ATOPY INFORMATIONメディアの情報へ

平成11年4月8−10日にわたり朝日新聞に掲載された
「アトピーとステロイド 上・中・下」

************************************
○上:非使用派 炎症を沈める方法模索(平成11年4月8日)

 アトピー性皮膚炎が増えている。乳幼児では三人に一人がかかっていると見る医師もあり、成人に持ち越すケースも多い。ステロイド(副腎皮質ホルモン)の塗り薬を使うかどうかが患者の悩みの種だ。医師の評価も「迅速に効く唯一の特効薬」から「止めると急激に症状が悪化する。アトピーのような慢性疾患には向かない」まで分かれ、ステロイドをおそれ、民間療法に走り重症化する人も後を絶たない。賛否の現状と患者の声をまとめてみた。(阿久沢悦子)

 一月下旬、ステロイドの塗り薬を使わずにアトピー性皮膚炎を治療している全国の医師50人が、大阪市内で会合を持った。ステロイド以外の抗アレルギー剤や抗ヒスタミン剤の内服や炎症部位の細菌繁殖を抑える方法を検討。ステロイド使用を急にやめた場合によく起こる、症状が激しくなって外出できなくなったり、寝たきりになるようなケースをどう乗り切るか、などを話し合った。
・情報交換
座長の一人、ユニチカ中央病院(京都府宇治市)の木俣肇医師は「現在の”脱ステロイド療法”は塗り薬をやめるために、より副作用の出やすいステロイド内服剤を用いるなど、満点にはまだ遠い。どうしたらステロイドを使わないで炎症を沈静化できるか、医師同士の情報交換が必要と思った」という。木俣医師はステロイドを極力使わない主義だ。理由は、使うと血液中のIgEの値が上がり、アレルギー反応をかえって強くする。アトピーの掻き傷に黄色ブドウ球菌、緑膿菌などが感染している場合、使うとかえって治りにくい、などだ。
 代わりに、イソジン消毒をした後、非ステロイド軟膏で保湿し、布で覆う。重症時にはかゆみ止めや睡眠薬を内服し、掻き傷をへらす。八割以上は二週間で症状が好転しはじめるという。
・保湿剤
 名古屋市立大学医学部皮膚科の佐藤健二助教授(*注1)は、大人のアトピー患者の大半はステロイド剤の連用で症状が悪化しているとみる。この5年足らずで、約250人のステロイド使用を止めさせた。保湿剤も使わない。「皮膚がひび割れて乾燥し、1ヶ月ほど酷い状態になる。しかし、保湿を続けるより治りは早い」という。皮膚が赤くはれている場合、やめただけで症状が以前の1、2割程度になる。アトピーが自然治癒して、ステロイドの副作用だけが残っていた場合、症状自体が消えてしまうこともある。「ただし、アトピー本体を治療したことにはならない。それは環境改善などの方法で地道にするしかない」
 九州大学医学部皮膚科の今山修平講師(*注2)も5年前から、ステロイドを使わないようになった。これまで延べ約千人を診察した。「通常、アトピーは慢性疾患だから、ステロイドの使用も長期になる。短期使用では問題にならない免疫・代謝系への悪影響、たとえば糖尿病、血圧高進、骨そしょう症などが起こりやすくなるかもしれない。使わないで済むなら、それに越したことはない」今山講師もスキンケアを重視する。一日2回、37度前後のふろに30分入る。石けんは使わない。汗と共に、皮膚についた細菌、アレルゲンを追い出す。上がってすぐ、水分をふき取らずにワセリンを塗る。炎症があれば亜鉛化軟膏などをその上から塗る。佐藤助教授と違って保湿を重視するのは「保湿しない方が治りは早いが、乾くと痛みが来る」という理由だ。
・欠点
 患者はスキンケアと平行して、アトピーの悪化因子を突き止めるためのノートをつける。砂糖や油脂をとりすぎていないか、出勤や登校の状態はどうか。患者自身が症状の波を把握し、健康管理ができるようにするのが目標だ。「ただし、この療法は欠点がある」と今山講師。「薬を使わないので、医療機関が手間に見合った報酬をとれないこと。治るのに数ヶ月単位の時間がかかること。悪化の波は自分で考えて乗り切るしかないことです」
***********************************************
○中:使用派 問題は「使い方の誤り」(平成11年4月9日)

