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マスコミのアトピー報道が投げかけるもの!!

アトピー・ステロイド情報 No.52 2001.7.15 発行:アトピー・ステロイド情報センター

 マスコミが偏った情報を伝えても一般社会の人達はその情報しか知ることができず、それをある程度正しい情報として受ける。権威がある(と一般に捉えられている)側からの情報であればなおのこと、それが正しいとみなされる。今、マスメディアを通して発信されるアトピー情報の多くが、患者たちの実態を伝えず、権威側からの情報を鵜呑みにした報道が繰り返されている。
 先月、読売新聞の朝刊(2001.5.20)の「自由席」に『「アトピー性皮膚炎−不適切治療をなくせ」論説委員 三木健二』が掲載された。以下にある皮膚科医の読売新聞論説委員三木健二氏への抗議文を紹介する

読売新聞学術部御中

拝啓、陽春のこう、貴社におかれましたは益々ご盛栄のこととお喜び申し上げます。
先日、貴新聞5月20日朝刊オピニオンの自由席に論説委員三木健二氏の文章が掲載されました。題名「不適切治療をなくせ(アトピー性皮膚炎)」でした。私は一皮膚科医として毎日アトピー性皮膚炎患者さんの診療にあたっており、記事についてを思うところがありお手紙をおくることといたしました。
 題名の「不適切治療をなくせ」は本当にその通りなのですが、残念ながら三木氏はアトピー性皮膚炎の治療の現状をあまりご存じないのではないかとおもいました。アトピー性皮膚炎治療の現場で「不適切治療」とは学会が主張するアトピービジネスだけなのでしょうか。アトピービジネスに患者さんを追い込んだ皮膚科医のステロイド一辺倒の治療こそ不適切治療ではなかったでしょうか。

1.三木氏がステロイド治療が正当である根拠となさっている日本皮膚科学会編「アトピー性皮膚炎治療ガイドライン」について:日本皮膚科学会編の「アトピー性皮膚炎治療ガイドライン(以下ガイドライン)」の目玉は「ステロイドをアトピー性皮膚炎の第一選択薬」と指定したことにあります。個々の患者によって、悪化要因がことなり、治療も多岐にわたる疾患にたいし、何故わざわざステロイドを第一選択薬にるす必要があったとお考えでしょう。
 平成9年に(旧)厚生省科学研究班が現在のアトピー性皮膚炎治療の問題打開のために、研究班を形成し治療指針を健闘してまいりました。今回(旧)厚生省科学研究班2001年度版「アトピー性皮膚炎治療指針」が発表されましたので同封いたします。こちらのガイドラインの委員はアトピー性皮膚炎の加療に長年従事されてきた多方面の医師からなり、治療内容もステロイドを第一選択とはしておらず、「ステロイド量のモニターが必要」であることが記載されております。
 さて、日本皮膚科学会は厚生省の班会(多くの皮膚科専門医を含む)が「治療指針」について討議を行っているときに性急に学会独自の「治療ガイドライン」を作成発表する必要があったのでしょうか。
作成過程をみてみますと、
1)平成10年7月 日本皮膚科学会理事会でガイドライン作成委員長に川島真氏が任命される。
2)平成10年10月30日、平成10年11月16日の2回、委員の選定基準は不明のままガイドライン作成委員会が行われる。
3)平成11年11月、日本皮膚科学会誌11月号に「ガイドライン試案」が発表され、「学会員の質疑応答を繰り返し、完成していく」と川島氏が述べる。
4)平成12年3月、皮膚科学会員から「ガイドラインに対する要望書」(資料1)がガイドライン学術委員会に提出されるが、委員会から一切の返答はない。
5)平成12年5月26日、日本皮膚科学会第99回の学術委員会セッションで「ガイドライン」が発表され、取り立てた質疑応答もないまま、正式認可となる。
6)平成12年6月、日本皮膚科学会雑誌に「ガイドライン(川島真著)」論文掲載される。論文の受理は平成12年4月24日となっており、正式に認可された第99回日本皮膚科学会の期日(平成12年5月26日)より1ヶ月前となっている。

