薬事日報 2001年6月6日
第52回日本東洋医学会学術総会
アトピー性皮膚炎の東洋医学的治療
座長 二宮文乃(アオキクリニック)、松田三千雄(ふみぞの松田皮膚科)
アトピー性皮膚炎は患者数の増加と重症化、難治化のため現在、もっとも注目されている皮膚疾患です。皮膚科学会、アレルギー学会、小児アレルギー学会などでも重要なテーマとなっています。西洋医学的には、ステロイド外用や抗ヒスタミン剤、抗アレルギー剤内服が主流の治療です。アレルギー学的な環境整備や食事療法などを組み合わせる治療も一部で行われています。しかし、ステロイド外用中心の場合が圧倒的に多いのが現状です。ステロイド治療も強いものを漸減し、さらには非ステロイドにもっていくのが理想ですが、実際にはうまくいきません。一方、近年ステロイド外用がIgE産生能を高める、成長障害を招く、副腎不全を招く、やめると全身が真っ赤に腫れあがり汁が噴き出すなどのリバウンドを起こすなど、全身に与える悪影響も指摘されてきています。また、ステロイドを使わずに治したいという患者のニーズも大きいものがあります。このような背景のもと、医師、患者の多大な関心が東洋医学的治療に向けられるのは時代の流れの帰結といえます。 このセッションでは時代の要望に応えるべく、東洋医学的治療のポイントと新しい治療として免疫療法を紹介したいと考えています。東洋医学的治療は本治(体質改善)と標治(皮疹に直接効く治療)の二本立てになっています。本治では、もっとも重要なポイントは脾と腎です。まず脾については、「難治アトピー性皮膚炎治療における補中益気湯と五苓散の併用の意義」と「啓脾湯が奏効した成人アトピー性皮膚炎の一症例」を見ていただきたいと思います。脾虚があると脾の水湿運化作用(水分の吸収や代謝など)も低下するので、水滞を招きやすいです。前者の演題はこの点で理にかなった治療法といえると思います。後者の演題も本治として脾を重視しています。さらに特筆されるのは標治が上手なところです。浮腫、尿量減少、苔癬化などから利水剤を用いたり、皮疹の紅斑から清熱剤を用いるなど標治の手本になる演題だと思います。腎については「アトピー性皮膚炎治療における温腎法の意義」の演題があります。難治化した症例では補腎しないとよくならない例が若い人でも見られます。腎の重要性が理解できる演題だと思います。
最後に「小児アトピー性皮膚炎と免疫療法(刺絡、レーザー、電子針療法を中心に)」という演題があります。免疫療法は従来とは違った視点に立った新しい治療法です。著者も試みていますが効果は抜群です。理論背景を説明しましょう。リンパ球は副交感神経支配を、顆粒球は交感神経支配を受けています。特にステロイド依存に陥ったアトピー性皮膚炎では交感神経緊張状態になっています。このためアドレナリンの分泌が多くなり、血流障害を引き起こし、また一方で顆粒球の増加が促され顆粒球から大量の活性酸素が放出され組織破壊も招きます。このような変化が皮膚で起きているのがアトピー性皮膚炎、特にステロイド依存に陥ったアトピー性皮膚炎です。ですから副交感神経を刺激して顆粒球の暴走を止めようとするのがこの演題の目的とすることです。その手段として刺絡、レーザー、電子針療法を用いたわけです。ただし刺絡といっても井穴刺絡とは異なり、第四指を除く手足の指と百会(全身の圧痛点)をほんの少し27ゲージの注射針で瀉血する方法を意味します。このように、本セッションはステロイドに頼らなくても治療していける人体に優しい治療に大きな方向性を与えるものになると思います。皆さん奮ってご参加下さい。
(松田三千雄)