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病気がわかる免疫学 顆粒球とリンパ球を知れば病気のナゾが解ける!
安保 徹
ワクナガ ヘルスツリーニュース 2000, Vol.138, 8・9月号, 5-12

白血球中の二大防御細胞である「顆粒球」と「リンパ球」。この2つのバランスと自律神経との関係を知ると、病気の背景にある神経と免疫学者安保徹先生にユニークな視点で病気と免疫の関係を紹介していただきました。

安保 徹
1947年青森県生まれ。1972年東北大学医学部卒業。内科初期研修でリウマチや肺癌の患者を受け持ち治療に限界を感じ、基礎研究に転向。1974年東北大学で免疫学の研究を開始。この間、アメリカ・アラバマ大学に5年間留学。1991年1月より、新潟大学医学部教授、胸腺外分化T細胞(1990年に仲間と共に発表)と自己応答性クローン出現のメカニズムについて、そして白血球の自律神経支配についての2つの研究テーマに取り組んでいる。著書に「未来免疫学−あなたは顆粒球人間かリンパ球人間か」(インターメディカル)がある。

1自律神経と白血球 「福田−安保の法則」について
□気圧とからだの関係
 ゴルフ好きの福田稔先生(外科医、福田医院 新潟県新潟市沼垂西2-5-15 025-244-6367)が、「天気のよい日には重症型の虫垂炎(盲腸)患者が出てゴルフに行けなくなる」ことに気付いたことから始まった私との共同研究は、その後多くの病気の謎解きに発展しました。
 天気がよいと気分が良く、やる気も出ます。逆に、雨の日はしょんぼりし、動くのもおっくうです。このような誰でも経験するあたりまえのことが、病気とも関係してくるのです。天気がよいということは、その地域が高気圧になっていることです。高気圧は空気が濃く重く、上昇気流ができない状態ですから、雲ができず晴れるわけです。そして、この濃い空気は酸素も多いので、この多い酸素を吸うことによって活発な体調になるのです。
 逆に、曇りや雨の日は低気圧になっています。空気は軽く上昇気流を生じ、雲ができ天気が悪くなります。そして、この軽い空気には酸素が少なめなので、少ない酸素を吸ってゆったりした体調になるのです。
 大気圧は950hpaから1030hpaの間を変動していますので、酸素濃度の変化はたかだか3〜8%くらいのものですが、体調を変えるのには充分なのでしょう。低気圧の極限は台風(熱帯低気圧)ですが、この間中体調はだるくなります。
 天気によって気分や体調が変わりますが、この変化はすぐに脈拍にあらわれます(図1)。私の場合、日中高気圧の時は75/分くらいまで上がりますが、雨の日(低気圧)の日中では60/分くらいしかあがりません。
 これらは、多くの上陸して肺呼吸する生物に共通した反応ではないかと思います。雨の日はゆっくり休み、晴れたらえさ取り行動に出るのに都合のよい反応です。カエルの場合は陸に上がっても、まだみずから離れ難く水が恋しいので、雨の日に喜んで鳴き出すのでしょうか。
 私たちの脈拍は、自律神経系によって調節されています。活動を起こすときには、交感神経が働きアドレナリンなどが出て、脈拍を速くし呼吸も速くします。逆に、休息したり食事を摂るときは、副交感神経が働きアセチルコリンが出て、脈拍や呼吸をゆっくりにします。消化管の働きは高まります。腸が動き出し消化液が分泌されます。
 このような大気圧と自律神経系の関連は、次に私たちのからだの白血球にも影響を与えていたのです。この法則が「福田−安保の法則」です。
□顆粒球とリンパ球
 簡単に白血球のことを説明すると、次のようになります(図2)。下等な生物では、白血球はマクロファージ一種類しかありません。このマクロファージが、私たちのからだを守る基本なのです。
 しかし、生物が高等になってくると、防御効率をさらにさらに高めるために分身を進化させました。顆粒球とリンパ球です。
 顆粒球は細菌を処理する力が強く、細菌を処理した後は膿(化膿性炎症)をつくります。マクロファージの貪食能をさらに高めた白血球といえます。逆に、リンパ球は細菌よりももっと小さい異物を処理するように進化した白血球です。リンパ球の場合は貪食能を退化させ、新しい機能を高めたのです。マクロファージ時代に使っていた接着分子(接着蛋白)を進化させて、小さい異物をこれにくっつけて認識するようになったのです。つまり免疫です。反応が起こるとカタール性やアレルギー性の炎症になります。
 小さな異物とは、ウイルスだったり、消化酵素で分断された他の動物や植物の蛋白などです。はしかウイルスや卵白などに免疫ができるのはこのためです。
 逆に、細菌にはあまり免疫はできません。ニキビでも食中毒でも細菌で起こる病気は顆粒球で処理され、リンパ球の誘導が起こりにくいので免疫ができづらいのです。
 そして、この顆粒球が交感神経支配を受け、リンパ球が副交感神経支配を受けていたのです。もう少し具体的に言うと、顆粒球はアドレナリン受容体(AdrR)を持ち、リンパ球はアセチルコリン受容体(AchR)を持ち、これらを使って自律神経の刺激を受け止めています。