 この性急なガイドライン作成、ガイドライン委員にアトピー性皮膚炎を専門とする教授のすくなさ、学術委員長でありガイドライン作成委員会オブザーバーである吉川氏(大阪大学皮膚科学教室教授)がただの一度も作成委員会に出席していないこと、学会で正式認定前に学会誌に採用決定されていることに加え、委員長である川島氏は、今回の委員長を引き受ける以前に、ある裁判の鑑定医を引き受けています。
裁判は皮膚科医での不適切なステロイド投与を不服としてアトピー性皮膚炎の患者さんが訴えたもので、被告皮膚科医側の鑑定医として川島氏は名乗りでていました。鑑定を引き受けた後、ガイドライン委員長となり、早急にガイドラインを作成発表し、ガイドラインが正式認可された1ヶ月後に鑑定書を提出しました。
鑑定内容には「日本皮膚科学会作成のアトピー性皮膚炎治療ガイドラインに記載のあるように、アトピー性皮膚炎治療にステロイドは第一選択薬である」と主張しています。

 以上の経過は、川島氏が特定の皮膚科医の利益を守るべく裁判に有利な判決を得るべく、ガイドラインを作成しアトピー性皮膚炎の治療薬にステロイドを第一選択薬と指定したと、考えられなくもありません。日本皮膚科学会を私的に利用したものであり、三木氏も同様に利用されているのではないでしょうか。
 皮膚科学会は社団法人である学術団体です。皮膚科医の利益を追求し利益を守るため存在するのは当然のことです。ただ皮膚科医の利益を守るために患者の利益が損なわれて良いのでしょうか。

2.今回の三木氏の論理は委員である竹原氏(金沢大学医学部)と川島氏等が日頃主張している話をそのまま文章にしたものに過ぎず、新聞記者としては恥ずべき行為かと存じます。権威筋のご意見の代弁をなさっただけです。竹原氏は製薬会社主催による公演会で、マスコミの方々を相手に「ステロイドは怖くない。悪いのはアトピービジネス」と繰り返し発言しています。言葉巧み弁舌であっても「ステロイドを使用し、ステロイドを使用することで利益を得ている立場の意見」に過ぎないということが、マスコミの方にわからないはずはないと存じます。学会側の理論を鵜呑みにする前にステロイドを実際に使用した患者さんの声に、耳を傾けられましたか。毎日、アトピー性皮膚炎の患者さんとともに治療に取り組み「ステロイドの危険性を訴える皮膚科医」の声は取材する必要は無いのでしょうか?
 論説委員の方は物事には多くの見方があり、立場によって意見は異なることはよくご存じのことと思います。私たちはついこの前、非加熱製剤にエイズ感染症の危険があることを知っていながら、学会の権威者が個人と製薬会社の利益を優先し非加熱製剤の使用を推進した事実を学びました。学会の権威に対抗したのは患者さん自らであり、研究者やマスコミは権威が権威に守られている間は何ができたでしょう。

3.三木氏の文章に「英米日の皮膚科専門医を対象にした最近の調査でも・・」の記載があります。この調査のスポンサーはどの製薬会社か調べられましたでしょうか。同じ製薬会社がこの5月にも一億円を超えると思われる費用で日本皮膚科学会の広告(川島氏意見)を朝日新聞一面掲載の費用を負担していることをどのようにお考えでしょうか。この調査の日本責任者川島氏は以前も日本の皮膚科医を対象に同様のアンケートを行っております。調査結果にみられるように多くの皮膚科医がステロイドを使用するのは事実ですが、多くの皮膚科医が安全に使用しているかどうかは、全く別も問題であることをご認識いただきたいと存じます。
 「ステロイドを使用する医師が多いいからステロイドは安全な薬だ」という理論がまかり通るのでしら、多くの医師が使用していた非加熱製剤も正しい使用であったことでしょう。ステロイド"外用剤は使用部位、年齢、総投与量など個人によって違いが大きく長期使用時の安全性は確認されていない薬なのです。
現在必要とされている指針は「皮膚科医が安全にステロイドを使用できる基準をなるガイドライン」であるにも関わらず、裁判での有利な立場を得るためにあのような時代遅れなガイドラインが作られたことをご認識いただきたく存じます。
三木氏が「不適切治療をなくせ」を思っておられるのでしたら、現場でこれまで行われてきた治療の何が不適切であったのかを患者さんの声を聞くことで明らかになさることです。皮膚科医は50年間、ステロイド外用加療を繰り返してきました。「適切なステロイド外用加療」は以前から繰り返し皮膚科医によって主張されてきた理論であり、その結果、現在の重症成人型アトピー性皮膚炎患者の増加、ステロイドに対する患者さんの不信、患者さんの民間療法への選択が起こっているのです。
日本皮膚科学会編「治療ガイドライン」に従って、これまでのステロイド外用加療を続けていくことでは問題の解決にならないことは自明の理です。

