ATOPY INFORMATION論文に戻る

「ステロイド嗜癖(しへき)」
STEROID ADDICTION    ALBERT M.KLIGMAN
International Journal of Dermatology 1978,1918(1)23-31

 現在の皮膚科治療法は、1952年にステロイドが用いられるようになって始まった。ついに皮膚科治療を不愉快なものにするような欠点のない−つまりひりひり感、しみ感、悪臭のしない、美容的にも耐えうる製剤ができたのだった。一旦ステロイド分子の秘密があきらかになると、化学者は、治療法の最高位という今までにない大きな夢を熱望し、ステロイドについての研究をはじめた。信じられないほど上手にステロイド分子を操作することによって、化合物を生み出した。それ(化合物)の炎症性皮膚疾患を抑制する能力は着実にあがっていった。その進歩の早さはすばらしく陶酔させるような高さにまで到達した。慎重な支配は見捨てられていた。しかし自然は、恵み深さには代価を与えるつまりより大きな利益はより大きな危険を代償として得られるのである。効力が増すことに相伴って、毒性も増加するのである。

 10年以上、文献上ステロイドの皮膚に対する副作用は報告されなかった。しかし、ついに、Epsteinの三微がそけい部萎縮線条を報告した。そけい部は湿り気、暖かさが浸透を促すため、トラブルが表面化しやすい部位だった。それ以来、ステロイドが萎縮を誘発するという性質は何度も確認された。動物実験においてはもちろん、人間においても。 

 何年にもわたり、外用ステロイドの重篤な不利な効果はステロイドの効果の増加とともに増加していった。ステロイドの副作用頻度についての評価は難しい。もし、我々の経験が典型的であれば状況は深刻だ。あまりに多くの開業医にとって、ステロイド を処方することは、−普通は最も新しく開発されたステロイドが処方されるが−一種の条件反射的行動で、普通の過程、すなわちまず疾患の診断をつけ次に治療を選択するといことを逆転させる。ステロイドが疾患の微候や症状をすみやかに消しさる速効性には目をみはるものがある。それこそがステロイドの誘惑する力だ。

 全身的臨床的反応はどちらかといえば希であるが、クッシング症候群や小児の成長障害のように時には重篤でありうる。Sneddon は最も身のけのよだつ報告をしている。乾癬の子どもを持つ母親が子どもに強制的にステロイドを塗り続けたため、ペラペラになった皮膚の萎縮線条から皮下脂肪が飛び出していた。その子はステロイドの外用を中止したとたん、副腎不全で亡くなった。とどまるところを知らず、強力な外用剤を生み出してきた「進歩」は、もはやその見返りが減少する地点に到達した。その頂上にある例はプロピオン酸クロベタゾール(デルモベート 訳者注)だ。躯幹の正常皮膚に15gを1回単純塗布すると、約9時間後に副腎の完全抑制がおこる。Stoughtonらは本剤の外用は全身投与に匹敵すると考えた。

 しかしながらより一般的で多様な副作用が皮膚では見られる。それには少なくとも20種類の異なった形態があり、最もよくみられるのは表皮と真皮の希薄化、萎縮線条、毛細血管拡張だ。黒人における色素脱失、下腿潰瘍の拡大、口囲皮膚炎、ステロイド座瘡、酒さ様皮膚炎、濃疱性乾癬への変化、潜行性白癬もめずらしいことではない。多毛、臀部肉芽腫感染、コロイドミリウム(膠様稗粒腫)、白内障は趣の異なる副作用である。

 ステロイド嗜癖は、より微妙で、より潜行性の副作用だ。ステロイド嗜癖はありふれた副作用だが、医学的認知は高くない。なぜなら、それはしばしば認識されずに進行するから、そのためにはあまり報告されることはなく、うまく特徴づけられてもいない。ステロイド嗜癖は、段階を追って、しばしばゆっくり進行するので、開業医も患者もステロイドが悪いと言わないことがある。「嗜癖」という言葉は用いていないが、Sneddon が嗜癖の危険性を予測した最初の人である。1969年、彼は、酒さを押さえていた強力な外用を中止した数日後に、爆発的な濃疱性の反応を酒さ患者で認めた。その後、彼は効力のより弱いステロイドを代用することで、この激しいリバウンド現象を予防する方法を模索した。

