注: 以下のガイドラインは、American Academy of Dermatology(米国皮膚科学会)が作成したものです。翻訳は、名古屋市立大学医学部皮膚科佐藤健二助教授によります。
外用グルココルチコステロイド使用法向上のためのガイドライン
Guidelines
of care for the use of topical glucocorticosterids
Guidelines/Outcomes
Committee: Drake LA et al
Task Force: Raimer SA et al
(J Am Acad
Dermatol 1996; 35(4):
615-619)
この報告は作成時点で利用できる最良の資料を反映しているが、その資料の解釈には注意力を働かせるべきである。将来の研究の結果により、この報告で公にされた結論や勧告の変更を必要とすることがあり得る。
外用グルココルチコステロイド使用法向上のためのガイドライン
ガイドライン策定委員会:ドレイク医師他11名
作業委員会:ライマー医師他3名
・. はじめに
アメリカ皮膚科学会ガイドライン策定委員会は自分たちの専門領域実践内容向上のためのガイドラインを作成中である。ガイドラインの作成は質の高い医療を持続的に提供することを促進し、自分たちの領域外の人々が皮膚科医によって提供される医療の全体像を理解するのを助けるであろう。アメリカ合州国の司法権外で実践しているアメリカ皮膚科学会会員の便宜のために、取り上げられた治療方法には米国食品医薬品局で現時点で承認されていない薬品が含まれていることがある。
・. 定義
外用グルココルチコステロイド(コルチコステロイド)は、皮膚と粘膜に外用する目的で処方される化合物である。ヒドロコルチゾン分子あるいは合成ヒドロコルチゾン類似物をハロゲン化、メチル化、アセチル化、エステル化、あるいは重複結合付加、あるいはこれらの組み合わせによって構造を変え、治療効果を上げ、副作用を減らしている。
・. 根拠(Rationale)
A. 範囲(scope)
何百万もの人々が毎年皮膚疾患に罹患し、極めて不快となり、病弱化し、まれに死亡する。皮膚疾患が広範囲であったり他人に見えるものであれば、社会的に孤立したりや就職が困難となったりする。ヒドロコルチゾンクリームが抗炎症剤として効果のあることが見いだされた1950年代の早期から、外用コルチコステロイド(以下TC)は皮膚科治療の主役となってきた。TCが効きやすい皮膚疾患は、普通、炎症・過増殖・免疫現象という特徴を有している。TCはまた、灼熱感やそう痒のような皮膚徴候にも効果的なことがある。
B. 検討要素(issue)
TCはこの40年間世界中で広範囲に使用されており、逆作用の報告はほとんどないにもかかわらず皮膚疾患の改善をもたらした。この期間に、効果が強く同時に逆作用の潜在的可能性の高くなった商品が開発された。臨床効果を増加させる要素は、分子構造を変化させ化合物の薬理学的活性を高めること、化合物の角層浸透性を亢進させること、基剤からの化合物の皮膚移行性(bioavailability)を高めることである。現在、局所的には強力だが、直ちに代謝されるか、そうでなければ有害作用を起こす潜在力が弱いと期待される化合物を創作する試みが続けられている。血管収縮試験は、TC製剤の強さを段階付け、強さによってTCを大まかに分類する為の主要な方法である。本文書では、コルチコステロイドを弱、中等、強、激強に分類してある。種々の製剤の血管収縮能は必ずしも臨床効果とは相関しない。
一般名による処方調剤物は商標名商品と臨床的に同じ強さでないこともあるし、基剤の違いはその商品の浸透性と皮膚移行性に影響を与えることもある。軟膏基剤中のTCはクリームやローション中の同濃度のTCより一般的により強力である。更に、角質浸透性に従って、効果は温度、湿度、密封性により増強され、皮膚の擦過時あるいは炎症時に増加する。用いるTCの強さと皮膚浸透性に影響する要因についての医師の知識によって、この化合物の外用によって生じる逆作用の可能性を最小限にすべきである。
・. 診断基準
診断を確立するために病歴聴取、診察、診断のための試験を適切に行うこと。
・. 勧告
A. 治療
1. 内科的
a.