4,おわりに:
同封いたしました朝日新聞社の記事「アトピーとステロイド」は、若い一記者が日本全国を飛び回って取材したものです。多くの意見があることを偏り無く報道し、患者さんの声も取材してあります。この報道には4000件をこえる読者からの反響がありました。それは何よりの記事の内容が患者さんの切実な思いに答えたからに相違ありません。
 ジャーナリズムの方が、自分の目で足で実際の現場の事実を確かめることなく、権威の代弁者となりさがるのを目にするのは本当に悲しいことです。今回の記事はステロイドに苦しんだ患者さんにとって胸の痛む記事であったことを、また、皮膚科医不信になっている患者さんたちをさらに民間療法に追い込む記事であることをお察し下さい。三木氏の記事は権利者の代弁であり、しっかりと取材をしていただいたうえでご自分の意見を持ってから書き直していただきますよう御願い申し上げます。ジャーナリズムが誇りたかく、真実を愛し、もっとも弱い立場のもののために仕事をしてくださいますことを信じております。
 以上は一皮膚科医の意見に過ぎません。「ステロイドを我が子に使用したくない」と思っている母親のためにも、記事の再考を御願いしたく手紙を書かせていただきました。論説委員三木健二氏にもご一読いただきますようあわせ御願い申し上げます。
末筆ながら、貴社のますますのご繁栄をお祈り致します。


アトピー性皮膚炎のステロイド治療について

アトピー・ステロイド情報 No.53 2001.9.15 発行:アトピー・ステロイド情報センター

 ステロイドは優れた薬で、使い方が良ければ多数の患者を苦痛から救う力を持っているが、野放図に使用してきたために副作用に苦しむ人が増えた。
 正しい使い方が何かが、今求められている。
1.疾患の変遷
 昔は加齡とともに改善する小児四肢に限局する軽い乾燥性湿疹であった。現在では、難治性の成人型アトピー性皮膚炎患者が増え、赤ら顔や全身性の紅斑と色素沈着を生じる疾患に変わってしまった。その要因の一つとして、アトピー性皮膚炎の治療に用いられてきたステロイド外用剤の使いすぎが考えられている。

2.アトピー性皮膚炎に行われてきたステロイド外用療法
 1954年にステロイド外用剤が開発されて以来、数多くの皮膚疾患に使用されてきた。より強力な作用を持つステロイド剤の開発競争が行われ、ステロイド外用剤の年間使用量も年々増加し、その多くがアトピー性皮膚炎患者に投与されてきた。年間の総売上げは1979年に300億円だったものが、10年後の1989年には650億円に倍増し、クラス別使用量では1979年にstrongクラス使用が主であったが、近年はvery strongのクラスが年間300トンの使用総量となっており、強力なステロイド剤が多量に使用されてきた。
 これら外用剤の認可にあたって行われてきた臨床治験では薬の効果効能に主眼がおかれ、投与試験観察期間は長期で1〜3ヶ月でありその期間内でみられた副作用が報告された。アトピー性皮膚炎には1年以上に渡りステロイド外用剤が投与されるのは希ではなく、10年以上使用している患者も多くあることが一昨年行った情報センタの調査でも明らかにされている。それにも関わらずこのような長期使用における安全性は確認されていない。
 治験観察期間(1−3ヶ月)における副作用は皮膚萎縮や皮膚の感染症、及び下垂体副腎機能抑制であり、外用中止後の離脱皮膚炎の有無や疾患の寛解率にはなにも注意が払われていない。現実には、継続外用により症状が寛解せず遷延化し、外用中止による離脱症候群のため始めの症状より2倍も3倍も強い症状が発症し苦しんでいる患者があるにも関わらず、市販後調査(postmarketing surveillance)においても、長期使用患者にみられるそのような経過観察報告が行われておらず、市販後症例対象研究の不備がみられる。
 アトピー性皮膚炎に対するステロイド外用剤の治験また使用後調査においては、
a.ステロイド外用中止後の離脱皮膚炎の有無、再発の割合
b.ステロイド外用剤の皮膚における残存濃度とその影響
c.ステロイド外用剤使用群における疾患の寛解率(未使用群に対して寛解率が良いか悪いか)が検討されるべきであるのに、そのような問題点については全く検討を行っていない。 ステロイド外用剤がアトピー性皮膚炎に対し長期に使用しても安全であるということが確認されないままに、短期間の使用観察の結果のみで、約50年にわたり治療薬として投与され続け、市販後調査も十分に行われずに、未治療群との予後比較もないまま漫然と使用されてきたのがこれまでの経過である。

