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招請講演
胸腺外分化T細胞の自己反応性は有害か有益か

日本皮膚科学会誌 第110巻 第12号 平成12年臨時増刊号
第99回 日本皮膚科学会総会・学術大会号 110(12), 1805-1806, 2000

安保 徹

免疫(医学も)は分岐点にさしかかっているように思われる。たくさんの研究者が免疫系にかかわる遺伝子や分子群を解析し、多少の機能の解析を加えたりして報告を続けている。しかし、このようなanalyticalな研究は病気の解明や治療にあまり進展をもたらしていないのである。
 この理由は、病気の多くが「環境や個体自身から生ずるストレスに対する多細胞生物の適応障害によって生じる」という現実からきているものと思われる。ストレスの内容の一部を具体的に挙げると、排気ガスや化学物質の吸入、肥満、運動不足、心の悩み、過労、薬物使用上の誤解、などがある。
 このようなストレスは、自律神経を介して、免疫系や循環器系に働きこれらのバランスを乱す。例えば、交感神経系の緊張持続は、T、B細胞系の抑制と、逆に胸腺外分化T細胞と自己抗体産生B細胞系の活性化を招く。同時に、顆粒球増多や循環障害が伴う。
 このような状態は、個体が粘膜破壊や臓器障害を受け病気が発症することを意味している。従って、これらの病気に対しては、現在行われているような単なる対症療法では治療の成功につながらない。
 本講演では生体がストレスを受けたときの免疫反応を明確にし、その反応の合目的性と破綻を明らかにする。これにより新しい免疫学が生まれるのではないか。
○胸腺外分化T細胞について
 ここ10年間の研究で、免疫系の全体像が明らかになってきた。それは胸腺外分化T細胞が見い出され、NK/T細胞に系列の進化が明らかになったからである。NK細胞→胸腺分化T細胞→通常T細胞の順で進化を遂げて今日に至っている。若いヒトや動物では、胸腺で作られる通常T細胞が主体で、外来抗原処理を中心とした免疫システムであるが、加齡に伴って胸腺は退縮し、逆に、NK細胞と胸腺外来T細胞の免疫システムにスイッチしてゆく。このシステムは以上自己の認識が主体で、実際胸腺外T細胞は自己応答性の禁止クローンを含んでいる。この系に自己抗体産生B細胞も入る。一見、禁止クローンや自己抗体産生というと危険のようにみえるが、異常自己を除くためには合目的な存在と考えている。
 このようなNK細胞と胸腺外T細胞のシステムは、加齡以外にも感染、ストレス、自己免疫疾患、妊娠、癌などの時に活性化する。そして常に胸腺の萎縮を伴う。つまり、この系はemergencyに立ち向かう免疫システムなのである。もう少し具体的にいうと、ストレスで刺激された代謝の亢進で上皮細胞の障害や再生が起こり、それらの中に生じる異常自己細胞を速やかに除くための大切な免疫状態なのであろう。
○免疫システムのスイッチ機構
 免疫系は上記したように胸腺システムと胸腺外システムに分かれる。胸腺外システムはいろいろな部位に独立して存在している。腸管、肝(腸から進化)、子宮粘膜、皮膚、腺組織などである。いずれも、それぞれの部位にはc-kit+ stem細胞が胎生期にホーミングしていて、これからNK細胞や胸腺外T細胞を作り出している。この胸腺外の免疫システムは、加齡の他emergency時に活性化するが、このスイッチを引き起こす因子はストレスで放出されるカテコールアミンとグルココルチコイドそのものである。
○自己免疫疾患について
 自己免疫疾患患者多くは、初期に風邪の症状を呈していることが多い。また、発症時に過労や心の悩みが激しかったことを述べる人もいる。これらに共通する体調を、感染後に見られる交感神経緊張と考える。そして、カテコールアミンの放出は胸腺外の免疫システムに変換する。さらに、NK細胞、胸腺外T細胞、顆粒球は膜状にadrenergic receptorを発現しているので直接の活性化も同様に引き起こされる。これらの反応自体はemergencyに対応する合目的免疫状態であるが、もし何らかの理由でストレスや交感神経緊張が持続すると、顆粒球の活性酸素放出や胸腺外T細胞の自己反応性がむしろ自己攻撃という側面を表してくるのである。こいれが自己免疫の成立であろう。
○おわりに
 炎症を抑制することを期待して使用されるNSAIDsやステロイドホルモンには慢性炎症を引き起こす力があることを、我々は知る必要がある。特に、長期使用した場合が顕著である。NSAIDsはプロスタグランジン産生を抑制するが、プロスタグランジンはカテコールアミン産生の抑制系としてはたらいている。このためNSAIDs投与は、交感神経支配下にある顆粒球、NK細胞、胸腺外T細胞を増加させて慢性炎症を引き起こす。一方、ステロイド(コレステロール骨格から成る)は一時的に抗炎症作用を発揮した後にかなりが体内に残り酸化コレステロールに変成する。そして、酸化物質ゆえ血流障害と、顆粒球、NK細胞、胸腺外T細胞を増加させ激しい慢性炎症を引き起こす(酸化刺激と交感神経刺激は一体のものとして起こる)。そして、これらの投与の最後にくるものは多臓器不全である。

文献
1)Watanabe, H., Miyaji, C., Kawachi, Y., Iiai, T., Ohtsuka, K., Iwanaga, T., Takahashi-Iwanaga, H. and Abo, T. Relationships between intermediate TCR cells and NK 1.1Tcell in various immune organs. NK 1.1T cells are present within a population of intermedaite TCR cells. J. Immunol. 155:2972-2983, 1995
2)Kawachi, Y., Watanabe, H., Moroda, T., Haga. Self-reactive T cell clones in a restricted population of IL-2 receptor β cells expressing intermedate levels of the T cell receptor in the lover and other immune organs. Eur. J. Immunol. 25:2272-2278, 1995
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5)Kawamura,et al.:Neonatal granulocytosis is a postpartum event which is seen in the liver as well as in the blood. Hepatology ,26:1567-1572,1997.

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