 Burry は、強力なフッ化ステロイドによる萎縮、紫班、潰瘍形成をのべ、多くの患者は、ステロイド外用中止後の悲惨なリバウンド炎症のために、ステロイド中止を恐がることを指摘した。彼は、皮膚も患者もステロイド外用に“中毒状態”になるうることを遠慮なく言っている。

 Calnan は、実例はあげなかったが、彼の『ステロイドの使用と乱用』と題した痛烈な論文の中で、“習慣性”はまれではないと述べている。ステロイドを中止すると容赦なく激しい離脱症状が生じることから、“嗜癖”というほうが“習慣性”よりも適切と考える。

 我々の意図とするところは、非常に煩雑に嗜癖に陥る状況を記述することと、患者がステロイドをやめれるような方法を提示することである。

 先ず最初に、ステロイド依存となる経過を説明することが有益であろう。何らかの炎症性皮膚炎疾患に強力なステロイドが処方される。すべての患者にとって喜ばしいことであるが、症状はすぐに改善される。しかし病気が完全に治る訳ではないのだが、楽観的に治療は数週間から数カ月続けられる。そして故意にまたは偶発的に(薬をもたないで旅行にいったり、補充するのを忘れたりした時)ステロイドの外用は途切れる。即座に1両日中にステロイドを外用していた部分は発赤し、ひりひり感があり、かゆみがまし、ひび割れ、うろこ状となり、特に顔面では濃疱形成が見られることもある。原病が増悪している場合もあるが、一番肝心な出来事は恐ろしくて不愉快で悲惨な状態であるリバウンド皮膚炎である。患者はステロイドを即刻再開することで一時の安泰を得る。そう痒、乾燥、落屑は即座に改善する。以前より激しいリバウンド皮膚炎がくるその次の過程まではすべてうまくいく。患者は悲惨なリバウンド増悪を避けるために“ステロイド中毒”となる。しかし、何ヵ月か後に別の悲惨な事柄が生じる。

 皮膚が明らかに薄くなり、毛細血管拡張がみられるようになる。時には、多型皮膚萎縮症様の変化が生じる。特に露出部位には、紫班の後、星状のはん痕が生じる。続いて間擦部位や伸展部位に萎縮線条が生じる。すでに、生々しい状況に、特に顔で、暗赤色持続性紅班が色を加える。

 この段階で、ステロイド を中止すると、1両日中に猛烈なリバウンド症状となり、亀裂、浸出液、(顔面の)膿形成がみられ、耐え難い不愉快さがやってくるのが常だ。患者は今や確固とした嗜癖状態にあり、この状態をよく理解し、患者の恐れているある治療法−すなわちステロイドからの離脱(またはより弱いステロイド剤に替えることによって、離脱過程をはじめること)を指示する開業医が運良く現れなければ、この状態から脱出できない。

<臨床例>

ステロイド酒さ(酒さ様皮膚炎)

 ステロイドの乱用がより高頻度であり、その結果がより悲惨なのはこの状態(ステロイド酒さ)以外にはない。圧倒的多数の犠牲者は女性にみられるが普通中年の女性で、多くは軽症者である。皆基本としては“赤赤顔(赤ら顔で種々の刺激で更に赤くなる顔)”の特徴を示す。酒さのみかけを大変気にするので医師からステロイドを処方され、皮膚の問題の解決がみられると狂喜する。発赤は目立たなくなり、丘疹濃疱は消退する。少なくとも数ヶ月の間、患者は皆その結果に満足だ。私たちの経験群において(今やその症例は何ダースにもなるが)、吉草酸ベタメサゾン(バリソン〈R〉シェーリング訳注−日本ではリンデロンVが有名)が最たる犯罪者となっている。といってこの薬がフッ化ステロイドの中で最悪という結論を下してはいけない。実際の状況は別である(後述)。バリソンクリームが化粧品として優雅な保湿ナイトクリームと物理学的によくにているので、女性達がバリソンクリームを好んで使うと思われる。バリソンは大変ポピュラーな商品なので、多くのケースで嗜癖の原因となっている。

