめた広島大学医学部の山本昇壮教授は、「アトピーについては、山間部よりも都市部のほうが罹患率が高いという調査結果が出ています。喘息などと同じように、ステロイドではなく、環境の変化こそが成人アトピーの原因なのではないでしょうか。今回の結果については、調査母体の集団が多少偏っているところが見受けられます。社会的な調査が必要であり、あと1〜2年のうちに客観的な数値がわかるでしょう」と反論する。
また、東京大学医学部付属病院分院の相馬良直助教授は、「ステロイドは正しいと使用法を守れば、確実にアトピーに効きます。長期間、使用したからといって、効かなくなるということはありません。ステロイドと成人アトピーがまったく関係がないと判定はできません。しかし、目の前で苦しむ患者さんを放置するわけにはいかないんです」と語る。食事などに留意しながら、ステロイドを慎重に使用すれば、大きな間違いはおこらないだろう。しかし、今回取材した医師の中には、「アトピーで死ぬわけでもないのに、なぜそんなに騒ぐのか」と、うそぶく人もいたのだ。
患者に対して、しっかりとした説明をせずに、薬を与えるだけの医師たち。この”地獄の調査書”を見る限り、彼らのステロイド治療が、”薬害アトピー患者”たちを大量に産んだ一因といえるのではないだろうか。一日も早く、誠意ある対応を国や医師は見せるべきだ。
取材/瀧井宏臣(ルポライター)
日経メディカル p.31, 9, 2000
トレンドビュー 追跡
アトピー性皮膚炎に二つの指針「学会版」作成の背景と狙い
厚生省研究班が「アトピー性皮膚炎治療ガイドライン」を発表したのは1999年7月。ところが約1年後の今年6月、日本皮膚科学会も独自の治療ガイドラインを作成し、日本皮膚科学会編「アトピー性皮膚炎治療ガイドライン」として同学会誌に発表した。
先行した厚生省研究班版は、アトピー性皮膚炎の治療に携わるすべての臨床医を対象に作成されたものだが、学会版は「皮膚科専門医向け」であることを強調している。
ステロイド使用の意義主張
学会版公表の背景について、阪大皮膚科教授で同学会学術委員会委員長の吉川邦彦氏は「ステロイド忌避の風潮が強まるなど、アトピー性皮膚炎の治療を取り巻く社会状況が最近悪化している。何らかの対策を講じる必要があるとの合意が、98年7月に学会理事長の諮問機関『これからの皮膚科を考える会』で得られたため」と説明する。
皮膚科専門医集団として、ステロイド主体の治療の正当法を社会に対してアピールする必要に迫られていたというわけだ。
その後直ちに、学術委員会の下に二つの委員会が設置された。その一つが東京女子医大皮膚科教授の川島眞氏を委員長とするアトピー性皮膚炎治療ガイドライン作成委員会。ちなみにもう一つは、民間療法などの不適切治療による健康被害実態調査をおこなう委員会である。
一方、厚生省研究班の作成メンバーには広島大学皮膚科教授の山本昇壮氏を筆頭に、内科医や小児科医も含まれており、こちらはどちらかというとアレルギー分野の専門家の集まりといった色合いが強い。後れを取った形の日本皮膚科学会としては、独自の狙いもあり、厚生省研究班のガイドラインの内容に満足できず、皮膚科医ならではの指針づくりに踏み切ったわけである。
重症度判定のとらえ方で相違
二つのガイドラインは、いずれもステロイド外用剤を治療の主体としている点では一致している。しかし、学会版が、主にステロイドによる治療の詳細に重点が置かれているの対し、厚生省研究班版は皮膚科医以外の医師も念頭に、スキンケアなどについても詳しく書かれている。
また、治療戦略を考える上で最も重要な「重症度の判定」のとらえ方では、両者に大きな違いが見られる。皮膚科医以外の医師には詳細な重症度の判定は難しいことから、厚生省研究班版では、主に皮疹の広がる体表面積を重症度の目安としている。これに対して学会版は、より厳密に個々の皮疹の重症度を判定し、皮疹ごとに外用剤を選択する方法をとっている。重症の部位には強いステロイド外用剤を、軽度の部位には弱いステロイドをという具合だ。
「個々の皮疹別に重症度を判定することはステロイドの副作用を軽減するために重要であり、すべての皮膚科医に習熟してほしい」と吉川氏は話す。
ステロイド慎重論の声も
現在、アトピー性皮膚炎に有効で、しかも副作用などが十分に明らかな薬は、ステロイド外用剤しかない。しかし、長期間の連続使用が出来ないため、慢性疾患であるアトピー性皮膚炎に対して”上手に使いこなす”には習熟を要することも事実だ。