 脱ステロイド派とは逆の考え方をする医師も多い。アトピー性皮膚炎が長期化したり、こじれたりするケースが増えたのは、ステロイド剤の副作用が過大に考えられ、避けられるようになったからだという見方だ。

・罪なし
 金沢大学医学部皮膚科の竹原和彦教授はその一人。「ステロイドを塗っていてもよくならない人は、症状と薬の強さがあっていないか、塗り方が間違っているかのどちらかだ。ステロイド剤に罪はない」という。竹原教授は大学の付属病院で、入院を必要とするアトピーの重症例を4年間に約200人診察した。その三割が入院前に「長年塗ったので、もうステロイド剤が効かなくなった」と話したが、かゆみ止めの内服とステロイド"外用剤の組み合わせで、すべての患者の炎症が、2、3週間でほぼ治まった。「薬を塗らなくなった後、急に悪くなるのも、副作用ではなく、特殊な療法などが引き金となったアトピー症状自体の悪化がほとんど」とみる。しかし現実にはステロイドを怖がる患者は多く、同病院でも、予診の段階で9割が「こわい薬で、できれば使いたくない」と答える。”誤解”を解くため、竹原教授は面接に一人1時間かける。20年前からアトピー性皮膚炎の患者を受け入れ、現在、年間400人の入院がある高雄病院の江部康二医師は、最初の数年間は漢方薬と絶食療法だけで、ステロイド剤は使わなかった。しかし、ステロイドを止めたために細菌感染を起こし、血中蛋白の値が半減したり、肺炎や白内障などの合併症をおこしたりするケースを幾つか経験し、「ステロイド剤を使うべき局面がある」と思うようになったという。
・指導
 「元々循環器が専門で喘息やネフローゼの患者にステロイドを使っていた。喘息には使えと言い、皮膚炎の人に使うなと言う合理的な説明がつかなくなった」現在は炎症があれば、最初にステロイド"外用剤を使うこともある。しかし、長期に連用しない使用法も指導する。「三日塗ったら、四日あけるリズムを作る」「弱いステロイドを連日塗るくらいなら、強いステロイドを2、3日」「炎症が強いときは上から亜鉛化軟膏などを重ねる」などだ。指導をまとめたリーフレット「ステロイドの上手な塗り方」は4ヶ月で5千部売れた。それでもなかなか上手に減らせない患者もいる。江部医師は「”ステロイドを塗らないこと”が人生の目標になっちゃうと、いつまでも治らない。完全に治そうとか、薬を絶対使わないと力む心理がアトピーを治りにくくしているのではないか」と言う。
・悪化例
 二人の医師は、ステロイド治療を避けて民間療法や迷信に頼る患者の中から使者や重症者が出ていることを、あやぶんでいる。1995年、神奈川県大和市の4歳の男の子が、民間業者に未認可のアトピー治療薬としてうりつけられた亜硝酸と過酸化水素水を皮膚に塗り、メトヘモグロビン血症で急死した。稲科の植物マコモを原料にした入浴剤で全身の皮膚炎が悪化した2歳児や、ステロイドを突然やめ、殺菌力のある超酸化水だけで治そうとして症状が悪化、離職に追い込まれた女性もいる。日本皮膚科学会は去年10月、「アトピー性皮膚炎不適切治療健康被害調査委員会」(竹原和彦委員長)を設けた。この十日までに、民間療法、脱ステロイド療法などで悪化を見た例を集計、分析する。大阪府の委託で5年間、成人アトピーの実体調査をした青木敏之医師は「ステロイドは民間療法で悪化した人に有用。傷口の除菌と生活実態に合った使い方をすれば、使い過ぎて効かなくなることはまずない。絶対にステロイドを使わないと意地を張ることなく、ケースバイケースで使っていけばいい」と話している。
************************************
○下:患者として  症状見ながら試行重ね