 Sneddonの論文は正鵠を得ている。濃疱はステロイドを中止すると必ず、時にはたった1〜2日の遅れで出現した。最も理解の悪い患者は濃疱の出現を防ぐための方法を知っていた−ステロイドを中止するべからず。患者は我々の所に到着するまでには1年から5年間にわたりステロイドを使用していた。彼らの皮膚は常に深紅色で丘疹性濃疱を伴いぜい毛が多かった。典型的な症例にはステロイドは毎日3〜4回使われていた。初期のころは1〜2回の外用で効果があったのに。多くの患者は一人以上の皮膚科医を受診していた。しばしば、新しく受診した医師はより強力なステロイドに変えるか、頻回にステロイドを塗るように指示した。テトラサイクリンの内服がしばしば試されたが、全く役に立たなかった。

 より長期にステロイドが使われ、皮膚の萎縮と毛細血管拡張がより強ければ、そのリバウンドがよりひどいということは、疑問の余地なく明瞭であった。この症状の進行は、何回かステロイドを中止した幾人かの人には知られていた。

我々の患者の中で最悪のケースは、皮膚が大変敏感になっており、痛みのため石けんで洗顔ができず、殆どの化粧品は使えず、日光に当たると即座に皮膚炎が悪化する患者だった。このような患者は日陰の生活に逃げ込み、社会の隠楯者となり、深く鬱状態にしずんで、時には自殺による解決を考える。鎮静剤が常習的に使われ、時には習慣性にまでなってしまう。以前は飲酒して何ともなかった人も一口飲んだだけで、顔面がけばけばしいネオンのように真っ赤になるのに気づいた。そのため、古来からの楽しみは、奪われることになっていった。

何人かは精神科医を受診し、精神科医は患者の強い不安に気づいたため問題が精神的なものであるとみなした。また、他の患者は苦難の中から自分自身の理解を深めていく技術を教える運動に参加した。このような患者の絶望感は言葉では言い表せない。

 奇妙にも、これらの不幸な人々は、ステロイドが問題の原因とは誰一人として疑わない。リバウンド現象は、人々に、そして驚くほど頻繁に彼らの医師に、残酷な病気をコントロールするのにステロイドが何と価値のある薬であるかを見せつけてきた。我々が、実は、事態が逆回しであることを説明するとすべての人々は皆驚いた。

口囲皮膚炎

 SneddonとWeberは、もっぱら成人女性に生じるこの奇妙な皮膚炎は、ほとんどの場合ステロイドが原因であると考えている。我々は、いくつかのケースではステロイドが原因と賛同するのだが、この記述は事態を過剰表現している。典型的な症例では、口唇縁にそって目立ってきれいな皮膚を残し、口周囲全体が赤く、その中に毛孔一致性の丘疹性濃疱を示す。その経過では必ずしもその部位に留まらず、頬部にも広がった酒さの像を呈したりする。この患者の何人かは中等度の“赤赤顔”を呈する。実際、口囲皮膚炎は時として酒さの亜型のことがある。

 もともとの状態は普通、どちらかといえば明瞭なものではなく、顔色の不良や、時々できるおできや皮膚の老化現象のようなものである。患者は強力なステロイドを使い、その結果に満足し、上記と同じ道を通ってステロイド嗜癖への道を辿る。

ステロイド座瘡

ステロイドの局所投与でも全身投与でも決まって同じ病気の同一の形態をした毛孔一致性丘疹性濃疱の一群を作り出す。にきびには決してステロイドを使うべきでない。我々は強力なステロイドがまずはどのように炎症病変を軽減させ、その後どのようにより多数の病変が出現するかを記述した。くり返すが、即効性には目をみはるものがあるが、長期的影響は悲惨な結果を招く。

 犠牲者の多くは若い男性で、彼らは炎症病変を伴った重症座瘡の治療をうけている。普通は抗生剤とか過酸化ベンゾイルとか落屑促進外用剤とかも試されている。

増悪中の座瘡を持った患者はいろんな治療を試し続けてくれる色々な医師を次々と訪れる。一般に皮膚科医であればステロイドは座瘡に禁忌であることを知っているので、ステロイドの使用を中止するよう指示する。百聞は一見にしかず、恐ろしいリバウンド現象が生じる。顔面の全ての毛のうに濃がつく。発赤した戦場のような皮膚に濃疱形成が急激に拡がる。皮膚にはひどい圧痛がある。