このため、あおきクリニック・かゆみ研究所(大阪市天王寺区)の所長の青木敏之氏は、学会のガイドラインに対し、「未熟な皮膚科医が安易に使用しないように、ステロイド外用剤の使用の記述については、もう少し慎重な姿勢が必要では」と指摘する。青木氏は厚生省研究班のガイドライン作成に、大阪府立羽曳野病院皮膚科部長として携わっている。
ステロイド外用剤に勝る治療の選択肢がない現時点で、ガイドラインにこれ以上の内容を望むのは難しいともいえる。しかし、学会版は皮膚科専門医向けというものの、専門医が最も頭を悩ますステロイドでうまくいかない難治例への対応については、あまり具体的な内容が示されていない。成人重症例に有効な薬としては昨年、免疫抑制薬タクロリムス軟膏が発売されたが、学会のガイドラインでは、まだ慎重な姿勢を示すにとどまっている。
果たして、このガイドラインによって学会の狙い通りに、患者の医療不信は払拭されるだろうか。青木氏は「ステロイドでは治らない患者の存在に対し、医師がもっと目を向ける姿勢を示さないと、本当の信頼は得られないのでは」と語るのだが。
(友吉由紀子)
2000年10月号p.203の日経メディカル
「読者から/編集部」からへの掲載文。
難治性アトピー性皮膚炎の解明を
私が代表を務める「アトピー・ステロイド情報センター」(会員数1200人)は,約10年にわたり正しいアトピー治療の情報の収集と提供を目的として,会誌の発行,
講演会,アトピー患者同士の交流,書籍の発行などの地道な活動を行いながら,患者たちにとってより良いアトピー治療を模索してきました。会員の多くは,幼少時から長期間にわたりステロイドを外用しながらも,うまく治療できなかったアトピー性皮膚炎の患者たちでです。
つい先ごろ,日本皮膚科学会から「アトピー性皮膚炎治療ガイドライン」が出されましたが,こうした難治性の患者たちに対する指針は示されませんでした。また,今回のガイドラインが作成された背景には,今日のアトピー治療の混乱を招いたのは「アトピービジネスの隆盛」であるとの学会の一方的な主張があります。しかし,当センターの活動を通して言えることは,患者の大半は,発症してすぐに金銭的,精神的にも大きな負担を強いられる民間療法に走ったわけではないということです。
患者が始めに訪れるのは,皮膚科の医師です。医療機関で治療を受けずに,始めから民間医療に走ることは極めてまれです。皮膚科医にアトピー性皮膚炎と診断され,始めは医者を信じた患者たちが,ステロイドを外用し続けながらも治癒しない症状に絶望して,最後に選択せざるを得なかったのが「民間療法」であり,「ステロイドを使わないアトピー治療」だったのです。
患者たちの医療への信頼を取り戻すためにも,ステロイド外用治療を拒否するようになった背景を正しくとらえてほしいと思います。悪質なアトピービジネスは確かに大きな問題ではありますが,何よりもまず,難治性のアトピー性皮膚炎の原因や治療法について究明していただくことを切に願います。
大阪市北区・アトピー・ステロイド情報センター代表 住吉 純子
朝日新聞夕刊2001年5月31日 コラム窓
論説委員室から
アトピービジネスがはんらんしているという。アトピー性皮膚炎の患者の悩みにつけ込み、高額の商品や特殊な治療法を売りつけることを指す。
アトピービジネス被害者対策弁護団は、問題の背景には、(1)患者が多い、(2)病気のメカニズムが十分解明されていない、(3)ステロイド剤への不信感が根深い、(4)自然治癒が治療による効果だと宣伝される、などの要因があると指摘する。
もっともな指摘だが、もっと根本的な要因は、患者や家族が医者の対応に満足していないことではないか。国民皆保険のおかげで、日本では医者に行くのをためらう人はめったにいない。だが、通っても治らないから、あるいは不安や疑問に親身になって答えてもらえないから、多くの人がいわゆる民間療法に目を向ける。とはいえ、悪徳商法には引っかからないように気をつけないといけない。その1。人によって効くものは違うことを理解する。その2。症状が悪化してきたらすぐやめる。ただ、悪化しているかどうかの判断も難しい。止めたらよくなったのでわかる場合もある。その3。費用と効果は比例しないことを忘れない。
その4。「何もしない」という方法もあり、だ。気楽に行く方が良い結果をもたらすこともある。まじめにやればいいというものではない。30年近くアトピーに悩まされ、「数え切れないほど民間療法を試した」という女性から聞いた奥義である。
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