 東京都目黒区の銀行員久保俊一さん(37)は十年前、とつぜん、腕に赤いぶつぶつができた。都内の病院でアトピー性皮膚炎と診断され、ステロイド外用薬を処方された。薬を塗ると2、3日で消えたが、3週間後にまた出た。だんだん胸や腹部にも出始めた。2年後、大阪に転勤。忙しくて医師にかかれず、薬を切らしたとたん、頭の皮までむける症状になった。大学病院でもステロイド剤を出され、さらに一年塗った。頭や首はさらに悪化、かゆみで眠れない日々が続いた。「この薬では抑えきれない」
・対症療法
 医師と相談し、非ステロイド薬の塗り薬に変えた。2週間後、上半身や顔が赤く腫れ、風が吹いても痛んだ。病院を転々とし、盛岡市の病院で温泉治療と亜鉛化軟膏、モクタールなどを混ぜた薬物療法を併用、10ヶ月入院して治した。久保さんは「ステロイド剤は対症療法、企業でいえば粉飾決算です。赤字体質を改善しないで粉飾決算を繰り返せば倒産に至る」という。「医師でも正しく使うのが難しい薬を、期間も決めずに素人に処方すべきではないと思います」
 東京都八王子の福祉施設職員森菜穂子さん(37)がホームページでステロイドの問題点を指摘している。「私自身、19年間使い続けて害に気がつかなかった。ステロイドをやめて”治療していたころより全然いい”という状態が続いて初めて、ステロイド治療は害の方が大きかったと確信が持てた」
・説明責任
 具体的には「皮膚が少し掻いただけですぐ崩れる」「かぶれる」「全身がだるい」などの症状が消えた。爽快ですらあるという。「一番の問題は、連用の後に勝手に止めると、全身ずるずるになって、のたうちまわるほどかゆくて苦しいから、勝手にやめないで、という説明が薬を処方する医師からまずないこと。患者にとって重大な副作用を医師は軽んじている」と森さんはいう。「ステロイドの長期連用で副腎機能、皮膚組織、免疫がどうなるか、早急にきっちり調査をすべきです」
 神戸市の会社員室勇巨さん(31)は、脱ステロイド療法の被害者だ。幼少期からのアトピーが22歳で悪化。大阪市内の病院で「ステロイドがアトピーを悪化させている」と診断され、ステロイド剤を突然うち切られた。代わりにアトピーには効かない気管支喘息の薬を注射され、1ヶ月半にわたって、高熱と全身の湿疹に苦しんだ。26歳で再び悪化。今度は別の病院で外用薬を使わない代わりに、ステロイドを内服する治療を試した。一時は1日10錠を内服。副作用を心配したが、リバウンドが心配でなかなか減らせず、2年前、1ヶ月入院して塗り薬の使い方を学び、内服薬を徐々に止めた。今は季節の変わり目など急に悪化した時だけ、塗り薬を使う。「脱ステロイドをしても、アトピーの原因自体を除去しなければ、症状は繰り返す。症状の悪化と旨くつきあって行くにはステロイド剤は悪くない。むしろ必要な薬だと今は思う。」
・使い方次第
 幼児からアトピーになやまされてきた千葉県市川市の主婦舘太佐和子さん(33)は、22歳で就職後、顔に症状が出始め、ステロイド剤を塗るようになった。塗っても塗ってもよくならず、暖かいところで顔が火照るようになり、「ステロイドの副作用だ」とわかった。心配になり、シソのはエキスとステロイドを併用したが、3ヶ月で症状が悪化した。京都市の病院で断食療法とステロイドの無理方指導を受けてやっと改善した。今、体は一週間に一回、首や顔は三日塗って、四日あけるペースだ。「何回か悪化の波をやり過ごすと、一時薬の助けを借りれば、自然に治るとわかってくる。それが薬をおそれないことの始まり」という。夜更かしや甘いもの、飲酒を避けるなどの気遣いをした上で薬を使うのは悪くないと思っている。
生活の質をたもつためステロイドを使う人も、連用に陥る不安と背中あわせだ。患者が十分な情報をもとに選択できるような基礎研究の進展が待たれる。


ATOPY INFORMATIONメディアの情報へ