 医師の承認のある無しにかかわらず患者は外用ステロイドを再使用することがある。このようにしてステロイド嗜癖課程が始まる。おそらく、患者は白色人種の男性であることが多いので、普通は、嗜癖状態に至った酒さの女性の極度の皮膚萎縮や毛細血管拡張を示すまでには至らない。彼らはステロイドが原因であることに気づきやすい。彼らの多くはあれやこれやといろんな手段を用いることで、完全なステロイド嗜癖に何とか陥らず、ちょっとした“中毒状態”になっているだけである。

 我々は、少しにきびのある4人の大学生達で予備試験を行った。フルオシニドクリームを1日3回顔面の片側に塗布した。その結果、2週間内に4人の内3人に中等度の丘疹性濃疱が生じた。3週が終わるまでには薬の中止により4人とも濃疱形成、潮紅、落屑のリバウンド現象がみられた。このように、非常に強力なステロイドを使うと短期間で嗜癖段階が達成可能である。

肛囲そう痒症と外陰そう痒症

痒さの原因にかかわらず、この病気をもつ人々は我先にとステロイド嗜癖に向かう人々である。多くの例で慢性単純性苔癬が原疾患である。ステロイドの局所使用は症状を即座に軽減する。何人かの患者は2〜3週間以内で中毒状態になる。数ヶ月要するものもいる。結局皮膚は著しく萎縮し赤みを増し強い圧痛をしめすようになる。ステロイドを持続的に使用しても強い不快感が続く。中止後発狂させるほどのという表現以外は似つかわしくないような、信じがたく痒い激しい皮膚炎を生じる。この嵐は吹き荒れ2〜3日でピークを迎える。そして患者は普通再びこの嵐の前のステロイドの“核の傘”に引き戻される。

間擦疹

 局所に使うステロイドの有害な作用は、相対する皮膚の表面が接触していたり、常に摩擦の生じる湿った部位に特に目立ちやすい。最も症状が出やすい場所は、乳房の下、そ径部、腋窩である。いろいろな疾患がこれらの部位をおかす。すなわち、カンジダ症、接触性アレルギー、真菌症、脂漏性皮膚炎などである。はじめの病変が何であろうと一般的なステロイドは即座に症状を抑える。IveとMarksがステロイドの影響でとどまることなく拡大し、奇妙な形態を示す頑癬に対して用いた潜行性白癬は言いえて妙である。もしその疾患(間擦疹)が急性で、リバウンド現象が表現されうるまでに治るならば、患者は逃れることができる。良くなったり悪くなったり、ステロイドが断続的に使われたりする慢性の状態では、普通、嗜癖状態へとなっていく。

男性性器

 陰茎と陰嚢は、ステロイドの皮膚萎縮作用に対して大変やられやすい。角層障壁は不完全で、透過性は高く、リバウンド発現段階を作り上げるのにたった2〜3週しか必要としない。

 ステロイド嗜癖はすぐに生じ、おそらく他のどの部位よりも症状は重い。

 我々が観察した症例では、本来の診断名が何であったかを推測することはできなかった。 もし、本来の病変が鬼頭にあったなら、外陰ヘルペスが最もありそうである。男性の陰部病変は大変な心配をかき立てる。妥当であろうとなかろうと是が非でも治療法を得ようとする。ステロイドを患者同士で分け与えることは真面目に研究されるべき社会的な現象である。またまた嗜癖への道の第一歩が不法にステロイドを獲得することからおこった。

 陰茎でのステロイド嗜癖の最終段階は、あわれを誘うものである。T-annenbaumは“消失する指”を記述した。ステロイドの閉鎖密封療法後に若者の指の末節が永久的な萎縮を示した。我々はこの大失策を亀頭の原寸の半分にまで収縮した2症例に匹敵させうる。幸いなことにその萎縮は可逆的であった。陰部での嗜癖の2つの話は、必然的に伴っていた悲惨さを除いては人を笑わせるものではありましょう。我々の一人(AMK)はこれらの症例の短い説明とともに開業医に対して“陰茎を保全せよ”との中止命令を与えた。それ以後も、数例の同症をみている。