2病気と顆粒球・リンパ球の関係 病気と「福田−安保の法則」について
□風邪との関係
 高気圧→交感神経→顆粒球増加→化膿性(壊疽性)虫垂炎の増加、とつながってゴルフ好きの福田先生がゴルフに行けなくなります。
 虫垂炎は、ウイルス感染(風邪のウイルス)で起こっていてカタール性のリンパ球を主体とした炎症で、そのままよくなることが多いのですが、無理をしたり、高気圧と重なったりして交感神経が刺激されすぎた場合は、顆粒球の炎症に移り、化膿性や壊疽性の炎症へと進むことになるのです。
 ふつうの風邪もウイルスとリンパ球の戦いの炎症で、副交感神経刺激が起こります(図3)、副交感神経は分泌現象を支配していますので、鼻水がたくさん出ます。除脈が来てからだがだるくなります。
 リンパ球の炎症は、発熱因子や血管拡張因子であるプロスタグランジン分泌を伴うので熱が出て赤い顔になります。
 しかし、この反応の次には交感神経が刺激されて治癒します。風邪が治るころに元気が出て、分泌が抑えられ鼻水が止まります。
 そして、粘稠な洟(はな)が黄色になってきます。顆粒球の炎症に移ったためです。そこれが今までは風邪の二次感染と理解されていましたが、増えた顆粒球が常在菌とたたっている姿だったのです。
□胃潰瘍との関係
 胃潰瘍がなぜ起こるのかについては、現在混乱した状態にあります。酸消化説やヘリコバクター説が提唱されていますが、どちらも例外が多すぎるからです。
 ストレス(身体的と精神的なもの両方を含む)→交感神経緊張→血流障害と顆粒球の増加→粘膜障害、のメカニズムを知る必要があります。「胃潰瘍の顆粒球説」として私が提唱しました(図4)。交感神経緊張状態が続くと血圧も上昇しますが、この過剰反応は細動脈が収縮して末梢に行く血流が低下する状態を作ります。そして、増加した顆粒球の放出する活性酸素といっしょになって粘膜障害(胃炎)や潰瘍形成を起こすのです。このように「福田−安保の法則」はいろいろな病気の謎を解いてくれます。
 ストレスで増加した顆粒球を活性化するのは常在菌ですから、二次的にヘリコバクター・ピロリ菌の存在もかかわってきますが、主因ではありません。
□がんとの関係
 がんも働き過ぎや心の悩み(両方共激しいストレスとなる)で、交感神経が長期間緊張した時に起こります。顆粒球が増加して再生上皮が破壊され、上皮の再生が刺激させてがんの引き金になります。がん遺伝子は、すべて正常の細胞の増殖のために使われている遺伝子でもあります。
 また、この時同時にリンパ球が減少して、免疫抑制もいっしょにくるのも重なります。つまり、がん細胞を免疫で処理できない状態です。ストレスはこの二重苦によって発がんをもたらすのです(図5)。
 がんにならないためには、働き過ぎや心の悩みを解決しなくてはなりません。これはがんになってからでも遅くはありません。生活を見直したり、恐怖感から逃れるとがんの進行は止まることが多いのです。自然体宿もあります。むやみに抗がん剤を使うことは、からだにとって新たなストレスを加えることでもあります。
□アレルギーとの関係
 今日の日本はアレルギー疾患であふれています。子供のアトピー性皮膚炎や気管支喘息、大人の花粉症や通年性の鼻アレルギーです。「福田−安保の法則」はこのメカニズムも明らかにしました(図6)。副交感神経を刺激しリンパ球過剰になる原因が、日本に満ちあふれてきたからです。一つ一つみていきましょう。
 排ガスはCO2を含み、これが肺から入って体液に溶けると酸素を奪い、ゆったりの体調(副交感神経優位)にします。CO2+O-→CO3-の反応です。酸素を消費することが興奮で、私たちの体調を交感神経優位にしますが、これと逆なわけです。ゆったりしたい時、炭酸飲料を飲むことも同じです。