TCの選択基準
強さと基剤に関してのTCの選択は皮膚病変の性質・部位・範囲、患者の年齢、治療期間による。
1)基剤の検討
@ a)軟膏
分厚く、亀裂のある、苔癬化皮膚病変の治療には一般的には最も効果的な基剤である。この基剤の密封性質はコルチコステロイドの浸透性を増強させる。患者は軟膏を美容上は好ましくないと考えることがある。 |
b)クリーム
一般的にクリームは急性あるいは亜急性皮膚疾患には第一選択基剤である。湿った皮膚や間擦部にも用いられることがあり、一般的に美容上は患者に受け入れられる。クリーム基剤は皮膚を乾燥させる傾向があり、患者によってはコルチコステロイドクリームに加えて保湿剤を追加することで良い結果を得ることがある。クリームは保存剤を必要とし、保存剤は時に皮膚を感作することがある。 |
c)液、ゲル、噴霧剤
液、ゲル、噴霧剤は被髪頭部に用いるに美容上最も好ましい基剤である。また、美容上あるいは医学上の理由で非油脂性基剤が望ましい場合には有用なことがある。この基剤はしばしばアルコールやプロピレングリコールを含み、急性の皮膚疾患、ビラン、亀裂に外用された場合にアルコールやプロピレングリコールが刺激や灼熱感をもたらすことがある。 |
2)治療中の皮膚病変の性質
a)薄い、急性炎症性皮膚病変は弱から中等度の強さのTCにしばしば反応する。
b)慢性、過角化性、苔癬化、あるいは硬結性病変は強あるいは激強TC製剤のみに反応することが
ある。
3)皮膚病変の部位
a)顔面と間擦部(腋窩、鼠径、会陰、乳房下)
角質が薄いこととおそらく毛嚢脂腺系構造の性質から、顔面は特に局所の副作用に弱い。間擦部では、温度、湿気、角層の薄いこと、元々密封状態であることがTCの浸透性を増強させ、局所の副作用と吸収増強による潜在的な全身的影響の両者を起こしうる。おむつの密封効果は鼠径部での浸透性をさらに増強させる。 (1)顔面と間擦部には弱い製剤が好まれる。 (2)より強力な薬の短期使用(普通は2週間)が時に必要とされる。この薬は乳児のおむつ部分にたとえ使われるとしてもごくごく稀に行うべきである。 (3)顔面あるいは間擦部の治療抵抗性病変、たとえば円板状紅斑性狼瘡、硬化性苔癬ではより強力なコルチコステロイドやより長期の治療期間が必要である。 |
4)コルチコステロイドが外用される体表面積の範囲
全身的な吸収が起こりやすいため、広い面積が治療される場合は弱から中等度の強さのコルチコステロイドが好まれる。 |
5)年齢
年齢は特に小児や老人にあっては選択時に考慮されるべき一要素である。なぜなら、幼児にあっては体表面積と体重の比の問題があり、未成熟幼児と老人にあっては皮膚の薄さと脆弱性の問題があるからである。 |
6)治療期間
a)可能なときはいつも、激強TCの連日使用期間は3週間を超えるべきではない。小範囲の治療抵抗性病変は更に長期間治療しても良い。 b)強さが中等から強のTCは3ヶ月以内の使用で副作用を起こすことは稀である。例外は、顔面や間擦部での使用である。長期間の治療のためには長期の連続治療より間歇治療が望ましい。 c)強さが弱のTCの使用では副作用は稀である。しかし、この薬を使っても、慢性皮膚疾患の治療のためには、特に広範囲が治療されているときには持続的治療より間歇治療が好まれる。 d)皮膚病が消失すればTCは中止されるべきである。TCによる長期治療は、TCによる治療に反応している慢性皮膚疾患には用いられることがある。もし持続的長期治療が必要であるならば、患者は副作用と効果減弱(tachyphylaxis)の発生を注意深く観察されるべきである。 |
b.