 この話は一つの点を中心とした変動である。男性性器は些細な病気で異常となり、長く続くための不安の種となる。最初に見てもらった開業医はステロイドを処方し、微候と症状はおさまる。しかし、2〜3週間後に中止するとその皮膚は赤く、ひびわれ、不快感を伴うようになる。決まりきった筋書きがはじまる。ステロイドに戻り、改善し、急激に悪化し、別の医師を訪れ、別の強いステロイドをもらい改善し、リバウンドを起こし、また別の医師に別の診断をされ(カンジダ症、細菌感染症など)、ステロイドと抗生剤の組み合わせを処方され、いらだち、陰茎恐怖症になり、不安になり、鬱になり、そして性的不能となる。

 ここでもまた、開業医も犠牲者も微候や症状にステロイドを結びつけない。

慢性湿疹

 皮膚科医は、ステロイド全身投与を乾癬患者から抜くとリバウンド悪化が起こることを以前から良く知っている。強力外用ステロイドを中心とすると同じことが生じることに殆どの人はあまり気がついていないようである。 soughton は乾癬のリバウンド現象について述べた。

 リバウンドはステロイドの局所使用を長年行ってきたどの慢性皮膚疾患にも生じる。我々の経験では脂漏性湿疹とアトピー性皮膚炎が最多頻度の例である。情けないほどに普通にリバウンド増悪じゃ殆ど予想された出来事の如くに原疾患の増悪改善経過の一部分と、無頓着にみなされている。そのリバウンドが激しければ、より強力な普通にリバウンド増悪は殆ど予想された出来事の如くに原疾患の増悪改善経過の一部分と無頓着にみなされている。そのリバウンドが激しければより強力なステロイドがしばしば処方され、悲しむべきことにステロイドは段階的にランクがあがりはじめる。注意深く観察すれば、症状の悪化は本来基礎疾患とは異なっていることに気づくはずである。ひびわれ、化膿、激しい潮紅などが手がかりとなる。皮膚萎縮は外用し過ぎを示しており、普通その時にはすでに患者は嗜癖状態となっている。

<考察>

 外用ステロイドへの嗜癖は、場合により悲劇的な容姿となる深刻な医療問題である。外用ステロイド嗜癖は、実感されているよりは頻回に生じており、ずるがしこく、誘惑的であるので、回避されるのは、ただただ開業医が、ステロイドが治癒をもたらしはしないが、如何なる炎症性疾患をも抑制しうる驚嘆すべき力を有するということに感動するのと同程度に、ステロイドの能力が害をももたらすということに実際に感動するようになる場合だけである。

 予備試験から、リバウンド現象の機構が少し詳しくわかった。青年の前腕に強力なステロイドを、3週間密封塗布した。密閉をとると、3〜4日以内に、ピークに達する紅斑、落せつ、亀裂部に痂皮を伴った急激な皮膚炎が観察された。実験的なリバウンドの強さは必ずしも相関しなかった。

 我々は、3週間後に次のことを見い出した。(別のところで発表予定である)角層はその名残理のみがあり、真皮乳頭層は減退している。皮膚が空気にされされると、バリアを欠いた皮膚は、水分が失われ、即座に乾燥する。その部分は天がいを除かれた水疱のように反応する。発赤し、鱗屑を生じ、痂皮化する。組織学的には、激しい好中球の浸潤と、微小濃疱が認められる。正常な皮膚においても、生じるリバウンド増悪の大きな要素は脱水である。

 ステロイドについて誤った認識が広く行き渡っているので、それについてここで簡単に触れおくことは良いことであろう。一般にフッ化されていないステロイドは、大きな副作用を生じる力はあまりないと医師は信じている。フッ化されているかいないかは、見かけだけの違いである。例えば、デソニゾと17−ブチル酸ヒドロコルチゾンなどのフッ化されていないステロイドは、どちらかといえば皮膚萎縮を著名に引き起こす。多くの動物実験や人体実験で、これらのステロイドの皮膚萎縮作用(atropho-genesis)は強力なフッ化ステロイドと同じだということが証明されている。事実、上記の吉草酸ベタメサゾンは、高い治療効果をもつ強力なステロイドだが、フッ化されていないステロイドより、はるかに皮膚萎縮を生じ難い。一方、幾つかのフッ化ステロイド(吉草酸アルコール、トリアムシノロンアルコール)は、治療上の効果を有さない、我々は、トリアムシノロンアセトニドが、抗炎症作用ではIV群クラスだが、皮膚に及ぼす萎縮作用はT群のステロイドと同様であることを発表してきた。動物実験でも同一の結果が得られている。重要な点は、ステロイドは、多くの生物学的効果を有しており、それらの効果はいつも平行するのでは無いということだ。例えば、血管収縮活性と抗炎症活性は解離することがある。血管収縮作用のみでステロイドのランクづけを行った場合は、抗炎症作用の強さについて、あるものは、過小評価となり、他のものは過大評価を得ることになる。同様に萎縮作用と治療効果の大きさは、厳密には相関しない。個々のステロイドは皆それぞれ自体の作用強度分布活性をもっている。