 次が運動不足や肥満です。これは子供にも大人にも見かけられ、副交感神経優位にしてアレルギー体質が形成されてゆきます。
 過保護もアレルギー体質をつくります。きびきびした生活をしないからです。子供(兄弟)が少ないと自然に過保護になりがちです。
 有機溶剤の吸入もアレルギー体質をつくります。ベンゼン環の側鎖が酸素分子(O-)や水酸分子(OH-)をくっつけるからです。これらの有機溶剤は建材をはり合わせるための接着剤として使われていて、新築の家に入った子供や大人を襲います。若者がシンナーやトルエンを吸入して遊ぶのも、これらの吸入がからだの中で酸素を奪い、リラックスの体調をつくるからです。
 遺伝的なアレルギー体質もあります。しかし、アレルギー体質はそもそも長寿のための好ましい体質なのでがっかりすることはありません。リンパ球の過剰にならないよう、他の原因に気をつければいいからです。
 アレルギー体質をつくる原因だけではまだアレルギーは発症しません。ストレスや過剰の抗原にさらされて初めて発症します。
 副交感神経優位の体調はそもそも血液の豊富な体調なのですが、これがいき過ぎると血液がうっ滞し、抗原抗体反応物が組織にたまりやすくなります。つまり、ストレスに弱くなります。
 そして、アレルギー反応はこれを外に排泄しようとする反応なのです。ですから、ステロイドホルモンなどで治癒するとかえって悪化してゆくのです。図7を見てください。そして、霜焼けを思い浮かべてください。霜焼けは、冷やされて血流が傷害された時起こります。つまり、寒冷による交感神経緊張による血流障害です。この時にはまだ痛みやかゆみはありません。子供が長靴に雪が入ったのも気付かずに遊んでいる状態です。
 しかし、家に戻ってストーブにあたると赤くはれて、かゆみや痛みが出ます。つまり、治癒反応です。そして、またいずれ健康な組織に戻って治癒します。
 痛み止め(NSAIDs)やステロイドの使用で治ったように見えるのは、逆行反応を起こしてるだけで本当に治しているのではないのです。
 腰痛や肩こりの人や、リウマチ患者に痛み止めを使ったり(内服、外用共に)、アトピー性皮膚炎患者にステロイド外用剤を塗ったりしても、かえって悪化してシーソーゲームになる理由なのです。
 対症療法だけでは病気を本当によくすることはできません。正しく病気の成り立ちを理解し、その原因を取り除く必要があるのです。

3健康にはリズムある生活を 「福田−安保の法則」から考える健康法・生活法
 交感神経過剰優位では組織障害や発がん、副交感神経過剰優位ではアレルギー疾患と、自律神経のバランスがどちらかに片寄っても病気になります。従って、健康でいるためにはどちらにも片寄らず、そしてリズムのある生活をする必要があると思います。
 もう少し具体的にいうと、交感神経を刺激するのは働き過ぎ、不規則な生活、心の悩み、痛み止めの長期使用などです。
 心の悩みのかなりは積極的に立ち向かうと解決できると思いますが、中には解決できないものもあると思います。
 しかし、カタルシス(感情の浄化)といって「病気と心の悩みの深い関係」を納得するだけでも病気は治る方向に向かいます。
 副交感神経を刺激するのはアレルギーの項で述べました。運動不足、甘い物のとり過ぎ、肥満などがすぐに頭に浮かびます。排気ガスの吸入や、家の換気にも注意が必要です。
 最後はリズムですが、日中働いて夕方からは休息をとり、夜は充分な睡眠時間をとることが大切と思います。
 この話を読み終えたみなさんは、生活の自己診断を一度なさって下さい。また、他の病気で困っている人たちによいアドバイスをしていただけるのではないでしょうか。 

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