3.現状のステロイド使用
 一般の皮膚科診療の場でステロイド外用剤を他剤と混ぜ容器に移し替えて処方したり、包装そのものに商品名のみで「副腎皮質ホルモン・ステロイド」の記載をしない処方は普通に行われている。患者に薬の情報が提供されていない。また、ステロイド外用加療で症状が改善しないため地域の基幹病院を受診しても、ステロイド外用剤のランクアップやステロイド内服投与を繰り返し受けるという「より強力な対症療法」が行われる。
 極端な例では、患者のステロイドは怖い薬という恐怖を利用して、「ステロイドは入っていない」「ステロイドは入っているが、当院のステロイドには副作用がない」「内容は教えられないが、副作用の心配はなくよく効く」などと患者に説明し、強力なステロイド外用剤の全身加療を行う。中には甘言と口コミやマスコミを利用した宣伝で全国から患者を集め、全てを自費で支払わせている医療機関もある。一時的に症状が抑制されても、継続加療により効果がなくなってきたり、外用の中止により著しい離脱皮膚炎をおこし、社会生活が困難になる患者があとをたたない。
 医師による不適切なステロイド外用投与により患者にステロイド恐怖が広く生じ、患者はアトピー性皮膚炎を対象とした民間商法を藁をもすがる心情で選択している。
 医師による不適切なステロイド外用が見直されないのは何故か。日本皮膚科学会は平成12年に日本皮膚科学会はアトピー性皮膚炎の治療現場の混乱を解決するためと称して、「アトピー性皮膚炎」を発表した。同ガイドラインには「ステロイド外用剤を第一選択」と記載がある。「ステロイドを第一選択」と記載することで、現状の誤ったステロイド使用の医療が助長することが危惧される。日本皮膚科学会が患者の利益を守るために行うことは、「ステロイド使用の際の警告」を行うことである。ステロイド長期使用の安全性は科学的に証明されていない。安全なステロイド使用基準を作成し、個々の医師が自由裁量により使用している現状に制限と指針を与えることが求められている。

4.今後のアトピー治療に求められること
 ステロイド外用剤の使用において、次の3点が求められる。
a.医師が外用剤を処方する際に、必ず文書で「副腎皮質ホルモン・ステロイド」であること、及びそのランクを患者に情報提供することを義務づける。
b.患者の年齢、性、部位別にステロイド使用の細やかな使用限度を明らかにする。
c.適切なステロイド離脱方法を確立し、離脱に苦しむ患者の救済にあたる。
 アトピー性皮膚炎は乳児の場合は年齢とともに自然治癒するものであり、ステロイドを使用しなくても治癒傾向を示すことが理解されなければならない。治療の第一歩は悪化要因の除去であることを啓発し、患者とともに悪化要因の発見とその対策に努めることである。ステロイド剤の使用はその後で十分であり、「ステロイド剤の適応不適応」を個々の患者の状態について検討され使用されるべきであろう。ステロイド剤をアトピー性皮膚炎治療の第一選択薬にするということは、ステロイド剤の使用なしで治癒あるいは改善しうる皮膚症状yは症例に不必要な薬を使うことになる。
 アトピー性皮膚炎が重症化した原因を、医師が行ってきた医療から見直すことをしなければ現状のアトピー性皮膚炎の治療解決への道は見えてこない。

ASIC(アトピー・ステロイド情報センター)
アトピー・ステロイド情報 No.53 2001.9.15
連絡先:アトピー・ステロイド情報センター
〒530-0047 大阪市北区天満3-4-5 西天満ワークビル402号
電話 06-6364-0275 FAX 06-6364-0311


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