 ステロイド嗜癖の危険を最小限にするために、なにをなすべきだろうか。最終的な解決はステロイドの使用中止ではあるが、道理の分かった人は、トラコニアン的に厳格な提案はしないであろう。ゴールはステロイドを注意深く使い、副作用発現の危険性に十分気をつけることだ。おそらくはより有害で、しかし、治療効果はあまり強くなっていない。最も新しく開発されたステロイドを処方するという流行を、あまりに多くの開業医が追いすぎる。その上に、治療での過剰投与が広範に行われている。

 多くの皮膚疾患は、より弱いステロイドで治療できる。脂漏性湿疹、アトピー性皮膚炎は、そのほとんどがステロイドに非常によく反応する疾患の例である。我々が採用している戦略は、強力なステロイドで約2週間の内に、皮疹をさっとコントロールし、その後弱いステロイドに順次かえ、(最終的に)ハイドロコルチゾンで(0.5%から2.5%の強さのものがある)症状の維持をしていくことだ。疑いなくハイドロコルチゾンは一番安全なステロイドだ。勿論、効力が弱いため、乾癬のような頑固な皮膚症では効果が得られない。ハイドロコルチゾンは、自由奔放に用いられうるとか有害作用能を欠くとか偽るべきではない。長期間、頻回に使えば座瘡のような副作用は生じるが、重篤な障害の危険性は遙かに少ない。ハイドコルチゾンが原因のリバウンド現象や、嗜癖に今だに遭遇したことはない。(おそらく強力なステロイドほど使われていないからであろう)要点は疾患にあわせて、特に疾患のステージに合わせて、ステロイドを選ぶことである。選択されるべきステロイドは、疾患をちょうどコントロールできるステロイドといえる。

 Mulliusと我々のうちの一人(ANK)は、ハイドロコルチゾンがもっと広範に使用されるべきだと主張している。

 最終的にステロイド嗜癖の患者に何ができるだろうか。これは、短気でがまん強くない医師に向く仕事ではない。薬の中止は、患者に大変辛いから、医師は熱意を持ってこの戦いに参加し、患者を惜しみなく援助し、励まし続ける必要がある。電話でも直接にでも、何度でもコンタクトを取り、患者の不安をしずめ、明るい展望を維持することが必要だ。

 精神力が強く(麻薬中毒患者で用いられるコールドターキーと呼べれるような)克巳的な患者に対しては、我々は突然の休薬を用い、ステロイドに替えて潤滑クリームを日に4回外用させ乾燥させる。最初の数週間は生き地獄だ。皮膚が再び正常に戻るには、萎縮の程度に応じた時間が必要だ。長期間の嗜癖は、ダメージが大きく、完全にもとには戻らないが、多くの場合、数ヶ月後には、かなり症状は改善すると予想できる。必要とする時間を最小評価することは、賢明とは言い難い。

 多くの患者に対し、完全にリバウンド増悪は抑えられないことを断った上で、まず、2.5%ハイドロコルチゾンを数週間用いる。次に1%に落とし、最終的には潤滑クリームのみと変えていく。その時には、小さな増悪が見られるのが普通である。Sneddonもステロイドからの離脱を勧める一人である。

 Sneddon、Go、Wuitteらは、酪酸ハイドロコルチゾンで代用できるとしているが、それには反対だ。この薬は強い萎縮作用をもち、まちがいなくハイドロコルチゾンで代用できるとしているが、それには反対だ。この薬は強い萎縮作用をもち、間違いなくハイドロコルチゾンより劣っている。長期間、顔面にステロイドを外用した場合は、露出部の眼にリバウンド結膜炎がしばしば起こることを知っておく必要がある。落とし穴にはまらないためにこの点を患者に説明しなければならない。さもないと患者は、治療のために眼科医を受診することになる。


ATOPY INFORMATION論文に戻る