外用回数(頻度)
勧められるべき外用回数は使用するTCと治療部位により異なる。
1)殆どの製剤に対して普通は毎日1度か2度の外用が勧められる。時に、更に多くの外用が必要である。 2)角質の厚い皮膚で日常生活中に容易に薬が取れてしまう部位たとえば手掌足蹠では、更に頻回の外用が必要である。 3)他の外用法、例えば隔日外用あるいは週一回外用法は特別な場合の慢性疾患に効果的なことがある。 |
c.
特別な留意点
1)効果のある範囲で最も弱いコルチコステロイドを使用すること、特に幼児や子供では。 2)プラスチックでの密封下、密着した服を着ているとき、あるいはおしめをした状態での使用は吸収が数倍増加することがある。 3)眼瞼、顔、間擦部での長期使用は避けるべきである。 4)妊娠時の使用 動物でのTCの使用で、もし閉鎖密封下で大量長期使用するあるいはより強力な薬剤を使用すると胎児異常を起こすことがある。しかし、ヒトでの胎児異常は証明されていない。 5)授乳 a)TCが母乳中に分泌されるかどうかは知られていない。 b)TC使用で乳汁分泌に与える逆作用はヒトにおいては証明されていない。 c)授乳前に乳頭にTCを外用すべきではない。 6)その他 |
d.
報告されたTC使用による副作用は以下のものを含むと言って差し支えない。
1)皮膚あるいは局所の作用 a)ざ瘡様皮疹、毛嚢炎と酒さを含む。 b)眼瞼および口囲皮膚炎 c)表皮真皮の萎縮、皮膚の脆弱性(老人のあるいは日光で障害された皮膚、間擦部、顔面で最 も起こりやすい) d)創傷治癒遅延 e)臀部肉芽腫 f)紫斑 g)毛細血管拡張と紅斑 h)皮膚線条 i)色素脱失 j)多毛症 k)皮膚糸状菌感染の隠蔽あるいは増悪 l)二次感染あるいは存在する感染の増悪 m)接触皮膚炎 (1)保存剤あるいは基剤の他の成分によることがある。 (2)コルチコステロイド分子によることがある。この場合には類似構造を持ったコルチコス テロイド分子と交叉反応することがある。 n)その他 2)全身的副作用 小児においての長期広範囲使用あるいは激強TCの使用によって最もしばしば見られる。 a)眼瞼使用による白内障、緑内障 b)副腎抑制(視床下部ー下垂体ー副腎系) c)成長抑制(幼児と低年齢小児) (1)コルチコステロイド使用の中止により、追い付き成長がある。 (2)思春期頃の持続的長期使用は避けるべきである。普通なら思春期前急速成長期であるは ずの期間に成長が抑制されるならば、追い付き成長が起こりうる前の思春期に骨端が閉 鎖することがある。 d)高血圧 e)クッシング症候群 f)その他 |
2. 外科的
適応無し
3. その他
適応無し
B. 治療以外
適応無し
・. 支持する根拠
引用文献(付録)参照
・. 免責事項(disclaimer)
このガイドラインを堅く守っても全ての状況下で治療の成功が保障されるわけではない。更に、この指針は全ての正しい治療方法を含んでいるとか、同じ結果を得るべく合理的に考えられた他の治療法を排除しているとか考えられるべきではない。どのような特別の治療方法であれ、その正当性についての最終的な判断は、個々の患者によって提供された全ての状況に鑑みて医師によって作られなければならない。アメリカ合州国の司法権の外で実践しているアメリカ皮膚科学会会員の利益のために、取り上げられた治療は米国食品医薬品局によって現在承認されていない薬物を含んでいることがある。